盛大な遅刻申し訳ありませんでした……。
急性胃腸炎で倒れてしまいました……。
「あ、凛、ちょっといいかしら」
休み時間。廊下でショートカットの後ろ姿を見つけた絵里は、声をかける。
「っ! え、絵里ちゃん?」
ビクッと震えた凛は勢いよく振り返る。その過剰な反応にやや疑問を持ちつつ、要件を伝える。
「今度の新曲のフォーメーションで、ちょっと相談が──」
「──あーっ! 次の授業移動教室だったにゃ!」
否、伝えようとした。
突然大声で発言を遮られ、絵里は思わず口をつぐんでしまう。
「えっと……」
「絵里ちゃんごめん! また今度!」
そう言うが早いか、凛は足早にその場を去ってしまった。
残されたのは、
「…………」
中途半端に右手を伸ばしかけた、生徒会長。状況を把握するまでに一分ほど要したせいか、他の生徒に奇異な視線を送られてしまった。
「生徒会長だ。一年生の階で何やってるんだろ?」
「変なカッコしてるけど……」
「きっとスクールアイドル活動の一環だよ! かしこいかわいいエリーチカ先輩だもん!」
「…………」
そんな『かしこいかわいいエリーチカ先輩』は、放課後に生徒会室でテーブルに突っ伏していた。
「……何しとるん?」
一向に作業を始めない相方に、見かねた副会長が声をかける。
「……ぅ……ぃ……」
何やら小さく呟いているようだが、言語としての意味は理解できない。
「確かに今しなくてもいい作業をしておこうって付き合わせたのはウチやけど、そこまで露骨にやる気失くさんでもええやん」
「違うの!」
「うわビックリした」
ガバッと起き上がった絵里は、今にも泣き出しそうな顔で、子供のように潤んだ瞳を希に向けた。
「……で、どしたん?」
「凛が……」
「凛ちゃん?」
「凛が私を避けてるのっ!」
絵里は悲痛にすら聞こえる声で、そう叫んだ。
先ほどの休み時間での出来事を説明された希は、
「なるほどなぁ」
と呟く。勿論、凛の言動にも検討がついた上で。
「どうしよう希……! 凛に嫌われちゃったかもしれない……。私何かしちゃったのかしら……知らない内に厳しく接しちゃった……? それとも無自覚に先輩風吹かせたのかしら……⁉︎」
涙決壊寸前の様子の親友に半ば呆れながら、
「まあまあ絵里ち、ちょっと落ち着こ?」
その頭をポンポン叩く。
「でも……!」
「絵里ちが嫌われてない事は、ウチがよーく分かってるから。きっと凛ちゃんにも、何か事情があったんよ。そんな気にする必要ないで」
「そ、そうなのかしら……」
「きっともうすぐ、その時が来るから」
「希がそう言うなら……」
ようやく落ち着いた絵里に、希はやれやれと小さく息を吐く。
「相変わらず絵里ちは、自分の事にはにぶちんやねぇ」
「?」
「なーんでも」
希が誤魔化したタイミングで、
「──絵里ちゃん!」
勢いよく生徒会室のドアが開かれた。
「お、噂をすれば」
飛び込んできた人物──ちょうど話題だった凛は、半開きの口でこちらを見つめる絵里と目が合うと、パッと笑顔を作る。
「絵里ちゃんお待たせにゃ!」
「え、お待たせって、何が……? えっ?」
いきなり手を握られると、そのまま引っ張られる。強引に連れ出される絵里には、何がなんだか分からない。
「希ちゃんもありがと!」
「大した事はしてへんよ〜」
何故お礼が飛ぶのは分からなかったが、その返答と当たり前のように後ろからついてくる希を見てグルと判断。
「の、希⁉︎ これはどういう事なの⁉︎」
「まあ、それは部室に着いてからのお楽しみにってヤツやん?」
「絵里ちゃんのお誕生日、お祝いする準備万端にゃ〜っ!」
主役を引きずって右手を突き上げる凛に、あーあフライングしちゃったと希は苦笑。
やや怖い思いすらした絵里が盛大なお祝いで忘れられない日を過ごすのは、また他のお話。