ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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「嘘だ!嘘だ!嘘だ!!」マリアンは激しく動揺する。

もし、自身がトラキアの者なら確かに理解できる。シュワルテの心を即座に掴んだ事、その後フュリーが言った「天性の素質」といった事。全てがつながって行く・・・。

まるで足元から自身のルーツが崩れるように足元がおぼつかなくなり、頭を振った。

 

「お前がどんなに否定してもいつかは事実がわかるだろう、苦しむ事はない・・・。トラキアにつけば全ては片付く。」

 

「黙れ!私はカルト様に忠誠を誓った剣士だ!!どんなに拒絶されようが、この剣を捧げた私は戦い続ける!!」マリアンは自身を鼓舞して長剣をトラバントに向けるが、その刃先は動揺に震えており明らかに戦慄していた。

 

「そうか、ここまで話しても無駄なら交渉は決裂だ。惜しいが死んでもらうぞ。」トラバントは構えを取る、後ろに控えるドラゴンナイトは出撃しようとするがトラバントは手でそれを制した。

 

「死ね!」トラバントの槍がマリアンへ襲いかかる。

昨夜同様に制圧前進するトラバントの波状攻撃に、マリアンの足は砂漠による踏み込み不足と疲労で沈黙している。長剣で捌きながら後ろに逃げ続けるがトラバントは強く踏み込み逃げ場を与えない・・・。

とうとうマリアンは長剣が砕け、肩口に深く槍が突き刺さる。

 

「ああっ!」なんとか、その槍を抜きつつ後ろに下がる。

鮮血が左腕から滴り溜まりを作る。思った以上の深さで、両脚に加えて左腕までもが沈黙した。

 

「見事だ、そこまで弱っても闘志は衰えていないとはな・・・。」トラバントは一切油断する様子はない。手負いの剣士でも間違いはあってはならない彼の言葉が有言実行されている以上、マリアンに残された手は無かった。

 

「どうだ?これでもまだこちらにはつかんか?」トラバントは再び甘い誘惑をマリアンに持ちかける。

マリアンは「にっ」と、笑うと立ち上がり長剣の柄を投げ捨てる、そして右手を胸元に指し示した。

 

「私の心臓はここよ、さあ!来なさい!!」マリアンの言葉が飛んだ。

 

「・・・・・・。」トラバントは槍を構えたままマリアンの意図を汲んだ、この僅かな戦闘で彼女と切り結んだ中で得た情報を手繰り寄せていく。

 

「・・・カウンターか。」

 

「・・・!」マリアンは読まれた事に驚くが、決死の笑顔は緩めない。読まれた所で状況が変わらない事は承知していた。

 

「無防備を装い、槍でそこを狙えばなんらかのカウンター攻撃を考えているな?危険な賭けには違いないが、生き残る選択といったところか・・・。

それ以外を狙う可能性は考えなかったのか?」トラバントは優位は変わらないとばかりに挑発する。

 

「悔いは残りません。でもあなたには残るかもしれません、少しでもあなたの心にそれが残れば私の勝ちです。」マリアンは颯爽と答える、その答えはトラバントを苛つかせたのは確実であった。

手負いの女性剣士にトドメの心臓を差し出されているのに、させなかった。もしくは別の部位を刺して殺したとなると王として、ドラゴンナイトとしての誇りを失いかねない。それを冥土に持っていくとマリアンは豪語したのだ、トラバントは逆に精神的に追い込まれるかたちとなり苛立った。

 

「・・・覚悟しろ。」トラバントは構える、それは心臓への一撃を宣言するかのように槍を向けていた。穂先は鋭く輝き、マリアンの胸を締め付ける。

 

あの穂先が胸部を貫くか、起死回生の一発を叩き込めるか・・・。マリアンは緊張からくる汗を一拭いして対峙する、武器は長剣は砕けて背中にある鉄の剣のみ・・・。心許ないこの剣では槍を受けても砕かれるだけ、カウンターによる攻撃のみが希望の一閃であった。

 

トラバントが走り出す、その動作を目で追いながら決死の一撃を叩き込まんと全てに集中する。

トラバントの穂先がマリアンの心臓数センチ前を振り上げた左足で阻害する。足裏を突き破るが穂先は辛うじて狂い、心臓直撃は免れた。

マリアンはその左足を無理に捻るとトラバントは攻撃直後の為、一歩つんのめるように足を出す。その一歩が生死を分かつ分岐点、マリアンは前のめりになるトラバントに鉄の剣を心臓めがけ突き出した。

 

トラバントは左手を突き出してその剣を止める。それはマリアンの足同様に、掌を犠牲にした防御である。

互いに鮮血が吹き出し、命を守るにしても多大な犠牲を負った防御である。

 

「見事、このトラバントに命をかけて手傷を負わせるとは、恐れ入った。だが、これで終わりだな。」トラバントはマリアンの足から槍を引き抜くと頭上に振り上げる。

マリアンは足から槍が抜かれだが、その足では立つ事は出来ない。

鉄の剣を左手に突き立てて体重をトラバントにかけて立っているのみで握力がなければその場で倒れるだろう。

 

「これまで、ね・・・。

カルト様、ご武運を・・・。できれば最後まで共に戦いたかった。」マリアンは祈るように呟く・・・。

 

「それが辞世か、キュアンに伝えておこう。」トラバントの振り下ろす槍にマリアンは納得する。これだけの傷を負ったならトラバントは無理せず引き上げるだろう、キュアン王子たちは間違いなくイード砂漠から脱出する事ができる。

マリアンはその時を待つが、それは訪れる事は無かった。彼女の身体は別の力を得て、トラバントから引き離されていた。

 

マリアンは誰かに抱きかかえられいる事に気付き、ゆっくりと目を開ける。

 

 

「キュアン様?・・・!」ぼやけた視界に映るのはキュアンであった、マリアンは臨終の覚悟の際に意識を手放したのか靄がかかったように思考がはっきりしなかった。

 

「よかった・・・、間に合った。生きているね?」キュアンの優しい声なマリアンはようやく安堵を覚えたのか、涙が溢れでる。

 

「キュアン様・・・。覚悟、していたはずなのに、怖かった。」マリアンの鳴き声にキュアンは背中を抱きしめて宥める。

 

「もう大丈夫だ。私がここにいる限り、君にもう怖い事など起こらない。」

 

「キュアン様・・・。」マリアンの足と左腕に自身のマントを割いて巻きつけると、近くの岩場にそっと置いた。

 

「キュアン、こうして話をするのはいつ以来だ?」

 

「今はお前を倒す事しか興味ない。」キュアンの返答にトラバントは笑みを浮かべる。

 

「その子に甘えてレンスターに逃げ帰れば助かったものを・・・、のこのこ出てくるとはな。お前はその子の厚意を裏切ったとは思わないのか?」

 

「さっき助けた時に彼女が怖かったの一言で確信した、もし彼女を犠牲にしてレンスターは救われても私は彼女を救えなかった自身を呪うだろう。

そんなレンスターなど、お前に見抜かれてすぐに滅びる。」キュアンの迷いない言葉にトラバントは「ほう」と感嘆する。

 

キュアンはゲイボルグを構えると、ありったけの声量であたりのドラゴンナイトへ威嚇した。

「さあこい、ハイエナども!!私の命、取れると思うものからかかってこい!!」

先ほどまではマリアンをトラキアに引き込むためにドラゴンナイトを引かせていたが、トラバントも重傷を負った今は悠長に事は構えない。上空にいたドラゴンナイトは戦闘態勢に入っており、トラバントもまたドラゴンに飛び乗って空へと舞い上がる。

キュアンの必死が始まるのであった。

 

ドラゴンナイトの持つ手槍を全てかわし、降下するドラゴンナイトにカウンターで胸部に入る。ドラゴンはそのまま通過するが、乗り手である騎士はキュアンの槍に貫かれて留まり頭上で絶命する。

夥しい血液が辺りを染めあげると、すぐに砂に吸収されていった。

 

その間隙に負傷を追いながらもトラバントはキュアンに襲いかかる、トラバントの持つ天槍グングニルが地槍ゲイボルグを穿った。

激しい槍の衝突が大気に伝播し、マリアンのいる場にまで広がっていた。

グングニルはキュアンを天に突き上げんとするが、地槍ゲイボルグは大地から離れんと留まらんとする・・・。

その攻防の現れであった。

ドラゴンに乗るトラバントであるが、左手の負傷の不利か優ったのかキュアンは競り勝ちトラバントは大空へ退避する。

 

「トラバント様!!」副官であるマゴーネが警戒の言葉を発する。

マリアンがトラバントの高度を確認すると、負傷した足を使わずに岩場から跳躍してトラバントのドラゴンまで飛び上がったのだ。トラバントは鼻を鳴らすと、振り返り様に鉄の剣の一撃に反攻する。

 

鉄の剣は簡単に砕け、トラバントに返しの蹴りをもらい地上へ落下する。追撃の手槍を投げつけたトラバントだが、寸前で割り込んだシュワルテがマリアンの背に乗せて苦境を払った。

 

「シュワルテ!ありがとう。」感謝して背中を撫でるとシュワルテに括り付けていた鉄の長剣を引き抜いた。

トラバントの高度まで戻ったマリアンは、トラバントと副官のマゴーネを睨む。

 

「それがお前の本来の姿か、足を負傷したがシュワルテに乗ればまだ戦えそうだな・・・、厄介な・・・。」

 

「トラバント様、ここは無理せず撤退すべきでは?

足止めは我らが。」

 

「・・・地上はキュアン、空にはこの女がいる。奴らのどちらかをどうにかしないと被害が大きくなるだろう。

私がキュアンを倒す、お前達はあの女を狙え。」

 

「畏まりました、トラバント様お気をつけて。」各々の標的が決まったマコーネと部下のドラゴンナイト、トラバントはキュアンに急接近する。

ドラゴンを地まで降ろさせ、背中より宿敵のキュアンと相対する。

 

「キュアン、実に惜しいがここで死んでもらうぞ。トラキアにとってお前は邪魔なのでな・・・。」トラバントが槍を構えてキュアンを誘う、だがキュアンは構える事は無くトラバントに憎しみとは違う目を向けていた。

 

「悲しい人だ、・・・槍を数度交えてあなたから伝わってくるものは責務だけだ。」

 

「・・・・・・。」黙るトラバントにキュアンは続ける。

 

「トラキアの為に生きるのであれば、なぜ共生の道を選ばなかった。

戦えば戦う程、憎しみが広がる事になる事くらいあなたなら理解していたはずだ。」

 

「資源もなく、外貨もない我らを受け入れる国などあるというのか?我らを受け入れれば自国の食料が流れ危ぶまれるかもしれないのだぞ。それよりも傭兵として雇い、戦争請負としてその場限りの金を払う方が都合がいいと他国は踏んだんだ。

人を殺すのはトラキア兵、だから自国の兵士は傷つかない。他国に憎まれるのもトラキア軍であり、トラキア国・・・。

そうして長年我らはこの大陸の闇を見続けきた、その闇をお前如きが払えると思うか?

私がこの大陸の闇を吐けば、根底から覆る程の情報もあるのだぞ。」

 

「・・・確かに私一人ではその闇を払えるとは思ってはいない。だが、いつまでもトラキアばかりにその闇を抱え込ませるわけにはいかないはずだ。私たちだけではなく、子の世代の為にも少しづつ歩み寄る事はできないのか?」キュアンはトラバントに心の内を吐くがトラバントは意にも介さない、不敵な笑みを崩さずキュアンを見据える。

 

「もう戻れないさ・・・。俺とともにトラキアが滅ぶか、他国を喰ってトラキアに併合するしか進む道はないのだ。」

 

「竜騎士ダインと槍騎士ノヴァは仲の良い兄妹であったそうだが、ゲイボルグにまつわる話の通り、それ以来は仲違いになったと聞く。

まさか100年経っても未だに争っていると知れば悲しむだろう・・・。」キュアンはゲイボルグを構えて、トラバントを見据える。

 

「なら、お前の系譜を潰してこの争いをなくしてやろう。

おしゃべりはここまでだ!!」トラバントはドラゴンに命じて低く飛び上がるとキュアンに向けて急降下する、片手を潰されているとはいえうまく添えて邪魔にならない程度に左手を使っている。

先程と同じく槍を突き上げたが同じ結果にはならず、旋回しながら第二の攻撃がキュアンを襲う、馬を跳躍させて凌ぐがドラゴンの操作が巧みなトラバントはその巨体の不利を感じさせない。

砂漠で足がとられているとはいえ、すぐさま回り込み攻撃を繰り出す。

キュアンの槍捌きの巧みさは大陸一と誇る腕、トラバントの速度に対応して鋭い刺突を受け流す。

激しい火花を散らせながら精神と体力を削りあっていた。

 

その頭上ではマリアンとマゴーネもまた激しい戦いを繰り広げた、マリアンはいつものように足を使った空中を舞う剣士の戦いは出来ない。

トラキアのドラゴンナイトと同じ土俵での戦闘により苦戦を強いられた、それでもシュワルテの炎でマゴーネ配下のドラゴンナイトを屠って一対一へと持ち込む。

 

「シュワルテめ!」マゴーネの怒りを買ったシュワルテはマリアンへの攻撃をフェイントにシュワルテへ銀の槍を突き立てる。

 

「やめて!!」マリアンがそれを受け止めて、マゴーネの所業に睨みつける。マゴーネは意に介せず、にやりと笑うと力比べになったその瞬間を狙って剣を捌くとマリアンの大腿部へ切りつけた。

 

「はっはっはっ!!シュワルテを助けて自身が傷つくとは、馬鹿な女め!」再びシュワルテにつきたてようとするがマリアンは再びその凶行の刃を必死に受け止める。

マゴーネは蹴りをマリアンの顔面に叩き込み、倒れた所に追い討ちの槍を繰り出すがシュワルテが旋回して距離を取る。そして反撃の炎を浴びせるが、マゴーネの手綱さばきに順応したドラゴンは回避して再び攻勢にでる。

 

「シュワルテ、私をあのドラゴンに乗せて欲しいの?私の足では跳躍はできないけどあなたの力を借りれば飛び移れるかもしれない。お願い!」シュワルテは嘶くとマゴーネのドラゴンより早く高度を取る、マリアンに高さを与えた飛び移る様にしていた。

 

「飛び移ればあなたは距離をとって、私が飛び降りた時はお願いね。」鱗を撫でてシュワルテを労う。

マゴーネも攻勢を緩めない、マリアンを追ってきていた。銀の槍を再びシュワルテに向けており、マリアンの動揺を誘っていた。

 

「くっ!」正面から乗り込めば銀の槍に串刺しにされる、マリアンは飛び出せない。シュワルテは炎を吐いてマゴーネの旋回を誘い、それに乗じてドラゴンの尾の根元に噛み付いたのだ。

 

マゴーネのドラゴンが咆哮をあげる、シュワルテは振りほどかれそうになるが更に爪を突き立てた。

 

「ギャアアア!!」悲鳴をあげながら空中で狂ったように飛び回るマゴーネのドラゴンにシュワルテは必至に食らいつく。マゴーネもまずいとばかりにシュワルテに槍を突き刺して引き離そうとする。

銀の槍はシュワルテの首元に強く刺さり、体液が吹き出す。

 

「シュワルテ!お願い無理しないで、後は私が・・・。」マリアンの懇願とは他所に、シュワルテはそのまま炎を吐く。

マゴーネもろともドラゴンは炎に包まれる、だが逆流するシュワルテの炎は自ら頭部を焼いていた。マゴーネと従うドラゴンは一瞬で炎に包まれ堕ちていく・・・。

マリアンに従うシュワルテは自らの意思で彼女を助け、主人の危難を払ったのであるり




キュアン
デュークナイト LV 28

力 26 + 10
魔力 4
技 24 + 10
速 22
運 17
防 25 + 10
魔防 4

連続

ゲイボルグにまつわる悲しい話
公式では無いので確証はありません。ダインとノヴァは聖戦の後、不幸な戦いが発生し、ダインがノヴァの夫を殺害してしまった事から伝えられたと言われてます。
ゲイボルグを持つ者は愛する人を失ってしまう、と・・・。

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