ただ、なんらかで被った場合にはご了承ください。またはキャラのイメージに当てはめてください。
なお、現実に直面しているものは〇で伏せております。
察してください。
弟から奪い返したノートを含めて、中学3年で書き溜めた社会のノートを机に広げる。その3冊には私と木河先生の…ほぼ一方的だが、在りし日の授業が、学校生活が思い出してくる。
『そもそもあの時の紹介からネジ飛んでいることに気づくべきだったんだよなぁ』
木河先生は臨採中! ~彼の紹介はネジが飛んでいた~
紫が通う鎌谷市立卓陽中学校は4月の新学期を迎える前に在校生による準備登校が設けられていた。何の準備かと言われれば、簡単に言えば翌週の入学式の準備等である。紫は2年生後期の時に学級委員なんてやっていたものだから新入生に向けたメッセージやら装飾やらの指示出し係として動かなければならかった。
通学路をとぼとぼ歩いていると信号を渡った先の高架下のところで萌々香が手を振って待ってくれている。
「おはよー」
「おはよ」
簡単な挨拶を交わして学校に向けて二人並んで歩く。
「小岩先生、いなくなっちゃったね」
「清々するわよ。あんなにガミガミ言う先生がいなくなって」
「去年学級委員でさんざん言われたからねー」
「全く…私達をストレス解消の対象としか見てなかったし」
紫の苦労を知っている萌々香がけらけら笑っている。小岩先生は生徒指導担当の先生として学級委員をさんざんに使い、学校の諸問題を取り組んでいた先生だ。剣道か柔道か知らないが、武道を嗜んでいたこともあって、THE堅物というあだ名がつくぐらいだ。今回の準備も小岩先生が残していったプレゼントに他ならないと愚痴ったのはつい最近のこと。
「次の社会の先生、誰だろー」
「さぁ…相田のじーさんでしょ」
「相田先生?今年は2年生じゃない?」
「もう定年間近だし、どこの学年でもおかしくないって水鏡先生が言ってたけど」
「えー、相田先生は眠気の最高峰って先輩言ってたからやだなー」
「あとは…新しい先生?」
「そっちの方がいいな」
毎年のことだが、生徒にとって自分の学年にどんな先生が来るかは死活問題になる。紫も萌々香もあれこれ予想をしては先の未来を憂いてしまうのも仕方ない。その未来が決まるのが準備が終わった後の全校集会でわかっていく。紫は少し、ため息をついてしまった。
学級委員主導で旧クラスによる入学式の準備が滞ることなく進んでいく。といっても遊んでいる男子もいれば、ペチャクチャしゃべる女子もいるので、効率的ではない。
「ゆ~か~り~ちゃ~ん。調子はどう?」
「美希…さぼってないで動いてくれない?」
「やーだ。せっかくこれから一緒のクラスになるんだから。仲良くしようよ。同じ保育園出身だし」
「その腐れ縁が嫌だって言ってるの」
「紫も素直じゃないよね。しのちゃんも苦労するね」
「ほんとー、それな」
紫を後ろから抱き着き、いじわるしはじめた女子。篠原美希(しのはらみき)は嬉しそうに語ってくる。ノリの軽い、それでいて男女から受けがいい彼女を紫はあまり得意にしてなかった。保育園からずっと同じという腐れ縁がなければ、まず関わることがない人種ともいえる。
「放してって。さぼっていると怒られるでしょ」
「もう口うるさい小岩はいないじゃん。らくしょーらくしょー」
「だからって…ほら、目をつけられた」
「お前らさー、ちゃんと準備しろって」
「はーい、武田先生」
去年から彼女達の学年で担任をしている武田先生が声をかけて、美希が愛想よく返事する。その様子を見て、武田先生はさっさと視線を外してしまった。
「ふふん、ちょろい」
「あんたね…もう、ほんとにさ」
ニヤリと笑う美希を見て、紫はもうどーでもいいやという投げやりな声で終わらせた。
すべての準備が終わり、全校集会が始まる。学級委員だからというだけで一番前に座るというのに多少運財させられる。
『寒いし、目立つし、さっさと終わらせてもらいたい』
そんな気持ちしかわかない紫を尻目に教頭先生が新しい先生の紹介を始めた。ぞろぞろとステージの上に立つ先生方。若そうな先生もいれば、そうでない先生もいる。誰もがどの先生が自分の学年に入るのか気になって、ひそひそと話し始める。教頭先生がそれぞれの先生の学年と教科の紹介をしていく。
「3年生、副担任。社会科、木河先生」
「初めまして、よろしくお願いいたします」
あの小岩先生の後釜はなんというか、全然違うタイプの見た目だった。声質もごついから優しいというか、なよなよしいというか。彼女が受けた最初の印象はそんなもんだった。
『なんか、大したことなさそ』
この感想が授業によってすぐに訂正しなければならないことなんぞ、今の彼女が知る由もなかった。
中学校生活最後の一年が始まった。それはすなわち受験が控えていることも。紫にとって楽しみたい反面、受験にはシビアになっている一面もあった。それは他の人も同じようなもので、同じ吹部の萌々香もそんなことを口走っていた。美希は今が面白ければそれでいいみたいな風潮だけど。
「次は…社会かー。木河先生ってどんな先生だろうね。自己紹介とかだとなんか優しそうだけど」
「どんな感じでもいいから、普通に授業してくれれば文句言わない」
「へぇ…小岩の授業がつまらなすぎて小言言ってた人間の言葉とは思えない」
「あれは…だって、本当の事じゃん」
「あー、ブラック紫はつどー」
「人で遊ぶな!」
美希のちゃかしに紫が思わず怒ったように言い返してしまった。その様子を見て美希がニヤニヤしている。ひそかにそのやりとりを萌々香が楽しんでいる。3年生になってからは基本このスタイルだった。紫も文句は言うものの拒否しないあたり、楽しんでいるのだろう。そんな時にチャイムが鳴りそうになり、木河先生が教室に入ってきた。それを見て、全員が着席した。
「きりーつ、気を付け…礼」
男子のいつも通りの声でチャイムと同時に挨拶をして、再度着席をした。
「はいじゃあ…まぁ。はじめますかー」
その男子の号令より間が抜けたような声が、木河先生の第一声だった。
『なに、これ。気がぬける』
紫がもった最初の感想がこれだった。
「はじめまして、今年の1年。君達の社会の授業を担当する木河です。名字、変でしょ?」
その言葉に教室の誰もがはぁ?みたいな顔や反応をした。紫も萌々香も美希もその例に漏れず、同じような反応だった。
『何言ってんの、いきなり』
「さて、君らは僕のことなんてしらないじゃない?僕はもちろん君らのことなんて何も知らんし。だけどさ、いきなり先生が変わって、新しい先生が授業やりまーすなんて言われても、なんか変じゃん?」
『いや、それはそうだけど。それが学校の先生の都合でしょ』
「というわけで、今日は僕の紹介とどーでもいい話をします」
そういうと木河先生は教室前方の扉を開けて、廊下に出た。直後、教室に移動式の大型テレビを入れてきたかと思えば、パソコンを起動させて、画面にはパワーポイントが移り始めた。
「それでは自己紹介をはじめますよー。デッデデデデー」
謎の効果音を一人でいいはじめ、マウスをクリックし始めた。
『なに、この人』
紫の素直な反応がこれだった。これはやばいのでは?と思った。過去、彼女の脳みそにある記憶ではこんな先生に出くわしたことがない。そんな感想をもった直後、自分の右斜め後ろから何か聞こえた。振り返ると男子の学級委員である長谷部が笑いをこらえていた。
『え…!硬派イケメンで、めっちゃ厳しいことも顔色変えずに過ごしてきたアンタが笑いそうって』
長谷部も紫と小学校から一緒で、なんだかんだ同じ学級委員として過ごしてきた仲間。長谷部がこういったことで笑うことはない。というか、そういった人を見下す感じが持ち味なのに、何故。
「さて、まずは僕の名字…木河だけど。これ、日本の名字ランキングだと大体20000位以下なんだと。まぁ、名字がそもそもいくつあるか知らんから、どーでもいいけど」
『なんでそんなのをいきなり紹介した!』
「この名字がどこの発祥かといわれると、長野県なんだよ。さて、篠原さん。長野県はいくつの都道府県と接しているでしょうか?」
「へ!?えーっと…」
美希がいきなり指名されてなんか指折りしながら数えている。ときより紫に助けてーと言わんばかりの目線を向けているが、紫は目の前にいる謎の存在に注視して気づいていない。
「あー…7?」
「残念、8つです。それはどうでもいいんですけど」
『どーでもいいんかい!』
紫が思わず心の中で突っ込んでしまった。美希に至ってはなぜか笑っている。
それからはパワーポイントを使って自分の名字の由来を語っていた。長野県の地侍として活動していて、武田信玄や徳川家康とかに味方していたらしいとか。その恩賞で名字をもらって、いつのまにか木河になったそうだ。
「そんでもって、僕自身の紹介ね。僕は趣味がいくつかあって、特にジ〇リが大好きなんですよ」
その発言を聞いた瞬間、教室の生徒全員がはぁ…?という空気に包まれた。目の前にいる人間が、というよりそれなりに経験積んでいそうな先生と思われる人が、かの有名なジ〇リ大好き発言していることに。
「特に好きなのが【耳をすま〇ば】なんだけど。あれ見たことある人いる?君らと同い年の物語だから見てもらいたいんだよねー。ちなみにあそこの舞台になったのが聖蹟桜ヶ丘ってところだけなんだけどー」
なんて語っている。もう独壇場といっても過言ではない。それを聞きながら、萌々香は紫をそっと見た。紫は全体的に何も変わってないが、目が燦燦と輝いていた。萌々香は知っていた。紫が大のジ〇リファンだということを。ジ〇リの話になると小一時間止まらないことも知っている。
「ということで、ジ〇リ好きな人いたらおしゃべりしましょうねー。ちなみに今週の金曜ロードショーは平成狸合戦ぽ〇ぽこだから、みてねー」
もう生徒からは笑いしか起きない。皆げらげら笑っている。しかし、その笑いは卑下したとか見下したものではなく、純粋に楽しくて笑っているのだ。
「さてはて、そんな社会科の僕が何学んできたかっていうのも言っとくね。それ言わないと君達に教えている先生がどんなこと学んできて、今現在君達に何を教えられるんだってことわからないでしょ」
『まぁ、知りたいけど』
「木河さんは大学時代に学んだ歴史は日本史、世界史、あと雑学をあれこれ学んでいたかなって」
面白がっているのか、長谷部が手を挙げて質問した。
「せんせー、雑学ってどんなこと学んだんっすか?」
「そうだねー…一番わかりやすいのは処罰についてとか?」
その言葉を聞くと生徒の皆がまた不思議な反応をした。おもわず紫が続くように聞いた。
「あの、処罰ってどんなことですか?」
「んー、処罰というか処刑方法というか」
その言葉に教室の空気が凍った。今までの笑いがぴたりとやんだ。
「そうだなー、皆が知っているやつだと。ギロチンとか?」
その後、木河先生は嬉々としてギロチンの雑ネタを繰り広げた。有名なマリーアントワネットのこともそうだが、ギロチンが下ろされた後にどれくらいの意識があるのかというのを実験している人がいたとか。しかも妙にリアルにしゃべるもんだし、「首がポーン!」とか絶妙に効果音がうまいし、もう皆は引き込まれていた。
『話はすごくわかりやすいけど…わかりすぎて、逆に嫌になる』
紫はこの時に気づいた。目の前の先生は今までにない先生、ネジが飛んでいる先生だと。
「ありゃ、しゃべっていたらもう授業終わっちゃうね。まぁ、ぶっとんだ話はそこまでないけど、こんな感じで雑談しながら授業するから、これからよろしくお願いしますね」
それと同時にチャイムが鳴った。
木河先生がパソコンとテレビを片付けようとするところに、紫が近づいた。
「先生、お手伝いしましょうか?」
「あー、お願いしてもいい?これ、一人で運ぶの大変なんだよねー」
ニヘラとした笑顔を浮かべて、木河先生が返事を返した。それに応じて紫が一緒にテレビを運んでいく。様々な生徒が行き交う廊下を二人でテレビをゴロゴロと押していく。いつの間にか萌々香と美希も紫の後ろにくっついていくように一緒にいた。
「ありがとさん。おかげで助かりましたよ」
「先生、いつもあんなことばっかり言ってるんですか?」
「あんなっていうと、どれ?」
「その…処刑とかなんとか」
「あー、あくまでテキトーに思い出したからしゃべっただけで、いつもキチガイみたいなこと言ってないよ。なんかそういった感じの流れになったから、持ちネタの一つとしてしゃべったぐらいだし」
「ふーん」
「あれ、なんかまずった?」
「違うんですよー。この子、ジ〇リ大好きで、そのことでしゃべりたいんですよー」
「ちょっと、話さないでよ!」
「そうなん!いやー、嬉しいなぁ。前の学校だと誰も話に来てくれないから、ジ〇リの人気がないもんかって思っちゃったよ。皆ディ〇ニーばっかりだったからさぁ」
木河先生はへらへらしながら嬉しそうに笑っている。その様子に紫はだんだんと訝しげになっていく。
『先生ってこんなにへらへらした感じでいいのかな』
思い詰めている紫に対して、萌々香と美希は木河先生の言葉とかで楽しんでいる。
「まぁ、雑談でもちょくちょくはさむから、そん時にでも反応してくれると嬉しいな。えーっと」
「3年1組の岩森紫です。こっちのおさげが島根萌々香で、チャラそうなのが篠原美希です」
「はいはい、岩森と島根と篠原ね。よろしく」
「こっちこそよろしくー!」
美希の軽い返事に紫が若干いらつくものの、木河先生はそんなこと意に介していない様子だったので、それ以上は何も言わなかった。その直後から紫は木河先生からじーっと見られているように感じる。
「あの、先生。何かありました?」
「いや…なんだろ。岩森の風貌ってどっかでみたことある感じなんだよねー。どこだろ」
「きっとあれです。ちび〇子ちゃんです!似てるから小学校の時のあだ名、それだったし!」
「あー、確かに!」
萌々香と美希の指摘を聞いて想像してしまったことで木河先生がぶっと笑いだしながら、紫に指さす。その反応に紫は一気に眉を顰め、お怒りモードに入りそう。だが美希と萌々香は満足げな顔をしている。
「もう!それ言うなって言ってるでしょ!怒るよ!先生も笑ってないでください!」
「いや、ごめん。あまりにも的確過ぎて…」
しかし笑いのツボというか、木河先生にとってクリーンヒットだったのか。笑いが止まらない。紫はその様子にむかつき、ぷりぷりと怒ってその場を去ってしまった。
『ほんと、なんなのあの先生!』
紫にとって現状は、頭のネジが吹っ飛んだ…よほど先生とは思えない人であった。
改行とかの使い方、難しいですよね。
ちなみに彼女達が通う学校は作品でも書いてあるようにごくごく一般的な市立の学校です。