僕と小傘は、ひょんなことから二人で温泉に入ることになる。
魅惑的な小傘の肢体に目を奪われながらも、あと一歩踏み出せずにいたが……。

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純愛(?)とか珍しい。小傘の相手はオリキャラ僕君。ショタの可能性もあるけど、深くは考えてないです。

裸のシーン多めなのでR-18にしようかとも思ったけど、別に性的な行為はないので、全年齢にしました。
Pixivにも投稿しています。


お風呂上がりの濡れ髪に

隣には、憧れの小傘がいる。僕たち二人は、これから一緒に温泉に入るんだ。

どういう話の流れでこうなったんだっけ? いや、それはもう重要じゃない。大切なのは、これからのこと。

 

脱衣所に二人で入った。気恥ずかしいなと思いながらも、お互いの身体から目が離せない。

男女共用、というか人里離れたところにある温泉なので、男女で分けるという発想がそもそもない。博麗神社の裏にあるここは、普段妖怪たちが居座っているらしいが、今日は影一つない。

服を脱ぐにはボタンを外さなくてはいけない。そんなことわかってるけど、自分の服のことより、相手の服のことのほうがずっと気になってしまう。

小傘は、僕よりかはややマシな手つきで、服をはだけさせる。前をとめているヒモを解き、上着を丁寧にたたんで、脱衣所の籠に収めた。一枚ずつ脱いでいくときに聞こえる、布が掠れるかすかな音。ほんの小さな音なのに、何倍にも増幅して聞こえた。

「あんまりこっち見ないでよ」

声には出さないが、小傘は目で僕に訴えているように見えた。少し伏目で、眉を困ったときのように寄せている。口を小さくすぼめて、僕のほうを見たり見なかったり。

僕はちょっとした罪悪感を覚えて、自分の手元を見た。早く服を脱ごう。

けど、ノリとはいえ、そもそも二人で温泉に入ろうなんてなった時点で、こうなることはわかっていたはずだ。わかってはいたんだけど、せめてタオルくらいは巻いておかないと落ち着かない。小傘も僕も、限界までキツくタオルを締めた。

風呂場に入る。天然石を切り出して敷き詰められた通路は、鬼の仕事らしい。前の客がほんの少し前までいたようだ。石の表面は少し濡れていて、床の冷たさが伝わってくる。

小傘は冷たい思いをしているだろうか。それとも僕と同じように、今の状況に夢中になって、むしろ熱さを覚えているだろうか。

「湯船に入る前に、身体洗わなきゃね」

小傘が僕に向かって、あかすりを出して言う。その差し出された手がちょっと震えてて、湯船につかる前から、顔まで染まっていた。小傘の左目と同じ、深紅の赤色。ここに鏡はないけれど、きっと僕も同じ顔をしているはずだ。

小傘に促されるまま、椅子に腰かける。小傘は湯船から桶いっぱいのお湯をひとくみ、僕の背中にかけてくれた。

「か、かゆいところとか、ある?」

石鹸の泡が心地よい。けれどそれ以上に、背中から伝わる小傘の小さくて柔らかい手の感覚。背中から伝わる小傘の熱。僕の気持ちはぎりぎりまで張りつめて、小傘に注文を付けようなんていう気にはなれなかった。ただ、小傘に背中をゆだねていればいい。

首筋から肩甲骨にかけて、小傘は丹念に擦ってくれる。だんだんと洗う箇所が下がってくる。背骨に沿って下へ下へ、腎臓の裏から尾てい骨に差し掛かる頃には、いったいどれくらいの長さ座っていたのかわからなくなった。優しい手つきだった。僕を思いやってくれているような、そんな手つき。

「前もやるんだっけ?」

僕ははっと我に返って、大慌てで否定した。洗いっこは普通背中だけなんだ。

小傘も少し遅れて、自分が何を言ったかを理解したようで、湯船につかる前から早くものぼせたような顔になっていた。

 

「優しくしてね?」

今度は僕の番だ。小傘は僕が背中を流せるようにタオルを解いて、白い背中を差し出した。

肩甲骨の形が、ひどく印象的に見えた。僕は、このまま背中から小傘のすべてを手に入れたいという気持ちを抑えて、お湯をくむ。あかすりに石鹸をこすりつけて泡を立てた。泡は多いほうが気持ちがいい。僕がそうだったように、小傘もきっとそうだろう。

小傘にされたように、僕も首筋のやや下、肩甲骨の間から洗い始める。僕が手を上下に動かすと、小傘もまた前後に少しゆれた。小傘はほどいたタオルを前でぎゅっと抱きしめている。背中越しなので表情はわからないけど、手から粗い息遣いが伝わってきた。僕のときの緊張も、こうして小傘に伝わってしまったのだろうか。そう思うと、ますます恥ずかしくなって、僕は目を閉じながら小傘の背中を洗った。

目を閉じると、手のひらの感覚が一気に脳内へと流れ込んでくる。小傘の背中は、指先とはまた違う柔らかさがあった。弾力があって、洗っている僕の指先を、ふんわりと跳ね返してくる。手に吸い付いてくるように感じるほど、きめ細かい肌だった。

指先が精密機械のように敏感になって、小傘の心音までも拾ってしまう。あまりに情報が多すぎて、つい手元が止まってしまった。

「く、くすぐったいよ……」

小傘は振り絞ったような小さい声で言った。僕は大慌てで少し力を入れる。これでいいのかな? 僕にはもう何が正解なのかわからない。ここにこうして二人で存在しているだけでも、偉業のような気がしてくる。

湯船からお湯をもう一杯くんできて、小傘の背中にかけた。泡に覆われた背中はすっかり晴れて、再びシルクのような純白を見せた。

「入ろうよ」

僕たちはもう一度タオルを巻いて、湯船につかろうとする。二人で並んで温泉のへりに立ち、そっと足をお湯につけた。暖かい、今まで冷たい床に接していた足が、一気に解放されたような心地になる。

でも僕はここで思い出した。そう、湯船にタオルは入れちゃいけないということ。僕が小傘に言うと、小傘はあっちを向いていてと言う。

 

僕たちはお互い背を向けて、タオルを取った。

 

背中で起こっていることを見ることはできない。けれど、わずかばかりにこすれる布の音が、脱衣所の時よりもさらに鮮明に聞こえた。後ろにいる小傘の姿を想像しただけで、心臓が口から飛び出しそうだ。

僕は落ち着こうとして、湯につかる。腰を落として、呼吸を整える。肩まで湯に入り、目の前の水面が揺れるのを見ていた。水面は僕の荒い息遣いを映すように、波紋を広げる。小傘も僕と同じように、温泉の中に腰を下ろしたようだ。小傘の作る波が、僕の息遣いをかき消していく。

 

あっ

 

背中が触れた。

 

ほんの僅かだけど、小傘が座るときに、僕の背中に小傘の腰が当たった。お互い自分の後ろのことは良く見えていないらしい。背中合わせに座れば、そういうこともあるか。今更気づいたけど、僕と小傘は、もうそういう距離感なんだ。裸で、二人で、触れあって……。

もし振り返ったら、小傘は怒るかな。見てみたい、小傘のありのままの姿。けれど、どうしても見る気にはなれなかった。少し首をひねるだけでいいのに、僕は固まったまま。度胸がない、と言えばそうかもしれない。けれど、もし不用意に事を進めたら、小傘を傷つけてしまうんじゃないか。そんな不安がきっと、心のどこかにあった。二人で風呂に入っておきながらそんなのは杞憂だと、外野は言うかもしれない。けれど、小傘と僕の関係は、僕ら二人にしかわからないんだ。

僕は少し体勢を変えようと思って、支えにしていた右手を少しずらした。

 

わっ

 

背中から声が聞こえる。あぁ、そうか。これ、小傘の手だ。僕がほんの少し右手をずらした先には、小傘の左手があった。いつもだったら、気恥ずかしくなってすぐに手を引っ込めるところだけど、今日だけは右手が動かない。僕の手は、僕の理性の支配を超えて、小傘の手を離さない。もういっそ、ずっとこのまま

「どうして」

背中に少し体重を感じる。僕は小傘に寄り掛かられていた。肌の密着面積が広い。すべすべとして流れるような小傘の全面が、僕の背に押し付けられている。

「あなたといると、私いつも驚いちゃう」

人間が妖怪を驚かすなんて、そんなことあるのかな。けど、小傘が言うならそうなんだろう。僕は、僕たちは、ひょんなことから知り合って、ずいぶんと楽しくやってきた。なんかそんな気がする。それで、何を間違えたか、こうして二人で温泉なんかに入ることになって。

「どうしてだと思う?」

小傘の鼓動が聞こえる。身体を洗っていた時よりもよっぽど敏感に、全身で小傘の息遣いを感じる。小傘の左手を押さえたままの僕の右手も、石のようにこわばっていた。

 

沈黙してどれくらい経ったろう。僕は続ける言葉が見つからず、ただ水面を見つめていた。けれど、高ぶる思いだけは確かにあって、僕の心臓ははやがねのように打っていた。小傘にもきっとばれているだろう。好きな人には、もう少し冷静で、大人なところを見せたいと思う心もあった。けれど、そんな余裕は今の僕のどこを探したって見つかりっこない。

小傘をつかんでいる右手に俄然力が入る。

 

小傘、僕はね

僕は手を引いて、小傘を引き寄せた。それと同時に、小傘は僕に倒れこんできて、二人は湯船に沈んだ。僕の意識もそこで途切れ

 

 

 

 

「あら、お目覚め?」

障子からわずかに差し込む西日が、僕を揺り起した。夕焼けの空の向こうには、紫色した夜の空が広がっている。僕の顔をうちわで扇いでくれているのは誰? 金髪、紫色の道士服……。

「あなたたち温泉で倒れてたのよ。二人してのぼせちゃった?」

僕はハっとして寝返った。隣には、小傘も少し疲れたような様子で寝ていた。

「ここは神社よ。巫女は出かけててしばらく帰ってこないけど、見つからないようにお帰りなさい。そこの傘の子は、目が覚めたらお水を一杯飲ませてやってね」

ありがとう、あなたは一体? 

「たまにあるのよね、妖怪と人間の恋。霊夢は多分反対するだろうけど、私は別に好きにしていいと思うわ。けど気をつけなさい。人と妖の境界を超えるなら、覚悟が必要よ」

一瞬、この人の瞳に吸い込まれそうになった。それほどの圧が僕を襲う。深淵を覗いたような、不気味な気配が、僕の心に流れ込んできた。

「ま、いいか。ほら、元気出しなさい。好きな娘の寝顔は疲れによく効くわよ」

僕は言われるまま、小傘を振り返った。まだ、髪が乾ききってない。しなやかな軌跡を描く濡れ髪が、やけに僕の視界を支配した。

ふと気が付くと、さっきまでいた人はいなくなってた。僕は少し大胆になって、寝息が聞こえるほど小傘に接近した。

小傘、ごめん。僕がのろまなばっかりに、のぼせちゃって。

小傘はもう少し寝ていそうな気がする。こうして近づくと、細かいところまで良く見える。呼吸するたびにわずかに動く唇、普段はこんなにまじまじとみる勇気なんかない。

小傘はさっき、僕といると驚くと言ってた。僕もそう。僕だって、小傘といると驚きがいっぱいだ。それは小傘の言う、妖怪としての驚きとはちょっと違うかもしれない。けど、僕はつい無意識で小傘のことを追ってるんだ。小傘の一挙手一投足が僕の心をゆさぶる。だから、僕はいつだって、小傘に驚いてる。

もし小傘が僕で驚いているなら、小傘もきっと僕と同じように、僕のことを見ているのかな。そうだったら、嬉しいな。この寝顔を独り占めできることよりもずっと嬉しい。

 

ごめんね小傘、さっきはちゃんと言えなくて。言えなくてこんなことになっちゃったけど、もし許してくれるなら、もう一回だけ言わせてほしい。

 

 

 

小傘、僕は君が好き

 

 



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