TSしたけど抜刀斎には勝てなかったよ……   作:ベリーナイスメル/靴下香

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TSしたけど抜刀斎には勝てなかったよ……

「やよいせんせー! さよーならー!」

 

「はい、さようなら。また明日お待ちしていますね、気をつけて」

 

 どの時代、どの世界であっても子供の愛らしさというものは変わりがないらしい。

 元気に手をふる子どもたちを見送って、見えなくなった頃に大きく伸びをする。

 

 こうして平和を満喫できるのも、何処かの誰かが日夜一生懸命頑張ってくれているから。

 そんな頑張っている人の中に、()って存在があれば良いのだけれど。

 

「なんて、ね」

 

 振り返ればそこには弥生流活心塾。

 流石に姉さんに被れ過ぎただろうかと不安にもなるけれど、この前来てくれた時に喜んでくれたし万事オッケーだと信じたい。

 

 人に物を教えるなんて柄じゃないのは重々承知で、何よりそんな頭が良いわけでもない。

 しかしそこは活心塾。

 高等な学問なんかじゃなくて、知っていれば生活が少しだけ豊かになるかもしれないって範囲のお勉強。

 なんちゃってに成り下がっただろう剣術遊びも加えて、今を生きる子どもたちが少しでもより良い未来を掴めるようにと願いをかけて。

 

 この話を姉さんにしてみれば物凄く良いじゃないと太鼓判を押してくれたし、義兄(にい)さんもそうだ。

 流石に元手があるわけでもなかったので、二人の子供が産まれるまでにたくさん働いてと思っていたんだけれど。

 

 ――弥生さんの手助けなんていくらでもっ!

 

 なぁんて新しく塚山家の当主となった由太郎が出資してくれたおかげでトントン拍子。

 まぁ下心が透けて見えたのはご愛嬌で、自分より弱い男の人と結婚する気は無いと言ってみれば落ち込むこと無く、むしろ燃えてくれたのでヨシとしよう。

 そんな由太郎も今では立派な神谷活心流師範代、私へと熱を上げ続けてくれているおかげで変に他の女の子へちょっかいをかける事なく、日夜剣の腕を弥彦と喧嘩しながらも高めあっているらしい。

 

 もっとも、そんな弥彦や由太郎にもう勝てる気は一切無いのだけれど。

 

「……ふふ」

 

 思い出すのは剣心との闘い。

 あの後から、今となっては僅かだと思える時間を共にした異能。

 それはすっかり消え去ってしまっていた。

 

 もう自動的に身体が危険を避けることはないし、羽踏や羽突なんてもってのほか。

 今の私はまさに、女の割に強い。程度の力しか持ち合わせていない。

 その辺のゴロツキ程度に遅れを取るつもりは欠片もないけれど、まぁ剣を生業にしている人には白旗を揚げるしかないだろう。

 

 だけどこれでいい、これが良い。

 剣心たちとそれなりに関わりのある一般人。

 今のポジションこそがきっと、自分にとって ベストの立ち位置であることを実感したのだから。

 

「やよいちゃーん! 終わったろ? 昼の牛定頼むわっ!」

 

「はいはい、毎度ご贔屓に。ですけどごめんなさい、今日は臨時休業となっております」

 

 塾の看板を裏返せばそこには桃べこの文字。

 そして入り口の戸には臨時休業の張り紙。

 

「……ダメだ、ちょっと死んでくる」

 

「はいはーい。来世でもご贔屓にー」

 

「そこは止めてよっ!?」

 

 常連さんとのやり取りももう随分と慣れたもんだ。

 

 牛鍋屋、桃べこ。

 

 東京と京都の間、赤と白の間だから桃なんて安直な考えで付けた店名。

 これもまたえらく妙さんには気に入ってもらえたもので。

 

 昼までは塾、昼からは牛鍋屋。

 

 従業員僅か私だけの、塾にしては少し広くて、食事処にしては少し狭い。

 そんな私の小さな城。

 

「うー……ちょっとだけ! さきっぽだけ!」

 

「……はぁ、やれやれ。仕方ないですね、お弁当にして包んであげますから少し待ってて下さい」

 

「やったぜ!」

 

「……ちゃんと皆で分けて下さいね? 沢山作ってあげますから」

 

 ちらりと後ろに見えた人集りへ視線を一つ投げて見ればむさ苦しい照れ笑い。

 まったく、過去のことはわからないけれどすんげー手のひら返しもあったもんだと暖簾を潜る。

 

 道は東海道、場所は沼津の宿場町。

 新月村から遠くなく、未だそれなりに人通りがある、賑やかとも閑散とも言えない町。

 

 常連さんの多くは新月村の住人達。

 だけどたまに軍関係の人やら警察関係の人やらが訪れるというなんかよくわからないスポットとして色々な噂があるらしい。

 

 まぁ私としては日々生きていくに困らない程度儲かればいいと思っているからなんでも構わないのだ。

 だから軍だ警察だを鼻にかけるバカはしっかり懲らしめる。

 そして今もなお繋がりのある人達にそんなバカはより絞られる、ざまぁ見晒せ。

 

 ……ただね? その謝罪をって名目のもと大勢で押しかけられたら一緒だからね?

 

 少しの頭痛に顔をしかめながら、慣れた手付きで弁当を用意して。

 

「お待たせしました」

 

「ひゃっほーーーー! これがないと生きていけねぇぜぇ!!」

 

 はいはい往来でバカ騒ぎしないで下さいねーぶっ飛ばしますよー。

 

 まったく、ほんとに活気を取り戻してくれちゃって。

 志々雄一派に占領されていた時からは考えられないね。

 

 ……ま、最初を思えばやっぱりこの光景は良いものなのでやらないけれど。

 

 わだかまりは……ここに店を構えてから何年だろう、それでもまだある。

 けれど、多くの人と店を通して、塾を通して打ち解けたとは思う。

 

 ――今度こそ、誰一人犠牲にすることなく幸せに生きて欲しい。

 

 あまり掴めなかった弥生の人生だけれど、それでも想像を交えながらそう訴えて。

 ゆっくりと、少しずつ。

 

 そしてそれがこの結果だよ。最初のシリアスは何処に行ったのやら。

 

「って、そう言えば弥生ちゃん。今日の臨時休業はどうしてだい?」

 

「あぁ、身内が来るんですよ。集まるのは久しぶりなので……私事で申し訳ありません」

 

 軽く頭を下げてみれば、そういう時があってもいいよねと好意的な返事をもらって。

 中には自分だって身内じゃないかとか調子に乗った人もいたので一つ睨みを入れておいて。

 

 ありがとうねと後にして行った皆を見送った。

 

「さて……それじゃ、準備しますか」

 

 何年ぶりだろうか、全員が集まるのは。

 あの時、皆それぞれ自分の道を歩み始めてから、今まで。

 

 楽しみ、だな。

 

 

 

「いらっしゃいませ」

 

「あぁ」

 

「やっ! 来たよ弥生! ちゃあんと美味しいもの準備してくれた?」

 

 最初に来てくれたのは蒼紫と操ちゃん。

 まさかマジで来てくれるとは思ってなかったから、驚きを挨拶でごまかして頭を下げる。

 

「もーそんな堅苦しくしないでさー! 今日は楽しもうね!」

 

「俺は下戸だぞ」

 

「ええ、もちろん知ってます。むしろ料理をお楽しみくださいませ。……私はここで皆を出迎えますのでどうぞお先に」

 

 そう言って戸を開けてみれば我先にと素早く入り込む操ちゃん。

 

「貴様には今の姿が一番良く似合っているな」

 

「……ふふ、小料理屋の主に言われちゃ説得力がありすぎますね、ありがとうございます」

 

 すれ違いざまにそんな言葉を交わして。

 

「弥生姉ぇ!」

 

「おー久しぶりですねぇ弥彦!」

 

 続いて来たのは弥彦。

 近くに剣心達は居ないから、別で来たのかな?

 

「燕と妙さん、差し入れっつうか料理の材料持ってきたみたいでさ、どっか置いとける場所ねーかな?」

 

「わ、気にしないでいいのに……じゃあ弥彦、裏口開けといて貰っていいですか? はい、鍵」

 

「おうっ!」

 

 鍵を受け取って走り出した弥彦の背中にあるのは小さな悪一文字。

 大きくなった背中だけれど、やっぱりいつ見ても可愛い弟にしか見えないのは私が姉バカだからだろうか。

 

「弥生さんっ!」

 

「はい、いらっしゃい由太郎君。いつもお世話になっています」

 

 深めに頭を下げてみれば、すぐさま慌てる気配が伝わってきて。

 

「いいい、良いんですよ気にしないで下さい! お、俺が好きでやってることですからっ!」

 

「ふふっ。じゃあこれも私が好きでやってることですから、気にしないで、ね?」

 

 そう言って由太郎の頬を撫でてみれば湯気を吹き出した。

 

 ……よしよし、まだまだ絞れるな。

 じゃなく、いい加減新しい恋見つけてどうぞ。

 

「弥生」

 

「恵さんっ!」

 

 その場でプシューしてる由太郎を放っておいて。

 姿を見せてくれた恵さんへ駆け寄る。

 

「忙しいのに、ありがとうございます!」

 

「良いのよ。こういうのは多少無茶でもして時間を作らないと……気づいたら次に会う時おばあちゃんとかになっちゃいそうだから」

 

 いやぁ、歳を重ねてさらなる色気が……うぅ、もう身も心も女になったつもりだったのに……恵さんぱねぇっす。

 

「ま、積もる話はまた後で、先に入ってて良いのかしら?」

 

「ええどうぞ!」

 

 店に入っていく恵さんの背中をうっとり眺めて。

 途中で由太郎の手を取って一緒に入ったことを確認して。

 

「おー! 弥生! 久しぶりでぇ!」

 

「……うわくっさ」

 

 髪伸び放題、髭伸び放題。

 それでも一目で左之助だとわかるヤツ。

 

「んだと!? 随分な言い草じゃねぇか!」

 

「はいはい。とりあえず臭いんで皆に会う前に風呂入ってきて下さい臭い」

 

「ぐぎぎ……このやろっ!」

 

 何も言えなくなったのか、乱暴に手を振るってくるけれど。

 

「……お帰りなさい」

 

「おうっ!」

 

 それはハイタッチ。

 乾いた音が、夕焼け空に吸い込まれる。

 

「ふぅ……」

 

 一先ず来店ラッシュは終わりだろうか。

 まだ遠目にも剣心達の姿は見えない。

 

 懐中時計を見てみれば、時間にはまだ少し余裕がある。

 

「やっぱり……斎藤さんは……」

 

「来るわけがないだろう」

 

 ……うわぁお。

 

「ふん。そうだな、貴様のそんな顔を見れただけで満足だ」

 

「……手紙、送ってみるものですねぇ」

 

 目を瞬く。

 いやはやまさか、斎藤が、ねぇ?

 

「勘違いするな、すぐに出る。こちらへ向かう予定があったからな、一目見に来ただけだ」

 

 仏頂面ではあるのだけれど、何処か少し気恥ずかしさを感じるのは気のせいだろうか。

 いやま、それでも十分嬉しいんだけれど。

 

「それは残念です。まぁ、なんだかんだで結構会いますし、次回に期待しておきますよ」

 

「……阿呆が」

 

 ほんとにそれだけ言ってさっさと背を見せた斎藤。

 

 実は知り合いの中で一番会うのは斎藤だったりする。

 やっぱり警察関係者ではあるし、警察御用達といっちゃなんだがそういう場所になりつつある桃べこだからやっぱり会うもんだ。

 

 流石に今日は緋村剣心がいるんだしと、まぁ仕方ない。

 出来ることなら参加しておけば良かったなんて思わせられる位の話を準備出来るように今日を楽しもう。

 

 斎藤の背が見えなくなって。

 視線はそのまま日が落ち始めた空へ向けて。

 

「……幸せだぜ? 弥生」

 

 かつての口調で言ってみるけれど、もう何の鼓動も感じない。

 

 確信はない。

 けれど、もう次の弥生は生まれないんじゃないか、そんな風に思う。

 

 折れた木刀。

 今も、不似合いが過ぎるけれど、店の中に飾ってあるかつての自分が生きた証。

 

 今までの歩みは、そう、今この時を生きるため。

 

 女になって、女としてこの世界を生きる。

 まだまだ。

 まだまだ先はわからない。

 もうこの先は何も知らない真っ白な世界。

 

「あ、弥生ー!!」

 

 遠くで手を振る姉さんの姿。

 隣で剣路に髪を引っ張られている剣心の姿。

 

「ねえさーーーーん!! にいさーーーーん!!」

 

 その二人へ向けて、未来へ向けて。

 

 一歩、踏み出した。

 

 

 

      TSしたけど抜刀斎には勝てなかったよ……  完




 あとがきにまで目を通して頂き、ありがとうございます。

 TSしたけど抜刀斎には勝てなかったよ……。
 なんとか無事、完結しました。

 途中投稿が滞ってしまい申し訳ありませんと先ずは謝罪を。
 まぁ、色々ありました色々。

 そんなわけでるろうに剣心の二次小説、如何でしたでしょうか? 楽しんで頂けましたでしょうか?
 作者が昔、るろうに剣心を呼んだ時、やはりと言うべきか作中の登場人物たちの真似をしました。
 二重の極みを練習してみたり、そこらへんの木の棒をジャンプして龍槌閃ー!とか言いながら振り下ろしてみたり。
 二重の極み練習で調子に乗りすぎて手の骨へヒビいれたのも、折れた木の棒で怪我したのも、今となってはいい思い出です。

 はい、いい思い出にしたいです。

 黒歴史はさておき、やはり憧れというものは原動力になり得ると作者は思います。
 本作の主人公がそうであったように、明日へ向かう一歩を生み出す力であると思っています。
 そんなサムシングを本作から感じてもらえたなら、作者冥利に尽きるというものです。

 実のところ。
 作者は本作を書き始めるまでいまいちTSってよくわからなかったりしました。
 書いた動機は好きな作品をとありきたりなものに加えて、TSわかんねーからTS書いて理解してやる! ってなもんで。

 それでも作者の思うTSってやつを書けたと満足しています。

 そして満足いく作品が書けましたのも、完結まで多くの応援、感想、ご評価を賜ったからこそです。本当にありがとうございます。

 また、前作、今作と同様に、次回作でも作品を通じて一緒に楽しめますことを祈って、本作は筆を置くことにします。

 ありがとうございました! ベリーナイスメルの次回作にも、乞うご期待下さい!

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