ばいばい。と、手を振って友達と別れ歩きなれた帰路につく。それは小学4年生である少年? 童子にはいつもの日常であった。父親は飛行機のパイロット、母親は元スチュワーデス。両親がそうれであれば、その家が航空色に染まっているのは必然であり、この子供が自らも父のようにパイロットを志すのも至極自然な流れであった。
「早く帰って宿題!」
子供はウサギのように飛び跳ねながら、道を進む。その姿に居合わせた通行人達も苦笑する。「偉いわね~」と頬に手をあて言う40代入ったばかりらしき主婦に「可愛い~!」と、勝手に携帯電話で写真を撮り始める女子高生と本当によくある光景であった。
その子供が言った言葉にも関係はあったのであろう。子供は宿題と言った。それも誰に言うでもなく、まるで心の中でそう呟いたように。それもそうであろう。正にその通りであるから。
社会経験がある者達は知っている。宿題程面倒なものはない。それを早くやらないとと、やる気になっているこの子は本当に偉いと。
◇
そう、子供は本当に家族思いの優しい子であった。それに利口な子でもあった。勉強ばかりではなく、友達と遊ぶ日も前もって曜日別に決めていたのであるから。思いつきで動かず何事も計画を立てて行動をする。何て事はなくて、結構将来に影響する大切な要素。それを幼くして持ち合わせているその子は間違いなく将来有望であろう。
「ぼく~ちょっと良いかい?」
有望だからこそ巻き込まれる不幸もある。
「おじさん、誰?」
声をかけて来たのは明らかに柄の悪い2人組。良くなかったのは近道をしようと、裏路地に入ったのが良くなかった。
「そのランドセル。あの有名な私立のだよね~」
「え、えっと。僕急いでいるので」
回れ右して走り出そうとするも…………
「おっと、良いじゃんお兄さん達と遊ぼうよ~」
瞬時にもう一人に回り込まれてしまう。
(ど、どうしよ)
こんな時どうすれば良いのだろうか?
(お母さん…………)
脳裏に浮かぶは母の姿。出来る事なら今すぐ会いたい。甘えたい。どうすればと良いと少年が咄嗟に取った行動は突発的でありながら、効果的な一撃であった。
「わああああ!!」
「ぐぼ!!」
子供が行ったのは頭を思いきり前に出す事であった。そして、その一撃が前にいた男のあそこに直撃する。そのまま子供は走り出す。
「くそ、ふざけんな!」
やはり人間性が知れているのか、男は怒ると震える手でズボンのポケットから何かを取り出す。それは、まるでパソコンで使うUSBメモリの様であった。表面にあるスイッチを男はおす。
『――――』
機械音声が何しかしらカタカナを読み上げ、男はそのメモリを躊躇なく自身の首に差し込む。
「へ、確かにこれがあればよ」
もう一人の男が取り出したのはアイスクリームのような形をした台座にその頂点に赤いスイッチがついたまるでクイズ番組で使うようなものであった。
「へっへっへ、超人になれるってね」
そのスイッチを押した男を雷雲のような煙が覆い隠す。
◇
子供は必死に走る。しかし、裏路地はその子が思っていたよりもずっと複雑に絡み合っており、どこをどういっても表に出る事が出来なかった。
「ぼ~く~」
「ひ!」
そうこうしている内に追いつかれてしまったらしい。その姿に子供は悲鳴をあげる。まるで青い鳥人間を思わせる姿を持つ何かに、もう一体は全身が赤く、まるでチェスのルークのようなデザインをしていてその体に光る点が散りばめられている姿をしている。どう見ても人間ではない。
「ぼ~く~お兄さん達と遊ぼうよ~」
「や、やだ!」
必死に逃げ道を探すが簡単に見つかりはしない。それでも逃げる為に足を動かすも…………
「あ!」
もつれて倒れてしまう。体中が痛い。泣きたい。そんな子供と追いかけて来た男たちの目に一人の男の姿が映る。
「あ」
「ああ?」
まるで、仕事帰りのようにベンチにぐったりと座っている男であった。年は30代初めというのに、まるでそれ以上のお年寄りのような印象を受けてしまう程の弱弱しさを醸し出している。それでも、子供にとっては地獄の底で見つけた仏の糸。
「助けて!」
しかし、男は子供の声が聞こえていないかのように動かない。それを見た男たちはあざ笑う。
「は! 今の俺達に勝てる奴はいねえよ」
「おっさん。おとなしくしてたら、何もしないからさ」
そして男たちは子供に手を出すべく歩き出す。
「……今、誰か俺を笑ったか?」
「「!!」」
まるで電源が入ったように突然男は動き出したのである。その視線は今や怪人となった男たちに向けられている。
「誰だ? 俺を笑ったのは? お前か?」言うなり、男は立ち上がる。その腰にはバックルのようなものが巻かれている。
!
「何だ?」
!
!
どこからかバネを弾くような音が響いたと思うと死人のような男の元に緑の玩具らしきものが飛んで来る。その姿にどこか見覚えがあったのか。子供が呟く。
「バッタだ」
それは男の左手に収まり、次に男はバックルを開いた。開いたそれはまるで何かを乗せる台座のようでもあり、そこに男は今しがた手に取った玩具を乗せる。
「変身」
瞬時に玩具が装填された所から装甲が広がり、やがて男は包まれた。次いで機械音声が響く。
『CHANGE KICK HOPPER』
それは赤い目の戦士であった。上半身は緑、下半身は黒のスーツで覆われており、頭と肩から伸びた突起が特徴的であった。
「何だ? お前?」
男たちは訳が分からないといった様子であったが、やがてその戦士を敵を認識したのか襲い掛かる。鳥を思わせる怪人が右拳を大振りで放つ。
戦士はそれを最小限の動き――わずかに上体を後ろにそらすだけで交わしてみせてカウンターで蹴りを食らわせる。
「くそ!」
続いて襲って来た赤い怪人はタックルをかまそうとするが、その前に戦士が突き出した右足に動きを封じられる。戦士の左足が浮き、怪人を襲う。そして着地するや否やもう一度跳躍。今度は右足で蹴りつけ、再度着地。更に跳躍、とどめとばかりに左足で回し蹴りを放ち。怪人は後ずさることしか出来なかった。
「畜生。俺は、援軍を呼ぶ。お前は足止めしていろ」
「はあ! ふざけんな!」
ここにきて男たちは仲間割れを起こし、青い鳥を思わせる怪人はその場を離れようと走り出し、赤い方もやけっぱりになったのか、戦士へと突撃する。
戦士は静かに言う。
「ライダージャンプ」
同時にバックルにはめられたバッタの玩具。その後ろ脚の部分を反対方向へと倒す。
『RIDER JUMP』
音声が響くと同時に戦士は上体を下ろす。その左足では、黄色い三角定規のような部分が曲がり始めると同時に光だし。次の瞬間戦士は消えていた。
「何!」
どこにいったのかと怪人も子供も探し、そして子供が指を指して叫んだ。
「上!」
「あああ!」
興奮したように怪人も叫ぶがもう遅い。戦士は次の動作に入っていた。先程倒したバッタの後ろ脚を元に戻すと同時に言う。
「ライダーキック」
『RIDER KICK』
戦士の左足に朱色の稲妻が宿り、そのまま急降下! 蹴りは見事怪人に命中。奴は短く吠える事しか出来なかった。
「ぐが!」
そのまま後ろに吹き飛び、先に逃げた怪人へと激突した。
「うわあああ!!」
男たちの悲鳴が響き、爆炎が周囲の建物を焦がす。男たちがどうなったのかは子供にはもう知りようもない事。
「ああ」
そう声を上げるしか出来る事はなかった。そこで視線に気づく。
「あ」
赤目の戦士がこちらに歩いて来る。どうなるかと怯える子供の前まで歩いてくると、戦士はかがみ、視線を子供に合わせて言う。
「――笑え」
「え?」
「笑えよ」
ぶっきらぼうながらその言葉は子供がこの戦士を信頼するに足り、満面の笑みで言葉を返す。
「ありがとう、おじさん!」
その言葉を聞いた戦士は何を思ったのか、バックルよりバッタを取り外す。剥がれる装甲。そして、そのまま男はフラフラと何処かへと消えてしまった。
「HEROだ」
その後姿を見送った子供は最後にそう言って手を振る。
ありがとう、ヒーロー。