我らが帝国に栄光を!   作:やがみ0821

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連合王国の解体方法

「素晴らしい、素晴らしいぞぅ……!」

 

 怪しく笑うターニャ。

 連合王国との戦争は最終段階になりつつあった。

 

 第203航空魔導大隊は現在、アイルランドに駐屯し、そのまま連合王国に対する奇襲的な攻撃を仕掛けている。

 

 今までは空軍の攻撃隊に先んじて、ターニャら魔導大隊が牽制の一撃を食らわせていたが、最近では空軍の攻撃隊を隠れ蓑にしている。

 

 すなわち、空軍による爆撃で混乱しているときに、こっそり侵入し、目標を攻撃するという形だ。

 

 アイルランドに進出してきた西方軍に所属する魔導大隊や他の即応軍魔導大隊もこれには参加し、本格化している。

 また帝国の魔導大隊は自由な魔導師狩りが許されている。

 補充が難しいからこそ、始末してしまえば魔導師の数は減少するという単純な論理だ。

 

 

 そして、ターニャが怪しく笑っている理由は、先程届けられた報告によるものだ。

 イルドアとの講和が成立し、彼らは未回収のイルドアとされている地域が正式に帝国領土であることを認めたのだ。

 

 彼の国とは実質的に休戦状態であったのだが、連合王国の負けっぷりにようやく決断ができたらしい。

 

 連合王国が破れた後、帝国軍の膨大な戦力が自分達に向けられたらひとたまりもないと察したのだろう。

 他にも少額の賠償金やら、イルドア植民地における帝国企業の進出やらが認められたらしい。

 

 これによって地中海の制海権と制空権は実質的に帝国が握ったも同然だ。

 連合王国の地中海艦隊や空軍部隊は既に本土へ引き上げており、残っているのは植民地軍と少数の本国軍地上部隊。

 彼らは帝国に空と海を抑えられて何もできなかった。

 連合王国上陸作戦が先か、それともスエズ運河の攻略作戦が先か、大隊内で賭けになるくらいだ。

 スエズ運河を抑え、紅海に帝国海軍が進出すれば植民地との海上ルートが復活する。

 開戦以来、中立国経由で帝国本土と植民地は資源や物資のやり取りをしていたのだが、料金は高く、時間も掛かる。

 それをやらなくていいというのは帝国にとって大きな追い風となる。

 

「連合王国は風前の灯火、次は連邦かぁ……」

 

 ターニャは反共主義者である。

 しかし、彼女は連邦と真正面から戦うのはよろしくないと考えている。

 

 現状のまま、休戦するというのが帝国側にとっては良い手ではあるが、連邦側は納得しないだろう。

 

 そんなことになれば、共産党のメンツが潰れ、統治に重大な影響が出るからだ。 

 何しろ、殴りかかってきたのは連邦で、待ち構えていた帝国軍にボコボコにされたまま、引き下がるというのはできない選択肢だろう。

 そういった意味でイルドアや協商連合は内情がどうであれ、開戦して帝国軍にボコボコにされた後、一切攻勢に出ず、戦争を終結させたというのは賢い選択だ。

 

「油断や慢心さえしなければ野戦軍は撃破できるが……」

 

 WW2末期のソ連軍みたいな装備と物量の連邦軍相手に、帝国はそれが可能だとターニャは思う。

 帝国の軍事力とそれを支える国力は絶大だ。

 

 

 もっともターニャの心配をよそに、既に帝国軍では連邦侵攻向けの物資類の集積が始まっていた。

 大兵力同士のぶつかり合いは勿論、小規模な遭遇戦が連邦領土の至るところで勃発すると参謀本部は予想しており、輸送の為に軍用トラックは傍目には過剰ではないかと思える程の膨大な数が発注されている。

 

 帝国軍では積載量2.5トン、5トン、10トンの3種類のトラックが採用されており、それぞれ4×4輪、6×6輪、8×8輪駆動となっている。

 それらはかつて、帝国軍が義勇軍としてルーシーで革命軍相手に戦ったときに得られた地形や気候に関する多数の教訓に基づいて開発されている。

 コストが多少高くなったとしても、弾薬をはじめとしたあらゆる物を積んで泥濘地帯や極寒の中でも問題なく走破できることが最優先の要求条件だった。

 

 派生型に10トントラックを改装したタンクローリーであったり、車両回収車などもある。

 これらのトラックの開発元はオペル社であったが、各メーカーでライセンス生産が行われている。

 

 膨大な発注数であったが、1年程で発注台数分の納入は完了するとのことだ。

 連合王国が年内に片付いたとしても、部隊の再編や休養に加え、気候が原因で連邦侵攻は不可能であった為、ちょうど良い。

 

 半年もあれば半分以上揃えられるので、既存のトラックと合わせれば十分、初期作戦には対応できると参謀本部は判断していた。

 

 無論、こういった調達事情であったりとか、あるいは具体的にどういう連邦侵攻作戦が立案されているか、流石にターニャも知らない。

 彼女は上層部の覚えがめでたいとはいえ、一介の少佐でしかないのだ。

 

 

 そのとき、扉が叩かれた。

 ターニャが許可をすると、入ってきたのはヴィーシャだった。

 このパターン、新たな作戦だなとターニャはすぐさま予想がついた。

 

「参謀本部からか?」

「はい、少佐」

 

 ヴィーシャが書類を渡し、ターニャはそれを受け取る。

 内容を確認すれば、臨時ボーナスを請求したくなるような代物だった。

 

「アイルランドでの戦いを終えて、ご褒美の休暇はたったの3日で、以後はずっと戦いっぱなしだ。全く、長期休暇と後方での教導任務はどこへ消えた?」

「れ、連合王国との戦いが終わればきっと……」

 

 ヴィーシャの声にターニャは溜息しか出ない。

 

「まあいい。セレブリャコーフ少尉、今回は愉快な任務だぞ?」

 

 ターニャの言葉にヴィーシャは碌でもない任務だと悟った。

 

「スコットランドにあるエルギン空軍基地を他の即応軍魔導大隊と協同し、制圧する。降下猟兵やブランデンブルク師団も参加するそうだ」

「スコットランドから帝国軍は上陸を?」

「いや、おそらくそうではないだろう。無論、最低限の部隊は送り込むだろうが、これは陽動と揺さぶりである気がする……アイルランドを見て、スコットランドでも独立の動きが高まっているそうだ」

「……連合王国、解体されちゃいますね」

「戦後はウェールズとイングランドしか残っていない……いや、ウェールズも下手をしたら独立するかもしれないな。沈みゆく船と運命を共にするのはイングランドだけで十分だと彼らも思うだろう」

 

 そこでターニャは言葉を切り、少しの間をおいてさらに続ける。

 

「スコットランドから南部を攻めるとなれば、戦闘正面が非常に狭くなる。これは大きな問題だ」

「確かにそうですね……地形を見る限りでは陸路での大部隊投入は難しそうです」

「そういうことだ。だから、どこかに突破口を作ることになる。とはいえ、スコットランドでの仕事が終わったら、いい加減休ませてほしいものだ」

 

 ターニャはそう言いながら、アイリッシュ海とアルビオン・フランソワ海峡を越えて、2箇所に上陸することになるだろうと考える。

 

 スコットランドに連合王国の目を釘付けにしておいて、そっちの制圧に纏まった数の敵軍が動いたときが本命の上陸作戦――ゼーレーヴェの開始となる可能性が高い。 

 

 連合王国本土にいる敵地上軍の数は最大で100個師団程度と予想されている。

 陸続きなら問題なく帝国軍は撃破できる数だが、海によって隔てられた狭い島での戦闘ではどうなるか予想がつかない。

 

 スコットランドでの仕事後も、あっちこっちに引っ張り出されそうな予感がターニャにはあった。

 

 

 


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