「架空の財閥を歴史に落とし込んでみる」外伝:大東京鉄道   作:あさかぜ

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最終話 21世紀の大東京鉄道③

 第一期計画の残り区間である川崎小倉~武蔵中原と六町~竹ノ塚の工事が行われている一方、第二期計画の区間である武蔵中原~荻窪と竹ノ塚~川口の土地収用も進められた。この区間も宅地化が急速に進んだ事で人口が急増した一方、道路整備は遅れた為、狭い道路が多かった。その為、この区間も渋滞や事故が多かった。

 土地の収容は2010年から始まったが、この区間は宅地化が早い地域や商店街が多い地域の為、収容に反対する住民が多かった。特に、他社線と交差する用賀、桜新町、荻窪、川口、東京都23区では希少な等々力渓谷の直ぐ側を通る宮内~等々力での反対が強かった。その為、3年で収容が完了するが倍の6年も要する事になり、工事開始も2018年になった。

 その間に第一期工事の鶴見~川崎小倉と金町~六町の立体交差化が完了しており、残る区間の工事も数年以内に完了する見込みとなっている。

 

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 また、第三期区間である残る荻窪~川口の土地の収容も2012年から開始した。この区間も他の区間と同様に人口密集地帯だが、他の地域以上に他路線との交差が多い。第一期工事区間(鶴見~武蔵中原、金町~竹ノ塚)だと5駅、第二期工事区間(武蔵中原~荻窪、竹ノ塚~川口)だと9駅、第三期工事区間は6路線と交差する。駅数だと第二期工事の方が多いが、工事区間の長さは第三期工事が短い。また、この区間は開発が戦前から進んだ地域の為、住宅及び商店の密集地となっている。

 一方で、他社線との交差の為に戦前から高架や掘割などで立体化された区間も多い為、この区間については既に立体化はされていた。スペース自体もある程度存在した。

 しかし、戦前に建設された事、建設費節約の為に一部工事が簡略化された事から耐震面での問題があり、現状の設備のままでの運行は厳しいと見られている。また、交差する西武池袋線や東武東上本線の高架化の影響で交差部分を地上線にした部分も存在する為、その部分の渋滞解消から立体化は行う必要がある。

 

 土地の収容が始まったが、住宅地と商業地の密集地域の為、住民からの反対が強かった。住民としては、開かずの踏切を原因とした渋滞や交通事故も嫌だが、住んでいる土地を手放す事や工事による騒音なども嫌な為、両者の妥協が中々成立しなかった。大東京鉄道もこの区間については収容が難しいと考えていた為、当初予定していた2015年より3年も前倒しで行ったが、それでも収容は遅々として進まなかった。

 しかし、2013年にブエノスアイレスで行われた2020年夏季オリンピックの開催地選考で東京が選出されると、オリンピックに向けて東京再開発が急速に進められた。その一環で土地の収容も急速に進められ、東京都からの側面からの支援もあり、2020年には全ての予定地の収容が完了すると見込まれている。

 工事の開始についてはオリンピック終了後の2021年以降の予定だが、兎に角、オリンピックの開催決定が収容を促進させた。

 

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 オリンピックの開催が決まった事で、東京の再開発が加速した。高度経済成長期からバブル期にかけて建設された各種建物や道路、水道などのインフラの老朽化が深刻化しており、更新の時期がやって来た。各地で古いビルの建て替えや道路・水道の更新工事が行われており、合わせて商業地区の再編なども行われた。

 

 大東京鉄道もこの再開発に乗じ、全線の立体化に加え駅前再開発を行った。主な内容は、ビル・マンションとビジネスホテルの建設である。

 前者は、駅前の商業地区の再開発と生活圏の集約の観点から、下層部が店舗、上層部がマンションの併用型の建設が多く建てられる事となった。同時に、職住近接の観点からビルも複数建設する事になった。

 後者は、国内観光の拡大や訪日外国人の急増によってビジネスホテルの需要は増加しており、東京オリンピックによって客室の供給不足が懸念された。都心部は高価格帯のホテルが中心の為、都心部からやや離れた地域にビジネスホテルの多数展開が予定された。

 

 開発が行われたのは、大東京鉄道単独の駅がある場所が大半だった。他社線と交差する場所は戦前から開発された地域で権利関係が複雑な事から、開発を行うのは時間が掛かる上に共同で行う必要がある。その為、大東京鉄道が開発に関わる事は出来るが、規模や影響力の点からどうしても優先順位が低く見られた。

 一方、単独駅の多くは高度経済成長期以降に急速に開発が進んだ地域が多く、商業地区は小規模な場所が多い。その商業地区も大東京鉄道が絡んでいるものが多い為、開発がし易い場所だった。老朽化も大分目立ってきていた為、早急な建て替えが必要だった。

 

 再開発は2015年から始められた。対象は、地下化された事で空間に余裕のある下末吉と六町の2駅だった。前回の後半でも述べてるが、立体化後の再開発の予定では共に商業施設が建てられる予定であり、それに合わせて駅前も一体で再開発される事となった。

 商業施設は大東デパートと大東ストア、大東京鉄道系のビジネスホテルがテナントの中心になった。これを機に大東デパートと大東ストアの拡大戦略が再開される事になるが、1980年代の様な無軌道な拡張とは異なり、採算性が重視されている。他の店舗のテナントも入っており、シネマコンプレックスや日帰り温泉などの集客性が高いテナントの誘致も実現した事でより採算性が高まった。

 

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 2019年末、大東京鉄道の再開発はまだ途上である。東京オリンピックが終わった後の経済状況は不確定な部分も多く、今後の状況次第では計画の大幅変更や凍結も考えられる。また、再建は完了したが、稼ぐ手段についてはまだ完全に固まっていない為、今後の展開次第では再度の倒産すら可能性に入れておく必要があった。

 それでも、ここ数年の大東京鉄道は好調な業績で決算を迎えており、昇給や賞与も解禁された事で社員の士気も上がっており、市場からの評価も上がってきている。将来を担う人材の育成にも力を注いでおり、若返りと新旧世代の融和も進んでいる。

 贔屓目に見ても、今後数年間は大東京鉄道の経営が急激に傾くとは市場は見ておらず、たとえ傾いたとしても以前の様に無様な事にはならないと見られている。少なくとも、再建は無駄ではなかったというのが多くの人の意見である。


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