我が呼ばれたき名は   作:油揚げ

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第四十三話 新たなる獣魔術

 

 【真宮寺君江様へ】

 

 そう宛名が書かれた封筒をハーンは大事そうに胸に抱えていた。

 結論から言うと、八雲のナンパは大失敗だった。外国で日本語でナンパしてくる男なんて普通に考えても胡散臭い。それに日本人観光客が他国で拉致され殺されたというのもここ最近の出来事だ。八雲がイケイケであったとしてもナンパの成功確率は限り無く低かったのだ。

 一日、不死ですらも死にかけるような精神疲労を味わった八雲は一つの策略に出た。それが真宮寺君江という人物をハーンに紹介するという手だった。

 

「真宮寺君江……Sinnguuji……Kimie」

 

 完全な偏見だが、何処かお嬢様で撫子っぽい名前は外国人であるハーンを深く感動させていた。

 

「藤井、これって」

「あぁ、お前を紹介する手紙を入れておいた。これを渡せば問題無い」

「ああああぁあ!ありがとう!!ありがとう……」

 

 なんやら様子が何処かおかしい八雲と拝みながら感涙を流すハーン。そして八雲を射殺すように睨みつける白。

 

「八雲……お前」

「白姉ぇ、今は抑えてくれ、後から幾らでも殴ってくれていいから」

「……不死身のお前をいくらシバいてもタダ同然だと思うが」

 

 この八雲が紹介した人物はずばり白のママというか叔父である。本名はもちろん別にあるだが、これはオカマバーで働く際の源氏名である。

 唯一の肉親を売られたのだから、白の怒りも当然である。だが、どこか自分たちが困っていれば最大限の援助をしてくれるというのも分かっており、ママ自体は怒らないという確信が白には有った。というか、それを見越している八雲に余計に腹が立っていた。

 

「ハズラットが向こうに着く前にお前から説明しておけよ」

「わ、分かってるよ」

「ありがとうなっ!藤井っ」

 

 白達が険悪な雰囲気の中、一人でテンションが上がりまくっていたハーン。ひとしきり喜んだあと、八雲の両手を強く握りしめた。

 だが、それが悪かったのだろう。喜びのあまりに八雲の血が入った試験管はハーンの手を離れよりにもよって獣魔の卵の上へと落ちていく。これが柔らかなソファならまだ救いが有ったが、獣魔の卵は所々が尖ったりする異形の形をしており、無残にも試験管は割れてしまう。

 

 バリン。

 

 音に気付いた時には既に遅きに失し、卵は瞬く間に孵化し始める。

 

「ハーン!おいっ!」

「やべっ」

「さっさと封印するとか、結界を張るとかしろ!」

「急には無理だ!」

「だったら対策とか無いのか!」

「……うーん、発掘して速攻で此処に来たからな、何の卵かは分からん。まぁ、そんなに怒るなよ。俺だって遺跡の調査とか出費を考えたら相当だぜ?」

 

 コントの様にドタバタする二人に対し、白はパイと鈴々(リンリン)を背後に庇い臨戦態勢を取っていた。

 

「来るぞ!」

 

 白の言葉が合図となったのか、一つ目の卵から凄まじいスピードで獣魔が飛び出した。

 

「うぉっ!?」

「速いっ」

 

 部屋を縦横無尽にそれは飛び回ると背後から八雲に向って渾身の力で突進する。

 

「後ろだ!八雲っ!!」

 

 八雲から離れていた白は指示を飛ばす。

 

「っ!?ぐぉお!!?」

 

 ズンっ!

 白の警告を聞いていたため、間一髪ではあるが八雲は獣魔を受け止める。しかし、獣魔は受け止められつつも八雲をじりじりと八雲を後退させる程の力で八雲を押し返していた。

 

「藤井よくやった!そいつは走鱗(ツォウリン)だな。移動用の獣魔術で攻撃力が大したことが無かったのは助かったな」

「攻撃力が大したことないって……結構すげぇ力だぞ。俺の腕だとやっとだっ……」

「惜しいが、そいつはくれてやるよ。さっさと契約しろ」

「分かったよ。そういや、もう一匹は……」

 

 思うところがありつつも、自業自得も有り八雲は溜息を吐きながらもハーンからナイフを受け取ろうとし、ふと八雲は獣魔の卵はもう一つ有ったことを思い出す。そして、徐に卵があった場所に目をやると……。

 

「げぇええ!?あいつは……っ」

 

 ゆったりと卵から姿を現したのは光り輝く三つ目の東洋龍。二メートルを越える体躯からは生まれたてとは思えぬ覇気を纏い、自身を孵化させた血の持ち主を射抜くように睨みつけていた。

 その正体は光牙(コアンヤア)。八雲をしてすげぇパワーと称される光術系獣魔術である。

 

「むっ」

 

 光牙がその身を撓ませた瞬間、白は一瞬で尾を一本顕現させると、自身と八雲達を包み込み尾を鋼へと変じさせた。

 

 ドォオオオオン!!

 

 直後に爆音が響き渡る。そして、間髪入れず、もう一度、衝撃と音が繰り返された。

 

「どうやら手が出せんと一時、身を潜めたか」

 

 尾の隙間から周りを見渡し、安全を確認すると白は尾をしまう。

 

「え……あ、あんたは一体……いや、そ、その白髪……ま、まさか」

 

 変化した白の見た目とその身から放たれる妖気の様な力にハーンは気圧されつつも、裏の世界にて噂される悪しき妖怪を倒すという謎の妖怪女を思い浮かべていた。

 

「妖怪どもに関わるなら知っていても不思議じゃないか、その分だと碌な……」

「す、すげぇ!出鱈目だと思ってたけど、実在していたなんて、サ、サインを……」

「……は?ま、まぁサインは置いておいて、ここからどうするかなんだが」

 

 慣れない反応に眉を顰めるも白は光牙の破壊力と危険性から今後の方針を速やかに決めようとする。 

 

「あ、あぁ……藤井!」

「お、おう」

 

 ややテンションが上がっているハーンでは有ったが、秘術を扱うからこそ冷静に戻り、八雲にナイフを投げ渡した。

 

「そいつが気絶しているうちにな済ませろよ」

「それもそうだな」

「我、今、大地の精霊に願い奉る。我が血と引き換えに獣魔、我に従わせ給え。我が名は藤井八雲」

 

 八雲が手を当てる走鱗の頭部に梵字が刻まれる。ここに契約はなったのだ。これで八雲は三つの獣魔を習得したことになる。攻撃の土爪(トウチャオ)、防御の鏡蟲(チンクウ)、移動用の走鱗。バランスは悪くはない。

 

「よし、あとは結界でも張って光牙との接触は断てばいいな。お前の血で孵化したあいつはお前の精気しか求めないから、人里離れた場所で十日もすれば餓死するぜ」

「そうか、今回は結界内で孵化させたわけじゃないからか」

 

 そういうと、かつて結界内で三日三晩もかけて土爪と契約したことを八雲は思い出していた。

 

「ともかく、一件落着だ」

「あぁ、じゃあ、俺は日本に行くよ。ははは」

 

 何故か事態を終わらせようとする二人に噛みつく者がいた。

 

「それで……」

「それで良いのか、八雲」

 

 白の言葉に被せるようにパイ、いや三只眼が呆れたような、攻めるような声色で話しかけた。

 

「せっかくの光牙だ。現代では希少なのだろう?無駄死にさせて良いのか」

「そりゃあ、勿体ないとは思うけど、俺が欲しいのは争う力じゃなくて、争いを止める力で……」

「バカバカしい!!それは力を極めた者のみが許される言葉じゃ!若輩者が言って良い言葉ではない!!」

「で、でも」

 

 徐々にヒートアップする三只眼と、食い下がろうとする八雲。それは八雲に残された人として優しさ……あるいは人からこれ以上、かけ離れたくないという足掻きなのだろう。だが三只眼の次の言葉が八雲を閉口させた。

 

「次も白や儂に助けられるのか?」

「う……」

 

 諭すよう、そして突き放すような三只眼の問いに八雲は後退り俯く。

 三只眼の言葉はまさに八雲が心の何処かで抱いていた事であり、図星だったのだろう。

 

「はぁ、まったく甘ちゃんが……し、白さん?」

 

 憎き相手である八雲が言いくるめられていることに、ニヤニヤ笑うハーンだったが、白が二人の会話ではなく、何処か遠くを眺めている姿に釘付けになってしまう。

 

「来るぞ」

「えっ」

 

 音を切り裂くと音と共に光牙は八雲に向かって一直線に戻ってくる。

 

「とりあえず、ここでは被害が大きすぎるな。移動させるぞ」

 

 再び妖撃社に突っ込もうとする光牙に合わせて白の尾が放たれる。鋼と化した尾と光牙がぶつかり再度、爆発が起こると、爆発から光牙が在らぬ方向へと逃げていく。

 

「ほら、さっさと行くんだな。このままだと会社が更地になるぞ」

「うわぁああ!?」

 

 呆ける八雲の徐に掴み上げると白は容赦なく八雲を窓から投げ捨てた。

 

「白ちゃんは行かないの?」

「大きなモノだけ片づけて、後から合流する」

「ありがとう~助かるわぁ」

 

 まるでガス爆発にでも遭ったかのような壮絶なオフィス、憑魔一族に荒らされたのを直したばかりだというのに、今日も悲惨な目に遭いがちな妖撃社なのであった。

 

 

 

 

 

 ドォーン!

 何度目にになる爆発音が遠くから響く、どうやら八雲達は光牙捕獲に中々苦戦しているようであった。

 吹き飛んだテーブルやらテレビ、そして使い物にならないものは脇に避けながら、音の鳴る方に二人は視線を向ける。

 もくもくと立ち上がる煙と消防車の音。光牙自体は自らを吹かせた血液の持ち主、つまり八雲を狙うらしいが、攻撃力が高いので普通に周りを巻き込んでいた。長引けば怪我人、最悪死者が出てもおかしくはない。

 

「香港大丈夫かしら」

「八雲の手数だと厳しいかもな……鈴々さん」

「うん、片付けありがと。あっちの方を手伝ってあげて。……何年たってもなぁんか、良いところで頼りにならないのは八雲らしいわねぇ」

 

 ふっと白は同意するように笑うと、窓から飛び出し、屋上へと駆け上がる。

 

「何処かを目指している動きだな……」

 

 騒ぎが起こっている場所を目で追うと、その動きはある時を境に一直線の軌道を取っている。これは八雲が何らかの作戦を思いついたことを物語っていた。

 八雲の居場所を確認すると白はビルの屋上をぴょんぴょんと跳んで合流を図る。

 

「なるほどミラーハウスか」

 

 八雲の目的地付近に到着した白は巨大なミラーハウスを見やると八雲の策略をおおよそ理解した。光牙は光の性質を持つ獣魔である。流石に実態を持つがゆえに光の速度は出せないが、その速度はかなりのものだ。そして光と同じく鏡などで反射するという性質を持っている。白が咄嗟に鋼の尾を出したのもその対策だ。ベナレス程の術者なら手前で爆発するなどの対処をされるだろうが、未契約の光牙にそんな知能は無い。

 

「来たか、悪いが今回は手を貸すなよ白」

「三只眼」

「文句は無いよう様じゃな」

「香港が崩壊しないか気になるが……まぁ无関連の事態ならともかく、この位の些事は一人で解決して貰わんと困るな。だが、流石に被害が大きすぎるとなったら手を出すぞ」

「ふふふ、それで良い。……甘ちゃんかと思っておったが、良い性格をしとるな」

 

 必死に走る八雲を眺めながら白と三只眼は笑いあっている。ハーンは事態を招いたにも関わらずそんな二人にドン引きしていた。

 

(こわぁ……白さん。見た目は滅茶良いけど力も性格も強すぎる)

 

「どうした?」

「い、い、いや、な、なんでも、ないっ!です……」

「ふぅん、お、上手くミラーハウスに入ったぞ。しかしあれだと、不利を悟ったら光牙は逃げるじゃないか?」

「そ、そんな時はっ」

 

 懐から何処かの民族の意匠が込められたペンダントの様な物をハーンは取り出すと、それをミラーハウスの入り口に掛けて、何某かを唱えた。

 

「ほぅ、結界か手際も良い」

「あ、あぁ。て、手間と、じ、時間は掛かるが予め術を込めておいたんだ」

「効果は?」

「そ、それは……」

 

「ぎぇえええええ!!?お、おい、通せっ!!」

 

 ミラーハウスでの戦いは思った以上に過酷だったのだろう。光牙を捕らえられてもミラーハウスの中は広い、辺りを高速で反射しまくる光牙に八雲は対処出来ずに、入口へと逃げ帰ってきたのだ。

 

「禁呪を施した。半日は何人たりとも通ることは出来ん」

「ぬぉおおお!!?」

 

 電流の様な衝撃が八雲を襲う。ハーンが施した禁呪は決められた時間、双方からの移動を禁じる物だった。時間を限定することで効果を跳ね上げているのだろう。

 

「あ、危ないぞ」

「なるほど、周囲に展開されれば面倒だな」

 

 結界に触れた手がバチバチと音を鳴らすが白は意に介さない。それどころか更に力を込めると結界はより強く輝き抵抗する。

 

「時間を限定的にすることで効果を上げているのか」

「あ、あぁ、よ、良くわかったな」

 

 ハーンの回答にふむと頷くと白は結界から手を退けた。白自身は結界術を使える訳ではないが、これでも人類屈指の高度な結界を何百年も間近で見ていたため、結界の起点や弱点を見抜く目は相応に身に付いていたりする。

 

「しかし、このままじゃ埒が明かないだろう……周囲の被害が無くなったのは良いが」

 

 うぉおお!?わぁあああ!

 ミラーハウスの中から八雲の絶叫が響き渡る。不死ゆえに死ぬことはないが、そもそも不死を除けば先ほど契約した獣魔術を含めて三つの術しか攻勢に使えるものがない。ちょっとした補助の術も覚えているが、この状況を打破できるものではない。

 

 どぉおおおおん!!

 

「ん?」

「あ、あのバカ、外に出てたらまた被害が広がるじゃねーか!」

 

 白が手持ち無沙汰に思案に耽っていると八雲が土爪(トウチャオ)で壁を破壊して外に飛び出してきた。禁呪をわざわざ施したハーンは怒りを露する中、白は八雲の瞳に確かな光が宿っていることに気づいた。

 八雲はミラーハウスから出たにも関わらず、逃げるでもなく周囲をキョロキョロと見渡していた。

 

「藤井!後ろだ!」

 

 ハーンの警告にピクリと八雲は反応するが、その眼はある一点に注がれる。そこには爆発音に驚き尻もちをついている一人の老齢の男性だった。

 

「な、なんじゃ……」

「爺さん、少し借りるぜ!」

「お、おい!?」

 

 八雲は男性が手にする水筒をひったくるとその中身を全て捨てる。そして、そのまま八雲は水筒の口を光牙へと向けた。会社のオフィスを半壊させ、コンクリート製の壁を易々と破壊する光牙に対して無謀としか言えないだろう。しかし……。

 光牙の着弾と共に辺りに広がる衝撃、それは今までのモノとは格段に小さなものだった。

 

「我、今、大地の精霊に願い奉る。我が血と引き換えに獣魔、我に従わせ給え。我が名は藤井八雲」

 

 光が迸り契約が完了する。

 

「水筒か……考えたじゃねーか」 

 

 八雲に駆け寄り手にした水筒を見るなりハーンは感嘆の声を漏らした。水筒は保温性を高めるために内部は鏡面となっている。しかも出入口はただの一つしかないため、捕らえられた光牙はそこからしか出ることが出来なかったのだ。たとえ、罠と分かっていても。

 

「はぁ……なんかとんでもなく疲れたぜ」

「もとはと言えば、お前のせいだがな」

 

 何処か被害者面をする八雲に白は呆れたように声を掛けた。

 そもそもが獣魔術欲しさに白を差し出そうとした八雲が発端であり、約束を反故にされたハーンが怒りを覚えるのも当然である。なんならハーンは今回の一件で更に獣魔の卵を二つも失っており、むしろマイナスである。

 

「じゃあ、俺は君江さんの所に向かうからな」

「あ、あぁ達者でな」

「……」

 

 ハーンはよほど真宮寺君江こと白のママ、というか叔父に逢いたいのか荷物を纏めるとその場を後にする。飛行機はキャンセル待ちで出来るだけ早く向かうらしい。ウキウキというかワクワクという擬音が似合うその姿は真宮寺君江の正体を知る者からすれば憐憫すら浮かぶほどだ。

 

「結局、獣魔の卵をタダ同然で四つもアイツはお前に渡す羽目になったのかハーンは」

「……ハ、ハハ」

「いつか、ちゃんと礼をしとけよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無論その後、真宮寺君江の正体を知ったハーンは更なる憎悪を八雲に抱くことになるのは言うまでもない。




ここから始まる光牙 大 酷 使 時 代!
正直、これが強すぎる。地球防衛軍6で言うと雑にブレイザー持ってけば良いレベルで使ってる。一巻に一回以上は使ってるんじゃないのかな……。一番最初のボスキャラだった土爪君も思い出してあげて。
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