さて色々騒ぎはあったものの、大帝国劇場に無事到着したローアは、八重に中を軽く案内されながら、支配人室を目指していた。
「大帝国劇場は第二次世界大戦時に焼けてしまったらしく、現在はそれを立て直したものらしいですよ」
「へぇ~」
そう言いながらローアはキョロキョロしている。舞台・売店・ホールと見て回ったが、どれも綺麗だ。八重はここの舞台に立ってるらしいので、いつか見てみたいなと思いながらここが食堂です、と案内されていると、
「あら八重さん。お帰りになってましたの?」
「あ、アツバさん!ただいま帰りました」
そう言って、八重を食堂で紅茶を呑みながらブロンドヘアのスタイルが良い少女。アツバと呼ばれた彼女は、ローアを見ると、
「貴方が新しい人かしら?」
「初めまして、ローア・シャトーブリアンです」
ペコリ、とお辞儀間でして挨拶。さっきは八重の行動が面白くて出来なかったが、日本のマナー本みたいな奴でこうするのが礼儀とあったのだ。だが、
「全く、外国の人ですら初対面の人間にたいしてこういう風に出来ると言うのにあの人と来たら……」
とブツブツ言っている。何だ?とローアが首をかしげると、アツバは慌てて、
「Ravi de vous rencontrer。私は神崎 アツバ。シャトーブリアン家の御曹司殿にお会いできて光栄ですわ」
「ありがとう。神崎家の御令嬢に会えてこっちも光栄だよ」
そうアツバとローアが言い合うと、八重は首をかしげていた。
「ローアさんの事、アツバさんは知ってるんですか?」
「知ってるもなにもシャトーブリアン家と言ったらフランスでは何代にも渡って続く大富豪の家ですわ」
何も知らないんですのね、とアツバが言うと、八重は眼を丸くしながらこっちを見て、
「ローアさんってお金持ちだったんですか!?」
「俺がじゃなくて先祖と親がね」
と、苦笑いして答える。実際事業やらなんやらをやって稼いでいるのは父なのだし、折角シャトーブリアンの名前を知ってる人間が少ないであろう憧れの日本に来たのだ。ノビノビしたい。何てちょっと思ったり。
するとそこに、
「騒がしいけどどうしたの?」
「レミィ!貴女も居たのね」
と八重はやって来た銀髪の中性的な少女を見て、ローアに紹介する。
「ローアさん。こちらはレミィ・アルベルジュェ《ガチッ!》あいったぁ……」
名前を言おうとした八重だが、思いっきり舌を噛んだらしく、口を抑えて涙目になってしまう。
「全く、八重さんったらダメダメですわね。彼女はレミィ・アルベルヴェ《ガチッ!》……」
静かにアツバも口を抑えて蹲る。それを見たレミィは、少しため息をしながらも、
「初めまして。レミィ・アルベルジェッティ。宜しく」
「ローア・シャトーブリアンだ。宜しく」
とお互い挨拶。それにしても見事にさっきから女性にしか会わない。男は居ないのだろうか?
「ひゅみまへん。しはいにんひつはこのさひでひゅ……」
口を押さえながら言う八重に、思わずローアは苦笑いを浮かべながら、アツバたちに声をかけながらその場を八重に続いてあとにし、
「こちらです」
そう言って見せたのは、支配人室と書かれたネームプレートが扉に付けられた部屋。それから八重がドアをノックすると、
「どうぞ」
と言う返事が帰ってきたので、二人が入るとそこには二人いて、
「新しい彼も来たのね」
そう言って一人がこちらにやって来た。高身長でスラリとした中性的な顔立ちだ。
その人はこちらに手を差し出し、
「初めまして、名前は柏木 舞。年は18歳で一応女よ」
「見れば分かりますけど……」
舞の自己紹介に思わずローアは突っ込むと、舞はごめんなさいと言い、
「外国人は日本人を見分けるのが苦手だって言うしね。たまに男と間違われるし……」
まあ見分けるのが苦手なのは否定しない。しないけど流石に性別を間違えたりはしない。特に美人をね、とローアが言うと舞は少し笑い、
「リップサービスだとしても嬉しいわ。ありがと」
そう言いつつ舞は八重に紙の束から一つ取り出し、
「新しい台本が来たんだけど、どうする?」
「え!そうなんですか!?あ、でも……」
舞の言葉に目を輝かせた八重だが、ローアの方も見る。それを見たローアが、
「ここまで送ってもらえれば大丈夫だよ。行ってきたら?」
「あ、ありがとうございます!」
八重は目をキラキラ輝かせ、支配人室を台本を手に飛び出す。それに対して舞は静かに礼を一つして、部屋を出て扉を閉めた。それからローアは残った女性を見て、
「お久し振りです。藤枝 撫子さん。会ったのは……もう二ヶ月前ですね」
「えぇ、要請を受けてくれて嬉しく思うわ」
そう言って藤枝 撫子とローアに呼ばれた女性はカーテンを閉める。それからこちらを見て、
「フランスにいったときにも説明したけれど、これは強制ではないわ。その為何時でもフランスに帰る権利を持つ。それは良いわね?」
「えぇ、命の危険もあるし、事件を解決しても表立っては何か報酬が出るわけでもない。ですよね?」
えぇ、と撫子は頷きリモコンを手に取りボタンを押すと、壁にスクリーンが現れ、映像が流れる。
「前にも説明したようにここ数年。急激に魔の力が世界的に伸びている。その影響か、この降魔と呼ばれる異形の怪物が日本でも増えているわ」
まぁ、降魔については今じゃ教科書にも普通に載ってるから知ってるわよね。そう言って撫子が映像に写したのは、確かにこの世界のどの生き物にも似つかない異形の怪物。頑張れば爬虫類の親戚となら言えなくもないが、やはり違うだろう。そう言って次に撫子が写した映像は、その化け物と軍服を着た男達が戦っている映像だった。
「今は霊力がなくても、降魔に対して有効にダメージを与えられる呪弾と呼ばれる装備があるため、自衛隊や警察も降魔と戦うことができた。でもこれを使ったとしても一体の降魔を倒すのに何十人も人員を配備しなければならない。それでは魔の力が増している今対処しきれない。そこでこの度ここ首都・東京の霊的な防護の要として、帝国華撃団が復活したの」
そうして撫子見せたのは、今度は金属の人型蒸気機械……これは、
「これも知ってると思うけど一応説明すると、これは魔操機兵。降魔の増加とほぼ同時期に確認されてた新型でね。魔操機兵は降魔と違って突然生まれたりしない。何者かの意図があって生まれる。つまり降魔の増加も何者かの意図の可能性がある」
それが何者かであれ、自衛隊や警察では対処しきれないものが相手になる可能性が高い。そう撫子は言い、
「だからさっきも言ったように何時でも帰って構わないわ。私は貴方に命を懸けろとは言えないし言わない。あくまでも君の善意に期待するわ」
そう言って来た撫子にローアは、
「まあこの間も言ったように、ずっと憧れだった日本に来れたので良いですよ?」
と笑っている。それから、
「でもなんで俺だったんですか?俺ってべつに軍人でもないですし」
「それは君には霊力があったからよ」
ローアの問いに、撫子は答えながら、
「降魔や魔操機兵には呪弾等の特殊武器よりも、もっと効果的なものがある。それが霊力を纏わせた攻撃よ。霊力は基本的に人間の内面に作用するのだけど、稀に外部に放出できる人間がいる。それが貴方たち。ただ言ったようにそれができる人間が少なくてね。昔はもうちょっと多かったのだけど、今ではホントに極少数。少な過ぎて日本の軍関係の人間ですらこの光武を動かせるほど霊力が秀でてる人は居なかった」
撫子はそう続けながら、今度は魔操機兵とは違う機械を見せた。
「そしてこれが光武。正式名称は神崎重工製・虎型霊子甲冑。降魔や魔操機兵との戦いのために作られたもので、これを動かすにも霊力が必要なの。しかも膨大なね。ただ効率的に霊力による攻撃を行えるし、戦闘員の安全も確保できる」
撫子はそう言い、映像を消してローアを見た。
「そして、貴方が言ったように貴方は軍人じゃない。それどころかこの帝国華撃団において軍人は私だけ。といっても私は書類上除籍扱いだけどね。しかし、現在世界的に降魔や魔操機兵が増えている。でもそれに対して霊力を持つものが激減しているのよ。だからどこの国も自国の華撃団を他の国に貸したくない。だから日本でもようやく華撃団を設立したのだけど、今度は霊力を持つものが減少した影響で、さっきも言ったように日本の自衛隊や警察、それに準ずる組織の中でも光武を動かせるものがいなかった。でも今言ったように他国の華撃団から人員を借りることはできない。だからどうするか……って考えた結果、民間から引き抜いた」
だが帝国華撃団だけじゃなく、華撃団は存在は知られているが一般的には人員が誰なのかも知られていない組織のはずだ。実際にローアの住むフランスにもパリを中心に活動する華撃団がいるが、どんな人なのかは知らない。
「えぇ、だから秘密裏に捜索したわ。街頭インタビュー、県単位での健康診断。他にも色んな方法でね。その時見つけたのが今ここにいる八重とアツバと舞の3人。あともう2人いたんだけどそれは別の機会で良いでしょう。とにかくこの3人がいた。その時気づいたの。最初舞と今いない二人のうち一人は気づかなかったんだけど、とある共通点があったことにね」
そう言って撫子が出した写真は、かなり古いもので、そこには沢山の女性と一人の男が写っていた。
「これは?」
「これは二代目……まぁ実質本格始動した時のだから初代とも言えるんだけど帝国華撃団・花組の写真よ」
撫子は静かに指を指す。そこにいたのは、
「八重?」
「八重じゃないわ。彼女は真宮寺 さくらさん。彼女の先祖に当たる女性よ」
そう言って次に指差したのは髪が短めの……
「アツバで……この銀髪のはレミィだ。髪色が違うけどこっちは舞だし」
「少しわかったでしょう?そう、霊力は遺伝する。特に高い霊力はね。そして貴女もそう。このイリス・シャトーブリアンさんの子孫にあたる」
その日から捜索が始まったわ。と撫子は言う。ある時を境に帝国華撃団は完全に離散しており、特に海外出身の者を探すのには苦労したらしい。勿論自分のように、住所が決まっていれば別だが、レミィは相当大変だった、と言う。
「そして幸運にも全員が霊力を持っているのが判明して集めた。ここまで言えばわかったでしょう?この帝国華撃団は二代目の子孫で構成された部隊なのよ。と言うか見つかった子孫が二代目しかいなかったのだけど……」
そう言われ、ローアは納得する。のだが、
「じゃあこの写真に写っている人の子孫がみんなここに集まってるんですか?」
「一部事情があって合流が遅れているものもいるわ。でもすぐに集まるはずよ。ただ一人だけ……欠けて居るものがいてね」
撫子はそう言いつつ、唯一の男性を指差す。
「大神一郎さん。帝国華撃団・隊長にしてこの大帝国劇場の総支配人を勤めていた男よ。まぁ帝国華撃団の解散を機に姿を消してね。その後は日本だけじゃなくてロシア、アメリカ、フランスに、ドイツとイタリア……まぁ色々な国で目撃情報があったらしいけど、未だにその子孫はわかってない……まあ子孫が必ず良いとは言えないけど、男性でありながら光武を動かせるほどの霊力の持ち主……子孫も持っている可能性はあるわ」
そこにローアは、ちょっと待ってほしいとストップを掛けた。
「そもそも……帝国華撃団はなんで解散したんですか?日本の歴史はちょっと疎くって」
「そうね、教科書とか文献にも色々書かれているけど、実際は第二次世界大戦がきっかけよ。あの時は人形蒸気兵器だけじゃない。霊子甲冑も戦争の道具になり、その時に帝国華撃団の光武に目を付けられた。幾度となく魔の侵略を防いだ日本の光武の性能は世界的にも高水準でね。だから軍は光武の設計図や技術者を奪い、軍人のみで構成される帝国華撃団を再編した。勿論その際の最高責任者だった大神一郎さんは真っ向から反対。帝国華撃団はあくまでも魔に対抗するためのものであって戦争の道具ではない……ってね。それが原因で彼は除隊されて、帝国華撃団からも追放された」
そう言いながら撫子は写真を見る。
「その後の足取りはさっき言ったように掴めてないわ。そしてその後帝国華撃団は再編され、第二次世界大戦でも多数の戦果をあげた。ただ強すぎたのね。余りの強さに戦後は出した被害や責任の全てを被らされて戦犯として処刑されたらしいわ」
そうだったんですか……とローアは言う。そうしながら撫子はローアを見た。
「帝国華撃団もね、GHQからの圧力もあって完全に解体。光武などの設計図も全て処分させられたらしいわ。まぁ控えを当時の神崎重工の社長が隠し持ってて、今帝国華撃団が使ってる光武はそれを今の技術でバージョンアップしたものよ」
でもね、と撫子は少し表情を固くすると、
「まあ正直戦歴は余り……って感じだけどね」
どう言うことですか?とローアが首をかしげると、
「装備が向上しても使う方がね……現在帝劇に所属している隊員は、一時的に離脱している二人を除けば四人。八重にアツバと舞とレミィ……この四人のうち武道経験者は八重とアツバ。でも戦闘経験不足が否めなくてね……何とか今までに数回だけど魔操機兵や降魔を倒してはいる。でもそれ以上に周辺への被害や光武の損傷が大きすぎるのよ」
そう言って撫子が見せてきた写真は、3体の降魔を倒すのに、周りの建物は倒壊or廃墟レベルにボロボロ。光武もベコベコで、確かに3体倒すのにこれでは、余りにも採算が合わない。いや、降魔3体を倒せるってのは、とんでもなく凄いのだが、確かに他国の華撃団と比べればかなり酷いものだ。
「元々一般人のみで構成されてるとはいえね。まぁ君も武道は……」
「全く経験ないですね」
まあそれでも人手は多いにことはないんだけどね。そう言い撫子は、
「とは言えここではいつも戦いと言うことはないわ。寧ろ普段は、帝国華撃団ではなく、帝国歌劇団としての業務が殆どよ」
と言いながら、チョッキとその他服一式をローアに渡す。
「君にやってもらうのはモギリの仕事よ。あとはまあ今はモギリの仕事はないから普段は雑用全般ってところかしらね。詳しい内容は他の職員に聞きながらやってちょうだい。皆こちらの事情を知ってるから遠慮はいらないわ。あと今日はゆっくり休んで構わないから」
何て話を聞きながらローアは、
(これが噂に聞く日本の社畜生活?)
と思ったのは、まあ余談である。