「架空の財閥を歴史に落とし込んでみる」外伝:大東京鉄道   作:あさかぜ

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10話 戦後の大東京鉄道⑤

 バブル景気は1989年に絶頂を向かえ、以降緩やかに後退した。幸いだったのは、史実の様に暴落しなかった事である。これは、東アジア・東南アジアへの工場の移転が少なかった事、東アジア諸国の経済的遅れによる日本の優位性の維持、冷戦最後の軍拡競争によって製造業の好調が続いた事、政府による技術投資への誘導による土地投機や設備投資の抑制などが大きかった。

 

 それでも、景気は緩やかに不況となり、多くの企業の業績が低迷する事となった。中には倒産する企業もあったが、その様な企業の多くが政府の方針に反して土地投機や株投機に注力し過ぎた事が原因だった。

 この時の低迷とグローバリゼーションの進行もあり、企業は単独では生き残るのは難しいと判断した。その為、20世紀末から21世紀初頭にかけて、国内では企業再編と淘汰が進む事となった。

 

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 大東京鉄道だが、バブル終息後に経営が大きく傾いた。今までの積極的な投資が原因だった。特に大きかったのが、子会社を通じて行われた小売業とリゾート開発だった。

 

 バブル期の積極的な店舗展開によって、1995年時点で大東デパートは14店舗、大東ストアは126店舗と大規模展開した。関東にしか出店しなかったが、沿線外の新興住宅地の最寄り駅を中心に多数出展した。

 しかし、その規模と早さが異常だった。1980年から出店攻勢を行い、デパートは2年に1店舗、ストアは毎年4,5店舗出店していた。これはかなりのハイペースであり、その為には短期間で大量の資金が必要になるが、その調達方法が多額の借入金や大量の社債発行だった。運営会社である大東デパートと大東ストアが共に大東京鉄道の完全子会社の為、新株発行という手段は採られなかった。

 また、出店地の土地を借りるのではなく購入した。これは、購入する事で土地を担保にし易くする目的があった。その為、金融機関から借りやすくなった。

 その結果の大量出店だが、急速な出店で店員のノウハウが追い付かなくなった。それによるサービスの低下やバブル終息による購買意識の低下で収益性が低下し、土地価格の下落による含み損で赤字が増大した。

 

 リゾート開発も、開発規模が大きく、開業スピードも早かった。北関東や東北を中心に、東日本と北日本に約20のリゾート施設が1980年代後半から1990年代前半に開業した。

 しかし、男鹿高原(栃木県塩谷郡藤原町、現・日光市)や羽幌炭鉱跡地(北海道苫前郡羽幌町)、雄別炭鉱跡地(北海道阿寒郡阿寒町、現・釧路市)など、場所が奥地だったり元鉱山町など交通の便が悪い場所が多かった。しかも、元鉱山町は土壌汚染が進んでいたり老朽化した建物などが多い為、それらの処理も行う必要があった。

 その結果、建設費などは高くついた割には利用者が少なく、多くの赤字が発生した。また、設定したバスも短期間で減便する、一緒に開業したホテルも利用者の少なさやノウハウ不足から赤字を垂れ流すなどの悪影響があった。

 

 上記以外にも、東埼モノレールへの出資、ビジネスホテル出店の為の土地の購入代と建設費、その他諸々の事業を展開していた。これらの事業を行う為には大量の資金が必要だったが、大東京鉄道単体にはそんな余裕が無い為、社債発行と金融機関からの借り入れ、後に不動産の証券化(※1)によって調達した。借りた先が日本信託銀行や日本長期信用銀行、第百生命保険、東邦生命保険など有力企業との融資関係が薄い企業が殆どであった。繋がりのある昭和信託銀行と日本動産銀行は、自ら育てた新亜グループの方に注力していた為、この頃から疎遠になった。新たに融資した金融機関も、業績の為に大量に貸し付けた。

 その結果、1998年時点で借入金だけで7000億円、その他にも社債で3500億、土地・不動産の評価損で4000億、その他各種負債の合計は1兆5000億円を超えていた。また、後に帳簿外の負債も見つかり、それらも含めると2兆円に達するのではと見られた(最終的に約1兆8000億と判明)。

 当時、政治的・経済的・対外的に混乱していた時期と重なっていた事、借入した金融機関の多くも経営が危なかった事から、先延ばしは不可能だった。その為、早急な再建が急務であり、1999年4月に会社更生法(※2)を申請しそれが適用された。これにより、大東京鉄道は倒産となったが、鉄道会社として初めての会社更生法適用となった(※3)。

 

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 会社更生法適用による倒産の為、再建してくれるスポンサー探しが行われた。当初は西武鉄道が最有力と見られていたが、西武もグループによるバブル期の大規模進出の影響で負債が大きく動けない為、スポンサーから降りる事となった。その代わり、以前から関係が強かった東急と東武、バブルの影響が小さかった京成の3社がスポンサーとなる事が決まった。

 

 再建が始まって真っ先に行われたのは、不採算部門からの撤退と遊休資産の売却だった。その中でも、グループで最大の赤字を出していたリゾート部門のリストラはいの一番に行われた。これがグループを傾かせた元凶である為、グループ再建を目に見える形で行うにはこれが不可欠だった。

 

 不採算部門からの撤退により、運営しているリゾート施設とリゾートホテル部門は全て同業他社に売却となった。ホテルとスキー場の多くが星野リゾートや外資系の運営会社に売却され、ゴルフ場については他のゴルフ場運営会社に売却された。テーマパークについては、立地の悪さや娯楽の多様化によって閉鎖されたものが殆どだった。

 尚、同じホテル事業でもビジネスホテル部門は残った。これは、バブル終息によって個人旅行が増加した事、低価格が歓迎された事、駅から近い事から利用率が高い事などから収益性が高く、「今後の事業の核」と位置付けられた。2000年以降、後述するデパートやスーパーの跡地に出店する事例が多くなる。

 

 また、小売業では不採算店舗からの撤退が行われた。「撤退」とした理由は、同業他社へ譲渡する為である。これにより、80年代に出店した店舗の多くが1999年から2001年にかけ撤退となった。この時期に出店した店舗の多くが採算割れしていた為である。

 撤退する店舗の内、沿線付近の店舗は駅毎に沿線の大手私鉄の同業種に売却された。鶴見~下末吉は京急、下末吉~弦巻は東急、弦巻~日本大学前は小田急、日本大学前~荻窪は京王、荻窪~中村は西武、中村~竹ノ塚は東武、竹ノ塚~金町は京成にそれぞれ譲渡された。沿線外の店舗は他のチェーン店に譲渡された。

 譲渡後の店舗だが、大東ストアの方は多くの店舗が譲渡されたが、店舗の多くが採算割れしている為、譲渡後に合理化によって閉店となる店舗が多かった。悲惨だったのは大東デパートの方で、譲渡先が見つからなかった為、雑居ビルや複合商業施設となった。多くが小規模店舗で商業圏の人口も多くない事、他の百貨店も経営が苦しかった事から、譲渡先に名乗りを上げた会社が現れなかった。

 また、撤退とは別に、大東デパートの鶴見店に川口店、練馬店、大東ストアの元住吉店など開業初期からの店舗については、採算が取れているが建物の老朽化が著しい為、建物の全面改装工事を行う事となった。また、採算が取れている店舗については改装と他店舗との差別化路線を取る事で存続が決定した。

 

 遊休資産の売却も進められた。多くが沿線の住宅・店舗予定地であるが、一部は沿線外のリゾート開発予定地もある。沿線の土地は駐車場やビル、マンションなどの用途があるから売却が進んだが、土地価格の下落が進んでいた事から購入価格の半分程度でしか売却出来なかった。

 尤も、都市部の土地はある程度の価格で売却出来ただけマシだった。リゾート予定地の方は暴落が激しく、ほぼタダ同然で売る事となった。

 

 それ以外にも、収入を増やす策として高架下を物置や駐車場、学生向け住宅用地や店舗用地として貸し出す、電車・バスの広告を全面に出す、運賃の値上げが行われた。また、出資を防ぐ策として赤字の路線バス路線をコミュニティバスに転換する、赤字の高速バス路線の廃止、合理化による社員削減、給与・賞与の削減などが行われ、負債を減らす策として金融機関からの債務免除と債務の株式化(※4)、減資が行われた。

 これにより、2003年度には負債は約1兆8000億から約8500億円と約半分まで減らす事が出来たが、まだまだ再建途上である。




※1:不動産など流動性の低い資産を原資に、流動性の高い証券を発行する手法。原資が少なくていい事、資金調達が容易になる事などから、バブル期頃に日本で流行となった。
※2:「経営難に陥った会社の事業の更生」を目的とした法律。1952年に制定された。適用対象者は株式会社に限定されている。2003年4月1日に内容を全面改定した同名の法律が施行された為、1952年制定の旧法は廃止となった。
※3:史実での交通関係での申請事業者は、バス会社の川中島自動車(現・川中島バス)、海運会社の三光汽船、三宝海運(1997年解散。事業の一部は愛媛阪神フェリーに譲渡)が存在するが、鉄道事業者では例が無い。因みに、高松琴平電気鉄道は再建時に適用した法律は民事再生法。
※4:借金した分と同じ分の株式を受け取る方法。借り手から見れば借金が減り、貸し手から見れば資産が減らなくなるという利点がある。

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