平民派DQN女オリ主がいくFFタクティクス   作:ひきがやもとまち

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失礼、久々の執筆だったため完全には出来てなかったのは前回に言った通りなのですが、一先ず考えてたところまでは出来たので、【完全版】ということで再投稿させてもらいました。

基本的に前回出した分の完全版ですので、途中までは同じです。既読の方は「――」の線まで飛ばしてから読まれるのをお勧めします。

…この書き方は色々あるので辞めた方がいいと分かっているのですが…どうにも…(悩)


第28話(完全版)

 

「―――つまり、国王陛下の御容態になにか変化でも起きたというわけですね?

 だからこそ、情勢の変化に対応するため今すぐ、この作戦を完了しなければいけなくなったから焦っている。・・・・・・そんなところが本心ではないのですかね?」

 

 

 降り始めた雪の中を駆け続け、五十年戦争時にはロマンダ国の艦隊監視用に建てられたジークデン砦を目指し、標高の高い山特有の早い積雪に足を取られながら、ようやく到着できた私たちの目前で実行された、かつての一時的な仲間アルガスさんによる凶行。

 

 人質として犯人の盾にされていたティータさんを、犯人諸共に射殺するよう命じたザルバッグ兄君様の非情なる命令。

 

 案の定と言うべきか、当然のように兄様が率先して論戦を始めてくれたので、私は乱れた息を整えながら現在の状況と相手側の言い分との分析と解析を担当しながら順次到着してくる味方部隊への指示を出しつつ―――考えついた一つの推論をもとにした指摘を彼にぶつけることにしたのです。

 

 一見すると、現在の状況とは関係なさそうに見えなくもない私からの指摘と推測。

 それを告げられたアルガスさんは、一瞬だけ虚を突かれたように口を閉ざして沈黙し。

 

 

 ―――“ニヤリ”と。

 

 

 見下したような嘲笑を浮かべて唇を歪めて見せる、“予測通りの反応”を答えとして――。

 

 

 

「なんだよ、気付いてたのか。つくづく勘だけはいい、つまらない女だ。

 少しは小賢しさを抑える術でも学べば、嫁のもらい手もあるだろうにな」

「ッ!? ど、どういうことだアルガス! 今のラムダが言った話とお前のやったことにどういう関係が――」

 

「・・・・・・あるんですよ。あるいは、出来たんです。

 彼女を殺させてでも骸旅団殲滅を“急がせたかった”その理由になりえる関係が・・・」

 

 事実を暴かれたことに対する悪感情など、まるで感じさせない余裕綽々な物言いで応じてくるアルガスさんの言葉への兄様からの反問に、彼より先に私が答えを伝える言葉を放ちました。

 我ながら、苦い表情になっている自分を自覚しながら・・・でしたけどね。

 もともと疑問ではありましたし、不思議だとは思っていた部分ではあったのですが・・・・・・気付いてから対応するまでが出遅れすぎてしまった。

 

 

 それは―――何故“ザルバッグ兄君様は”“ティータさんを殺すよう命じたのか?”という、疑問の部分。 

 これは別に彼女がディリータさんの妹で、彼が兄様の親友だからどうと言った点は関係ありません。

 

 

 ただ“必要性がない”のですよ。

 彼女を殺させる理由とメリットが何一つとして見いだせない。

 それが、私がこの場にきてから今までずっと分からないままでいた謎の部分。

 

「・・・考えてもみてください。

 追い詰められて生き残りが何人かいるだけの盗賊団残党が、人質を取って立て籠もっているだけの現状で、わざわざ自分たち騎士が手を汚してまで人質ごと彼らを殺すのを急ぐ必要があると思いますか?」

「――っ!! そ、それは・・・」

「すでに放っておいても陥ちることは確定した反乱軍の砦。

 今さら鎮圧が1日2日遅れたか早まったか程度で、変わるような成果や手柄はなにもない。オマケに雪まで降ってくるときました。

 のんびり敵が自滅して飢え死にするのを待ってたって、4日後ぐらいには得られるはずの完全勝利という圧倒的優位な戦況。・・・・・・それが今さっきまでの北天騎士団のおかれた状況だったんですよ。

 こんな状況になるまで駒を進めてきたザルバッグ兄君様が、わざわざ短兵急に解決を急がせたがったほどの理由。――そういう風に考えたら兄様にも想像しやすいのでは・・・?」

「・・・・・・・・・」

 

 振り返って、アルガスさんから私の顔を凝視するように見つめてきていた兄様の顔が強張っていくのが見て取れて少しだけ――本当に少しだけ、引け目のような感情を胸の中に感じたような、そんな錯覚を抱かされながら。

 

 もともと妙な話ではあったのです。

 どうのこうの言っても、ティータさんがディリータさんの妹で、ディリータさんがラムザ兄様の直臣候補の寵臣という立場にあるのは事実ですからね。

 

 彼の妹を手にかけさせれば、自動的に兄様との間で亀裂が生じて、ベオルブ家が割れる危険があることぐらい、ザルバッグ兄君様にもダイスダーグ兄君様にも分かりきっているはずのこと。

 ゴルターナ公爵率いる勢力と対決の機運が高まっている現状で、そのようなリスクを負ってでも、ティータさんのような平民出身の少女を殺すよう自らが命令して得られる得など一つもありません。

 

 私自身が生きてたころの現代日本ではイメージが沸きづらくなっていましたが、低い身分出身の寵臣や寵姫への扱いが、上流階級の兄妹同士で激しく対立しはじめる切っ掛けとなったり、一門内で内輪もめし始める理由に大きく影響しているといったことは、階級社会の時代でさえ意外なほど多くあったりする。

 

 もちろん直接の理由にはなり得ないのが一般的なのは言うまでもないですが、仲が悪化し始める原因としての事件になっていたり、相手に悪感情や恨みを抱き始める最初の一歩目を刻んでしまっていた・・・・・・そういう事例は山のように存在しているのが、こういった『情実が絡んだ問題』

 

 

 仮に兄様が今回の件で恨みを抱き、ゴルターナ陣営に駆け込むことで『卑劣な手段で殺された親友の妹の無念を晴らす』とでも主張されてしまえば、『下級騎士や兵士達』を主な支持基盤とするラーグ陣営にとっては決してプラスにはなれないでしょう。

 兄弟の末弟のやった事として、長男であるダイスダーグ兄君様も立場が悪くなるのは必定でもある。

 自分から手を汚して部下に殺させ、ラムザ兄様との間で『ベオルブ家兄弟の対立理由』を生み出したい理由なりメリットなりが兄君様たちの側にあったとは到底思えない。

 

 

 実際、私が懸念していた彼女の危機は、ザルバッグ兄君様から『見捨てられること』であって、『自分から殺すよう命じる危険性』は余り本気で考えていたわけではなかったのが正直な予測の内訳だったぐらいなのです。

 あまりにもメリット少なく、翻ってデメリットだけが異常に多い。

 そんなリスキーすぎる選択を兄君様たちが行う動機がない。そう思ったからです。

 

 仮にティータさんが平民の娘で貴族じゃないからと殺す計画だったとしても、交渉を引き延ばすだけで焦れて焦った相手が勝手に人質に手をかけるのは目に見えている状況なわけですからね。

 

 私だったら『救出のため全力を尽くしたアピール』をしながら敢えて時間をかけることで、自暴自棄に陥った盗賊たちの手で殺されたところへ強行突入をかけるよう命じて、犯人共を兄様やディリータさんたちの好きに殺させるよう仕向けるぐらいの小細工は弄するでしょうし、ここまで直裁的な手は絶対に取らない。

 

 ですが現実にはやった。やるように命じた。――何故か?

 

 考えられた推測が先に述べた、現国王オムドリア陛下の症状悪化という、“情勢の変化”によるもの―――

 

 

「――“いま現在、国王陛下が崩御された後の覇権をめぐって二つの獅子を戴く家門が争おうとしている状況にイヴァリース国は陥っています”。

 “獅子たちは来たるべき争覇戦で勝者となるため、他の狼たちの誰を味方にして敵となるかを見極めるに躍起ですが、他者の頭の中を覗くことはできない”」

「・・・・・・?」

 

 ウィーグラフさんの語っていた言葉を引用して私が急に語り始めたことで、兄様は声には出さないまでもを疑問を背中越しに感じさせられる。

 兄妹として相応に長い時間を共に過ごしてきたからなのでしょうね、そういうのが言葉で言われずとも何となく伝わり合える程度には、私には兄様の『頭の中』や『心の声』が分かるようになってこれている。おそらくは兄様の方も似たようなものなのでしょう。

 

 ですが世間の皆が、私と兄様と同じ繋がりを持てる関係性を、他の皆たちと構築するなど不可能。人は誰でも誰しもと、私たちと同じになれる訳ではない。

 そして私は、ウィーグラフさんになることも出来ない。だから彼と同じ事柄について考えたとしても、見ている部分と理由は彼と違うところに注目してしまう。

 

「ですが、それらはあくまで“獅子たちの長”が居なくなってからの話。

 陛下が存命な間は、陛下からのご命令と決定が、家臣である獅子たちの思惑よりも優先順位としては上になる。

 そうである以上、生きておられる間は“生きているからこそ出来ること”を前提として考えるのが当たり前です。わざわざ亡くなった後を優先して、今できる事をやらない理由はないのですから」

「え・・・? ―――あっ!? そうか! そういう事かッ!!」

 

 そこまで言って、ようやく兄様も私の語っている内容や意味について考えられる余裕が取り戻せたようでした。

 そう、そこがウィーグラフさんの視点で抜けていた部分。

 『王家打倒を掲げる反王国勢力』である彼にとっては、重要でないからこそ無視してしまっていた、ラーグ公の謀略を分析する上では重要なピースとなる要素。

 

 

 意志が弱く病弱で、王家の求心力を低下させる理由となっているとまでされる現イヴァリース国王『オムドリアⅢ世陛下』。

 

 確かに今の陛下には家臣たちを制御できる器も力もなく、兄王2人が勝利目前までいきながら病で亡くなったことで、安全な王都に籠もり続けたおかげで王の地位を得られた形になってしまったため、戦場帰りの者達からは特に見下されやすい立場となってしまっている形式的な国家主権者。

 

 とはいえ形式化しつつあるとは言えども、国の最高権力は王が存命の間は陛下に帰するのが王制国家の大前提。

 少なくとも傀儡の神輿として掲げる必要があり、掲げられれば神輿の前に跪いて見せねばならないのも、専制国家に仕える家臣たちが守るべき形式というものでもある。

 

 そんな陛下から直接ラーグ公が拝命された、此度の『イヴァリース全土の騎士団が参加した逆賊・骸旅団の殲滅作戦』

 この任を成し遂げたことによる功績は、小さなものでは決してないでしょう。形としては、『王国史上最大規模の平民たちによる反乱』を鎮圧した総指揮官になったわけですからね。

 

 

 またラーグ公のもとから陛下に嫁いだ王妃『ルーヴェリア妃殿下』の存在もあります。

 元々ゴルターナ公に味方すると思しき権門たちの参戦理由には、強引さで知られる妃殿下への反発があると聞き及ぶ。

 それは言い換えると黒獅子の陣営は『ゴルターナ公に賛成』というより『ルーヴェリア王妃に反対』という理由で集まってきたアンチ勢力の集合体という見方もできるということ。

 

 王の子を誕生された王妃殿下はラーグ公にとって、陛下に影響を与える上では必須の存在であり、王亡き後も『幼い王子を産んだ国母』として重要な政治的価値を持ち続けられる人物ではあるものの、あくまで重要なのは『陛下の血を分けた王子』であって『王子の母』には王の存命時ほど価値は高くありません。

 

 ハッキリ言ってしまえば、陛下との間に『王家の血を引く男児』を産むことに成功した時点で、彼女の果たすべき役割はすべて完了してしまった、と言ってもいい。

 無論「幼い王子を支える母親」として居続けた方が役には立ちますけど、絶対必須という存在では既にない。

 

 

 ・・・・・・おそらくですがラーグ公が考えていた計略の概要は、今回の手柄を背景として王から与えられる権限を強化させ、陛下の死後にルーヴェリア王妃を引退させて宮廷から田舎へ移動させるのを交換条件にゴルターナ陣営の切り崩しを謀る腹積もりだったのではないか、と私自身は推測しています。

 

 エルムドア侯爵の誘拐事件にしろ、仮にウィーグラフさんの言うとおりの目的で行われてた場合には、『自分の手駒』を侯爵亡き後の後釜に任じられなければ意味がない。それどころか、ゴルターナ公の手の者が選ばれてしまったら藪蛇もいいところでしょうよ。

 

 それを回避できる前提での謀略である以上は、今回の手柄で陛下から『作戦開始前に賊に殺された貴族の後任人事』を褒美として任されることまで計画の一部だったと考える方が整合性は取りやすい。

 

 

 ――ですが、それらは全て『ラーグ公を骸旅団殲滅作戦の総大将に任じたオムドリア陛下』が作戦成功後も、しばらくは存命で在り続けることが大前提として必須の条件。

 

 どうせ死ぬと分かっている状況に変わってしまった後では、王妃様引退は交渉カードとして役立たない。

 近く亡くなる王の命令や決定なんて、死ぬまでは理由つけて延期させれば済むだけのこと。

 

「――つまり、ザルバッグ兄君様は一刻も早く骸旅団討伐を達成して、北天騎士団を率いて王都ルザリアに戻りたかったから、だからティータさんを射るよう命じたんだと思います・・・。

 おそらく、力を失った正面の敵ではなく、“背後の敵”に備えるための準備を急がせるために――」

「背後の・・・敵・・・?」

「おそらくは王都内に軍の一部を突入させての、反ゴルターナ派一掃の危険性です。

 陛下の病状悪化を、ラーグ公か近臣による暗殺と決めつけて、『陛下を佞臣からお守りするために』という名目で先手を取られる危険があると考えたんでしょう。

 だから一刻も早く決着をつけて王都へと帰還し、敵対派閥につけいる隙を与えさせないことが最優先になった―――そんなところかと」

「そんな・・・そんな理由で、ティータを・・・っ!!」

 

 その反応を見せられた瞬間、私は自分が喋りすぎてしまったことに気付かされ、「しまった!」と思わざるを得ませんでしたっ。

 兄様に冷静さを戻させるつもりが、逆に興奮させる理由になる話までしてしまうとは・・・クソッ! どうやら私自身も思ってたより冷静さが欠けてしまってたみたいです!

 

 まっ、この状況下では何とか冷静な対応をと努力しても、穴が出てしまうのは仕方がないのかもしれませんけど―――ねッッ!!

 

 

 ――ガキンッ!!

 

 

「チッ! 外したか。オイッ、その矢筒を俺に渡せ! 予備のポーション入れもだ! 俺が直接やってやる!」

「アルガスッ! お前、またしてもラムダばかりを狙って・・・っ!!」

「はっ! おいおいラムザ、これはお前たち自身で選んだ結果だぜ? 兄貴に逆らったのはお前らであって、俺じゃない。むしろ男の弟は狙わないのを感謝してほしいぐらいさ!」

「クッ・・・! けど、けどだからってお前のやり方はっ」

 

 話してる途中にも、幾度となく話の腰を折るように飛来し続けてくる矢を切り払い、何度目かになるアルガスさんからの弓を使った狙撃を迎撃することに成功しましたが・・・この状況は正直キツいッ!

 

 どうやら彼は、私たちの元から離れてから《弓使い》としての訓練と経験を積んできたらしく、距離のある位置からでも狙い撃ちで当ててこれるぐらいの腕前には達するようになっているようでした!

 幸い、この短期間では『使えるようになった』というぐらいが関の山で、威力を高める魔法的効果を付与された《チャージ》と呼ばれる専門技能なんかを使えるレベルには届いてないようですけど、それを補うための用意があるからこそのチョイス!

 

「行けッ! 前衛の騎士隊は防御陣を形成しろ! 黒魔道士隊は、騎士隊の背後からの支援攻撃だけしてりゃあいい! いずれ奴らの方が根を上げる! そうなれば勝ちだッ!」

「ちッ! 相変わらず嫌な戦法がお好きなお方な事でッ!!」

 

 罵りながら、私は迫ってきていた青を基調とする鎧を纏った騎士の一斬を横に流し、返す刃で反撃を封じ込めながら半ば反射的に身をよじり、身体の位置を強引に横へと変えさせる――

 

 ―――ドスッ!!

 

「クソッ! またかッ、運のいい野郎だ!!」

 

 視界の外から聞こえるアルガスさんからの罵り文句。

 見ると一瞬前まで立っていた場所の背後にあった砦の石壁に、一本の矢が突き刺さっている光景が目に映りこんでくる。

 

 これが彼の、私たちの元を離れて《弓》を使える騎士としての訓練を行っていた理由と思しき部分で、秩序だって隊伍を組みながら動いてくる北天騎士たちの背後から、隙間を縫うようにしてアルガスさん自身がボウガンで狙い撃ちしてくる・・・!

 

 指揮官である彼を倒すには、まず防御の厚い北天騎士団の団員たちによる守りを突破して肉薄しなければならないっ。

 コチラの弓使いに射殺させようにも、防御を気にしてなのか片手だけで使用可能なボウガンを用いて、残る片手には盾を装備したままで中々隙が見いだせない!

 

 一方的に自分から攻撃できて、こちらからは守りを突破できない限りは手を出しにくい!

 つくづく彼が好きそうな状況になれる武器を選んできたものだと、感心させられますよ! 嘘偽りなく本心から本当にね!

 如何にも“彼らしい”戦い方だと本当に感心させられて仕方がない! 反吐が出る!!

 

 しかも!! 厄介なことにオマケとして!!!

 

 

「アルガスッ! よくもティータをッ! 殺してやるぞ、殺してやるーッ!!」

「悔しいかディリータ! 自分の無力さが悔しいのだろう? それがお前の限界だ! 妹を殺した憎い仇が目の前にいるってのに、なんも出来ないんだからなぁ!

 情けない兄貴を持ったもんだと、あの世で妹も泣いてるだろうぜハッハッハ!」

「言いたいことはそれだけか・・・? それだけかアルガス!! なら死ねぇッッ!!」

「いい加減わかれよ! 家畜は家畜でしかないってことを! そうすりゃ楽になれる!

 人間様が食うために飼ってやり、人間が食うために殺す家畜の一匹。それがお前だ。

 ほら、そこに転がっているメス豚の死体と同じようになぁ!! 豚がキーキー鳴きながら死んでく姿は無様だったよなぁ? アアァ?」

「~~っ!! 貴様・・・ティータを殺しておきながら言うことはそれか!? ティータを殺したお前がぁぁぁッ!!」

 

「落ち着けディリータ! 冷静になるんだ! アルガスに乗せられるだけだッ!!」

「止めるなラムザ! アルガスを殺した後はお前らだ! お前も! ラムダも! 俺が! この手で! 絶対にィッ!!」

「でぃ、ディリータ・・・・・・お前・・・」

「俺はもう誰の言いなりにもならない! 誰にも利用されん! 俺は・・・俺は・・・俺はぁぁぁぁッ!!!」

 

 

 アルガスさんに挑発されて彼を殺す為だけに、前へ前へと我武者羅に突っ込んでいきたがるディリータさんと、彼を見捨てられずに前へ前へと引きずり込まれてゆくラムザ兄様―――完っ全に敵の策略に乗せられまくっちゃってる状況にあると自覚して欲しいんですけどね!

 私が言葉で混ぜっ返して、少しでも前進速度を遅らせるのに腐心してる努力も少しは理解して頂きたい!!

 

 チクショウ・・・全体の流れから見て、最初に語られてたアルガスさんから兄様への煽り文句は、実際には『ディリータさんに聞かせるための言葉』でしかなく、それに怒ったディリータさんを前へ出させるのは彼を殺させないため一緒に前進したがる『兄様をおびき出す餌』として利用するためのものッ!

 

 感情的にはどうあれ、ディリータさんを殺したところでアルガスさんにとっては何らの得もある訳がなく、兄様を殺すのに利用した方が効率的で楽でいいし手柄にもなる。

 

 今の時点で完っ全に利用されまくってる状態に陥ってるのが自分なんだって事実を、ディリータさんが認識してくれたら解決できる問題なんですがね!

 感情的になってる人間に言っても無駄で、却って火に油と分かってるからどうしようもない状況をどうにかしなきゃいけない補佐役としては本気でキツい!!

 

 

 クソゥ・・・本当に厄介な敵として現れてくれたものですね、アルガスさんは・・・・・・やはり《マンダリア平原》か《盗賊の砦》で殺した方がいい相手だったってことですか―――結果論でしかないのは分かってても、そー思いたくなるほど嫌すぎる状況を強いられてることで!!

 

 他の仲間たちも、正規の訓練を受けて秩序だって動ける騎士団を相手取っての初めての実戦という戦いに、勝手の違いと対応のし辛さで苦戦させられているらしく、こちらの支援に回ってこれそうな人は一人も見当たらない!

 

 そんな絶体絶命、とまで行くには今少し時間が必要とはいえ、ジリ貧に追い詰められつつあるのは事実ではある現在の戦況。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「悪いが坊ちゃん。

 俺たちは沈む泥船に付き合う気はないんだ、俺たちにも生活ってもんがあるんでね」

 

 その言葉を言われた日のことを、アルガスは決して忘れたことはない。

 崩れゆく家を必死に支えている母のもとを、次々と去っていく年来の家臣たちの不忠を、恩知らずを、忠誠心のなさを、幼いなりに義憤に駆られて引き留めようとした彼に向かって、去り際に騎士の一人が告げた言葉。

 

 当時はまだ、祖父の裏切りは噂の域をでるものではなく、口さがない者達だけが信じて陰口を叩いているだけで、証拠や証人はなにもなかった。

 それでも悪評は徐々に広まり、少しずつサダルファス家の屋台骨は傾いていた。五十年戦争の戦況悪化で内政が弱体化していた王家は没落家系の貴族を守ってくれる力はない。

 

 その中で告げられた言葉の一つがそれだった。

 

「俺たちはなにも、家臣だからって理由で仕え続けてきたわけじゃないんだ。

 坊ちゃんの家に仕えることで、こんな戦乱の中でも庇護してもらえる。だから仕え続けてきたんだよ。

 だが、今のままじゃ家族の身さえ危うくなりそうなんだ。別に坊ちゃんのお爺様を疑ってるわけじゃないし、奥様たちに恨みがあるってわけでもない。悪いが、恨まんでください」

 

 そうして、激しく睨み付ける幼い自分と、自分の背中で無言で耐えている母に背を向けて彼らは家を去り、帰ってくることは2度となかった。

 それは同時にアルガスが、主従関係の現実を思い知った瞬間でもあったのだ。

 

 その日からアルガスは、一度として主従関係に夢を抱いたことはない。

 彼らは所詮、高い地位を持たない自分たちを守ってもらうために主家への忠誠を尽くしているだけで、自分たちの役に立たぬと見れば平然と主人や恩人をも切り捨てる。利害損得だけが彼らの示す忠誠の正体でしかない。

 

 平民たちも同類でしかなかった。

 貴族社会から弾き出され、食うにも困るようになった没落貴族として親戚筋から援助を求めて回る、幼い自分の手を引く母親もろとも『貴族のくせに裏切った卑怯者の子供と母親』としてバカにし、乞食のように見下した目を向けてくる。

 

 『貴族のプライドを捨てられないから』『居丈高で人の気持ちを考えないから』――そんなものが叩かれた理由だったと語る奴らは大嘘つきだ。

 はじめは頭を下げて頼んで回ることしかできなかった幼い自分と母の母娘に、奴らは暴力と罵声のみで報いただけだった!

 

 『没落しても、しょせんは同じ貴族だから』

 

 その理由で、そんな理由だけで! 貴族から爪弾きにされた母と自分は平民からもバカにされ、屈辱の中で生きていくことしか出来なくされた・・・・・・弱いからだ!!

 貴族に恨みを抱く平民たちが、幼い自分や母に辛く当たったのは、自分たちが没落しても貴族の一員だったからではない。

 

 弱いから、平民達より弱いヤツらだから殴れる。それだけが理由のすべてだと悟らされた。

 怒りや不満を抱いても、平民は貴族に手が出せない。貴族は強く、平民は弱いから、強い相手にはイヤでも機嫌をとらねば生きていけない。

 だから自分たちより強い貴族への不満を、平民より弱い自分や母親にぶつけて鬱憤晴らしに利用してくる―――それが平民だ。平民どもの本性だった。

 

 傲慢で尊大で、自分たちが得することしか考えず、小っぽけな欲望のため力づくで他人を踏みつけることを平気でやってのける、動物も同然の恥知らずな人の形をした獣ども。

 

 そんな連中こそが、平民という知恵なき家畜のような存在であり。

 互いに利用し合う価値があるからこそ成立するのが、主君と部下の主従関係というものなのだ。

 

 その理解と結論は、信念のように信仰のように、幼きアルガスの心に焼き付いて離れることは遂になかった。

 

 だからこそ―――気にくわない。

 不愉快なのだ。癇に障る。イラつかされて仕方がない・・・ッ!!

 

 

 

「何故だ!? 何故こんなことをしたアルガスッ!

 一体どうして、何故なんだッ!?」

 

 ――甘ったれた苦労知らずなお坊ちゃんが偉そうに語る、青臭い絵空事の屁理屈ってヤツが! ああ、気にくわない! 反吐が出る!!

 まるでコッチだけが人でなしで、自分は平民でも差別しない心優しい騎士様でございって顔して信じ切ってるクズ顔が、ああ本当に心の底から―――気持ちが悪い!!

 

「おいおい、ラムザ。さっきのアレを命じたのは君の兄キだぜ? 命令に従っただけのオレに“何故”はないだろう?

 それとも何か、たかが平民の小娘のために、お前は騎士団の誇りを捨てて逆賊どもの要求を飲むべきだったとでも言いたいのか?

 そんな事をすれば収まりかけた反乱が再発するだけだ! それでもいいってのか!? お前は!!」

「クッ・・・しかし・・・しかし、あんなこと、許されるって言うのか!?

 ティータは――ティータはディリータの妹なんだぞッ! それを知っていて、君は――」

 

 

「いい加減に気づけよ!!

 お前らとアイツら兄妹は『違う』ってことをなッ!!」

 

 

 断言で返してアルガスは、先程よりやや苛立ちを増した心地で相手からの『手前勝手な言い分』にカッとなった精神をわずかに落ち着かせて対応する。

 ラムザにはそういうところがある。対等な一個人として他者との関係を考える癖が付いているのだ。

 

 自分個人がディリータと対等な友人関係を築いても、周囲や他人には何の被害も影響も及ぼすことはないに決まっていると、心から信じ込んで接してしまう悪癖として染みついている。

 

 それがどれだけ、同じに扱って“もらえなかった下の者達”の感情を逆撫でするのかを考えようともせずにッ!!

 

 ――ティータはディリータの妹だから・・・・・・だから? それが一体なんだっていうんだ?

 

 ディリータの妹だからティータを見殺しにするのは駄目で、ディリータの妹じゃなければ死んでもよかったのか? 

 

 なら自分の親友であるディリータと、縁もゆかりもない赤の他人の自分が殺された時にはどうなのか?

 仕方がない、兄や家の命令には逆らえないと切り捨てるだけだろうが、ふざけるなッ!

 

「生まれた家柄が違う! これから歩める人生もまったく違う!

 お前ら兄妹が生まれたベオルブ家は武門の頭領だ! トップの家に生まれた者には、トップとしての果たさねばならない役割や責任がある! 義務があるのさッ!!

 お前が果たさなければいけない責任から逃げれば、誰かが代わりに果たさねばならなくなる!

 だがディリータは違う! ティータもそうじゃないッ!!

 こいつらが責任を果たさず逃げ出しても、怒るのはせいぜいお前ら兄妹だけだ! 他のヤツは誰も気にしない!」

「僕が逃げているって言うのか!? 違う! 僕はベオルブ家に生まれた一員として、亡くなった父さんの名を汚さないためにも騎士として――!!」

「それが逃げてるって教えてやってんだよ! それが分からないから、お前は甘ったれたお坊ちゃんなんだ!!」

 

 アルガスにとって、主従関係とは損得勘定だけで成り立っているもののことだった。

 余裕のある上の者には感情やら心情やらで損得なしで手を貸すことも出来るやもしれないが、身分が下の者にそんな余裕は少しもないのだから、当然だろう。

 

 だからこそ彼は、ザルバッグから借り受けた北天騎士団の団員達の前で、逆らったとはいえベオルブ家の一門を平然と罵倒することができている。

 黙々と新任の部隊長でしかない自分の命令を実行している北天騎士団の騎士達ではあるが、別に彼らはアルガス個人の指揮に従って戦っているというわけではない。

 

 ただ、北天騎士団の団長ザルバッグ・ベオルブから『自分の指示のもとで戦え』と命令されたから、ベオルブ家の決定と命令に従っているだけなのだ。

 そうしないと、自分たちが北天騎士団に背いた反逆者になってしまうからだ。武門の頭領ベオルブ家から庇護を受けて生きていける地位と身分を失ってしまう。

 

 だから『隊を指揮するよう命じられた自分の命令をザルバッグ団長からの命令として従う』・・・それだけでしかないのが今の彼らと自分との主従関係でしかないという事実を、アルガスはただの事実として承知している。受け入れていたのだ。

 

 彼自身も一時的な部下でしかない騎士達に、自分個人への忠誠など求める気持ちは少しもない。

 自分たちの家の都合で、ザルバッグの命令として自分の指示に従って動くのなら、アルガスは騎士たち個人個人の心の中でなにを思い感じているかなど、問題視する気はまったく持ち合わせていないのだ。

 

 所詮その程度のものが主君と家臣の関係なのだと、アルガスはとうの昔に理解している。思い知らされているのだから今更だった。

 

「お前は、自分が生まれた高い身分の家と、母親の身分が違うことに甘えてるだけなんだよ!

 身分違いを言い訳にして、背負うべき家の責任から逃げてるだけでしかないッ!!

 名門に生まれた一員として、周囲からの期待や家の責任なんかを求められるのは鬱陶しい限りだろうからな!

 そんな縛りから逃げたがってるヤツにとっては、『好きで大貴族に生まれたわけじゃないから』『母親と同じ低い身分の者を守ってあげる貴族も必要だから』ってのは、さぞ都合のいい逃げ道だったことだろうよ! 違うかッ!?」

「――っ!? それは・・・それは・・・・・・ッ」

 

 その指摘に初めてラムザの顔が苦痛にゆがみ、戸惑いと躊躇いが表情いっぱいに浮かび上がる。

 図星――とまではいかぬまでも、アルガスからの指摘はラムザが抱えてきた心理面での歪みの一端を鋭く突くものになっていたのは事実だった。

 事実ラムザは、周囲と自分との間に広がる溝の理由を『母親の身分違い』に求め続けてきた過去をもっている。

 それを理由として、周囲と自分との隔たりを埋めようとする努力から遠ざかろうとしてきた過去を持っているのも、ラムザ・ベオルブの側面的な事実でもあったのだ。

 

 やりたくない事を、やらなくていい理由として、母親の身分違いを使ってきた。

 やりたくない事から逃げてきたのだ。そういう一面もラムザには確かに、一面的にではあるとはいえ存在していた。

 

 それもまた、使う方向が異なるだけの『生まれの身分による特権』そう解釈することも可能だった特徴を、アルガスは正確に見抜いていたのである。

 おそらくは、頭脳や観察眼によるものではなく、悪意と嫉妬と偏見による盲信によって強引に、真実の扉へと続く道の一つを踏破した結果として。

 

 そして過程はどうあれ、目をそらし続けてきた、己自身の心から隠し続けてきた、自分の中の醜い気持ちの一端を舌鋒鋭く突き込まれてしまった者として、ラムザとしては凡庸な反応として、こう叫ばずにはいられない。

 

「・・・君になにが分かる! 僕のなにが分かるって言うんだ!?

 僕だって好きで上の身分に生まれたわけじゃない! 家の都合のために利用されるだけの人生なんて、まっぴらだ!!」

「利用されるだけだと・・・? ふざけるな!! いったい自分を何様だと思っていやがる!?」

 

 思わず感情的に叫び返してしまった反射的で凡庸な、否定の言葉。

 だが、その平凡な一言はアルガスの心にとって非道く癇に障る虫唾が走るような屁理屈だった。

 知らず語気が荒くなり、先程までより感情のこもった語調と言葉で、彼は思わず場所も戦況も忘れてラムザの言葉を否定し返すための言葉を紡ぐため想いを込める!

 

「なけなしの報酬でこき使われる、オレたちの気持ちが分かるか!

 ベオルブ家がベオルブ家として存在するために、オレたち下の者は利用されてきたんだ!

 いや、もちろんオレたちだってベオルブ家を盾として使ってきた。その庇護のもと生き続けることができたんだ!

 どっちがどっちかだけを利用するなんて話じゃない、持ちつ持たれつの関係を築いてきたんだ! そういう中でお前は今日まで生きてきたんだよ! それを一方的に利用されてる被害者面とは恐れ入るぜ!

 そのためにお前は、親友とか称してるディリータでさえ利用してきたんだろう?」

「だまれアルガス! この期に及んでディリータのことまで侮辱するのか!? 僕にとっての彼が、利用してきた相手だったとでも言いたいのか!?」

「ああ、そうさ! お前は自分自身のために親友さえ利用してきたんだ!」

 

 声高に言いつのるアルガスの語る指摘は、悪意と偏見によってこそ気づいた、ラムザ・ベオルブがもつ今一つの歪みの側面。

 

「お前だって、何も気づいてないわけじゃないんだろう? ディリータやティータがお前らベオルブ家と共に居続けるために、どれだけ負担を負わされているのかを」

「――っ、それは・・・・・・それは、けどアルマがきっと・・・」

「自分たちが近づきたくても中々近づけない、ベオルブ家の一門に、ただ可哀想な平民として拾われただけで側近候補として召し抱えてもらえた兄妹だ。

 そりゃ周囲から嫉妬されるさ。憎まれもする。ブチ殺してやりたくなるヤツも少ない数じゃあない。そのことはお前だって知っていたはずだ。そうなんだろう?」

「・・・・・・」

「だが、そんな哀れな立場のディリータたちを側に置くのは、お前にとって都合が良かった。

 他の奴らと違って、平民だろうと同じ人間として守ってやるため、そいつらの側に立ち続けて、貴族たちと仲良くしなくていい立場は、お前にとっては便利だった。だから守ってやってただけなんだ。それがお前の本心さ。そうなんだろう? ラムザ」

「違うッッ!!」

 

 反射的にラムザは叫びながら剣を振るい、精神的に弱まって動きが鈍化していたところを斬りつけようとしていた北天騎士の一人を、激情のこもった振り下ろしでバッサリと切り捨てる。即死だった。

 

 ラムザの脳裏には、過去の亡霊のように蘇ってくる記憶が繰り返し投射されていた。

 イグーロス城でアルマから聞かされた相談が。この地へくる前に草原で聞かされたディリータの話が。

 繰り返し繰り返し脳内に蘇っては消えていき、思いの丈を行動にぶつけることでしか冷静さを保つことが出来なかったから。

 

 

 それを見てアルガスは、内心で小さく舌打ちしながら、新たな矢を手元にあるボウガンに込め直し、再び相手の隙を作らせるため言葉責めを再開させる。

 今度は別角度から狙いを変えて、今度こそ確実に仕留められるよう誘導するためにッ。 

 

「自分が小綺麗な夢に浸かっていたい為だけに、側に置いて利用し続けてきた親友と、その妹。考えてみると奴らも哀れな兄妹だったよな。

 ヤツとヤツの妹は、お前たちと同じ場所にいるべきじゃなかったのさ。花でも売って町の片隅で静かに暮らしてれば、それが一番良かったんだ!

 そうすればヤツ自身やヤツの妹が、ここに来ることはなかったッ。ベオルブ家の側で暮らしてさえいなければ、ここで妹が死ぬことも、ディリータが今ここにいることさえなかったんだからな!

 ラムザ! お前が貴族も平民も同じ人間として扱おうと、ヤツら兄妹をベオルブ家に住まわせてたから、だからティータは死んだ! 死ななけりゃいけない場所まできちまったんだ!

 自分勝手な甘えのために巻き込まれて妹まで殺されちまって・・・・・・可哀想なこったよなぁ? なぁ、ディリータ?」

「アルガァァッス!! 貴様だけはァァァァッ!!!」

「ディリータ!? 待てッ! 不用意に突っ込んだら危ないッ!」

 

 やはり引っかかった!! 惜しいところで外してしまったが、やはり狙う先はディリータを優先するのが効率的だ!

 正直、今となってはラムザたちからさえ離反した平民上がりの首には1ギルの価値だってありはしないが、離反されたお仲間たちにとっては未だに守る価値がある相手と思われてるらしくある。

 ならせいぜい、価値ある首を手にするために利用されて死んでもらおう。家畜らしい利用方法と相応しい死に方として!

 

「たかが家畜の妹ごときに命張ろうとするなんて、どうかしてるぜ。バカな家畜の兄貴を飼ってやってた方も大概だけどな!

 まったく、筋金入りの甘ちゃんどもだぜッ! 何故お前なんかがベオルブ家に?」

 

 

「神様が決めたからじゃないですか?

 兄様が“貴族ベオルブ家に生まれて、ディリータさんとティータさんを守らねばならない”と。

 そして貴方は、“貴族社会から排斥されて没落する家に生まれ、すべてを奪われ家畜のように貧しい生活を送らねばならない”と。

 天の意思によって、貴族だけにいる神様が、そうお決めになったからこうなった。

 ―――貴方自身の意見が正しいとするなら、そういうことになるのではないですかね? それとも間違ってた理論でしたので?」

 

 

 突如として横合いから、嫌みったらしい口調ではないものの、言っている内容はドギツイ嫌味そのものでしかない言葉を吐きながら、オレたちの間に割って入ってきて、氷の絶壁のように立ち塞がってくるラムザによく似た見た目の女騎士見習い。

 

 よく見ると、そいつの周囲には見覚えのある顔が集まって、一定の秩序を回復させた組織だって動ける陣形を整え直すことに成功した後になっているようだった。

 

 先程から姿も声も目立たなくなったと思っていたが、どうやら戦場に到着した順でバラバラな配置になっていた味方を集め直して再配置するため密かに死角外を動き回っていたらしい。

 阻止するよう、与えられていた北天騎士の副長に命じていたが、防ぎきれなかったということか。

 相変わらずイヤな野郎の妹だった。兄も兄なら妹も妹だ。

 

「ラムダ、お前はどうなんだ? 何故オレと戦う?

 オレに剣を向けると言うことは、北天騎士団を裏切ると言うことだぞ! いくらベオルブ家の令嬢だからって許してもらえる行為じゃないことぐらい、お前なら分かってるだろうに! なのに何故!?」

「そうでしょうか? 私的にはそーはならないと思いますが・・・・・・まぁ可能性としては無くはないですし、お気遣いどーもッ。とは言っておきましょう。

 ですが私のことより、自分のことでも考えた方がいいのではと思われますがね」

「ハッ! 負け惜しみか? 見苦しいぜラムダ!!」

「違いますよ―――このアホッ!!」

 

 ゲシッ!と。

 目前で鍔迫り合っていた騎士が、大上段に振りかぶったところに足を上げて、お腹に思い切り蹴りを叩きつけて無理矢理に距離を取らせてから一閃して、負傷だけは負わせることに成功するために気合いの罵声を叫びながら。

 

 

 

「今の自分の立場と状況ってものを、少しは考えてみろって言ってんですよ。

 北天騎士団の団長が敵拠点を攻略中に。

 敵の頭目が率いる生き残りが背後から襲ってきて。

 団長が決着のため本体を率いて出陣し。

 敵と戦う団長の背後になった敵拠点で、ベオルブ家兄妹の相手を任された。

 “よそ者の成り上がり指揮官”

 

 ―――使い捨てられましたよ? 貴方。

 

 この戦いで絶対に逃してはならないのは、ウィーグラフさんの首一つだけ。

 ですが戦いに絶対はない。

 一方で逃してしまった時の策を、ザルバッグ兄君様がまったく用意してない無能とも思えない」

 

 

「骸旅団団長ウィーグラフが、拠点に残った部下たちを救うため残存戦力を率いて背後から現れ、北天騎士団長自ら直属部隊を引き連れて賊どもの首魁と決戦に赴く。

 ――が、卑劣にも団長を援護しようと正体を隠して騎士団内部に潜入していた賊どもの一味が、突如として馬脚を現し、決戦に赴こうとした団長に背後から襲いかかり挟み撃ちにしようとする」

 

「それを阻止するため、敵の策を察知して命令違反を犯してまで駆けつけた、ベオルブ家の兄妹たちと士官アカデミーの候補生たちが殿となって卑怯者の賊軍から本体の背後を守るため決死の防戦」

 

「よしんば、卑劣な賊どもを討ち果たせればそれでよし。

 力及ばず敗れようと、兄達の使命と国の平和を守らんがため若い命を捧げ、賊どもの戦いの中で散っていったとして、ベオルブの名に傷が付く死に方にはならないで済む。

 悪いのは、“貴族に生まれながら貴族を裏切り”、仕える主君さえも賊の仲間として売り渡していた誘拐犯どもの主犯だった”、“ランベリー近衛騎士団の騎士見習いだったはずが何故だか北天騎士団の鎧をまとった者達を率いて戦場にいた”そんな立場の、今ここにいるべきではないはずの人物」

 

 

「―――ここで私たちと対峙してしまっている時点で、貴方の宿命は決まってしまったことに気付いてなかったんですか? 周囲をよく見てみたら如何です?

 この状況で、貴方の部下として貸し与えられている人たちが受けている命令で、ありえそうなのは二つだけ」

 

 

「“敗北したときには裏切り者の一味として自殺すること。家族の生活は保証する”

 そして、“勝利したときには裏切り者の指揮官の口封じ役”」

 

 

「いい加減に分かりなさいよ、アルガスさん。

 貴方は私たちとも、兄君様たちとも、周囲の騎士たちとさえ違うって事を。

 貴方は北天騎士団の一員じゃない。ザルバッグ兄君様の部下でもない。

 “ランベリー近衛騎士団から寝返った裏切り者”

 ・・・・・・それが今の自分が選んだ身分なんだって事実を――ね」

 

 

 

つづく

 

 

 

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