コワイ? 学校のカミュ   作:Towelie

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空調によって程よい温度が保たれている新聞部部室。その音が聞こえるほどに静寂な室内だった。髪の毛を二つに纏めた少女は小説を読みふけっていた。ショートカットでカチューシャを付けている少女はスマホの画面を難しそうな顔で見ていたり、電話を掛けたりしていた。時間を気にすることなくしばらくそうしていたが一人の少女がぐったりした様子で話し出す。
「やっぱり連絡とれないなぁ」今の今まで現れない連中に心底うんざりと言った感じで燐が嘆く。メールやSNS。電話とあらゆる手段を講じたのだが梨の礫で終わっていた。電波の障害を疑ってしまうほどに繋がらないスマホ。もはや意味のないガジェットだった。
これまでも何度も連絡を試みて失敗しているが今回はなんとかなりそうかと思っていた。何故なら遺留品が残されていたからだ。
屋上から戻ってくると部室に一冊の本が置いてあった。二人に覚えのない本。誰かが来たことは明白だった。それに鍵は掛けて出た筈なのに何故か外れていたのだ。顧問…オオモト様が戻ってきたかと思ったのだが…
(オオモト様の忘れ物なのかな?それなら説明がつくけどなんで居ないんだろう?)蛍が読んでいる本をみながら考察する。
その本は小説だった。ドストエフスキーの”罪と罰”の()()で長編のロシア文学だった。


Crime and Punishment

「あ。ごめんね燐。つい読んじゃってた」視線を感じて本を読む手を止めて振り向く蛍。理系の蛍だが小説や童話を読むのが好きだった。

「ううん。だいじょーぶ」机に突っ伏してだらんとなっている燐。視線はテーブルに置かれたペットボトルの泡に注がれていた。まだ封を開けていない炭酸ガスが入った飲料水の泡をなんともなしに見続けてしまう。

「やっぱりダメだった?」「ダメだね~」短く報告し合う。みんな約束を忘れて帰ってしまったんだろう、そう結論付けることが自然に思えた。

 

「この小説。”罪と罰”燐は読んだことある?」蛍が本を手に尋ねてくる。「うん。結構難しいよねコレ。日本語訳だと分かりやすくていいんだけど」表紙を見つめる燐。学校に在るものだからか日本語訳の文庫だった。

「燐、ロシア語読めるの?」「全然!」当然とばかりに胸を張る燐。その様子が妙に可愛らしくて蛍は笑顔をみせてしまう。

「人名の呼び方が4種類以上あるんだっけ?名前と苗字、愛称とかなんとか…複雑だよねー」「そうそう、でも微妙なニュアンスで読みたい人はわざわざ人物相関図を作ってから現国版を読むんだって」そこからスタートなんだね。と少し気の毒そうに蛍が言った。

 

「主人公の人ってさ」「うん?」主人公とは罪と罰の青年の事だろう。ラスコーリニコフだっけ?ロージャとか言ってる人もいたような?

「殺人を犯しちゃって自首しちゃう話だっけ?」ザックリと説明するとそうなのだがそれだけだと長編には程遠い。「だったら最初からやらなきゃいいのにね」確かにそうだ。

「でもその後の恋人の愛が本当のテーマなんじゃないかなぁ?」罪を償い労働する主人公を見守る無償の愛。本当に書きたかったのはこの部分かもしれない燐はそう考察する。

「わたしまだ前編なんだけど…」ネタを少しバラされたので残念だと言う表情をする蛍。「あ、ごめん」「ん、いいよ。わたしもなんとなくあらすじを知ってたからね」からかうように微笑む。「謝って損した~」少しむくれてしまう燐。でもお互い顔を見合わせて笑いあった。

 

「で、どうするこれ?」二人の視線が小説に注がれる。手に取って裏表紙を見ると。第1図書室の蔵書であることが分かる刻印がしてあった。

この学校には二つの図書室があった。1つは旧校舎に昔からある古い図書室。もう一つは新校舎にある広くて開放的な図書室。中にはカフェスペースもありランチを取りながら生徒が閲覧できるようになっていた。

第1図書室は旧校舎一階にあり正面玄関から近い位置にあった。先に二人が調べたトイレと丁度真逆の位置にあった。開校当初から変わっていない為か状態が悪い蔵書が多くあまり生徒に人気はなかった。今は貴重な歴史資料館的な意味合いを兼ねて一般にも開放してなんとか存続している。しかし未だに貸出カード方式を採用している為、コンプライアンス的な観点で若い世代から人気がなかった。ちなみに第2図書室はバーコードとオンライン方式で管理されている。

 

ここにその第1図書室の本があるということは恐らく……旧校舎の図書室に行けということなのだろう。誰が置いていったものかはこの際関係なかった。悪戯?それとも罠?七不思議の情報提供としてはそれなりに理解出来るのだが、直接言わないでこんな面倒な事をする意味が分からない。それほどに正体も理由も知られたくないのだろうか?

ゲーム的というか弄ばれている感じが拭い去れない。二人がどういう反応を示し行動するか実験されてるようだった。

 

何をすれば二人にとっての最適解なのだろうか?本を前にして考え込む。いくら考えても相手の意図もその人物さえも分からない以上、答えが出ないのだが。

「やっぱり返しに行こうか?」しばらく考えていた蛍だが決心したように口を開く。「でもっ…!」燐は即返事を返すがその後が続かなかった。

蛍は燐の言いたいことが分かるとばかりに頷いてみせた。「流石に3回も変なことに巻き込まれてたら、いくらなんでも警戒するよ」少し笑ってみせる。

「なんか試されてるかもしれない。でも燐が一緒なら大丈夫な気がするんだ」「蛍ちゃん…」二人はしばし見つめ合って沈黙する。

「でも燐が嫌なら今日はもう止めよ?二人で帰っちゃおうよ」眉根を少し下げて悪戯っぽく微笑む蛍。透明感のある優しい笑みを見せてくれた。

 

燐はその笑みを見て同じ考えだったことに気づく、私だって蛍ちゃんに助けられてるんだよ。蛍ちゃんと一緒だから…。それに別に今日やらなくても明日に回したっていい、途中までだっていいはず。確かに中途半端なのは嫌だけど学校新聞程度でこれ以上危険な目に遭うのは御免だし、何より大切な人を守りたかった。とっても綺麗な蛍ちゃんをこれ以上傷付けたくないよ!それこそが燐の最優先事項であった。

だから燐は決心する。

「じゃあ本を返してそのまま帰ろう?オオモト様には明日説明すればいいよ」その言葉に蛍は強く同意した。これ以上はテンションが続かないし、何より日が傾いてくると帰りが遅くなってしまう。

部室内を掃除してある程度元通りにする。空調を切って今度こそしっかりを鍵を掛けたのを確認する。鍵を返しに行くか少し迷ったが扉の前に鍵を持って帰る旨の張り紙を張っておくことにした。アナログな方法だったが多分大丈夫だろう。オオモト様は携帯持ってないし…。

 

二人は連れ立って階段を下った。あのトイレに近い手前側の階段ではなく奥の階段を使って。2階にきたときにあの黒くなってしまった鏡が目に入ったが、特に気にせず1階のある図書室を目指して下りていった。階段を下ってすぐの角の先に第1図書室はあった。これまでのときと同様にあたりに人の気配は無く静寂に包まれている。

ここまで人に会わないのは流石におかしい。放課後とはいっても部活をする生徒やそれ以外で残っている生徒が居てもおかしくないし、何より他の教師にすら会わなかった。もしかしたら旧校舎は蛍と燐。そしてオオモト様だけしか居ないのではないだろうか?何かから隔離されているのかもしれない。考えるほどに恐怖が増してくるようだ。

だが蛍はそんなことより別の事に気を取られていた。図書室に行く間、燐の様子がおかしかったのだ。辺りをしきりに見渡したり壁に張り付くように移動してみせた。階段では身を屈めながら手摺りに身を隠す様に降りるなど徹底して警戒していた。

(やっぱり気にしてくれてるんだ。でもなんかちょっと楽しいかも)燐のスニーキング?になんとなくごっこ遊びのような気持ちになり微笑ましくなってしまう蛍。そういえば燐とこういう遊びをしたことはなかったかもしれない。少し寂しさを感じてしまった。

 

「蛍ちゃんちょっとゴメンね」つい惚けていると燐が何時の間にか傍に来て蛍のウェスト部分にロープを括りつけていた。燐は趣味が高じて学校にバックパックとトレッキング用の装備一式を持ってきていた。このロープも入っていた装備だった。「これで大丈夫かな?」何の事だろう?呆気にとられている間に手際よく準備は終わっていた。ロープは燐の体にも括りつけてあり先端は階段の手すり部分にある木造の装飾部分に回されていた。

「蛍ちゃん悪いんだけど先に図書室に入ってもらえる?何かあったらわたしが引っ張りあげるから」えっ!、と驚愕の声をあげる蛍。燐の説明だと二人一緒だと閉じ込められる危険があるからこれが無難だとのことだった。多分、屋上での経験を生かしたのだろう。燐の眼差しは真剣そのものだったので蛍は黙ってその計画に乗っかることにした。

 

本を片手に持ち、じりじりと屈みながら蛍は図書室に近づいてゆく。その様子をロープを握って見守る燐。学校の中で命綱を付けて身を屈めながら本を返しに行く。さっきのごっこ遊びより数段恥ずかしい行為だった。だが二人には緊張感が漂っていた。

 

しゃがみ歩きでなんとか図書室前の扉に辿り着く。普段運動をそれほどしてない蛍にはそれだけで結構な体力を消耗してしまっていた。蛍は一息つくと燐にアイコンタクトをする。互いに頷き合うとゆっくりと引き戸を開く。カラカラと乾いた音が鳴った。

うっ、蛍は思わずうめき声を出した。中が薄暗かったからかもしれない。午後の日差しから本が傷まないようにカーテンが引いてあった。こそこそと中に入って照明のスイッチを探してみる。屈んでいるためか場所が良く分からなかった。ちょっと中腰になり辺りを見回してみるとそれはあった。慎重にオンにしてみる。

パチッと音がして図書室の中をパッと蛍光灯の明かりが灯る。その明かりに少し安堵の声を漏らしてしまっていた。

「蛍ちゃん。まずは貸出カードを探そうよ」燐が小声で提案してきた。うん。と返事をしてカウンターの内側にあるカード置き場を探る。今では問題のある貸出カードのシステムだがその昔ながらの方法がノスタルジックで一部の大人等には好評らしい。

パラパラと貸出カードを漁ってみる。なんとなく罪悪感があった。書籍番号が一致してるカード入れを見つけて中を探る。つ、つ、罪。あ、あった!小さく歓声をあげる蛍。悪いとは思ったが貸出カードを確認してみる……名前の欄も日付も白紙のままだった……。

「見つかった?」燐も図書室に入ってきていた。明かりが灯ったので少し警戒レベルを下げたのだろう。「うん…」蛍が貸出カードを見せる。何も書かれていないカードを見て燐も言葉を失った。やっぱりたちの悪い悪戯なんだろうか?幾度となく疑ってしまう。…やっぱり今日は帰ろう。蛍に声を掛けようとした燐だが、その蛍は移動していた。

「どうしたの蛍ちゃん!?」少し声を荒げてしまっていた。この件で燐は危険を感じたのかドア付近まで戻っていた。万が一閉じ込められないように足でドアを固定して。

蛍は少し困ったような顔でこちらを振り向いたが視線を本棚に戻した。恐らく本を棚に戻すつもりなのだろう、指で場所を確認している。その指が不意に止まる。ドの所、ドストエフスキー著書を置く場所を発見していた。そこに罪と罰の上巻を戻す。蛍が無事にミッションを終えたのを確認して燐はため息をついた。そして合図とばかりにロープを2、3回軽く引っ張った。その合図を受けて手を振る蛍。なんとなく微笑ましい光景だった。そして小走りに戻ってきた。だがその手には…下巻?

蛍は罪と罰の下巻を持ってきていた。どういう事か分からずに困惑する燐。すると

「せっかくだから下巻も読みたいなって」ペロッと舌を少しだす蛍。燐はまたため息をついてしまう。だが何かを閃いたような顔をして下巻の貸出カードを確認してみる。カードはちゃんと入っていたのだが書いてあるのは…

「込谷燐…」「三間坂蛍…」二人の名前がカードにギッシリと刻まれていた…。

ちりちりと嫌な気配が二人を包む……

 

「蛍ちゃん!」燐が咄嗟に蛍の手を取って図書室から駆け出す!そして階段を1段ぬかしで駆け上がり2階まで行こうしたところで

うっ?っと体が重くなり先に進めなくなってしまう。また金縛りにでもあったのだろうか?素早く確認しようとして振り返ってみると…。

「あうう、燐、ロープが…」後ろの蛍が情けない声をあげていた。ロープが体に食い込んで先に進めなかったのだ。その様子をみて、あっ、と声をあげる燐。命綱で二人を結んでいたのをすっかり忘れていたのだ。

はぁ~、と気疲れして階段に座り込んでしまう燐。蛍も隣に腰を下ろした。とりあえず図書室に閉じ込められなかっただけでも良かったわけだが問題は残っていた。

蛍は罪と罰の下巻を持ち出してしまっていた。改めてその貸出カードを恐る恐る見てみるが、やはり二人の名前が色々な字体で書かれていたままだった。

「何がしたいんだろうね?」困惑した表情で話しかけてくる。燐はうーんと考えることしか出来なかった。

(わたしと蛍ちゃんに何か恨みでもあるのかな?何かしたかなあ?)更に考え込んでみる…あ、と思い当たることがあった。だが

(先月の学校新聞のグルメ特集のときスイーツ部?だったかと少しモメたんだっけ?確か…)それは他愛のないことだった。人気第一位は今話題のタピオカドリンクだのやっぱり定番のクレープだので結構難儀したのだった。でもそんなことで恨みをかうなんてあるのだろうか?食い物の恨みは恐ろしいとは聞くが。燐がそんな呑気な理由を考えている傍ら、蛍は何気なく下巻を読んでいた。

するとハッと気づいて本を手に図書室に戻ろうと手を引いて促してきた。

「どうしたの蛍ちゃん!」考え事をしていて咄嗟に立つことが出来なかった燐が声を掛ける。

「わかったの。きっとそういう事だと思う」抽象的なことだけ言う蛍。理解は出来なかったがまた図書室に行くならついていくしかない。そう決めて燐は蛍を追い越して階段を下った。

 

「ちゅうかん?」一瞬なにをいっているか分からなかった。その燐の言い回しが可愛くてつい笑みをこぼしてしまう蛍。

「そう中巻。この罪と罰は上巻、下巻、そして中巻の三部構成なんじゃないかな」本を手に蛍が解説する。

「さっき下巻を読んでみて分かったの。話繋がってないなーってだから」だから中巻がある、そういう事かと燐は納得した。

「でも何処にあるんだろ?」旧校舎の図書室は新校舎のものより作りは狭いが蔵書は多かった。閲覧スペースが少ない代わりに本を多めに置いていたのだ。

「手分けして探そうか?燐、手伝ってくれる?」「うん。もちろんだよ」燐に断る理由はなかった。二人は中巻を求めて分かれて本棚を探すことにした。流石にロープは邪魔だったので外してしまっていた。上下巻があった付近から探してみたがそう単純には見つかってはくれなかった。片っ端から探してみる二人。膨大な本の中から一冊を探すのは困難を極めた。

殆ど目を通してみたつもりだがやはり見つからなかった。今度は同じような色やサイズの本をピックアップしてみようと燐が提案する。その中に見落としたものがあるかもしれない。その案で探しだそうとした矢先、不意に蛍の足に何かが当たる。

 

「え?」それは探していた本だった。表紙には”罪と罰”中編と記してあった。すぐに燐に報告しようとしたのだが何故か中身が気になってしまう。そしてゆっくりと頁をめくってみた…

「…なに、これ?」とても低い声で蛍は呟いた。あまりにも小さい声だったので燐にすら聞こえなかった。そしてその本の中身は。

燐の写真?のようなものが載っているだけだった。だが次のページにも燐が映っていた。その次のページも同じだった。ページをめくるたびに様々な燐の姿が本に映っている。文化祭で出し物をする燐、体育祭で選手宣誓をする燐、ホッケー部で活躍する燐、授業で熱心にノートを取る燐、着替え途中…の燐、さまざまな燐が蛍の目を楽しませた。そして後半ページには更に驚愕の写真が載っていた。……え、わたしも居る…?しかも燐と……抱き合って…?あの屋上での写真なんだろうか?親密そうに見える二人の写真。蛍は思わず喉を鳴らしていた。次のページをめくってみると更に雷に打たれたようにビクッとなった。

 

「わたしと燐が…キス?…してる…」何故か口に出してしまっていた。燐に聞かれたくないはずなのに?しかもその写真だけ何故か何種類もあった。写真の中の二人は恋人同士が愛を確かめるように何度も口づけを交わしていた。触れ合うだけの優しいキス、お互いの舌を絡め合う情熱的なものも、それはまるで現実にあった出来事のように鮮明に映し出されていた。

 

(これってわたしの願望なの?でもこんな事…)思ったことなんて微塵もない、思わず首を振って否定してみる。

だが…これこそが本心なのだろう。何故かそう思った。だって自分の本当の気持ちに嘘はつきたくないから。

燐が望むならなんでもしてあげたい。わたしも出来ることならなんだって……だから…だから…燐と…燐と…触れ合ってみたい…全部知りたい燐の事…燐のすべてを…。

自分の気持ちは理解しているつもりだった。だがその想いの先に何があるのか。思わず最後のページをめくってみる、手は止まらなかった。

そこにも二人が映っていた、だがその姿は……

 

「蛍ちゃん?」不意に燐の声が聞こえた。思わず現実に戻されてしまう蛍。「あ!見つかったんだね~良かった」燐が無邪気な笑顔を見せてこちらに近づいてくる。その無邪気さに思わず狼狽してしまう蛍。

「中編ってどんなのだった?わたしにも見せてよ~」疑うことの知らない無垢な笑顔を見せる燐。その顔をまともに見ることが出来なかった。

「み、みちゃダメっ!」思わず叫んで本を後ろ手に隠してしまう蛍。こんなの燐には見せられない。だってこれはわたしの……。その様子に驚いてしまう燐だが、蛍が自分をからかってると思い。少し策を論じた。

「そっかー、じゃあいいやー」わざとらしく蛍にそっぽをむく燐。だが余裕のない蛍にはこれでも十分効果があったのかホッと胸を撫で下ろす様子が横目で確認出来た。その隙を見逃す燐ではなかった。

――もらった~!燐が素早く蛍の手から本を奪ってみせた。あっ!蛍は気づくが時すでに遅く本は燐の手の内にあった。絶望感でいっぱいになる蛍。だが胸の内は自分でも気づかない奥の所で期待していた。(燐に見られちゃう。わたしの本当の気持ちが…燐に…)諦めがあったのかもしれない。あの時のようにまた少しだけ覚悟を決めた。

だが本を開いた燐のリアクションは期待したものとは違っていた。

 

「?ふつーだね。何にもなってない普通の小説だねぇ」蛍が隠すほどだからか何かあるかもと思っていただけに落胆する燐。ついでに貸出カードも見てみたがこれも異常はなく普通に利用した人の名が記してあるだけだった。

「え。本当!?」思わず小説を燐から奪い去るように取ってしまう蛍。中身を確認してみたが…普通の本に戻ってる?全部のページをパラパラと捲ってみたが燐の写真などどこにもなかった。

ショックと安堵で蛍はその場にへなへなと座り込んでしまった。流石にその様子には燐も慌てて駆け寄る。「良かった」蛍の言葉は本が見つかったことへの喜びだと燐は解釈していた。

 

閲覧スペースのテーブルに3冊の本を置く。そしてそれぞれの貸出カードを順番に出してみる。白紙だった上巻のカードは…しっかりと借りた日時と名前が記してあった。それは中巻も同じだった…。問題は下巻だった。このカードだけが異常なことになっていた。二人の名が書いてあった異質なカード。意を決して再び下巻の貸出カードを覗きこむ二人。……そこには燐と蛍の名は無かった。他2枚のカードと同じく元通りになったと思う、そんな気がしていた。カードを入れ本を棚に戻す。ドストエフスキーの棚には罪と罰が全巻揃っていた。

 

「結局なんだったんだろうね~」なんか事件が起こるたびに言ってる気がしたが思わず出てしまう言葉だった。「多分……」蛍はそこで話を切った。自分のせいかもしれないなんて燐にはとても言えるわけがなかった。そんな蛍の様子が気になって思わず手を取る燐。今、手を取らないと後悔する気がしたのだ。

「さっ、帰ろ蛍ちゃん。わたしお腹すいちゃったから駅前でなにか食べてから帰ろうね」燐は蛍の手を握って笑顔で話しかける。本当に素敵な笑顔だと蛍は思っていた。

(わたしは燐に依存しているのかもしれない。燐はわたしが負担になってるのかも)

燐の笑顔を受けても蛍の心は晴れなかった。燐の手を握る資格すらないんだ。握った手から力を抜く蛍、ゆっくりとその場から離れるように……

だが燐が更に力強く蛍の手を握ってきた。

「わたし蛍ちゃんと一緒だから頑張れるんだよ。大好きな蛍ちゃんとだから」少し恥ずかしそうに言ってきてくれた。その言葉を受けてキョトンとした蛍だったが

「…うん。帰ろ」そう一言いうのが精いっぱいだった。これ以上言葉を紡いだら泣き出しそうだし。だがその想いを受けて抜いた再び燐の手を握り返す蛍。

(燐、大好きだよ。大好きな燐。優しい燐。この想いを誰にも渡したくない)蛍は心の中で何度も燐に告白する。秘めた感情をさらけ出すように。

 

二人は一緒に第1図書館から出た。そろそろ夕焼けが近い時間帯の筈だった。

夕焼けに照らされながら二人でクレープを食べて駅までの道を歩くそれだけで幸せな何時もの帰り道。想像して嬉しくなった。七不思議なんてどうでもいい、とりあえず学校を出ちゃえばいいんだ。明日残りをやればいい。今日来なかった人たちに明日理由を聞いてみよう。先の事に想いを馳せる。明日が来るのが当然の様に……。

 

旧校舎を出て新校舎の昇降口に、手を取り合って二人の少女が向かう。大したことのない距離だった。今日は色々な事がありすぎた。学校という非日常から解放されたい。そう願いつつ旧校舎を出ようとする二人、だがその耳に…。

 

ピンポンパンポン

と校内放送のチャイムがリズミカルに鳴り響いた。

まだ帰さないとばかりにタイミングよく…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




台風の影響で集中出来たのか結構捗ってしまったです。自分の地域は今回の台風ではそこまで被害がなさそうで今のところは大丈夫っぽいですね。青い空のカミュの舞台の一つと目されている浜松も今回被害あったかな?小平口のモデルとなった地域も大丈夫だったかな?…実は場所を把握してないです。なんとなくここら辺かな?ぐらいしか調べていません。聖地巡礼とかしないつもりですし。静岡県も御殿場までしか行けてないので浜松までは何時か行ってみたいです。
今回は図書室での話にしてみました。罪と罰の小説はネタに困ったのである漫画作品からアイデアをもらってみたのですが、トリック的?な使い方しか出来なかったなあ。もう少し話に盛り込んでも良かったかも。
なんか今話で終わらせてしまおうかとちょっと思ったりしたのですが一応次回に繋がるようにしておきました。でもやっぱりネタ不足だなあ。話の上ではようやく折り返しなのに。
とりあえず次回に向けてネタを探してみます。それでは。

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