諸邦の利害を束ね、敵国の思惑を見抜き、ただ一言で戦役の方向を定めた男。と。
だが、その大半は誤解である。
確かにクラウスは名門ライフェンベルク家の嫡孫にして、陸軍高等軍学院主席、若くして統帥府(参謀本部)に配属されたエリートだった。
とはいえ本人に言わせれば、ただ試験の点が良かっただけで、戦場を切る直観も決断力も野心もない。あるのは、人の話を最後まで聞く忍耐と、怒鳴られたくないという切実な願いだけだった。
会議で意見を求められれば、なるべく穏当なことを言う。
揉めそうな議題は、欄を分けて別の紙にする。
怒られそうな言葉は、怒られない言葉に替える。
それだけのことを繰り返していたはずなのに、味方からは「全体を見通す男」と持ち上げられ、敵国からは「法と兵站を操る若き参謀」と警戒され、歴史には「連邦を統べた沈黙の天才」と書かれていく。
これは、面倒を避けたいだけの青年が、誤解と制度と善意によって、だんだん歴史の中心へ押し上げられていく物語である。
※なろう、カクヨムにも投稿はじめました
| プロローグ | |
| 第一話 連邦の潤滑油 | |
| 第二話 名誉の欄と時刻表の欄 | |
| 第三話 これ試験勉強でやったところだ | |
| 第四話 時間にならない勇気 | |
| 第五話 ハルトゥング少佐 | |
| 第六話 二枚綴り | |
| 第七話 読んだ(理解したとは言っていない) | |
| 第八話 誤読 | |
| 第九話 アウエンホーフの老伯 | |
| 第十話 夏季統合動員演習 | |
| 第十一話 総覧日の王女殿下 | |
| 第十二話 正しさの届き方 | |
| 第十三話 国境へ向かう列車 | |
| 第十四話 通告は守られない | |
| 第十五話 サン・ルネの弔列 | |
| 第十六話 空位の四十日 | |
| 第十七話 ルサント継承戦争 |