「ふぅ……」
大帝国劇場に住み着いてから数日。ローアはここについた次の日から舞台の裏方の準備をさせられたり、チラシ配りをやらされたりとバタバタと動いていた。
来週からは日本の高校に通うことになるので、昼間は雑用をしなくて良くなるが、それにしても皆揃って遠慮なく働かせてくる。もう少し遠慮と言うものがないのだろうかと思う反面、実家だと出来ない経験でもあるので結構楽しいのは秘密。それを言うと仕事増やされそうだからだ。
その中扉がノックされ、
「はい?」
「あ、八重です。今いいですか?」
八重さんか、と言いつつローアは自室のドアを開ける。するとドアの前には既に八重が待機していて、
「これから夜間訓練なんですけど大丈夫ですか?」
「夜間訓練?」
はい、と言いながら八重に促されローアはついていくと、
「明日明後日は土日で休みですのでそういう日は夜に光武の操縦訓練があるんです」
「へぇ」
光武は写真や映像で見たことがあるが、実際に操縦したことはない。少し楽しみだな。そう思いつつ八重に着いていくと地下に降りていき、
「あ、ローアさんこんばんわ」
「小春さんこんばんわ」
そこにいたのは撫子と昼間は売店の売り子をしている
「ローアさんこんばんわ~」
「ばんわ~」
「わ~」
上から順に
正直、腕につけている腕章の文字を見ないと全く見分けがつかない。因みに主な業務はそれぞれ書類整理や来客の対応に備品の発注等々。
と言うわけで余談はここまでにして地下にあるトレーニングルームに訪れた訳だが、地下に作られているためか結構広い。そしてそこには、昼間自分に雑用をたっぷりと言い付けてきた裏方達等もいるし、こうしてみると結構大帝国劇場にはたくさんの人間がいるようだ。
「あら二人とも。遅刻ですわよ」
そこにガシャガシャ音を立てながらやって来たのは、一機の光武で声からして恐らくアツバだ。
更に、
「これで全員ね」
「……」
奥からガシャガシャと光武がやって来たが、声で判断する限り舞とレミィだろう。
「じゃあ私の光武を持ってきますね」
「あ、うん」
八重がいくのを見送り、ローアは撫子を見た。
「あれが帝国華撃団の光武ですか?」
「えぇ、神崎重工製霊子甲冑・光武。武装や塗装はそれぞれを反映してるけど殆ど同一の機体よ。まぁ乗り手に合わせて少しチューニングは施されてるけどね」
と言われて見てみると、確かに舞は黒でアツバは紫。レミィは青で今来た八重はピンクの塗装が施してある。
「そう言えばローア君はパリの光武を見たことがあるのよね?」
「えぇ、しかし結構似てる所もありますね」
そう言うローアに、撫子は苦笑いを浮かべて、
「元々霊子甲冑の技術は日本が一番進んでてね。パリの光武も最初は日本と共同で開発したものでそこから発展してるから似てて当たり前よ」
「あ、そうなんですか」
ま、今じゃ日本は世界で一番霊子甲冑の研究が遅れている国になったけどね。と撫子は肩を竦めた。それから、
「そうそう、取り敢えずローア君のはまだ光武が完成してないから今日は霊力量の検査とかをするわね。これが取れないと光武の仕上げが出来ないのよ」
「良いですけどどうやって?」
ローアがそう問うと、撫子はトレーニングルームの隅にある光武を指差す。それはあちこちの塗装が剥げた少しボロっちい光武で、
「元々ニューヨークの華撃団が使ってた旧式の光武よ。本当なら光武はさっきもいったように乗り手に合わせてチューニングするんだけど操作を覚えたり霊力量の検査とかならこれで大丈夫だからね」
「成程」
ローアはそう言いながら旧式光武に近づき、
「えぇと、どうやって乗れば?」
「そこの横についてるボタンで乗り口が開くわ。後は乗ったら自動で閉まるから中でロックしてね」
と言われ、それに従うと確かにスイッチがあり、それを押すとプシュっと言う音と共に乗り口が開く。
「よっと!」
ローアは掛け声と共に中に軽快に乗り込んだ。そして入り口が閉じると、
「それじゃローア君。まずは右下の赤いスイッチを押して頂戴。そうすれば起動するわ」
「これかな」
とローアはスイッチをいれると、目の前の画面が光り、光武から見た視界が映る。意外と視界は広い。
「それじゃローア君。画面に光武の操作方法を出すからそれに従って少し動いてみて」
「了解」
そう答え、ローアは画面のチュートリアルに従いながらまずは歩いてみる。ぎこちなく、ガチガチと変な動きだが、一応歩けてはいるようだ。
「結構難しいな……」
「慣れれば結構複雑な動きもできますよ?」
八重はそう言って腰に装備されている刀を抜くと、ビュビュ!と眼にも止まらぬ早さで二回刀を振るう。
「おぉ~。すげぇ」
「これでも北辰一刀流免許皆伝ですからね」
フフン、とドヤ顔してそうな八重の所に、
「そう言えばローアはどんな武器にするのかしら?」
「俺の武器?」
それぞれ使う武器は違うからねと言いつつ、舞は光武に装備されていた銃を見せる。
「私はこの拳銃と背中のライフルが武器だし、八重は刀でアツバは薙刀、レミィはランスよ」
「うぅん……」
そうは言われても、今まで武器を振り回すような生活をしていないので、全く想像がつかない。
「皆はどうやって決めたの?」
ローアは悩んだ結果、皆に聞いてみることにした。それに対して皆は、
「私は剣術が得意でしたので」
「私も元々神崎風塵流薙刀術の免許皆伝でしたから」
と言うのは八重とアツバ。だが舞とレミィは、
「色々試して一番手に馴染んだのが銃だったのよ」
「同じく」
そんな感じで全く違う理由だ。とは言え何かしらの武術を修めてないローアは、案外そっちと同じく色々試して手に馴染むのを探す方が良さそうだ。
「ローア君。そろそろ降りて良いわよ」
「あ、はい」
その中撫子の指示が届き、ローアは光武の電源を落として降りる。それから撫子の元に行き、
「どうでした?」
「そうね。男性としてはかなり高い霊力だったわ。初めてあったときも軽くは調べたけど予想以上ね。これなら光武の操作も問題ないでしょう」
よっしゃ、とローアはガッツポーズ。
「それじゃ次は全員でフォーメーションを確認しましょう。ローア君は取り敢えず見学しててね」
「はい」
それから撫子はそう指示し、ローア以外の皆でフォーメーションや全体の動きの確認を行う。
そうして、その日の夜は更けていったのだが、一方別の場所では、
「さて、準備は完了した。これより計画を実行に移す」
『はっ!』
暗闇の中にいる男は、その姿は分からない。だが声音的に40半ばくらいだろう。そしてその男の前には四人の男女がいた。
四人はそれぞれ龍・虎・鳥・亀を模した面を着けており、その体からは異様なオーラを放っている。
「最近帝国華撃団が復活したようだ。だが関係ない。お前たちも次から前線に出る。それならば返り討ちにすることなど造作もないだろう?」
「お任せを。所詮は年端もいかぬ子供でしょう」
そう答えたのは虎の面を着けた大柄な男。それに対して鳥の面を着けた女が、
「そう言ってお前はいつも油断するじゃない」
「何を!」
「やめないか!」
虎と鳥の面をそれぞれ着けた二人は喧嘩腰になるが、龍の面を着けた男が一喝して止めた。それを見た男は、
「ふむ。良し次の襲撃作戦。お前が行け、青龍よ」
「は!必ずや貴方のお役にたって見せましょう」
そう青龍と呼ばれた龍の面を着けた男は、膝をつきながらもそう答える。
こうして、ローア達が気づかぬ間にも、悪意が忍び寄っているのだが、それを知るのはまだ少し先の話し。