コワイ? 学校のカミュ   作:Towelie

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――20:28――

スマホの画面が今の時刻を映し出していた。

時間を確認して二人の少女はガックリと肩を落とす。

帰りの電車は動いているが最寄駅が比較的近い燐はともかく、蛍は終点が最寄り駅なのでこの時間だと家に着く頃には真夜中になってしまう可能性があった。
これといって特に用事があるわけではないが、家までの道のりがやけに億劫に感じる。

顔を見合わせて溜息をついてしまうが、家に帰らないことには疲れがとれそうになかった。

おまけにお腹もすいてるし……。

オオモト様は宿直なのか暫くすると学校の方に戻って行ってしまった。
「今日はお疲れさま。二人とも今日はもう帰ってもいいわよ」
そう一言告げられただけで解散となった。

結局肝心なことは何も分からないままに学校を後にしてしまう。後ろ髪引かれる思いはあったがこれ以上何もできそうになかった。ただ慌ただしい一日が終わったのだった。

駅までの道を並んで歩く、疲れの為なのか二人はずっと無言のままだった。

ふと、ラーメン店の明かりが目に入った。ネオンの灯りが誘っているように見えてしまい、思わず立ち止まってしまう。つい食べた時の事を妄想する。
すると不意にお腹がぐーっとなってしまって燐はとても恥ずかしかった。

「せ、折角だから食べていこうか?今日は色々あって体力使っちゃったし」恥ずかしさを誤魔化す様に燐は提案する。
「うん、いいね。わたしもペコペコだよ」蛍は燐の様子ににっこりと微笑んだ。

迷うことなくラーメン店に足を向ける二人。
ついでに餃子も頼んじゃおうかと期待に胸を膨らませつつ入ろうとしたそのとき――

ピッ、ピッ、とクラクションに呼び止められる。

音の方角に顔を向けると強い光に照らされて視界が一瞬白く染まった。
蛍は思わず手で覆って目を細めると、軽自動車のヘッドライトが二人を照らしているのが見えた。

そして。

「二人とも駅まで送ってあげるから寄り道しないで帰りなさい」とオオモト様の声がした。

てっきり学校に居残るのかと思ったのだが二人の後を追いかけてくれたのだろう。
ネイルピンクのボディに白のルーフのツートーンカラー、丸みを帯びた女性向けデザインのキュートな軽自動車。それがオオモト様の愛車のようだった。

燐と蛍がバツが悪そうにこっそり車に近づいた。寄り道ぐらい誰でもやってそうだが、いざ見つかると何となく気まずいものだった。だがオオモト様は怒ってる様子もなく、二人に微笑んでいた。
「さあ、早くお乗りなさい。ここで停車してると迷惑になるわ」オオモト様は催促するが特に慌てている様子は見受けられない。

「し、失礼します…」蛍は車の後部座席のドアを開けて乗り込もうとする。その様子に燐が慌てて声を掛けた。
「あ、わたしが後部座席に乗るから、蛍ちゃんは助手席に乗りなよ~」と助手席側のドアを開けて乗るように促した。
「大丈夫。燐が助手席に乗って、ね」と、二人で席を譲り合った結果……。

「やっぱり、仲が良いわね」オオモト様はバックミラーで後部座席を視認して微笑む。

「蛍ちゃん、本当にいいの?」
「うん。何かこうして並んで座ってると朝の電車と同じで安心するんだ」
「そっか、実はわたしも、行きも帰りも一緒だもんねー」

燐と蛍。手を握り合い、通学の電車の時の様に仲良く後部座席に座っていた。










Blue door house

二人はそれぞれスマホで電話を掛けていた。家に連絡しておいた方が良いとオオモト様に言われたのだ。今日は泊まっていくとの連絡をしておいた。車外はすっかり雨模様で水滴がサイドウィンドウに張り付いて滴り落ちていく。

 

オオモト様の車に乗り込んだ直後、ポツリ、ポツリと小雨が降ってきていた。駅まで送ってもらう予定だったが、雨脚が強くなってきたのと、少女二人を夜遅くに帰すのは危ないとのことでオオモト様の提案で今晩は家に泊めてもらうことにしたのだ。

 

オオモト様の住まいは郊外にある一軒家で昔は旅館をやっていたらしい。話には聞いたことがあったが実際に行ったことはなかった。

 

雨の中、夜の運転ということで燐も蛍も気遣ったが、オオモト様は”何時もの事だから”と気にする様子もなく雨に煙るネオンの街を運転して行く。

後部座席にいる燐と蛍はひそひそと話し合った。

「オオモト様って運転上手なんだっけ?」

「いつも車で通勤してるみたいだから大丈夫とは思うけど……」

バックミラーに映るオオモト様を表情を伺ってみる。普段と同じように落ち着き払ってるように見えた。

やがて車は煌びやかな町並みから抜けて、鬱蒼とした木々に覆われた山道を進むようになった。当然外灯も少なくなり夜を感じられるようになった、

 

オオモト様の運転にある程度安心出来たのか、蛍は燐にようやく声を掛けることができた。

「やっぱり旧校舎って取り壊しなのかな。その方が後々の為にも良さそうだけど、なんか勿体無い感じがしちゃうね」

「うーん。耐震の事もあるし、何より曰くつきだしねー。でも最近はリノベーション?とかして再生利用するんじゃないの?」燐は前にテレビで見た再生物件のドキュメント番組を想像していた。最近はネタが切れたのかたまにしかやらなくなったようだが。

 

「あの校舎は多分、大丈夫よ」不意にオオモト様が会話に加わってくる。

「……なにか根拠があるんですか?」蛍がもっともな疑問を投げかける。

 

「あそこの地下にはもう一つ秘密があるの。昔、外宇宙からの生命体がこの地に移り住んだ最初の場所なのよ」

 

オオモト様の言葉に燐も蛍も思考が停止してしまった。元々浮世離れしていると思ってはいたが宇宙人等という言葉が出るとは流石に想像付かなかった。

 

「あ、あはは……」なんとなく気まずくなって乾いた笑いを返す燐。これで少しは場が和めばよいのだがと割と必死の行動だった。

 

「――冗談よ」オオモト様はポツリと発した。

二人の少女は大きなため息をついた。冗談なのか本気なのか……何にせよ会話が更に途切れてしばし無言の空間が出来た。

少し寒気を覚えてきたのはエアコンのせいだけなのだろうか。

 

――

 

「ぅぅん……」燐はゆっくりと薄目を開けた。

何時の間にか寝てしまっていたらしい。

微睡の中、隣を見ると蛍がすやすやと寝息を立てているのが目に入った。それでもお互いの手はしっかりと握られている。

 

「もう少しで着くわ。まだ寝てても大丈夫よ」オオモト様はしっかりと運転していた。夜の雨の中でもスピードは一定を保っていた。

「ご、御免なさい、つい寝ちゃってました」燐は弁明してミラー越しにオオモト様の顔を伺ったが気にした風もなく微笑みをミラー越しに返してきた。

 

すっかり覚醒してしまった燐は何となく景色を眺めていた。街頭一つない山道なので今、何処辺りなのか分からないが、ただ黒い闇の先をぼーっと眺めていた。

ヘッドライトが夜道を照らすが雨によって光が遠くまで届いてはないようで視界は狭く、フロントガラスには真っ暗な世界しか見えていない。それでもオオモト様には緊張感が無いのか無言でそして何故か楽しそうにステアリングを握っていた。

 

暫く車内に沈黙が続いた。車内はラジオの音すらついていない為、聞こえるのはワイパーの規則的な機械音と安らかな蛍の寝息だけだった。

 

「今日は楽しかったかしら?」その沈黙を不意にオオモト様が破ってきた。

唐突に告げられたので何を言っているのか燐は理解が追い付かなかった。

今日は一日散々な目にあったのに一体何を言ってるんだろうと少し訝しげに思ったが。

「え、えっと、あんまり楽しめませんでした」と愛想笑いで返した。

 

「……そう」少し残念そうに眉根を寄せる。

 

「わたしは楽しかった。あなた達が手を引いて連れ出してくれた時、久しぶりにドキドキしたわ。わたしが不甲斐なかったから庇護欲が出たのかしらね。それでも嬉しかった」

ハンドルを大きくきってカーブを曲がる。なるべく振動は与えないように気をつかった運転をしていた。

 

「オオモト様…」少し胸が締め付けられる思いがした。

あの時は二人にそこまで深い考えはなかった。ただこのままだと後悔するとは思って必死に手を繋ぎあい3人一緒に逃げ出すことが出来たのだ。

 

「人は生きている限り何かを失っていくわ。それは仕方がないこと。でもそのままでいいなんてことはないのよ」前を向いたまま伏し目がちに言葉を紡ぐ。

 

「燐。あなたは愛されている」バックミラー越しに一瞬オオモト様と見つめ合った。黒檀の瞳の奥が揺れているように見えた。

「えっ!?」燐が目を丸くして驚くと、同時に車のブレーキが掛かる。少し体ががくん、と揺さぶられた。

 

「さあ、着いたわ」オオモト様がこちらを振り返って声を掛ける。

一軒家というには大きな建物があった。これがオオモト様の自宅なんだろうか。

シートベルトを外して外に下りてみる。雨はだいぶ小雨になっていた。雨音で遮られていた虫の声が夜風に乗って耳に届くようになった。

「ここが…」

「そう、わたしの家。前はちゃんとした旅館をしていたのだけど、今は休日だけ外国人向けのゲストハウスのような事をしているわ」

学校の先生をしているのに休日に民泊も運営してるなんてそうそう出来るものじゃない。改めてオオモト様の底知れなさに感心してしまう。

 

「それより、燐。蛍を起こしてあげて、すっかり寝入ってて可愛そうだけど」まだ車内で寝ている蛍を二人で見てしまう。やすらかな寝顔が映っていた。

「蛍ちゃん。起きて、もう着いたよ」肩を少し揺さぶって起こそうと試みる。

「う、うーん……」身をよじるが反応は薄い。

「蛍ちゃんー、起きてよー」少し強く揺さぶってみるがまだ覚醒してくれなかった。

 

その様子を見たオオモト様は少しからかうように微笑んでから。

「眠り姫を起こすのは王子様のキスじゃないかしら?」と提案してきた。

 

「ええっ!」再び燐は驚いてしまう。

(そういえばオオモト様に見られちゃったんだっけ。なんであの時……うー、そんな事より!)

燐はあの時のことを思い出して耳まで真っ赤にしてしまう。だがそのことで蛍の顔、そして無防備な唇を意識してしまっていた。

よく見ると蛍の唇は微かに震えている。まだ寝ているのか、それとも……?

そのことに燐は気づいていなかった。

 

「蛍ちゃん…」燐は蛍の手に優しく左手を重ね合わす。蛍がぴくっと微かに反応していた。右手で前髪をかき上げる。瞳を閉じたままの無垢な蛍が目に映る。

(やっぱりオオモト様が見てる前でするなんて在り得ないよ……。それに普通に起こせばいいだけの事だよ、ね)

それでも物欲しそうな蛍の唇を見ているとたまらなく愛おしくなり、燐は思わずそっと顔を近づけていた。そして燐は……。

蛍のくちびる……ではなく、少し上気した頬に燐は唇を押し当てた。頬へのキスは唇同士とは違ってそこまで恥ずかしくはないのだが、オオモト様に見られているせいかそれでも十分すぎる羞恥心があった。

「ちょっと違ったけど、ありがとう、燐」

蛍が瞼を開いて目を覚まして照れたように微笑んだ。燐はその様子に慌てて唇を離す、が。

「ちょっと違うって……?もー!蛍ちゃん。やっぱり起きてたんだねー」

 

「ごめん。燐がどうするか見てみたかったんだ」ペロッと舌をだす蛍。

「そうね。好きな人がどうするかは気になるところだものね」オオモト様まで囃しててくる。

「も~。オオモト様まで~」顔を真っ赤にして両手をぶんぶんと振って照れ隠しをすることしか出来ない燐。でも何故か幸せを感じていた。

 

「それにしても、オオモト様の家って、大きいですね」

車から出た蛍は元は旅館だった家をぐるりと見渡した。外観は古そうに見えるが庭も含めて手入れはしてあるように見える。駐車場も十分な広さは確保してあった。

「蛍ちゃん家も結構大きいと思うけどなー」

燐は先ほどの恥ずかしい行為から少し立ち直っていた。

 

「わたしの家はほら、無駄に広いだけだから……オオモト様の家は旅館をやってるんでしたっけ?」

蛍の家はオオモト様の家より更に大きい敷地だった。もっとも増改築を繰り返した末の大きさだったので少し歪な外観になってはいたが。

 

「そうよ。今は休みの時だけにしてるわ」

「旅館の名前ってあるんですか?」

「昔はちゃんとした名前があったんだけど、今は、”青いドアの家”って呼ばれているわね。ほら」と、オオモト様は家のドアを指さした。

今は夜の為、少し分かりずらいが、確かにドアは青色をしている。名前になるほどだから日中でみたらもっと素敵な青に見えるだろうと蛍は想像してみる……。

 

――突き抜けるような青空の下。鮮やかな青に彩られた古民家風の旅館……夏の山の風景にぴったりマッチングしている。

 

明日の朝の風景が楽しみになった。

 

「ここで立ち話も雨に濡れるだけね。さあ、お入りなさい」

と不意にオオモト様は燐の腕をとって歩き出す。

「え?ちょ、急に何するんですか」燐は突然の出来事に動揺したまま引かれるがままだった。

 

「うふふ、学校の時にこうしてくれたから、今度はわたしがしてあげるわ」

オオモト様は意地悪そうに微笑んだ。

「それに……わたしもあなたを愛している」

腕を絡めたままさらっと告白をしてくるオオモト様。

 

「ええっ!!」燐と蛍、二人して同じタイミングで驚いてしまった。

 

「――そんな!オオモト様、り、燐は、わたしの燐ですっ!」

駆け寄ってきた蛍も燐に腕を回してしがみ付いてくる。

燐はそんな二人に成すがままに振り回されるだけだった。

 

「あのー?なんか二人ともすっごく密着してくるんですけどー?」

ぐいぐいと両サイドから迫ってくる蛍とオオモト様。二人の豊満なバストが両脇から押し付けられて、なんとも言えない柔らかさとコンプレックスからくる、胸囲の格差社会を感じてしまっていた。

 

燐と2人の両手に花状態でオオモト様の家”青いドアの家”に3人で入る。オートライトの玄関で中は広く内装はリノベーションしたのかとても綺麗で新築のようにも見えた。

色々準備があるからと燐の腕からオオモト様が離れる。白檀の残り香が名残惜しそうに手についていた。

 

「はーぁ、今日は色々あったけど最後は大満足だったねぇ~」

「そうだよね。すっかり、オオモト様にお世話になっちゃったね」

「うんうん。美味しいものも食べたし温泉にも入っちゃったしねぇ。ちょっとした修学旅行みたいだったかも」二人とも幸せそうに余韻に浸っていた。

 

燐と蛍に宛がわれたのは2階にある宿泊客用の部屋で、ダブルベッドを完備しており壁にはテレビが、冷蔵庫、エアコン、ソファーと一通り家具が揃っていた。

温泉が自慢の旅館だったようで、実際、内湯だけでなく露天風呂もあった。それに小さいながらもサウナも完備してあった。二人は誰も居ないを良い事に風呂で大層はしゃいでしまっていたが。

 

料理も”余りものしかないけど”と言っていたが3人で食べるには多すぎるほどの食事を用意してくれた。オオモト様の手料理を食べたのは初めてだったが、とても美味しく格別な時間を楽しく過ごすことが出来た。

 

「この時間でも、まだわたし家についてないかも」蛍はベッドに座り込んで手にしたスマホで現時刻を確認する。すでに日付が変わりそうな時刻になっていたが、それでも家に辿り着けるかどうか怪しいみたいだった。

 

「それはそうと蛍ちゃん。なんで一緒のベッドで寝ているの?隣にちゃんとベッドあるのに?」何故か蛍は燐と一緒のベッドに潜り込んでいた。

 

「今日は燐と一緒に寝たいな、って。ダメかな?」

「ダメじゃないよ。わたしも蛍ちゃんと一緒に寝たかったし」

「そっか。なら良かった」にっこりと微笑む蛍。何らかの意図がありそうだったが燐は特に気にしなかった。

 

「オオモト様の家って今でも旅館っぽいことやってるみたいだけど、結構綺麗な部屋だよね」

二人とも着替えを持っていなかったので旅館で使っていた頃からの愛らしい浴衣に袖を通していた。制服で寝ても良かったのだが折角だからと貸してくれたのだ。ちなみに制服は洗濯してもらっていた。

 

「完全予約制にしてるんだって。わたし結構こういうのって興味あるんだよねー。隠れ家的な温泉宿の若い女将さんって感じで」

蛍は燐が女将となって可愛らしく働いているのを想像して不覚にも噴き出してしまった。

「あー!もう蛍ちゃん。わたしだって女将さんぐらいできるんだからねー」

ぷう、と燐は少し拗ねたような仕草をする。その様子も可愛らしかった。

 

「ふわぁ~、そろそろ寝よっか、って蛍ちゃん!?なんで浴衣脱いでるの。暑いならクーラーつけようか?」

「ん。大丈夫だよ。ちょっとサイズが合わなかったのかも……」蛍はゆっくりと浴衣の帯を解いていく。確か浴衣を選んだのオオモト様だったのでサイズ違いはまずない気はしたのだが。

薄暗い部屋の中で全裸になる蛍。少し恥ずかしそうな表情を見せるが、まっすぐに燐の瞳を見つめ返していた。

「んー、わたしも慣れない浴衣だからイマイチ着心地がよくないかなあ?それに夏だし蛍ちゃんしか見てないからいいかな」言い訳じみたことを言って燐も浴衣の帯を緩める。

恥ずかしそうに目を伏せて浴衣を脱ぐ燐。

二人の少女は一糸まとわぬ姿になっていた。そしてベットの上で折り重なるように抱き合う。お互いの鼓動と体温が伝わって交じりあっていく。

 

「燐はやさしいね」

「どうして?」

「だって一緒に裸になってくれたし」二人は至近距離で見つめ合った。瞬きすら忘れるほどに。

「蛍ちゃんとこうしたかっただけだよ。それに……()()()に書いてあった、よね?」ぎゅっと抱きしめる。柔らかくて良い香りの圧迫感がとても心地よい。

 

「――燐。知ってたの?」蛍は雷に撃たれたように動揺した。その衝撃は抱き合ってる燐にも切実に伝わってきていた。

図書室で見た本に書いてあったこと……燐と二人でこうなることを予知したような内容だった。結果、それは当たっていたのだ。そして最後のページに書かれていた二人の姿は……。

「裸で抱き合っていた。そういう事だよね」燐は蛍をあやすように背中をさする。蛍から少し動揺が抜けてきた。

「うん。だから裸になってみたんだ。もしかしてわたし達、まだ踊らされてるのかな」蛍は苦笑いして微笑んだ。激しくなった鼓動は落ち着いてきたようだ。

「それでも良いんじゃない。だって蛍ちゃんの事大好きだしね」

「燐……」蛍の鼻と燐の鼻が触れる。瞼を閉じる蛍。それを見た燐は薄くため息をついて。

 

「……だーめ」と、キスを回避する代わりに蛍を強く抱きしめる。

期待していたことと違っていたので呆気に取られてしまった。

「だって、本には抱き合う姿しか書いてなかったでしょ?……それに、キスなんてしたら興奮して余計に寝れなくなっちゃうよぉ」

”キス”って言葉を口にするだけで燐は胸が熱くなってしまっていた。

 

「もう。燐の意地悪……」

蛍は代わりに燐の首元にキスをした。跡が残るように少し強く吸い付いてくる。

 

「ん、もう、蛍ちゃんのエッチ」

「むちゅっ。……だってこうでもしないと燐のこと取られちゃいそうなんだもん」蛍は何度も何度も首元にキスの雨を降らす。

「あ、んっ…蛍ちゃん。取られるって誰……に?」

「オオモト様……だけじゃないよ。燐って結構モテるよ、ね……」首筋に沿って舌を這わせる蛍。そして燐の耳元に吐息を掛ける。

 

「や、蛍ちゃん耳はダメ……だよぉ。わたしそんな事ないよぉー」耳への刺激で自分の声が頭のなかで反響しているかのようになっていた。

 

「わたし、前に燐が告白されてたの知ってるよ。それにホッケーの試合だって燐、目当てっていう女の子結構いるんだよ……」燐の耳元で吐息交じりの囁き声で話す蛍。普段ならそこまで気にならないが、裸で抱き合ってるのとそれまでの行為で、耳に吐息をかけられるだけで強い刺激となっていた。

更に蛍は燐の耳を少し舐めてみた。燐は堪らず体をびくんとさせるが、特に抵抗は見せなかった。蛍は耳たぶや溝を丹念に嘗め回す、その献身的な行為に燐は声を我慢するので精一杯になっていた。

 

雨は何時の間にか上っていて雲の隙間から青白い月が照らし出す。月下の元で抱き合い、もぞもぞと動く二人の少女の裸体はまるで彫刻のように繊細で淫靡だった。

 

その最中、燐の視線はつい()()を捉えてしまっていた。

 

「あ、あれって!UFOじゃない!?」燐は夢から覚めた様にはっとなって窓の外を指差す。

「えっ?」蛍は燐に覆いかぶさっていたので咄嗟に動けなかった。

「ほら、あれ、って、あ。消えちゃった……」

何かの発光体がいたような気がしたのだが瞬く間に消えてしまっていた。

 

「燐~!変なこと言っちゃダメだよ…。わたしに集中して欲しいな……」

蛍は拗ねたような声を出して燐の視界を覆う様に強く抱きしめる。

「ごめんごめん。蛍ちゃん、って、結構、苦しいし、重い……かも……」

蛍は少し意地悪して燐に体重を預けていた。二人の裸体が最も密着してお互いの香りが混じり合う。

「……うん。そうだよ、人って重たいんだよ。だから燐。一人で何でも背負い込まないで欲しいな。じゃないとその内、その()()に押しつぶされちゃうよ……」

蛍が燐を抱き寄せてまた耳を攻めたてる。吐息交じりの蛍の声と舌で燐の耳はすっかり敏感にされていた。

「うん……あ。そ、そうだね。でも蛍ちゃんは軽いよ!それに柔らかくていい匂い……ずっとこうされていたい。けど、わたし、このままだと蛍ちゃんに依存しちゃうよっ……」

執拗に耳を舐められて燐は呼吸が荒くなってしまう。だがぎゅっと抱きしめられているのでもがくことしか出来ない。

「ん……良いんじゃない。わたしはもう燐なしの生活なんて考えられないよ。……ねえ燐、よかったら一緒に暮らそう?わたし、燐とならどんなことになっても構わないよ」

耳を舐めるのを止めてじっと燐を見つめ返す蛍。濡れた唇が淫猥だった。

 

「蛍ちゃん…」

燐も蛍の瞳を見つめ返した。切なさが涙となって滲んでいた。

(そっか、オオモト様だけじゃなく蛍ちゃんも知ってるんだ。……わたしは二人の想いにどう答えればいいんだろう)

 

「蛍ちゃん……わたし勇気が欲しいんだ。自分と向き合う勇気が欲しい……」

燐は目を伏せて物欲しそうな唇を少し突き出した。

自分でも甘えているのは分かってる。それでも誰かではなく今、蛍の愛が欲しかった。

「燐……」

互いの手を固く握ったまま、視線を絡み合わせる。瞳の奥から心の奥底が見えそうだった。

 

蛍の唇が吐息が燐と重なり合う……と思っていたのだが。

 

「ダメ……だよ、燐」

蛍は燐の頬に口づけをした。

ちゅっ、と音が出るように強く吸い付いて。

「蛍、ちゃん……」どうして?燐は思わず目で訴えかけてしまう。だがその視線を受けても蛍の瞳に迷いは見えなかった。

「これ以上したら本当に寝れなくなっちゃうよ。今日もう休もう、ね?」

今度は額にキスをしてきた。お休みのキス、ということなんだろう。

 

燐はため息をついて、蛍の優しさを受け入れた。

「ごめんね。我儘言っちゃって。今日は二人とも疲れちゃったもんね。うん、寝よっか」

「こっちこそゴメンね燐。その代わり今日はずっと抱いててあげるからね」

蛍は燐に抱きついて更に密着感が増してくる。お互いの胸元が変形するように押し付けられてなんともむず痒い刺激をあたえていた。

 

(明日……)

燐は蛍と抱きつかれたまま眠りの世界に入り込もうとしていた。

(明日戻ってきたら……その時に……)

意識ではもう少し考えたかったが、睡魔が疲れ切った体に心地よく襲ってきて抗えない。

(蛍、ちゃん……わたし……)

そこで燐の意識は眠りの中に溶け込んでいった。

 

燐の安らかな寝顔を見て、蛍は優しく頭を撫でた。

そして起こさないように軽く触れる程度に唇を重ね合わせた。

「お休み、燐…」

 

そして蛍もようやく眠りの途についた。

 

月明かりの下、裸体で抱き合って深い眠りに入る二人の少女。

蝉の声も蛙の鳴く音も雉鳩(きじばと)のさえずり声も聞こえなかった。

何の存在も入り込めない夢の中へとゆったりと落ちていった…………

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




むむーー今度こそ終わらせるつもりだったんだけどなー。どうしてこうなったし。

話の〆方が分からない→先にエピローグを作ってみよう→なんか無駄に長くなっちゃったぞ→読みにくいので分割しよう→ようやく次話投稿。
という流れに落ち着きました。

つい先日某スーパー銭湯にまた行ったのですが今度は風呂が直っていたので念願のほたるの湯に入れてご満悦でした。だがそれで満足したのか、小説投稿は全然遅れちゃったなあ……。

次こそは終わりにしたい、はず、です。



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