もう一度言いますが、ぶっ壊れギャグものです。
世に語られぬ歴史の闇──“鬼”。
世に認められぬ歴史の影──“鬼殺隊”。
たった一人の男によって歪められた、無辜の人々の運命。『取り戻すことは叶わずとも、新しい悲劇を生まないために、人という種族の柱として在れ』。
“柱”──それが鬼殺隊最強の称号。強き鬼を討ち滅ぼし、己の技を後世に伝え、礎となりし者。志半ばにして散ろうとも、その心は、その記憶は、いつか誰かに受け継がれると信じて。
けれど稀に、その
彼等は恐れと共にこう呼ばれた──『裏の柱』と。
■
激化する戦闘。触れ得ぬ、立ち入れぬ至境の決戦に、炭治郎は悔しさが募るばかりであった。“炎柱”煉獄杏寿郎──そして十二鬼月“上弦の参”猗窩座。頂点に近い者同士の戦闘は、猪突猛進を旨とする伊之助ですら、畏怖を覚え固まってしまうほどだ。
血鬼術が、炎の呼吸が、至高の領域に手をかける者たちの技が激突する。数分とも、数時間とも知れない戦いは、それでも佳境へ向かう。傷を負ってもすぐに回復する鬼と、ただの人間では土台が違う。実力が拮抗しているのであれば、物を言うのは体力と回復力である。
そしてそのどちらもが、猗窩座を優位に立たせている。杏寿郎の
己の名を冠した炎の呼吸の奥義──
『上弦の鬼』出現の報を受けた、若き柱が馳せ参じた。二十歳に満たない男性……そして何よりの特徴は、その矮躯だ。ともすれば、柱の中でもっとも小柄な『胡蝶しのぶ』よりも、なお短身短躯だろう。
膂力。速度。そのどれもが、強靭な肉体から繰り出されるものだ。生まれ持った体によって、鍛えられる限界というものがある。残酷なその事実は、彼の肉体的限界を如実に表していた。
至境の戦いに水を差す不届き者に、猗窩座は激怒した。弱者を嫌う、弱者を醜いと嘲る彼からすれば、その人間はあまりにも場違いであった。杏寿郎のように練り上げられた闘気もなく、それどころか凪の如く覇気の無さすら覚える男だった。
拳を交える価値すら無い弱者。空を叩き、その圧だけで消し飛ぶだろうと、彼の拳が鋭く宙を裂いた。猗窩座は、杏寿郎がその邪魔をするだろうと──弱者の盾になるだろうと予測していた。しかし予想に反し、彼は後退していた。
傷を負った炭治郎の元に駆け、自身の傷を推して後輩を抱え上げたのだ。それどころか、伊之助を叱咤してその場を離れようとまでしていた。短い戦いの中で知った、猗窩座の知る『杏寿郎』という像から、およそかけ離れた行動に彼は困惑した。
──そしてようやく男の元に届いた猗窩座の拳圧は、いとも簡単に避けられてしまった。軽く首を捻り、そよ風のように攻撃を受け流した技術は、熟練を感じさせる。ここに至り、猗窩座は理解した。闘気も覇気も小さく非ず、と。
矮小でも微小でもない。“零”なのだ。とはいえ、それを額面通りに受け取れる筈もない。猗窩座の技を容易く受け流すものが、弱者などとどうして言えようか。己の知るどんな強者とも違う異色の剣士に、猗窩座の心は歓喜した。
一方、転倒した機関車近くまで下がった杏寿郎は、抱えていた炭治郎を下ろして静観の構えに入った。呼吸を整え、少しでも回復に努めようと言うのだろう。そんな彼の不可解な行動に、炭治郎はようやく言葉を発した。
「煉獄さん! 傷は──」
「大事無い。俺はまだ戦える」
「良かった……じゃなくて! その……ええと、あの人はいったい…?」
「──『裏の柱が戦う時、何人も立ち入ることなかれ』」
「え…」
「俺も見たことはないが、金唐草の羽織にあの短身痩躯……まず間違いなく“草柱”だろう」
「柱……けど柱合会議には…」
「“裏の柱”だ。あまりにも特殊な呼吸を使う故、表には出てこないとお館様が仰っていた!」
「裏の……柱…」
涼しげに猗窩座の元へ向かう草柱を、炭治郎は呆然と見つめていた。なんの気負いもなく、ただ徒然と歩く様子は、戦いに赴くとはとても思えない姿であった。しかし確実に二人の距離は近付き──あろうことか、草柱は一尺の間合いにまで踏み込んだ。
──瞬間、猗窩座の裏拳が唸りを上げた。人知を超えた速度で放たれた攻撃は、草柱の鼻先を掠める。しかし触れはせず、続く二撃三撃すら、手の届く距離で躱す草柱。まるで宙に浮かぶ枯れ葉のような彼の動きは、鋭さを増す猗窩座の拳を嘲笑っていた。
「ちっ…! ──どうしたどうした! 避けてばかりで頸を切れるのか!」
「…」
「シィッ──」
“破壊殺・乱式”。何一つ言葉を発しない草柱に苛立ったのか、それともただの拳では届かないと認めたのか……猗窩座は自身の誇る拳技を繰り出す。一発一発が必殺の威力を持つ拳打が、嵐のように乱れ打つ。
しかし草柱はそれすらも、まるで軌道を完全に理解しているかのように、最低限の動きで躱してのけた。そしてただの一度も、彼は刀を抜こうとしない。避ける以外の行動は知らないとでも言うように、猗窩座の半歩前を占拠し続けていた。
「凄い……けど、なんで攻撃しないんだろう」
「──おそらく、最古の戦い方を受け継ぐ剣士なんだろう」
「最古……ですか?」
「鬼に対抗する術として、日輪刀が世に
「あ゛ぁ!? じゃあどうやって倒すってんだよ! それじゃ頸切っても死なねえだろうが!」
「伊之助! その喋り方は失礼だと思うぞ!」
「うむ! 確かにそれでは死なん! …つまり手段はただ一つ、夜明けを待つのみだ」
「は?」
「無限の体力を持つ鬼を相手取り、ひたすらに夜明けを待ち! 日の出差す頃、逃げる鬼を足止めし勝利を得たのだ!」
「そ、それはいくらなんでも無謀というか…」
「然り! 相当数の剣士が喰われたと聞く。そしてその悲劇があったからこそ、日輪刀が生み出されたのだ!」
「…ならあの野郎は、日の出まで足止めし続けるつもりかよ。その前に死んじ──お…?」
「伊之助! 空が明るみ始めた!」
「剣を抜くとすれば、おそらく今か──」
拳が空を切る。猗窩座がどれだけ拳の軌道を変え、調子を変えようとも草柱は対応してみせた。しかし猗窩座が望むのは『戦い』であり、このような苛立ちだけが募る死合など求めてはいなかった。武道者として、求道者として、このような戦いが許容できるだろうか。
つまらない、と不意に立ち止まった猗窩座。焦れと煩わしさを一旦追い出そうと、地面を踏み抜いて間合いを取る。そしていったい何が目的なのかと草柱を睨みつけたところで──その背後に、白む空を見止めた。
「…心底、下らないなお前は」
これほど後ろ向きな戦いがあるだろうかと、猗窩座は虫けらを見るように草柱を
しかしその瞬間こそが……草の呼吸の使い手『
──“草の呼吸” 壱ノ型『
「w」
「──っ! 貴様…!
鬼の大本は、その全てが『鬼舞辻無惨』という男の血液に帰結する。彼を端的に評するならば──短気で人の話を聞かず、傲慢にして臆病であり、いっそ『小物』と言ってしまえばわかりやすいだろう。とりわけ煽り耐性の弱さには定評があり、己を馬鹿にした者は徹底的に痛めつけないと気がすまない偏執狂である。
──“草の呼吸” 弐ノ型『大草原』
「wwwwwwwwwww」
「クソがぁぁぁぁ!!」
そして多かれ少なかれ、彼の血を注がれた鬼はその影響を受ける。特に血が濃い者──十二鬼月などはより強く感化され、一部の記憶すら宿るほどだ。そして猗窩座はと言えば、人間の頃から短気で喧嘩っ早く、無惨の血を取り入れた今では、どうしようもなく煽り耐性が低かった。同僚の挨拶には裏拳で返す短気っぷりである。
──“草の呼吸” 伍ノ型『
「ファーwwww」
「お゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!」
努力は嘘をつかない。鬼に成り果て衰えを知らず、研鑽を積んだ猗窩座の拳は、怒りに我を忘れてなお正確無比であった。機械のように精密な拳は、しかしただの一度も当たらない。拳の風圧で地が割れ、雲が吹き飛ぶ。ああ、誰が想像し得ようか──彼は天を突くほどの怒りによって、ついには至高の領域へと到達したのだ。
世界が透ける。筋肉の動き出しが、呼吸の発露が、骨の軋みが、ありとあらゆる全てが感知できる。もう揺らめく葉のような動きに惑わされはしない。回避以外はなんの能もないゴミを、いまこの手で握りつぶす。
そんな透け透け世界を手に入れた猗窩座は、
「…」
「…」
「…あの、煉獄さん…」
「何も言うな、竈門少年」
「え…」
「──なぜ彼等が“裏の柱”と呼ばれているか! わかったな!」
「えっ?」
「誰も真似をしないようにだ! なんの参考にもならんからだ! むしろ悪影響だ! さぁ! 機関車にいる怪我人を助けに行くとしよう!」
「煉獄さーん!?」
──裏の柱は今日も影を歩く。誰にも理解されず、誰にも受け継がれず、しかし鬼を討つ使命を胸に。
裏の柱リスト
『
『
『電信柱』
『
『草柱』
『人柱』
※続きません
下記の作品も同時更新しております。
『混譚 ~まぜたん~』※オリジナル
『ロリコンがロックマンエグゼの世界で生存を誓う話』※R18