突如空から降って来たのはフツーじゃない人達、『戦国武将』。
異世界から飛ばされて来たそれぞれの武将達は生きる為に職を探し、この現代の世に浸透していくのであった。


この世界では、戦国武将が一般市民の近くにいるなんて言うことは極々普通の事である。




アニメ戦国コレクション二次創作。本編後の武将達の日常を少しだけ描きます。

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以前ここで破棄した懐かしい小説をサルベージして見たら懐かしくなったので少し書き足したりして再投稿という形で復活しました。

完全に趣味で作った奴なのでちんぷんかんぷんな人もいるかも知れませんがこれを機に戦国コレクションという作品を知ってもらえたらと思います。

というか、戦コレのアプリ今年の5月でサービス終了してたのか....知らなかった。リリースから8年半、モバマスとかmixiで怪盗ロワイヤルとかやってた時期に自分もやってました。アニメになって、スロットにもなって自分にはいろんな意味で濃い作品でした。

アプリは完全にアニメ見てから入りましたね、それくらいアニメの内容が面白かったの覚えてます。個人的に松尾芭蕉回と大谷吉継回がおススメです。

全部の回が洋画のパロディなので知っている人はハマると思います。気になったら是非!なんでこんなにススメてるのか自分でも分からないw

完全にアニメの後のお話です。ハイ。


小悪魔王と復讐の牙と、その他戦国武将たちは今日も楽しく現代世界を生きています。

「Fang and Devil after」

 

 

 

 

 

――――戦国時代。

 

 

 

それは、多くの男と女たちが見果てぬ野望を抱き、命を掛けた時代である。

 

―――ある男は天性の武と知で天下を目指した。

 

―――ある女は歌い、踊り、愛を育み、覇道を進まんとする男達を支えた。

 

 

知性と魅力を兼ね備えた男と女たちが綴ってきたその血みどろにも例えられる道程は、後に我々がよく授業などで学ぶ『歴史』として語られている。 

 

 

織田信長と言えば本能寺の変で裏切られた人。

 

 

明智光秀はその本能寺で信長を裏切った人。

 

 

豊富秀吉は天下人。

 

 

徳川家康はその後の天下人。

 

 

 

そんな歴史の偉人達がもうこの世から消えているのは全世界の人間が承知のことだ。 だから、「この人物についてもっと知りたい!」と思っても教科書とか史書までが限界で、直接その人物には会えないのである。 

 

だがある者は言うのだ。 

 

『よくある系で異世界にタイムスリップしないかな?』

『ワームホールで別世界につながった場所が戦国時代とか!』

 

 

もちろん、そんな頭がお花畑な、奇想天外でびっくり仰天な、窓を開けたらそこは見知らぬ世界、みたいなものはビールを持った中年オヤジがテレビを見て鼻をほじりながら『そんなのないよ、ありえない』と盛大に笑うのは当然なことだ。

 

 

 

しかし、あり得ないことがあり得るからこそ、人生と言うのは面白いのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――異世界なんて存在しない.....そんな風に言われていたのはここ数年前の話。

 

 

 現代の世界を取り巻く環境はある時を堺に劇的に変化を果たした。 

だが、ワームホールが出来たのでなければなんでもできちゃうチート系主人公が異世界で猛威を振るったわけでもない。では、何が起きたのか。

 

 

 

――――「空から女の子が降ってきた」風に言うなら、「空から戦国武将が降ってきた」だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白熱する戦いの雄叫びが聞こえる。 

巨大な鉄の塀に囲まれた場所では抑えきれないほどの雄叫びは割れんばかりの迫力で会場全体を震わせる。 プロ野球の試合が行われているこの東京ドームではいつも通り盛況、客席は満員である。

 

 

-----ドンドンドンドンッ!ドコドコドコッ!

 

 

「あー、ソレッ! あいやソレッ!」

 

そのメインスタンドの場所で太鼓の撥を振るいながら快音と共に歌うのは、忍者装束に身を包んだ一人の少女だ。

 

 

「レッツゴーレッツゴー、ツバメーズ!」

 

 

周りもその少女の太鼓と共に応援の盛り上がりを見せる。 まるで少女の太鼓が観客たちを操るかのようだ。

『めくるとツバメーズ』と「よみとりラビッツ」との一戦はいつもより熱い戦いを展開している。

 

太鼓を叩いて、観客たちが盛り上がりを見せていた時だ、一際大きな歓声が木製バットが生み出した快音と共ににドーム全体が湧いた。

 

『バランティン打った―――! 今季10号一番乗り――――!!』

 

と、実況席ではこのようなやり取りが行われているだろうと思った少女は構わず太鼓を叩いて雰囲気を作り続けた。

 

 

 

 

「ふー、今日も叩いた叩いた。やっぱ太鼓叩くのサイコー!」

 

 

試合後、撤退していくツバメーズのサポーター達と一緒に太鼓一式を片付けていた少女はまだ敵側の応援が鳴り止まないドームを眺めて息を吐いた。

 

試合は残念なことにツバメーズの惨敗だった。途中で主砲の選手が一発ホームランを打ち、反撃の狼煙をあげたかのように見えたがその後の打者たちは波に乗ることができず、守備でも散々な程の打ち込まれてしまい、最終的には客が球場内に応援グッズを投げ込むという荒れた展開に。

 

 

ともあれ、チームは敗北を喫したが少女はその表情を曇らせることは無かった。 まだ冷めぬ生の試合の興奮、チームの為に全力で太鼓を叩き、応援した。これが彼女の生き甲斐なのかもしれない。

 

と、片付けをしている彼女の前にひとりの中年の男性がやって来る。 ツバメーズのスポーツタオルを首に掛けたその男性はこのチームの応援団を率いている団長だ。

 

 

「蘭丸ちゃん、お疲れ」

 

「あ、シゲさん。 お疲れ様です」

 

 

蘭丸と言われた少女は撥などを袋の中にしまうのを一旦中断する。 

 

「いやぁ、いつも太鼓を叩いてくれて助かるよ。悪いなぁ、時給とか発生しないお手伝いなんかしてもらって......今日は負けちゃって皆しんとしてたけど仕方ないよな、相手はあのラビッツだし」

 

そうですねぇ、と蘭丸は相槌を打った。

 

日本の野球界でリーグの首位に君臨する『よみとりラビッツ』は東京を本拠地とする一昨年のリーグ王者だ。 

昨年のクライマックスシリーズでは4年連続日本一を目指していたが決勝戦にて初出場チームにまさかの敗北をしてしまい、今年度はタイトルを奪還するべく金にモノを言わせて大型補強をしている成金球団である。

 

「こっちには去年のホームラン王いますけど、流石にラビッツの選手層は厚いですね・・・無償トレードの森久保に、台湾チームの強打者、枇承燁(ビー・スンヨプ)引っ張ってくるとか、あの資金をウチにも分けて欲しいくらいですよ」

 

蘭丸が言うと、団長はうんうん、と頷く。

 

「今年は各球団の新人たちも手ごわいしなァ、あの東洋コープも首位争いに食い込んできてやがる・・・どっかで切り替わってくれねぇかなぁ流れとか」

 

「交流戦もまだありますし、そこで流れが変わることを祈っておきましょう」

 

「おう。 また今度も呼んだら来てくれるかい? 蘭丸ちゃん、そこら辺の男衆達よりも太鼓を叩くセンスあるからさぁ頼むよ」

 

 

団長の頼みに、蘭丸は笑顔で答える。

 

 

「もちろんです! 太鼓を叩くのはとっても楽しいですから!」

 

 

 

では、ここで最後に彼女の紹介をすることにしよう。

 

 

彼女の名前は森 蘭丸(もり らんまる)。あの歴史に名を刻んだ戦国武将、織田信長の部下である。

 

 

 

 

 

 

 数年前の話だった。

世界各地に、『戦国武将』達が出現し始めたのは。

 

突如として現れた『戦国武将』達は己がどうしてこの現代に来ることになってしまったのかが見当がつかず、当初は路頭を彷徨う者たちが多かった。

 

 

―――ある者はひたすら彷徨い、行く宛てもなく野垂れ死に。

 

―――ある者は一時の恩から宿をもらって命を繋ぐ。

 

―――ある者は相手を騙し、または力で服従させ、その金で生きる。

 

彼女、森 蘭丸もいつの間にかこの現代に来ていたというクチだ。 だが、ここで一つの疑問が残る。

 

 

果たして森 蘭丸は、本当に女だったのだろうか、と。

 

 

後の調査で明かされた事は我々の現代で語られる『戦国時代』と彼女たちが生きていた『戦国世界』とは大きな違いがあることだった。

 

 

まず、彼女たちにとって森蘭丸が居た世界は『戦国時代』ではなく、『戦国世界』と呼ばれている。

 

つまり、現代の戦国時代とは全く異なる『異世界』という事だ。 

その武将たちの名前や、その史実が同じだという部分を除いては、『戦国世界』は異質な世界である。

 

しかも、年代に限らず色々な武将が現れている。例えば、

 

織田信長などの『戦国時代の武将』の他に『三国志の武将』が出現していたり、江戸時代の発明家や、作家などの人物なども。 最近では、音楽の世界に名を残した者たちまで現れ始めた。

 

 

歴史大好き人間からしたらハッピーパラダイスな世界なこと間違いないが、その他一般人からすれば偉人闇鍋世界と呼ばれても仕方がない。

 

 

故に性別もめちゃくちゃ。

性別が男と女で同名の人物がいるとかザラなのである。

 

 

「しかし、この現代にやって来てー・・・随分と経つなー」

 

 

夜道を歩きながら蘭丸は思う。 最初はこの現代の世界を見て、腰を抜かしたものだ。

 

鉄で覆われた城のような建造物、箱の中に映る人々、端末持っていればどこにいても会話ができる物。戦乱の最中に身を置いていた彼女にとって、全てが新鮮なものであった。

 

・・・・・でも、この現代で生き辛い時期が確かあったけ。

 

最初は各地で反対運動が起きた。 一本のドキュメンタリー番組が戦国武将達を取り上げて、その危険性について語られた事をきっかけに、戦国武将たちと現代人の全面戦争に発展しかけた大きな事件だ。

 

 

その事件を発端に定職を掴んでいた者は職を失い、路頭に迷う者もいた。

蘭丸もその時期にやっていたラーメン屋でのバイトを追い出されたことがある。明日を食いつなぐ為に山菜求めて山へ登ったのが懐かしい。

 

 

・・・・・まぁあのドキュメンタリー番組、テレビ側の完全なヤラセだった訳だけど。

 

全ては番組プロデューサーが視聴率を独り占めしようと仕組んだ策略で、その策略を破ったのがかの有名な剣豪・塚原卜伝と将軍・足利義輝だったというのはまだ記憶に残っている。

 

事件後、現代側と戦国武将側が和解をし、現代の世界が戦国武将を受け入れるようになったと同じくして、戦国武将たちも現代世界に浸透する事が出来たのである。

 

 

モデル業界で名を馳せる上杉とか。

年柄年中ガラクタばかり作成する鰻好きの天才発明家の平賀とか。

場末のバーにて俳句を披露する松尾とか。

永遠と米が出てくるおこわを手に入れて金持ちになった豊臣とか。

武将からアイドルに転身した徳川とか。

 

 

それぞれの特技を見つけて手に職をつけた武将達は今日もこの現代世界で逞しく生きている。

彼女、森 蘭丸もその一人だ。

 

 

「さてさて、今日も遅くなったし・・・コンビニで安い弁当でも買って夜食にしますか」

 

 

戦国武将がコンビニに現れる事など、さほど珍しくはない。 それほどまでに戦国武将は身近な存在となっている。

 

コンビニで買い物を済ませた蘭丸の住処は都内のはずれにある小さなアパートだ。 築28年の6畳一間で風呂付き.....一人暮らしなら充分事足りる。

 

だが、そのアパートに異変があった。自分の住んいる部屋を見ると

 

「アレ? 灯りが点いてるな......」

 

消し忘れたかな、とドアノブに手を掛けるが

 

「うそ、鍵がけたかかってない!?」

 

背筋が凍って、心臓が跳ねた。 この現代でも当然物盗りはいるし、戦国武将の中にはその手で有名な人物も数多く存在する。

 

・・・・・ちょっと今月の家賃だけは勘弁してよッ!次の給料日まであと2週間も先なのに!

 

中身を確認しないでもう盗まれている事を前提としている辺り、蘭丸はかなり焦っていたようだ。

無理もない、彼女は日中はコンビニでバイトする低所得者である。その中で手に入る金銭などは微々たるもので、月の賃貸の支払いに当てれば殆ど消えてしまう。

 

 

慌てて扉を開けてすぐ様近くに立て掛けていた脇差を手にとって部屋の戸を勢い良く開けた。

 

 

「せーばーいせーばい、南無八幡大菩薩、人間五十年、泣くまで待とうホトトギス-----うわっ!」

 

 

偉人の言葉をごちゃ混ぜにした呪文を口にし、部屋へ踏み込んだ瞬間、蘭丸の視界は大きく変わる。

 

 ごりっ、と足に違和感を覚えた。

何かに乗っかったような気がしてバランスを崩した蘭丸は見事にすっ転んだ。

 

「イタタ・・・これは、焼酎?」

 

頭を抑えて蘭丸が起き上がると、転がっていたのは焼酎の瓶だった。 転倒の正体はこれだったのだ、と蘭丸は自己解決する。

 

「お酒があるって事は.....まさか」

 

これらをヒントに、蘭丸が心辺りがあることが一つ。 

嫌な予感しかしない。

 

「あら、遅かったじゃない蘭丸」

 

蘭丸は、今更ながら自身の部屋に横になっていながらテレビを見ている少女に気付いた。 身を起こしてピンクの長髪をかきあげた少女は大きく伸びをして欠伸をしている。

 

「あー、もう.....勝手にボクの家に入らないでくださいよー」

 

いつものことなのだ、と呆れながらも蘭丸は一瞬安堵して言った。 

 

 

「信長さまー」

 

 

 

不法侵入者の正体はかの人、織田信長であった。

 

 

 

 

 

 

 

「なによ蘭丸、鍵を掛けて出かけなかったアンタが悪いんでしょ?」

 

「確かに鍵を掛け忘れちゃったのは悪いですけど、事前にボクに連絡くれてもいいじゃないですかー お酒まで勝手に買ってきて飲んでー」

 

信長と呼ばれたその少女はあからさまに不機嫌そうな表情をする。

それに蘭丸は負けじと反論してみせるが、

 

「だって私携帯持ってないし」

 

公衆電話とかから連絡を入れるという考えはないのか、と心の中で突っ込んだ蘭丸だがこれを本人に言うとキレられる可能性があるため心に留めておく。

 

「というか、ボクの部屋酒臭ッ」

 

「ああ、アンタが野球の応援に行ってる間は暇だからこの『てれび』で潰してたわ・・・余興には当然、酒が必要でしょ?」

 

 

・・・・・それでも加減をしてください加減を。知ってますかその二文字?

 

 

多分知らないだろうなぁ、と蘭丸はおもった。戦になれば鬼の如き力を発揮するのに頭の方は結構バカの類である。

 

 

信長の横には空になった酒の空き缶が大量に転がっている。 自分の家でなら構わないが、他人の家でやるとは迷惑な話だ。

 

 

 この酒を飲み、理不尽構わぬ物言いをしている高飛車な少女こそ、かの有名な戦国武将、織田信長(おだのぶなが)その人である。 

比叡山、延暦寺焼き討ち、火縄三連式、そして最期の反乱・本能寺の変。聞けば尽きない史実たち。

その実力から二つ名である『小悪魔王』と呼ばれるほど。

 

「しっかし、相変わらずこの家は狭いわねー」

 

「屋根があるだけ、信長様が寝起きしている公園よりずっとマシだと思いますけど・・・」

 

「何か言った?」

 

いいえ、と鋭い睨みをきかせてくる信長と視線を合わせずに誤魔化す。 実はこの織田信長、元の世界では立派な城に住んでた癖に住んでいるところが近場の公園なのだ。よく通りかかってはベンチに横になって寝ている為、巷では有名である。

 

 

家臣の蘭丸としては、魔王と呼ばれた人がこの世界では文無しホームレスとか身内として恥ずかしいこと限りないのだが。

 

 

「というか、そろそろ信長様も働いて職つけた方がいいんじゃないですか? 今ニートが増えてるって世の中は不景気なんですから、まっとうにお金稼いでくださいよ」

 

「別にお金の方は猿子から振り込んでもらってるからいいじゃない」

 

「良くないです! だから『ヒモ長』とか、『モブ長』とかのあだ名を付けられるんですよ!」

 

「誰だァそんな渾名をつけた奴はァ!焼き討ちよ焼き討ち!その不届き者を連れて来なさいッ!」

 

酔っているのか、信長は酒気を帯びた表情で刀を抜いて蘭丸に突きつける。 蘭丸は慌ててそこに落ちてた瓶を手にとって盾がわりに。

 

「うわー! 酔った勢いで僕を斬ろうとしないでください!」

 

涙目で訴える蘭丸に対して、信長は落ち着きを取り戻し、しょうがないわね、と刀を納めるとその部屋に置かれていた一つのちゃぶ台を前にあぐらをかいて座ってから一升瓶を台の上に置いた。

 

「こうなったら蘭丸、飲むわよ!」

 

「流れが不自然ですよ信長様ッ!?」

 

 

 

 

 

 

――――数十分後。

 

「うーん、コンビニのお酒だとあんま美味しいのがないのよねー 蘭丸? おつまみ足りないわよー さっさと持ってきなさい? あの美味しいチーカマを」

 

カップにに注がれた芋焼酎を一気に飲み干す豪快な飲みっぷりを目の当たりにした蘭丸はダンボールの中に溜め込んでいた安物のおつまみシリーズを皿に移して信長のいるちゃぶ台へと運ぶ。

 

 

蘭丸は柿ピーを頬張りながら、

 

 

「よく飲めますねー。なんでそんなに飲めるのか秘密を教えてくださいよ」

 

「何? アンタってお酒弱かったっけ? そんなに飲めるようになりたいの?」

 

カップに芋焼酎を注いだ蘭丸の質問に信長は皿の上のサラミをつまんだ。

 

「簡単な話よ。 このお酒が私を酔わせるにはアルコールが弱すぎるのよ」

 

「いや、芋焼酎とか結構強いんじゃ・・・」

 

「あと、スナック冥符のお酒にも劣るわ」

 

・・・・・要するに安い酒が嫌いなんですね。

 

以前、信長に連れられて言ったこちらの世界の飲み屋で数字が6桁クラスのお酒を数十杯上飲み干し、その場にいた客、店員構わず悪酔いさせて潰すという悪鬼羅刹の酒豪っぷりを目の当たりにしたのを蘭丸は覚えている。 当の本人は流石に酔いが回って次の日の夜まで寝ていたが。

 

「そう言えば信長様、あの時の勘定、たしか光秀さんに持たせて先抜けしましたよね。 あのお金返したんですか?」

 

「ん? まだよ」

 

金使いの荒さもタチの悪さも悪鬼羅刹だ、蘭丸は思った。

 

「それよりも見なさいよ蘭丸。 『てれび』に家康が映ってるわよ」

 

「わー、ホントだ。バラエティ番組に出てるんですね」

 

二人が見つめるテレビに写っているのは和服を着たエメラルドグリーンの髪をした少女が映っていた。

 

 

「まさか、あの『泰平女君』の徳川家康が、歌って踊れるアイドル界のトップに君臨するとわね。今でも信じられないわー」

 

「そうですねぇ、映画の主演女優もこなして、今日は.....夜のバラエティー『おしゃべり009』にも出るようになりましたか」

 

一体どこまで進出する気なんだ、と家康のストイックさに感心する。 信長がそれを聞いてか、腕を組んで言った。

 

「まぁ、元々根性ある娘だったしねぇ・・・昔っから人質生活続けてきたからその御陰でもあるんじゃない?」

 

戦国世界の家康も、昔から伝えられている戦国時代の家康もその生い立ちはほぼ同じで、幼少の頃からの今川氏の人質になり、その後は織田氏と今川氏で人質交換をされるという修羅場を体験している。 これくらいの根性があって当然でなのかもしれない。

 

「でも家康さん、この番組出て良かったんでしょうか。 この番組のメンツ、すっごいキャラ濃くて有名ですよ。 男性と女性のゲストで随分と扱いが違うって」

 

「あ、いま変な髪型の男が家康の頭撫でようとしてるわよロリコン、ロリコンよ蘭丸」

 

「凄い戸惑ってますけど笑顔で対応.....まさにアイドルの鏡ッ」

 

わかんないわよ、と信長は蘭丸の言葉に答える形で続けた。

 

「多分腹の中では出演料の上乗せ計画考えてるかもよ? 結構あの娘セコイから」

 

「この前冗談でユニット組もうとした時のユニット名を『原価取り隊』にしようとしてたから間違いないですね」

 

「通常の3倍のギャラは覚悟したほうが良さそうね、この子を呼ぶんだったら」

 

あのタヌキ娘め、信長はセクハラスレスレトークをする男性芸人達とにっこりと笑みを浮かべながら繰り広げる家康を見て、この後の番組の存続を案じたのだった。

 

 

 

 

「さて、信長様・・・気づいていますか?」

 

「ヒック・・・ええ、もひろんよぉ」

 

「でろんでろんな状態で言われても説得力に欠けるんですがそれは.....」

 

テレビの音量を弱めた蘭丸が目で信長に合図を送る。 顔が真っ赤で酔いが回っていたであろう信長は小さく頷くと、

 

「そこにいるのはわかっているわよ・・曲者ッ!!」

 

床に置いていた刀を静かに抜くと振り向きざまに部屋のクローゼットに投げた。 

 

・・・・・ボクの部屋だってことは本当にお構いなしですねぇ信長様。

 

木製のクローゼットに深々と突き刺さった信長の刀を見て、蘭丸は心の奥で泣いた。 このアパートを出ることになった時の敷金を払うのは信長ではない、蘭丸なのだ。

 

犠牲となったクローゼットを哀れんでいる時だ。そのクローゼットの中から『誰か』がごろんと転がり出てくる。 

 

転がり出てきたのは白い和服を着て、頭のてっぺんに白いリボンをつけた少女。 黒く鮮やかな長髪は信長にも負けはしないほどの美しさを持っていた。

 

 

その少女が目を潤ませて信長を見て叫んだ。

 

「信長様! ひどいです・・・この明智光秀になんて仕打ちをッ」

 

信長は明らかにめんどくさそうな意志をにじませて刀を収める。

 

「なによ光秀、泥棒かと思ったから殺しちゃうところだったじゃないの・・・いつからここにいるわけ?」

 

ため息をつく信長に対し、光秀は意気揚々と胸に手を当てて語りだす。

 

「はい! この私、明智光秀は信長様のいる場所に常に光秀アリ!例え火の中水の中、壁に耳あり障子に目あり、昼頃からこの家の窓から侵入し、ここに戻ってくるであろう信長様の部屋周りの警護をしていました!」

 

「光秀さん、申し訳ありませんがそれフツーに犯罪です」

 

蘭丸が静かに物申すと、光秀は血相を変えてこちらを睨んできた。

 

「蘭丸ッ」

 

はいっ、と光秀の言葉に反応した蘭丸はを背筋を伸ばすと光秀は腕を組み口を開いた。

 

「さっきから見ていれば、信長様だけがお酒を飲んでいるのに対し、貴女という者はッ  織田家の家臣として、その全然と言えるほどの飲みっぷりは・・・京楽に身を任せないその姿はあまりにも嘆かわしいわッ」

 

鷹の如き眼光で射すくめるのを蘭丸はこう解釈する。

光秀の言い分はつまりこうだ。

 

・・・・・信長様と一緒に飲んでるんだから、もっと飲め、楽しく飲め。 ということなんだろうか。

 

 

本当は自分が信長様と一緒に飲みたいくせに、と視線を逸らしながら。

 

この目の前にいる明智光秀は目の前で酒を飲んでいる天下の大うつけ、織田信長の家臣であり、後に信長の最期を飾った『本能寺の変』を引き起こした張本人である。 

 

「酔い潰れた信長様にもうこの場では言い表せないようなえろえろな事を私に黙ってするつもりだったのね、そうはさせるもんですか!」

 

だがこの明智光秀、頭の具合が少々おかしい。特に信長に対して、少々.....というか大分レズっ気があるのだ。しかもガチで。

 

 

「信長様の処女は私のものよ!」

 

 

・・・・・守るんじゃないんですね、あくまで自分の物にしたいんですね、そうてすか.....。

 

 

こんな感じで、多分一生かかっても治らないであろうこの悪癖に蘭丸は呆れていた。

 

 

「ふん、取り敢えずこういうことよね光秀? この前のドンペリ一気飲みで負けて酔いつぶれたから、そのリベンジをしたいってわけでしょ? そうなんでしょ?」

 

「さっきの大胆なレズカミングアウトはスルーですか信長様」

 

くどく言う信長のセリフに思い出すことがあったのか、光秀は口を手で覆って半歩後ろに下がる。

 

「そう言えばこの前のスナックでの勘定を任された時のお金、まだ返してもらってないッ」

 

完全に思い出したか、光秀は怒りを露わにしたように拳を握り締めた。

 

「返してくださいッ 信長さまッ」

 

「ふふ、しょうがないわね」

 

いいわよ、と言った後、信長は不敵に笑う。だけど、と付け足して

 

「私とコイツで勝負よ」

 

どん、とちゃぶ台の上に置かれたのは一本の瓶だ。 これまでの大きな焼酎のボトルなどに比べれば迫力に欠けるが、蘭丸がその瓶を注視してみると。

 

「ちょ! これってスピリタスじゃないですか!?」

 

「ええ、そうよ。 多分世界で一番強いお酒なんじゃないかしら」

 

「なんじゃないかしら.....じゃなくて! アルコール度数96ですよ? 喉焼けるってレベルじゃないんですよッ ほぼエタノールですよッ」 

 

「黙りなさい蘭丸ッ!」

 

突っ込みを入れる蘭丸に対して光秀は声を荒げて遮るのだ。

 

「この程度で臆してどうするの? そうやっていても私のお金は戻ってこないの! 土下座してATMまで行って払ってきたあのお金は戻ってこないのよ!!」

 

・・・・・そこまでしたのか!!

 

蘭丸は内心で、改めて光秀に同情をしたのであった。 これではあの時本能寺の変を起こされても文句は言えない。

 

「取り敢えず、蘭丸! アンタも飲むのよ!!」

 

「にょわー! なんでー! しかもスピリタスはロックですか!? コップいっぱいに入れて飲むなんて正気ですかッ!?馬鹿でしょアンタら!?」

 

「蘭丸ッ 死なば諸共よ! 今日はここが二回目の本能寺!」

 

「『今日は』ってなんですか『今日は』って!そんな気軽に『これから毎日家を焼こうぜ』感覚で本能寺の変起こさないでください!!」

 

 

そんなこんなで、蘭丸の苦情を無視した~本能寺の変、in蘭丸宅~がスタートするのであった。

 

 

 

とまぁ、スタートしたのは良かったものの、劇薬とも呼ばれるこのスピリタスをロックで何杯も飲もう物ならどうなるか大抵は予想がつく。

 

なので、その経過をまとめた物がこれである。

 

 

―――10分経過。

 

 

「ヒックッ・・・光秀、まだ残ってるわよ? ハイじゃんけんぽん・・・はい光秀負けェ、罰として一杯一気飲みー!」

 

「あー! 信長様遅だし! 遅だしですよ! 卑怯ですよエゴですよ!」

 

 

 

 

―――30分経過。

 

 

「どうしたの光秀ェ、顔真っ赤じゃらいのー ふらふらよー」

 

「泣かぬなら、殺してしまえ、ホトトギス・・・・なんちてー!」

 

 

 

 

―――1時間経過。

 

 

「信長様ァ! どうして、どうして私よりも秀吉を選んだんですぅ!? 私の、私のあの時の気持ちをッ 信長様は知らないんですかぁ!?」

 

「こらぁ、光秀ぇ、あんたこそなんで本能寺焼いちゃったのー? 秘宝返しなさいよー あたし帰れないじゃらいのー」

 

 

 

―――2時間後。

 

 

 

「ごぉ・・・」

 

 

「ぐぉ・・・・」

 

 

「ま、見事なまでに轟沈っていうオチがつきましたハイッ!」

 

先程までに潰れた振りをしていた蘭丸が立ち上がる。 それでも最強のアルコールの酒の効果はまだ続いているのか、数杯飲んだくらいでもうフラフラだ。

 

 

・・・・・いやぁ、でもゲロとか吐かれなくて良かった!

 

最大の被害を想定して何枚も新聞紙やゴミ袋を用意していた訳だが、二人は吐くこともせずにそのまま寝てしまった。 今は大丈夫だが、問題なのは。

 

「まぁ、朝なんですけどねー キツいのは」

 

 

と、蘭丸はすぐに寝ようというのを我慢して二人を起こさないように周りに散らかった物を最低限片付けていく。 飲み干した缶や、食い散らかしたお菓子など、派手にやってくれたものだ。

 

 

 

蘭丸は、傍で二人大の字になって寝ている信長と光秀を見た。

 

 

 

・・・・・前までは一応争い合ってたんですよねこの人たち。

 

 

 

『本能寺の変』、それは織田信長の最期と呼ばれた明智光秀による裏切り。 日本人で歴史を習った者ならば知らぬ者はいないはず。 

戦国世界でも同じ事が起き、光秀は信長の天下統一を前に謀反を起こした。 ちょうどそのタイミングで、戦国世界から現代へ飛ばされたのを思い出す。

 

 

蘭丸は考える。 どうしてあんな事が起きてしまったか。

 

 

信長と光秀は軍議でもいつも言い争っていた。 智謀に長ける光秀と勢いで戦を進める信長ではどうしても相容れかったからである。 

 

ある一説では遠征での指揮を出陣直前に秀吉に変えられたショックが原因で謀反に至ったとかないとか。  

 

 

だけど、と蘭丸はこうも考える。

 

 

 

 

信長は乱暴で無茶苦茶な部分もあるが、普段の光秀とのやり取りにはどこかで通じ合っている事を感じさせていた。 

 

ある時は戦場で、互いに背を合わせながら刀を構えた。

そして苦難はその度に二人で乗り越えてきた。

二人で戦国最強、そして天下無敵。

それが織田信長と明智光秀なのである。

 

 

基本、信長は光秀に対しては想いを言葉で直接説明するのが下手だ。 それは光秀も同じで、軍議ではそれがよく現れている。 二人は大事な想いを伝えられないまま、そんな機会も与えられないまま本能寺での謀反を迎えていたのだ。

 

すれ違いをよく起こす二人だ。なら今回もその延長のはず。

ふとした事で、仲直りとかするかも知れない。こうやって夜な夜な共に酒を酌み交わしている間は。

 

 

「すれ違いの延長で命取られるまでの被害を被った訳だけど」

 

 

それでも、もう会えないと思っていた二人がこうして現代世界で会うことが出来たのは宿命なのか、奇妙な縁なのか。 

これまでのように元通りとまではいかないのかもしれないが、信頼の形はお互いが感じ取っているはず。 

 

 

「信長さまぁ~ぐへへへ」

 

甘さとゲスさを孕んだ声で寝たまま光秀は信長の隣まで転がっていく。 二人の顔が信長とくっつきそうになったくらいで蘭丸が枕を挟んで止めた。

 

 

・・・・・いや別に止める理由なんてないけど。 またなんかこじらせて謀反起こされても困るし。

 

 

火種は今のうちに消しとくことが重要だ、と蘭丸はそう言い聞かせた。 毛布を人数分取り出すとそれぞれに乱暴に掛けて後で、蘭丸も眠気から漸く床に着くのであった。

 

 

 

今日も、世界のどこかで増え続けている戦国世界の偉人たち。 偉人たちにとって、この現代は住み慣れた第二の故郷となっているのかも知れない。

 

この物語はそんな現代世界に馴染んだ偉人たちのごく普通で、でもちょっと異常な生活を送る者達の物語だ。




どうも、バロックスです。
当時のネタはそのままに、でも文章は出来るだけ推敲しての再投稿になりました。当時のネタは古くて、野球の話を見れば分かりますが楽天が巨人と日本シリーズで戦って日本一になった年に作りました。


出来も微妙だったから、作ってから数カ月して削除してましたね。
昔の作った作品って見直すと色々と発見があるのになんで削除してたんだろう、自分。

でも昔やってたソシャゲがサービス終了してたって結構悲しさを感じますね。自分が今熱入れてるアプリもいずれ終わっちまうのかと考えちゃうと辛い...。でもこういう場所で小説作って、元ユーザーとか作品を知ってた人が「あー、こんなゲームあったなw」なんて思ってくれれば。廃れることなく、その作品は存在し続けるのではないかと物書きとして思いました、まる


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