残念そうなあなたにもう少しだけ続きを見せてあ・げ・る。
ふふふっ、特別なんだから。
夜になると唐突にお腹が空くことってないか?
夕食はもう食べたのに、なんだか小腹が空いて落ち着かない。そんな経験きっとあるだろ?
そんな時は適当に冷蔵庫にある何かをつまんだり、菓子でも食べたいところなんだが。
「すぐにつまめるようなものが何もねぇ……」
布団をのそのそと這い出て冷蔵庫を確認する。
しかし、中にあるのは食材ばかりで、ちくわやソーセージと言った調理せずにつまめるような物はなかった。
菓子も一切ない。この前買い貯めた分は最近映画を見ながら食べたからない。食いすぎたか。
うーむ、なんだか今は料理する気分ではない。夕食にそこそこ凝った物作ったからめんどくさいのだ。
こういう時は……よし。久々にあそこに行くか。
わくわく気分で外出する準備をしていると、トントン、と背中を叩かれた。
「私を置いて一人どこに行くつもりなのかしら?」
眠そうに目を擦りながらパジャマ姿の愛歌が問いかけてきた。
さっきまで隣で寝てたからなぁ……後、一つ言っておくが今日はそういうことはしてないぞ。
「ちょっと軽く食べ物を買いに。一緒に行くかい?」
「ええ。少し待ってて、着替えてくるわ」
パタパタと足音を鳴らして自室に戻る愛歌。
さて、財布どこ置いたかねぇ。愛歌が着替え終わるまでに見つけないとな。
「でも愛歌ってどう見ても小学生だよなぁ……
子供を夜に連れ歩いてるところを警官とかに見つかったら俺捕まらないかね」
「大丈夫よ、暗示の魔術を使っておくから」
魔術の無駄使いじゃないかなそれ。
夜の街を二人で歩く。手は愛歌の希望でつないでいる。
冷たい風にさらされながらも、愛歌の手のほのかな温かさが心地よい。
そして、いくら夜とはいえこの街は都会。何回か歩行者ともすれ違ったわけだが。
「……本当に愛歌のことバレてないな」
「他の人に私はあなたと同い年くらいの女性に見えてるの。
だから、誰もそれを気にしないってわけ」
「なるほどな。相変わらずお前はすごいよ」
「ふふふっ、もっと褒めてくれてもいいのよ?具体的には撫でてほしいわ」
しょうがないやつだ。つないでいた手を離すと、わしゃわしゃと頭をなでてやる。
楽しそうに笑っている。うむうむ、可愛い。
「ところで食べ物を買いに行くとのことだけど、どこへ行くのかしら?」
「俺の馴染みの居酒屋。久しぶりだけど店主の爺さん俺のこと覚えてるかねぇ?
愛歌がうちに住むようになってからは一度も行ってないんだよ」
「あら、どうしていかなかったの?」
「夜に愛歌を一人で家に放置するのはちょっとなぁ。
女の子に寂しい思いはさせられんよ」
「……ロリは愛せないとか言ってたくせに」
「恋愛対象として見れないだけで、普通に女の子は大切に扱うよ」
なんだか納得いってないみたいだけど、普通は俺みたいな大人がロリをそういう対象として見ているのはおかしいんだからな。
一線超えてあんなことやこんなことしてるのがバレたら割と社会的に不味いんだぞ俺。
……マンションが防音しっかりしていて良かったよ。周りからは年の離れた妹程度に見られていて良かった。
「おっと、通り過ぎるところだった。こっちだ」
つなぎなおした手を引いて、裏通りへと入っていく。
そして、通りの奥にはぼんやりと赤い提灯の明かりが見える。良かった、今日もやってるみたいだ。
「こんばんは、じいさん」
「ん?おー、坊主じゃねぇか!元気そうだな……ん?」
店内に入って俺を見つけた店主の爺さんは喜んだそぶりを見せたが、直後にニヤ付いた顔に変わる。
「おいおい、久しぶりに顔見せたと思ったら女連れか。お前さんもなかなかやるねぇ」
「ははっ、まあな。俺の自慢の彼女だよ」
「はじめまして、おじいさん。彼とお付き合いしている沙条愛歌です」
「おう、よろしくな。いいとこの嬢さんじゃねえの、おい?
なあどこでひっかけたんだ、聞かせてくれよ」
「その話はまた今度な。とりあえず持ち帰りでおでんくれよ。
具材はいつものセットで二人分。からしは抜きで。愛歌の味覚はお子様なんだ」
「りょーかい。任しときな、2分で済ませてやるよ」
にっこりと笑って手際よく持ち帰り用のパックにおでんを詰めていく爺さん。
なお、先ほど味覚がお子様と言ったからか愛歌は俺の手をつねっている。
痛い痛い。というか、指を曲がらない方向にまげようとするな。マジで痛い。
「よっし、出来上がり。ほれ、いつものセット。
汁もだくだくにいれといたぜ。代金は1000円な」
「サンキュー。ほい、お代。美味しく頂くよ。今度はまたゆっくり飲みにくるぜ」
「待ってるぜ。そこの嬢ちゃんとのなれそめの話とか聞かせてくれよ?
おっ、そうだ。ほれ、せっかくだしこいつもサービスだ。二人で仲良く食いな」
そう言って差し出されたのは、白いおにぎりが数個入ったパック。
「ありがとうございます、おじいさん」
「礼なんていいよ、あまりもんだしな。それじゃ、またな」
爺さんに別れを告げて店を出る。
爺さんが元気そうで何よりだ。今度来るときはなんか土産に酒でも持っていこうかね?
あ、でもこの店居酒屋だから爺さん酒飲み慣れてるだろうし、そこそこ貴重なもの持ってこないといけないな。
うむむ、難しい。まあ、ゆっくり考えるさ。
「……あのおじいさんと仲良さそうだったわね?」
「長い付き合いだからな。いろんな悩みも相談したし、あの店で働いてたこともあるし。
あの人は俺にとって大切な人の一人だよ、うん」
「そう……あなたのことは何でも知ってるつもりだったけど、まだ私が知らないことがあるのね」
少しだけ寂しいかも。そう言って少しだけ切ない目で俺を見てきた。
「そんなの気にしなくていいだろ?
俺と愛歌はこれからもずっとに一緒にいるんだ。これから知らないことをどんどん知って行けばいいさ」
「……あははっ、そうね。それじゃ、あなたがきっと知らないことをこれから教えてあげる。
―――ねえ、王子様。
少し、私に付き合ってくれるかしら?
彼女に連れられて、夜の街を駆ける。
初めて出会ったあの時、彼女は空を飛んでいた。今回も空を飛んでいるけど少しだけ違う。
俺が彼女に連れられて一緒に空を飛んでいる。実は空を飛ぶのはこれが初めてだ。
前々から興味はあったけど、なかなか言い出せなかった。ちょっとだけ嬉しい。
そして、空の散歩はあるビルの屋上で終わった。
「ここから見える景色はなかなかいいと思うんだけどどうかしら?」
ビルの屋上から見下ろした街は色とりどりの光が輝いており、まるで宝石箱の様だった。
ほう、と思わず声を漏らすほどに。
「夜の散歩中にたまたまいい景色が見えることに気づいたのよ。
どう?私が知っていて、あなたが知らないこと。まずはこの景色をあなたに教えてあげたかったの」
「ああ、いいじゃないか。
こんな景色は初めて見た。この街がこんなに美しいなんてな」
「ふふふっ、そうね。
―――あなたの手には温かいおでんと、美味しいおにぎり。
そして、隣には美しくてあなたが愛する彼女がいる。
なら後はいい景色があれば完璧でしょう?」
ニィーッ、っと自慢げな笑顔をする彼女に俺も笑みを返す。
「ありがとう、愛歌。お前のこと、本当に好きだよ。愛してるぜ」
「私もよ、愛しているわ王子様。
それじゃ、熱いうちにそのおでんをいただきましょう。食べる順番におすすめとかあるかしら?」
「あるぜ。俺のお勧めはな―――
俺はノリノリで彼女におでんのおすすめを説き始める。
そして、いざ食べたおでんとおにぎりは―――絶品だった。
俺も愛歌も、まだまだ愛し始めたばかり。
これからもずっとずっと、一緒にいるのだ。
まだまだ、二人の物語は続いていく。その結末はまだわからないが、きっと幸せな結末だろうと思う。
だって、今がこんなに幸せなのだから。