「架空の財閥を歴史に落とし込んでみる」外伝:大東京鉄道   作:あさかぜ

12 / 15
11話 ここまでの大東京鉄道③

 オイルショックの頃から、大東京鉄道は相次いで増資を行っていた。その全てが公募と第三者割当の為、今までの大手私鉄の保有比率が大きく減少した(筆頭株主だった東急・東武・西武で数%)。一方で、保険会社や証券会社、信託銀行の保有比率が上昇し、今まで保有していなかった金融機関も保有する様になった。増資はバブル終息後の1994年まで行われ、その頃の資本金は800億円となった。

 1994年時点で3%以上の株式を保有していたのは、以前からの筆頭株主である東急、東武、西武、新たに加わった日本長期信用銀行、日本信託銀行、東邦生命保険、第百生命保険、日産生命保険、第一火災海上保険、富士火災海上保険、日興證券、三洋証券である。また、メインバンクも以前は日本動産銀行と昭和信託銀行だったが、1980年代中頃に日本長期信用銀行と日本信託銀行に変更となった。

 

____________________________________________

 

 一方で、過剰な投資にのめり込んだのもこの頃からだった。背景には、東京都心への路線は無い、沿線に主要な観光施設は無い、沿線の開発も成熟期に入り新たな開発は難しいといった要因があった。その為、沿線の開発による新たな収益を望むのは難しい事から、沿線外の開発を行う様になった。丁度、レジャーブームの到来、総合保養地域整備法(通称・リゾート法)の制定もあり、リゾート開発が全国的に行われた。

 リゾート開発だが、資金面や情報面でのリスクの大きさ、現地業者との軋轢の緩和から、単体での開発は殆ど行われなかった。その為、現地の有力企業と共同して開発を行ったが、その共同事業者の多くは相互銀行(現在の第二地方銀行)だった。これは、相互銀行は有力な貸出先が少ない事、「地方銀行に追い付け、追い越せ」の精神が強く拡大志向がある事を利用した。

 実際、新潟相互銀行(新潟中央銀行・新潟県新潟市)や徳陽相互銀行(徳陽シティ銀行・宮城県仙台市)、第一相互銀行(太平洋銀行・東京都)、加州相互銀行(石川銀行・石川県金沢市)などと共にテーマパーク建設やリゾート開発を行った。これにより、融資額の拡大による一時的な規模の拡大が見られたが、バブル崩壊後は軒並み不良債権化し、20世紀末の経営破たんの原因の一つとなった。

 

 リゾート開発以外にも、小売業の積極的出店、バス事業の拡大、東埼モノレールの設立など、兎に角拡大政策が行われた。大東京鉄道は、会社や路線の規模、輸送量などから大手私鉄扱いとなっているが(※1)、大手私鉄内では末席であり、未だに東急・東武・西武の影響下にある事から、他の在京大手私鉄に対するコンプレックスが強く残っていた。それを払拭する為に、身の丈に合わない大規模な投資が行われた。

 その結果、バブル終息前には相鉄や山陽電鉄(※2)を抜き、京阪や南海に匹敵する規模になった。

 尤も、これは輸送量では無く資産面の話である。そして、大東京鉄道の保有資産の殆どが不動産である。その為、バブル終息後は土地価格の下落による含み損から、資産内容は悪化した。

 

____________________________________________

 

 これだけ大規模な投資を行うには、増資だけでは不可能だった。その為、金融機関からの借り入れ、社債の大量発行、不動産の証券化によって資金を獲得した。

 しかし、これらを行うには担保が必要だった。その為、最初に保有している店舗や土地を担保に金融機関から借り入れを行い、その借り入れで土地を買い、買った土地を担保に借り入れを繰り返した。この方法で、リゾート開発の為の土地と資金の両方を手にした。

 また、「鉄道会社だから簡単に破産しない」という意識から社債の格付けも比較的高かった事から、発行した社債も簡単に買い手が付いた。不動産の証券化も、各社が行っていた事から疑問に思われる事は無かった。

 これによって大量の資金と土地を得て、リゾート開発と大量出店を行ったが、内情は厳しかった。バブル期は良かったが、終息後は地価の下落で担保としての価値を失い、新たに借りる事が難しくなった。また、借り入れの返済や社債の償還もあり、1995年からこれらの支払いに四苦八苦する様になった。




※1:「大手私鉄」の定義として、『日本民営鉄道協会が「大手私鉄」と区分している事』となる。大東京鉄道は1982年に「準大手私鉄」から「大手私鉄」に昇格した。
※2:この世界の山陽電鉄は岡山延伸が実現した為、大東京鉄道と同じ1982年に準大手私鉄から大手私鉄に昇格した。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。