カズマと名乗るのは恐れ多いのでカズヤと名乗ることにした   作:美味しいパンをクレメンス

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久しぶりな上に短いですが、どうぞ。


父から娘に受け継がれたもの

『速報です。S.O.N.Gから日本政府への要請により、都庁を中心とした半径五キロ圏内にて緊急事態宣言が発令されました。危険度はノイズやアルカ・ノイズの大群を超えると予想されており、早急な避難が必要です。なお、現地には"シェルブリットのカズヤ"が投入されるのが確定しております。これを見ている新宿区の都庁付近にいる皆さん、今すぐ逃げてください。S.O.N.Gは命の保証はできないと明言しております。繰り返します──』

 

新宿に建ち並ぶ数多のビル──その中のいくつかに設置された大型ビジョン全てに、同時に同一の緊急速報が流された。

今まで様々な広告を好き勝手に垂れ流していた大型ビジョンそれぞれが、いきなり切り替わりニュースキャスターが真剣な面持ちで原稿を読み上げている。

緊急事態宣言、ということで今では誰もが所持することが当たり前になったスマホが一斉に鳴り響く。

 

『緊急事態宣言が、発令されました』

 

この事態に人々は誰もが足を止め、読み上げられた内容を聞いて、表示されているテロップを見て、都庁の上空に浮かぶ巨大な謎の建造物を目撃して、更にその巨大な謎の建造物に向かって突っ込む一筋の光に気づいて、完全に意味を理解した。

 

──新宿が戦場になる。

 

と理解するや否や、現在新宿にいた皆が皆、脱兎の如く逃げ出す。外を歩いていた人達はそのまま我先にと走り出し、建物の中にいた人達は怒涛の勢いで雪崩出てきてまさに蜂の巣をつついたかのような騒ぎよう。

 

「逃げれ! 目もくれるな!!」

「シェルブリットバーストに巻き込まれるぅ!」

「うわーん! ママ怖いよう!」

「早く安全な、安全な場所に行かないと!」

「一番近いシェルターは何処!?」

 

街中が大混乱に陥る酷い有り様なんて知ったことかとばかりに、

 

 

「シェルブリットォォォォォォ──」

 

 

目映い金色の光が都庁の上空で発生し、

 

 

「──ブワァァァァァァストッ!!!」

 

 

一拍置いて大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

【父から娘に受け継がれたもの】

 

 

 

 

 

どうせチフォージュ・シャトーに結界でも張ってあってこっちの侵入阻んでんだろ、と思ってたら案の定だった。

硝子が砕け散るような音に合わせて、目の前に壁のように存在していた力場が粉砕されて消滅。

 

「よっしゃもう一丁!」

 

今度こそチフォージュ・シャトーにぶち込んでやる、と再度構えたその時、チフォージュ・シャトーを守る為にかキャロルが転移してくる。

既にファウストローブを身に纏った大人の姿で、戦闘態勢は整っているようだ。

 

「動きが早いな、シェルブリットのカズヤ。実に忌々しい。しかしオレの──」

「うるせぇぇぇぇ!!!」

 

何か言いかけていたが最早どうでもいいので聞く耳持たず殴りかかる。

右の拳が咄嗟に展開された障壁に阻止されるが構わない。

 

「親離れできてねぇテメェの御託は聞き飽きたぜ! パパ、パパ、パパっていい加減うっせーんだよファザコン野郎! そんなにパパが恋しいんなら俺が新しいパパを何十人でも用意してやるよ、パパ活ってやつだがな!」

「......お前、お前ぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

エネルギー同士がぶつかり合いバチバチと稲光のようなものが激しく弾けて明滅を繰り返す。

やがて障壁の方が耐え切れず砕け、それに舌打ちしたキャロルが後ろに下がり間合いを離すものの、その目には明確な殺意と憎悪が溢れ出ており、冷静さを欠いているようにも見えた。

 

「殺す、絶対に殺してやる......!!」

「だから、聞き飽きたんだよそういうの。口で宣言する前にかかって来いよクソガキ。新しいパパ達の代わりに構ってやるからよぉ」

 

右の中指を立てて突き出す。

言い終わると同時にキャロルの猛攻が飛来してくる。火炎やら竜巻やらを飛翔して躱し、更に上昇すれば敵も追いかけてきたので内心でほくそ笑む。

あり得ないくらいにあっさりと安い挑発に乗ってくれた。

一般人の避難が完了するまでは時間を稼ぐ。そうでないとこっちも迂闊に全力は出せない。特に新宿なんて人の密集地だ。流れ弾でビルが倒壊なんてことになったらどれだけの被害者が出るかなど考えたくもない。

チフォージュ・シャトーの動きも気になるのでとっとと破壊するに越したことはないが、この場には響と未来がいるし、他の装者達もこっちに急行してくれているはず。

慌てず焦らず、かつ迅速に対処する。まずはキャロルを都庁付近から引き剥がし、可能であれば空中戦で片を付ける。その後チフォージュ・シャトーを破壊する......俺一人じゃ欲張り過ぎか?

まあ、なんでもいい。やれることを全力で。

反転し、逃げるのをやめて真っ正面から突っ込む。

キャロルも勢いそのままに突っ込んできた。

 

「死ね! シェルブリットのカズヤ!!」

「パパに会いてぇんだろ? 会わせてやるからテメェがおっ死ね(おっちね)!!」

 

 

 

 

 

「始まってる......やっぱり始まってるよ響! 早くカズヤさんに加勢しないと!」

「分かってる、分かってるってば!」

 

都庁の上空、チフォージュ・シャトーが浮かぶ更にその上で、二つの光が爆音を伴って何度も何度もぶつかり合うのを目視してから背後に振り返った未来に映る光景は、洸に羽交い締めにされてもがく響の姿だった。

 

「お父さんいい加減にして! 私と未来はカズヤさんの所に行かなきゃいけないの!!」

「行くってどうするつもりなんだ!? 響も未来ちゃんも逃げなきゃダメだろう!!」

 

話し合いとして設けたビルでの避難誘導が終わり、さあ自分達も向かおうとしたら、さっきからこれである。

 

「だから! さっきから何度も言ってるでしょ!? 私も未来もS.O.N.Gの一員なの! カズヤさんと一緒なの! 一緒に戦わなきゃダメなの!」

「同じS.O.N.Gだからって現地で一緒に戦うなんて危ないことさせられるか!」

「お父さんこそ危ないから早く逃げて!」

「逃げるなら響と一緒じゃなきゃ嫌だ!!」

 

娘にすがりつく父親と、力任せに振りほどくと怪我をさせてしまう可能性があって動けない娘。

頭痛がしてきた未来は思わず右手で自身の額を覆い「Oh」と呻く。

今の洸の反応こそ、普通の親の反応である。彼が父親としての自覚を復活させ、娘を思って一緒に逃げようと言ってるのは非常に喜ばしいが、それと同様に非常にタイミングが悪い。

親として、父として、娘に危険な仕事をさせられない、命の保証がない戦場に飛び込むなど以ての外だ! と叫ぶ洸は正しい。しかしそういう当たり前のことが時に足枷になることを未来は実体験からよく理解していた。

しかも、だ。洸は十中八九、響と未来がカズヤと同じS.O.N.Gに所属していることを知っていても、同じ実働部隊だとは思っていないのだろう。カズヤと肩を並べて共に戦うのではなく、彼を補佐するオペレーターやサポーターなどの裏方的な存在だと勘違いしているに違いない。

視線を親子からチフォージュ・シャトーに移す。

空に浮かぶ謎の建造物は、カズヤとキャロルの戦闘が激しくなるにつれて建造物の一部が翠色の光を発し、鼓動するように明滅を繰り返し徐々にその光が強くなっていた。

明らかに何か良くないことが起きる前兆にしか見えない。急いだ方がいい。

はあ、と大きく溜め息をついてから未来はアルターを発動。淡い虹色の光を全身から放ち、足元の路面を分解。分解され虹色の粒子となったそれを神獣鏡として身に纏う。

 

「響、先に行ってるね」

「うん、私もすぐ行くから!」

「未来ちゃんその姿は、一体......!?」

 

洸の疑問の声に応答することなく、未来は飛び立つ。

とりあえずチフォージュ・シャトーの翠色に光っている部分。そこを徹底的に神獣鏡で破壊、無力化、及びアルターの分解能力で片っ端から消滅させよう。カズヤがキャロルの相手をしている今、邪魔は入らないはずだ。

 

 

 

「......と、飛んでる......未来ちゃんが、飛んでるぞ」

 

戦場に向かう未来の後ろ姿がどんどん遠ざかっていくのを、洸は唖然とした様子で見ていたが、やがて響を離して向き直り恐る恐る聞いてきた。

 

「カズヤくんと未来ちゃんが飛べるってことは、まさか響も飛べるのか?」

「私の武装に飛行能力はないけど、カズヤさんが協力してくれれば飛べるよ」

「......と、飛べるのか」

 

返答を聞いて呆然とする洸に響は詰め寄る。

 

「未来を見て分かったでしょ。私はカズヤさんと一緒に戦えるんだ。戦わなきゃいけないんだ」

「......響」

「信じて」

 

親子二人が見つめ合う。

離れた場所からは爆音が轟き、閃光が飛び交う。衝撃で大気が震えて大地が揺れる。爆風で髪が乱れた。

今この瞬間も戦闘は続いている。それを肌で感じながら、真剣な眼差しで響は洸を見て、洸は悩むように見返す。

そんな時間が十数秒続き、唐突に終わりを迎えた。

頭上から突然襲ってきた爆音と衝撃。どうやら戦闘の余波か流れ弾が飛んできたらしい。すぐそばのビルに着弾し壁面を吹き飛ばす。

 

「響!!」

 

その際に粉砕されたコンクリートが雨のように降り注ぎ、咄嗟に洸は響を押し倒して覆い被さり自らを盾とした。

 

「ぐっ、うう!」

「お父さん!?」

 

幸いコンクリートの欠片のほとんどが当たることなくアスファルトを叩くだけで終わったが、それでも小石程度の大きさのものが洸の頭部にぶつかり、髪を僅かに赤く染めてしまう。

 

「お父さん! 大丈夫!?」

 

起き上がって心配する響に対し、洸は優しく微笑む。

 

 

 

「これくらい、へいきへっちゃらだ」

 

 

 

その言葉に響の目が大きく見開き、脳裏に幼かった頃の記憶が浮かび上がる。

父が慣れていない癖にリンゴの皮剥きを行い、案の定包丁で指を切った際に同じセリフを言っていたことを。

いつの間にか自分の口癖になっていたあの言葉。

どんなに辛い時でも、苦しい時でも、悲しい時でも、呪文のように唱えて自分自身を励まし鼓舞して、挫けそうな時に支えてくれた、守ってくれていた魔法の言葉だ。

 

「......お父さん」

 

震えた声で響は言葉を紡ぐ。

 

「私、お父さんから大切なものを受け取ったよ」

 

自分には確かに父から受け継がれたものがあったのだと、

 

「受け取っていたよ!」

 

その事実に涙が溢れるほど歓喜し、魂に火が点いたかのように胸が熱くなるのを自覚しながら、聖詠を唄う。

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

 

光を放ち一瞬でガングニールのシンフォギアを纏う。

足を左右に大きく開き踏ん張りを利かせてから右腕を高く掲げ、右手の指を人差し指から順に中指、薬指、小指、最後に親指という風に握り込むカズヤの真似をして拳を作ってから、あらん限りの声で叫ぶ。

 

「シェルブリットォォォォッ!!!」

 

右肩から拳までが黄色く光り、エネルギーが収束していく。やがてそれはカズヤのシェルブリットと同じ右腕に変化するという形で顕れた。

 

「響、その姿にその腕は......」

「お父さん、私は大丈夫。たとえどんなことがあっても、カズヤさんと未来がそばにいてくれるから」

 

花咲くような笑みで告げる。

 

「カズヤさんが、未来が、一緒に戦う皆がいるから、私は決して一人じゃないから、へいきへっちゃら!!」

 

そして全力で前へと踏み込んだ。

未来が今もなお攻撃しているチフォージュ・シャトーへと最短で最速で真っ直ぐに一直線に到達する為に。

背後に洸を置き去り進む響は更に唱える。

 

「輝け」

 

右腕が呼応して黄色い光を放つ。

手首の拘束具がひとりでに外れ、装甲のスリットが展開し、手の甲部分に穴が開く。

 

「もっとだ、もっと!!」

 

放たれる光が強くなる。それに比例して拳に莫大なエネルギーが集まっていく。

でもまだだ、と。限界ギリギリ、否、限界を超えてやると意気込み拳を更に強く握り込む。

 

「もっと輝けぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

光は最早右腕だけではなく全身から放たれていた。

体全体に駆け巡る力を拳に込める。

渾身の一撃を、全身全霊の一撃を、全力全開の一撃をぶちかますことだけを考えろ。

 

 

「シェルブリットォォォォォォォォ──」

 

 

拳を構えて跳躍。腰のスラスターから火が吹き更に加速。一発の弾丸と化した響が一直線に突貫。

その際、先ほどからずっとチフォージュ・シャトーに攻撃をしていた未来のすぐそばを過ぎ去る刹那、

 

「やっちゃえ響、ハートの全部で」

 

親友から声援をもらいつつ真っ直ぐ拳を突き出す。

自分にとって、大切で大好きな人達が住むこの世界を絶対に壊させはしまいと心に誓って。

 

 

「──バァァァァァストォォォォォ!!!」

 

 

次の瞬間、都庁の上空にて目映い光が大輪の華を咲かせたかのように爆裂した。

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