コワイ? 学校のカミュ   作:Towelie

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 7月も半ば、茹だる様な暑さが連日のように続いていた。

 今年は猛暑。
 毎年同じことを言っている気がして何の指標にもなっていない。

 教室の中の強めのクーラーは、熱波と熱気がうねりをあげる外界とは異なる世界を作っていた。
 

 授業終わりのチャイムが鳴り、帰宅する生徒が歓喜の花を咲かす中、少女は持ち前の器用さで素早く帰りの準備を整えていた。

 短い髪をカチューシャで纏めた少女はバックパックを手に取って教室からいの一番に出ようとしていた。

 少女は教室からでる直前、コマのようにくるりと身を翻えすと、帰り支度におぼつかない友達に声を掛ける。

「蛍ちゃんごめん! 後から必ず行くから先に行ってて!」

 そう一方的に告げると、少女は猛ダッシュで廊下を駆け出して行った。

 運動部特有の過剰な挨拶。

 その勢いに呆気に取られたように教室内は動きを止めていた。

 そんな皆の視線はある一点に注がれる。
 去っていた少女の残影を目で追いかけてるように見ていた少女に。

「はうっっ」

 少女は視線を感じて思わず声をあげてしまう。
 ただでさえ目立つ事には慣れないのにおまけに変な声まで上げてしまっていた。

 凍り付いたように立ち尽くしていた少女だったが、何かを思い出したように教室から逃げ出した、手で顔を隠したままの格好で。

 大人しい雰囲気の少し内気な少女。
 それが声を掛けられた少女──蛍だった。

 蛍は平静を装う様に歩きながら、辺りを伺う様にきょろきょろと視線を動かした。
 誰も後を追ってこないことに安堵すると、教室での行為に顔を赤くして想いを巡らせる。

(ああ、すごく恥ずかしかった……。燐ってばわざわざ言わなくても良いのに。でも、燐にとって特別に扱われている気がして少し嬉しい、かも)

 口にすることはない燐への想いで心が暖かくなる。
 だが、その想いとは裏腹に別の心配事が蛍の足取りを重くさせていた。

(わたし一人でちゃんとやれるかなぁ? ……やっぱり燐がいた方が良い気がする。でも、先に行って色々準備しとかないと、みんなにも燐にも迷惑が掛かっちゃうし。それにこれでも部長なんだから)

 蛍は一人でやらねばならない事に逡巡するが、部長としての責任感でそれらを振り払うと、少し足早に廊下を歩いた。

 こういうのは勢いが肝心だった。

 だが、その勢いづいた足は新聞部の部室ではなく、近くのトイレへと何故か伸びていた。

(とりあえず身だしなみを整えないとね。恥ずかしい格好なんかしてたらみんなに笑われちゃうもん。それに女の子は身だしなみが大事、って燐も言ってるしね)

 とりあえず蛍はまず最初にトイレに向かう事にした。

 一人でやれないわけでもないけど出来る事なら燐と一緒にやりたい。
 そのためなら多少の遅れも許されるだろう。
 だってわたしが部長なんだから。

 都合のいい言い訳と体のいい時間稼ぎ。

 トイレには様々な役割があるようだ。


 だが、そんなトイレからあんな事件が起きるなんて、この時の蛍には知る由もなかった。





Seven wonders

 木造校舎特有の乾いた音が、廊下を歩くたびにギシギシと軋んだ。

 

 先ほどまでいた鉄筋の校舎と違い、木の温もりを感じさせる歴史を感じさせる古い校舎。

 

 そこの一室で新聞部主催の放課後ミーティングが行われる。

 

 議題は”学校に纏わる七不思議について”。

 

 

 良くあるネタであり、歴代の新聞部もこの特集を夏ごろにやっていたのが、アーカイブで分かった。

 

 (だからと言って真似しなくてもいいんだけど。でも、他にネタもないし、夏だからちょうど良いのかな?)

 

 それでも少女は気乗りしなかった。

 トイレに行って気持ちを落ち着かせたばかりなのに、やはり足取りは重いまま。

 

 全てが古めかしい校舎がよりその陰鬱な気持ちに拍車をかける。

 

 少女は二つに結わいた長い髪をたよわせながら、感触を踏みしめるように階段を上がっていった。

 

 ぎしっ、ぎしっ。

 

 軋むような音が踊り場から天井に抜ける。

 木造の校舎はやけに天井が高く、その音が梁を伝わって校舎全体に響いているのではないかと錯覚させた。

 

 

 少女は踊り場で一旦足を止めると、ステンドグラスの様な大きな窓から外の景色に目をやった。

 

 抜けるような青空と沸き立つ白い雲。

 なんでこんな気持ちのいい日に薄暗い部室で怖い話を聞かねばならないのか。

 

 少女の中である種の不条理が浮かび上がってきた。

 

 

 理由は二つほどあった。

 

 一つは学校新聞企画の為に、学校の七不思議を掲載するという企画が、そもそも好きではなかった。

 

 だからと言って他にネタもなかったし、かと言ってその手の話には()()()()詳しくなかったので、その手の話(学校の七不思議)に詳しい生徒を集めて今日、話を聞くことになった。

 

 そこまで怖い話がそこまで苦手というわけでもないが、嫌な感じというか陰鬱な気分にはなるのは間違いない。

 

 それに自分は幽霊とかそういうオカルト的なものにそこまで興味はないのだ。

 

 そしてもう一つの理由、それは単純に話したことのない生徒との邂逅である。

 割と人見知りな自分としてはそちらのほうが怖い話よりもより苦手だ。

 いっそのこと全てを親友に任せてしまいたいほどに。

 

 やけに気が重い原因はこちらのほうが大きいのかもしれない。

 

 これでも部長なんだ、その辺は割り切らないと多分ダメなんだろう。

 

 ……やっぱり部長なんて引き受けなければ良かった。

 

 

 

 少女──三間坂蛍(みまさかほたる)は新聞部の部長だったから。

 

 成り行きからではあるが。

 

 部長にうってつけの人物が他に居るのだが他の部活と掛け持ちしているため蛍がやる羽目になってしまった。

 

 実質二人で活動している部だったからどっちが上とかは関係ないのだけれど、形式上部長は必要だ、それは分かっているのだけれど。

 

 でも二人しかいない部活ならいっそ廃部にしてもいいとは思う。

 

 それほどまでに新聞部って今の学校に必要なのだろうか?

 個人でも企業でもネットで伝えることが多いというのに。

 

 

 アナログ且つローカルな学校新聞を誰が必要としているのだろう。

 

 

(どうせ誰も読まないんだから、資源の無駄遣いじゃない)

 

 今考えなくてもいい事に想いを巡らせながら、蛍はことさらゆっくりと部室へと向かって行った。

 

 気持ちの重さに合わせるようにぎいぎいと小さく鳴く床板。

 この木造校舎ももう必要ないものかもしれない。

 

 人気の少ない校舎には自分足音と、木の音だけが午後の強い光で照らされた廊下に広がっていた。

 

 それでも足はしっかりと部室へ向かっていく。

 

 心のどこかで怖いものみたさのようなものが自分にあるのだろうか。

 

 多分、そうじゃなくて……もっと個人的な理由だろう。

 

 

 ”()()()”古めかしいプレートが描掛けられた部屋の前まで来ると蛍はなんとなくそれを眺めていた。

 

 旧校舎に部室があるのは今や新聞部だけだった。

 開校以来の伝統の部らしい(ほとんどの学校がそうであるだろうが)が、今となってはこんな僻地に部室がある時点で存在意義が疑われるものである。

 

(やっぱり廃部が妥当だと思うんだ)

 

 今回の企画で評判が良くなかったら顧問に相談してみよう。

 別になくなっても困る者などいないだろうし。

 

 少し消極的な思案をしながら蛍は建付けの悪い部室のドアを両手で引き開ける。

 

 その頑固な扉は古い歴史のせいか無駄に重かった。

 

 重いドアをこじ開けると直ぐに人影が視界に飛び込んだ。

 突然の事でつい身構えてしまう蛍。

 だがそれは良く知っている顔だった。

 

「あっ、遅かったね蛍ちゃん。先に来て準備しちゃってたよ」

 

 明るく元気な声が殺風景な部室を照らすように響いた。

 それは蛍の良く知る人物、唯一の友達と言っても良い。

 その親友がそこに居てくれた。

 

 込谷燐(こみたにりん)

 

 蛍のクラスメートで明朗快活な栗色の髪の少女。

 

 本来は運動系の部活に所属していてしかもレギュラーなのだが、かねてからの親友の頼みもあって、少し前から新聞部と掛け持ちをしていた。

 

「燐、向こうの部活は大丈夫なの?」

 

 ここで言う部活とは新聞部ではなく掛け持ちしているホッケー部(グラウンドホッケー)のことだ。

 

 燐はその中でレギュラーメンバーの一人として活動している。

 これでもエース候補だからと燐は言うが、蛍の見立てだと既にエース級の活躍をしていた。

 

「今日は休みもらったんだ、最近ずっと忙しかったしね。それに蛍ちゃん一人だとちょっと心配だったんだよね」

 

 燐はペロリと舌を出して微笑んだ。

 

 蛍としても一人ですべてをこなすのは不安だったので燐が来てくれたことは随分と気が楽になった。

 

 教室で燐は後で来ると言っていたけど、本業の部活を断ってまで来るとは思っていなかった。

 

 だからこうして来てくれた上に準備までしてくれたことはとても助かった。

 若干後ろ向きの考えで時間稼ぎをしたけど、その甲斐はあった。

 燐には後で何かお礼をしなくては、ね。

 

 蛍はこれからの部活の事ではなく終わった後の楽しみに意識を向けていた。

 

「大丈夫?」

 

 上の空の蛍に燐が心配そうな声を掛ける。

 蛍は慌てて取り繕うと、改めて燐が準備したという部室に目を向けた。

 

 部室にはテーブルを繋げたものとその周りには椅子が幾つか用意されていた。

 テーブルにはお茶とお菓子も置いてあり、おもてなしの準備は既に万全のように見える。

 エアコンもちょうど良い温度で静かな音を立てていた、冷風が古い部室を程よく中和してくれいた。

 

「ありがとう、燐」

 

 蛍が目を見てしっかりとお礼を言うと、燐はにこやかに微笑み返してくれた。

 

 いつもしっかりしてる燐とならこんな不気味な企画でも楽しくやっていけそう、そんな好意的な予感がした。

 

「さて、後はみんなが来るのを待つだけだね。さっきメールで催促しておいたからそろそろ来るとは思うんだけど」

 

 燐はスマホを再度確認する。

 

 燐の手際の良さに蛍は目を丸くしてしまう。

 

 やはり燐が部長の方が何かとスムーズにいくような気がする。

 内気で人見知りの自分などよりもずっと部長らしい。

 

「とりあえず座ってまってみよう」

 

「うん」

 

 燐の提案に蛍は小さくうなずいた。

 

 二人は迎え合わせに座って他の生徒が来るまでじっと待つことにした。

 

 手持ち無沙汰からか蛍は思わずスマホに手が伸びる。

 それは燐も同じだった。

 

「………」

 

 壁に掛かっている丸い時計が分刻みに針を進めても誰も新聞部のドアを叩くものは現れない。

 

「うむむー、誰もこないねー」

 

 燐は小さな画面に視線を奪われたままで呟く。

 今日、昨日決めた企画ではない、前もって連絡していたはずなのに。

 

 あれから何度もチェックしているが、その既読すらついてなかった。

 

「うん、どうしちゃったんだろうね」

 

 蛍もスマホの画面を見ながら答えた。

 燐が同じことをしていたから真似しただけで特に面白くなかった。

 

 燐が再度、催促のメッセージを送ろうとしたその時、偶然にも燐あてのメッセージが送られてきた。

 

 あっ、と思わず声をだす。

 

 しかしそのメッセージは事態を好転させるものではなく。

 

 むしろ……。

 

 

『誰も来ないならお菓子食べちゃわない?』

 

 ……蛍からの暢気なメッセージだった。

 

 燐は顔を上げて蛍の真意を伺うと、恥ずかしそうに顔を赤くして目を逸らされてしまった。

 

 小さくため息をつく、そして黒い板から目の前の親友に燐は意識を戻した。

 

「あはは、ごめんね蛍ちゃん。退屈しちゃったよね」

 

 燐は蛍の提案に乗る形で先だってお菓子を食べ始めた。

 

「ほら、蛍ちゃんも一緒に食べよ。今、ネット上で話題のお菓子ばっかり選んできたんだよ」

 

 燐はそう言って奇妙な形の菓子を手に取って蛍の口元に運んだ。

 

 咄嗟のことに蛍は呆気に取られてしまうが、ややあってその小さな手につままれたちょっと異質な形のお菓子をそのまま口で受け止めた。

 

「あ、これ、見たことないお菓子だね。どこで買ったの?」

 

 蛍は自身の大胆な行動を隠すように、お菓子の話題に振った。

 咄嗟のことだったとはいえ、燐の手から直接食べるなんて……これはお菓子の味なのか燐の指の味なのか、今の蛍には判別がつかなかった。

 

「近くのコンビニに売ってたんだよ。新製品って書いてあったからついね。くすっ、それにしても蛍ちゃんお行儀悪いなー。てっきり手で受け止めると思っていたよ」

 

 燐がくすぐったそうに笑いかける。

 その微笑みは蛍の体温を少し上げるほどに暖かくさせた。

 

「ちょっと下品だったかな。でも好きだよこの味」

 

 燐が手渡しで食べさせてくれれば蛍としてはなんでも食べそうになるほど心がときめいていた。

 

 苦手な生クリームと辛いもの以外の話だが。

 

 

 二人は間食を楽しみつつ他愛のないおしゃべりに花を咲かせる。

 

 更に30分ほど時間を費やしたが、やはり誰ひとり来なかった。

 

 これにはさすがに二人とも呆れてしまい、今日はもう帰ろうかと蛍が切り出そうとする直前、突如として部室のドアが甲高い音でノックされた。

 

 二人は顔を見合わせると、どうぞと声を合わせる。

 

 すると。

 

「あら、二人ともいたのね」聞き覚えのあるやわらかい声が部室に響いた。

 

「オオモト様!?」

 

 燐と蛍は先ほどと同じ様に声を合わせてその名を呼んだ。

 

 

 ”オオモト様”

 

 新聞部の顧問であり歴史の教師、そして二人クラスの担任でもあった。

 

 本名は別にあるはずなのだが、この学校の生徒おろか、先生同士の間柄でもみな口を揃えたようにオオモト様と呼ばれている。

 

 本人もその敬称の様な感じで呼ばれることに嫌悪感を抱くことなく自然と受け入れているようだ。

 まるで最初からその名であったかのように……。

 

「それで今日は何をしているの?」

 

 オオモト様の落ち着いた柔らかい声色、蛍も燐もこの声が好きだった。

 

「えっと、学校の七不思議を学校新聞に乗せようと思ってその調査をするところ、でした」

 

 蛍は少し気後れしながらもオオモト様の疑問に目を見て答えた。

 

 オオモト様は顧問とはいっても特に指示をしてくれるわけでもなく半ば自由にやっていたので新聞部の活動を把握してないようだ。

 

 「そう……それで記事にはなりそうなの?」

 

 オオモト様は部室の中を見渡しながら質問してくる。

 

 オオモト様が何が言いたいかを把握した燐はちょっと拗ねた表情で答える。

「詳しい人に話を聞きたかったんですけどぉ、誰も来ないんですよ~」

 

 媚びたような燐の仕草に蛍は少し呆気に取られてしまった。

 

「そう、それは残念ね」

 

 オオモト様はそう言うと静かな動作で空いている席に座ると、さも当然の様にテーブルの上のペットボトルのお茶を飲み始めた。

 

 喉が渇いていたのだろうか? それにしてもあまりにも自然な動作に蛍は口をぽかんと開けていた。

 

 その浮世離れしたマイペース振りは割と何時ものことだったので燐はやや呆れながら苦笑していた。

 

 蛍は一連の動作にあっけにとられてしまっていたが、思い出したようにオオモト様に尋ねる。

 

「その、オオモト様は学校の七不思議とかご存じないですか?」

 

(蛍ちゃんグッジョブ!)

 

 燐はオオモト様から見えない位置で蛍に親指を上げてその閃きを称えた。

 

 蛍は親友の無邪気さに小さく微笑んだ。

 

 オオモト様は二人の様子を気に留めず、お茶を一本空にすると、ゆっくりとした口調で話し始めた。

 

 

「噂程度なら聞いたことがあるわ」

 

 燐と蛍は手を取り合って歓声をあげていた。

 このまま企画倒れでもしようものなら、廃部の前にお説教が待っているから。

 だがその説教する相手は目の前にいるだけれど。

 

 オオモト様はため息をついた後、同じ口調で話を続けた。

 

「旧校舎、つまりこの校舎の1階の隅にある女性用トイレ。そこで何かを見た生徒がいるみたいね。何件か報告を受けているわ。」

 

 二人は何かを感じ取ったように顔見合わせた。

 ”トイレ”それはこの手の話では良く言われる場所だった。

 

 怖い話にも詳しいわけでもなく、ましてや霊感があるわけでもなかったが、水もしくは水に纏わるスポットには霊が集まりやすい、そういった”定番”ぐらいは知っていた。

 

「やっぱり出るんですか?」

 

 興味津々の面持ちで燐が尋ねる。

 

「さあ、それは分からないわ」

 

 オオモト様はそんな燐の様子に気にする風もなく淡々と答えた。

 

「でも……行ってみる価値はあるかもしれないわね」

 

 オオモト様は微笑みながらそう締めくくった。

 

 

 二人の少女は和服を着た顧問に頭を下げると、噂のあるトイレへと向かうことにした。

 

 

 

 部室に来るときはあんなに重かった足取りは今や羽のように軽くなっていた。

 今から向かう所は心霊スポットかもしれないのにそこまでの恐怖を感じないのには理由があった。

 

 それは燐が一緒だから。

 

 燐が一緒ならなんでも頑張れそう、それこそ初対面の人や幽霊にだって。

 

 そこに根拠なんかないけど、繋いだ手の温もりが蛍に絶対的な自信を与えてくれていた。

 

 

 

 留守はオオモト様に任せて、二人は勢いのまま、旧校舎の1階にあるトイレの前まで来ていた。

 

 1階のトイレはちょうど日の差し込まない場所にある為か、とても薄暗い。

 灼熱の放課後においてもその強い日差しが入り込まないひんやりとした場所になっていた。

 

 トイレの前にある薄汚れた照明、二人を歓迎するように規則的な点滅を繰り返していた。

 

 ぺかぺかする照明を見ていると、蛍は不意に恐怖感に襲われた。

 

 燐に引かれるままここまでやってきたけど、いざそれを目の当たりにすると自然と足が竦む。

 

 普段見慣れた場所のハズだし、このトイレは以前使ったこともあったたはず。

 

 一体何が今は違うのだろう。

 

 正体の分からなさに不安を感じて、蛍は縋りつくように燐に寄りかかった。

 

「ねぇ……燐」

 

 蛍は不安を訴えるように思案気な瞳で見つめる。

 

 燐は蛍の瞳の奥に拒絶の影を見るが、あえてそれには触れなかった。

 代わりに優しい口調で声を掛ける。

 

「大丈夫だよ蛍ちゃん、一緒に行こ」

 

 燐は蛍の手のひらをしっかりと握った。

 そしていつもの変わらぬ笑顔で微笑んだ。

 

 それだけで蛍の不安や恐怖が薄らいでいく。

 燐が一緒にいること、それだけで蛍の心はどんなときでも平静を保っていられる。

 

 この親友こそが”すべて”なんだ。

 

「うん、行こう」

 

 燐の存在を確かめるように蛍は握り返す。

 小さく柔らかい手、でもとても力強い。

 

 二人は固く手を繋いだまま、緊張の面持ちでトイレの中へと足を踏み入れた。

 

 いつものトイレと変わらないその場所へと。

 

 

 

 日常に潜む非現実。

 

 その入り口がこんなところに簡単にある。

 

 蛍も燐も皆目見当もつかなかった。

 

 ただ好奇心に準ずるまま、その足を湿った空気の中に進ませる。

 

 

 

 何かの声が聞こえた気がした。

 

 

 

────

───

──

 




始めまして、Towelieと申します。


この度、美少女AVG(公式)の”青い空のカミュ”が好きで堪らなかったのでその想いを何か形にしたいと思い、素人ながらこのような小説形式で書いてみることにしてみました。

ですが物語として妄想してしまうのがエンディング後の話ばかりで流石にそれはハードルが高くなりそうですし、原作の内容的にデリケートな案件になりそうだったのでとりあえずスピンオフ形式で書いてみることにしました。

本編とはキャラの設定に違いを持たせるだけでなく一部のキャラも登場しない可能性があります。今のところ3キャラしか出るプロットしかないです……。

”学校であった怖い話”というAVGゲームの世界観を一部拝借させていただきましたが、そちらのキャラは出す予定がないのでクロスオーバーにはならないかなと思いタグはつけておりません。

それにしても、ある程度書き始めて思ったのことなのですが、本編と内容が被ってるかも──っと感じるところがちょっとヤバ目です。

話が進むほどに本編である青い空のカミュの話をなぞる感じが強くなってきたので何とか軌道修正するようにしてみてますが好き過ぎて似ることなんてある……かもも?

なんとか独自性を見出して行きたい所存です。

連載形式にしてますが続けられるかはモチベーションっていうかネタしだいです。

それでは長々と拙文失礼しました。

ではでは~。



追記:2020年8月にリメイクしてみました。
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