織斑一夏にとって、彼女は全てだった
『
欲しいものがあれば力尽くで奪った。殴ってきたら倍以上にして殴り返した
『ア、アノ……アリガトウ…』
『…どういたしまして…』
どんな敵がどれだけやってこようと、片っ端から、暴力でねじ伏せていった。姉には迷惑をかけたが、そんな生き方しかできなかった
『あ〜あ、またケンカしたの?まったく本当に懲りないわねぇ…』
『…わりぃな…』
『そう思うなら気をつけなさいよね!毎回怪我診てやってるアタシの身にもなりなさいよ!』
『すいません…』
だが、彼女に……鈴に出会ってから全部が変わった
『アタシ特製、酢豚定食のおまたせ〜♪………って一夏ァ!!アンタなんでまた料理がめちゃくちゃになるくらい調味料かけて食べてんのよッ!』
『うまーい!』
『『うまーい!』じゃないわよ!このバカ一夏──!!』
白黒だった景色に色がつき、些細な会話が楽しく感じ、鈴の声が、感触が、笑顔が、全て愛おしく思うようになった
『ねえ一夏…アタシが
『忘れねぇよ』
『え…?』
『俺は、何があっても忘れねぇ』
暴力で敵を倒す生き方しか知らない一夏に、新しい生き方を教えて、一緒に歩いてくれると言った
『一夏…アタシ…アタシ…一夏が好き!!』
『………俺もだ』
『!』
『俺もお前が好きだ、鈴』
彼女は文字通り一夏の世界を変えた
『じゃあね一夏!浮気なんかしてみなさいよ、アンタでもボッコボコにするわよ!』
『しねぇよ……お嫁さんになるんだろ?』
『…うん!アタシの花嫁衣装、楽しみにしときなさいよ一夏!』
ずっと一緒にいられる
『ああ』
…そう思っていた
『昨日、◯◯空港から出発した、中国行きの便の飛行機が墜落しました。搭乗員、乗客は全員死亡。墜落した原因は、飛行機の残骸の形跡から正体不明のISの攻撃によるものと見られ……』
『───え?』
…だからこそ、一夏は決して許さなかった
自分の世界を変えてくれて、一緒に幸せになってくれると約束してくれた恋人の命を奪った奴が。血液が沸騰し、煮え繰り返りそうなほどの憎悪を抱く
奴はこう言った
『このIS、いっくんにあげる。だから〜…ま〜た強くなったら、頑張って私を殺しに来てね☆』
「掌の上で踊られていろ」と奴は言った
ゆえに、一夏は誓った
必ず奴を………あの「天災」を殺すと
「───きろ!…おい一夏、起きろ!」
「…んあ……?」
体を揺らされる感覚と怒鳴り声が耳に入ってくる
寝ぼけ眼で見てみると、茶色く長い髪を緑色のリボンでポニーテールにしたスタイルの良い少女と、これまた長い銀髪の腰まで伸ばした背丈の低い少女がいた。片方は眉間にシワを寄せ、もう片方はあきれた表情をしている
「なんだ、ラウラと………なんて名前だっけアンタ?」
「お前はまだ覚えていないのか!?篠ノ之箒だ!いい加減覚えろ!!」
「あきらめた方がいい箒。一夏は興味のない女にはとことん覚えが悪いからな」
ポニーテールの少女「篠ノ之箒」の憤慨を、銀髪の少女「ラウラ・ボーデヴィッヒ」がなだめる
そんな2人をあぐらをかきながら寝ていた一夏が見ていると、鋭い切れ目をした、クールビューティーという言葉が似合うスーツ姿の女教師が話しかける
「ようやく起きたか。こんなところでまで寝ているとは、相変わらずお前は神経が図太い奴だな」
「よう、姉貴」
そう、彼女こそ、一夏の姉である「織斑千冬」である。覇気のない一夏と違い、切れるナイフならぬ斬鉄剣が如き雰囲気をまとっているが、顔を見れば姉弟と分かる2人だった
ここはIS学園。現代に存在する兵器を全て凌駕するマルチフォーム・スーツ《インフィニット・ストラトス 》…通称ISの扱いを学ぶ女子高である……そう、
ISは本来、女性にのみ扱えるものであり、つまり男である一夏がIS学園にいるのはおかしいことだが…何を隠そうこの男、世界で史上初の『ISを使える男』なのだ
そして一夏が今何をしているかといえば…クラス代表を決める為の決闘前にもかかわらず、ぐっすり熟睡していたのだ
「ここでは織斑先生と呼べ…まあ、今この場に一般の生徒はいない。だから見逃してやる」
「…わりぃ…」
姉には何度も気を使わせてしまってる。そう感じて謝罪の言葉を口にする
タッタッタッ…
「お、織斑くん織斑くん!届きました!IS届きました!」
「落ち着け、山田先生」
駆け足気味でやってきたのは、眼鏡をかけてほんわかとした雰囲気を持つ1年1組の副担任「山田真耶」であった。ちなみに千冬は担任、一夏と箒とラウラは1組所属である
「これが織斑くんの専用機《白式》です!」
届いたコンテナが開き、中から現れたのは純白のISだった
ISを動かすには『ISコア』と呼ばれる心臓部が必要不可欠であり、これがなければISは機能しない。そしてコアの製造は
それゆえに1つのISコアを個人で所持することが許される専用機持ちは、IS乗りにとって1つの憧れでもあるのだ
だが、一夏はそんな専用機を見ても喜ばない。それどころか、垂れ目気味な眼を細めて《白式》を睨む
「……姉貴」
「なんだ?」
「…こいつは「あの女」の差し金か?」
「…大部分はあいつが作ったそうだ」
「そうかよ…」
それだけ聞ければ十分だと
そう言わんばかりに一夏は腰につけていた柄だけの物体を握り、勢いよく振るう。すると柄の先から鋼色の液体…流体金属が弧を描き、瞬く間に固まり、大振りの蛮刀に変わった
それを初めて見て驚く真耶だが、一夏は少しも気にせずにそのまま《白式》の前まで近づく
蛮刀を居合のように腰に持っていき中腰姿勢で構え
キィィン……
蛮刀を振り切ったと同時に《白式》に背を向けた。これらの動作は、全て一瞬のうちに行われたものだ
そしてさきほど自分が寝ていた場所の隣に置いてあったテンガロンハットを拾い、頭にかぶる
チリーン
テンガロンハットの端についたリングが鈴のような音を鳴らした時……背後のISはコンテナごと斜めにズレ、崩れ落ちた
「なッ!?」
「ええええ!?」
『ISを生身で切り捨てる』
たとえISが最強の兵器を言われる所以のシールドバリアーや絶対防御が発動してなかったのだとしても、一夏がやってのけた事は間違いなく人間業ではなかった
「はぁ…やはりこうなったか」
「さすがは一夏だな」
驚かないのは一夏の強さと成長を間近で見てきたことがある2人だけだった
「どっから出てあいつと戦えば良いんだ?」
「そこにISの射出口がある。そこから出れば良い」
それを聞いた一夏は、蛮刀を手に持ったまま、生身で射出口の方に向かって歩き始める
そんな一夏に、箒は声をかける
「一夏!!」
ピタッ
「…男なら、これくらいの障害、乗り越えてみせろ!」
激励は伝わったのか?伝わらなかったのか?
だが一夏は確かに立ち止まり、その言葉を聞いてから再び歩き出した
「あああああ……《白式》がスクラップになるなんて…倉持技研になんて説明すれば…」
「山田先生、それの対処は後にする。急いで
「は、はい!分かりまし……え?」
思わず千早の指示通りに動こうとしたが、出された命令のおかしさに気づき振り返る
「あの、先輩…なぜシールドバリアーを…?シールドバリアーを解除してしまったら、観客に危険が及びますよ?」
「一夏が「アレ」を使う以上、シールドバリアーを張っていたら間違いなく破られる。詳しい説明は今はできん。早くやってくれ」
「は、はい!」
真耶が忙しなくキーボードを打つ中、千冬は射出口の中を歩いていく弟の背中を見るのだった
一方アリーナの中心では、宙に浮く影が1つ
「…遅いですわね。わたくしをいつまで待たせるつもりですこと…」
金髪でベリーロングの髪型をした彼女の名は「セシリア・オルコット」。イギリスから留学してきた国家のIS代表者…その候補生であり、その身に纏う蒼いISは彼女の専用機《ブルー・ティアーズ》である
セシリアがここにいる理由…端的にいえば彼女が一夏に決闘を申し込んだからであり、しかし対戦相手の一夏がなかなか現れないこともあり、セシリアはかなり苛立っていた
コッ…コッ…コッ…
そんな時、アリーナに小さな足音が響く。観客席がIS学園の生徒で大勢いるにもかかわらずその音ははっきりと響き、そして音は徐々に近づいてきて…
「…ようやく来ましたわね」
─── ISの射出口から姿を現したのは……全身が真っ黒い、タキシードのように見える特注のIS学園の制服を身に包んだ、織斑一夏の姿であった
「ところで、なぜISも装着せずに来たのでしょうか?もしかして、今更になってわたくしと戦うのが恐ろしくなって降参しに来たと?まあ、わたくしは寛大ですから、今この場で許しを乞うならば」
「違うね」
自分に酔ったセシリアが胸を張りながら言い続けるのを一夏が一言で制する
「俺がここに来た理由はただ1つ…俺の女をバカにしたテメェが許せねえからだ!」
テンガロンハットの右側にあるリングに左手の人差し指を入れ、帽子を左手側に180°回転させる
すると右手に持った蛮刀に9つの穴が空き、その蛮刀で空中に大きくVの字を描く
ちょうどそのタイミングでアリーナのシールドバリアーが消え…その直後、高高度から謎の物体が飛来してきた
「なんですの………巨大な、剣?」
そう、一夏の背後に落下してきたのは十字架のように降ってきた人間大ほどの剣
その剣は1人でに動き出し、自ら変形していく。やがてその形は……背中に変形前の剣先を背負った、白い人型になった
「姿が…!」
地面に蛮刀を突き刺すと、持ち手が変形して一夏の右腕と同化する。そして背後のワープホールの中に入る
『ウェイクアップ…ダン!』
そしてワープホールが消えた時、空から降ってきたIS…《ダン・オブ・サーズデイ》の目が赤く光る
「…フルスキンのISとは、ずいぶん変わっていますわね…しかし、所詮は素人、それも男の操るIS…」
再びアリーナのシールドバリアーが張られ、試合開始のカウントダウンが始まる
《ブルー・ティアーズ》は空中に漂ったままスターライトmkⅢを手に《ダン》を見下ろし、《ダン》は地面に立ちながら背部から腕ほど長い刀を取り出す
3…2…1………0
「──一瞬で終わりですわ!」
カウントダウンが0になると同時に、セシリアはレーザーライフルで《ダン》を正確に狙い撃った
『ああ、終わりだ』
ドゥン!!
…だが、その時、すでに《ダン》は《ブルー・ティアーズ》との距離を半分も縮めていた
『ちぇりあッ!』
そして当たる寸前のレーザーを、一夏は刀を素早く振るって四散させた
「レ、レーザーを切り払っ!?」
あまりにめちゃくちゃな光景にセシリアは驚愕するが、すでに《ダン》は目の前まで来ていた
ガギィン!
「きゃあああ!!」
刀の一撃をもろに喰らい、空に浮いていた《ブルー・ティアーズ》は地面に叩き落とされる
(な、なんて重い一撃…!し、信じられませんわ…今のたった一撃でシールドエネルギーが6割も持っていかれるなんて…!)
「よくもやってくれまし…」
しかし、セシリアはそのセリフの続きが言えなかった
なぜなら、刀を振り回しながら宙を跳ぶ《ダン・オブ・サーズデイ》が、刀を逆手に持ちながらセシリアに向かって落下してきたのだから
(ブ、ブルー・ティアーズもインターセプターも間に合わない!?)
そう察したセシリアは手に持ったレーザーライフルで刀を防ごうとする
「チェーストォォォッ!!」
ズバンッ!!
だが、《ダン》の全身を乗せた一撃に耐えられるはずもなく、《ブルー・ティアーズ》はスターライトmkⅢごと斬りつけられた
ビーッ!
《ブルー・ティアーズ》のシールドエネルギーが0になり、試合は10秒にも満たぬ時で終わりを告げる
チリーン
鈴の音が、アリーナ中に響き渡った
この物語はハイスピード学園バトルラブコメではない
「俺の名前は織斑一夏です…」
「…そ、それだけですか?」
「はい…」
「おい…ついて来い」
「…どちら様ですか?」
「な!?貴様、幼なじみの顔を忘れたというのか!?」
「一夏!約束通り嫁になりに来たぞ!」
「…ラウラ?なんでお前がここにいんだ?」
「俺は童貞だ!」
「む、そんな事を気にしてたのか?それならば私も…」
「言うな!はしたない!」
「決闘ですわ!」
「嫌だね」
「…いた!見つけた!アヒャヒャヒャッハァ!!」
「テメェもあいつを狙ってやがんのか…!?」
「あの女はボクが殺すんだ。邪魔をするなら容赦はしないよ」
「テメェは殺す!!鈴の仇ィィィィィ!!」
この物語は、痛快娯楽復讐劇である
「チェェェェェストォォォォッ!!!」
to be continued…?
続きは書いてみたい。でも書けば泥沼になる。なので書きません。ゴメンナサイ