後年、ノルトマルクの軍史家たちは、クラウス・フォン・ライフェンベルクを「沈黙の天才参謀」と記した。
諸邦の利害を束ね、敵国の思惑を見抜き、ただ一言で戦役の方向を定めた男。と。
だが、その大半は誤解である。
確かにクラウスは名門ライフェンベルク家の嫡孫にして、陸軍高等軍学院首席、若くして統帥府(参謀本部)に配属されたエリートだった。
とはいえ本人に言わせれば、ただ試験の点が良かっただけで、戦場を切る直観も決断力も野心もない。あるのは、人の話を最後まで聞く忍耐と、怒鳴られたくないという切実な願いだけだった。
会議で意見を求められれば、なるべく穏当なことを言う。
揉めそうな議題は、欄を分けて別の紙にする。
怒られそうな言葉は、怒られない言葉に替える。
それだけのことを繰り返していたはずなのに、味方からは「全体を見通す男」と持ち上げられ、敵国からは「法と兵站を操る若き参謀」と警戒され、歴史には「連邦を統べた沈黙の天才」と書かれていく。
これは、面倒を避けたいだけの青年が、誤解と制度と善意によって、だんだん歴史の中心へ押し上げられていく物語である。
※なろう、カクヨムにも投稿はじめました
諸邦の利害を束ね、敵国の思惑を見抜き、ただ一言で戦役の方向を定めた男。と。
だが、その大半は誤解である。
確かにクラウスは名門ライフェンベルク家の嫡孫にして、陸軍高等軍学院首席、若くして統帥府(参謀本部)に配属されたエリートだった。
とはいえ本人に言わせれば、ただ試験の点が良かっただけで、戦場を切る直観も決断力も野心もない。あるのは、人の話を最後まで聞く忍耐と、怒鳴られたくないという切実な願いだけだった。
会議で意見を求められれば、なるべく穏当なことを言う。
揉めそうな議題は、欄を分けて別の紙にする。
怒られそうな言葉は、怒られない言葉に替える。
それだけのことを繰り返していたはずなのに、味方からは「全体を見通す男」と持ち上げられ、敵国からは「法と兵站を操る若き参謀」と警戒され、歴史には「連邦を統べた沈黙の天才」と書かれていく。
これは、面倒を避けたいだけの青年が、誤解と制度と善意によって、だんだん歴史の中心へ押し上げられていく物語である。
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第一部 ルサント継承戦争編
- プロローグ (改)
- 第一話 連邦の潤滑油
- 第二話 名誉の欄と時刻表の欄
- 第三話 これ試験勉強でやったところだ (改)
- 第四話 時間にならない勇気
- 第五話 ハルトゥング少佐 (改)
- 第六話 二枚綴り (改)
- 第七話 読んだ(理解したとは言っていない)
- 第八話 誤読
- 第九話 アウエンホーフの老伯
- 第十話 夏季統合動員演習
- 第十一話 総覧日の王女殿下
- 第十二話 正しさの届き方
- 第十三話 国境へ向かう列車
- 第十四話 通告は守られない
- 第十五話 サン・ルネの弔列 (改)
- 第十六話 空位の四十日
- 第十七話 ルサント継承戦争 (改)
- 第十八話 昨日までの王国
- 第十九話 請願なき保護 (改)
- 第二十話 高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に現場の判断で対応してください
- 第二十一話 霧の仲介者
- 第二十二話 新たな嘘
- 第二十三話 越境 (改)
- 第二十四話 時程の破壊
- 第二十五話 誤算
- 第二十六話 役割 (改)
- 第二十七話 ライフェンベルク (改)
- 第二十八話 決着
- 第二十九話 野戦勲章
- 第三十話 それぞれの一日 (改)
- 第三十一話 到着と不在 (改)
- 第三十二話 初回協議
- 第三十三話 受け取った紙片
- 第三十四話 報告、連絡、相談 (改)
- 第三十五話 外堀の記録 (改)
- 第三十六話 ロガリアの紅茶
- 第三十七話 敗北の設計
- 第三十八話 本人確認【地図あり】 (改)
- 第三十九話 アヴァロン条約
- 第四十話 二杯目の紅茶
- エピローグ
- 閑話 アウエンホーフの帰郷 (改)
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第二部 三ヶ月戦争編
- プロローグ 宰相府の春 (改)
- 第一話 連邦の麒麟児
- 第二話 火種
- 第三話 予防戦争【地図あり】 (改)
- 第四話 会食 (改)
- 第五話 定例報告
- 第六話 アンナ・フォン・バルク (改)
- 第七話 月を運ぶ列車【地図あり】 (改)
- 第八話 放蕩王、歌劇王、狂王
- 第九話 全会一致
- 第十話 沈黙の価値
- 第十一話 舞台の英雄 (改)
- 第十二話 帝国諸邦会議
- 第十三話 グランツェル夏季演習
- 第十四話 議題の形
- 第十五話 十一の名札
- 第十六話 剣を置いた軍人 (改)
- 第十七話 決議の重さ
- 第十八話 山上宮の王
- 第十九話 陛下の御意のままに
- 第二十話 発火
- 第二十一話 団結
- 第二十二話 明日の仕事【地図あり】 (改)
- 第二十三話 右から左