鬼滅の天狗   作:フロム脳になりたい


原作:鬼滅の刃
タグ:R-15 オリ主 残酷な描写 クロスオーバー 隻狼
人の為に斬るのではなく
憎しみから斬るでもなく
理念や信条を忘却し
斬る為に斬るのであれば
人間でも鬼でもない
別の何かに身をやつすだろう

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「流行に乗り遅れたけど鬼滅見るかー」
 ↓
「(視聴後)やっぱり隻狼面白いなぁ」
 ↓
「暇やしクロスオーバーで何か書こ」

で、出来上がりがこちらになります


壱 宍色髪の少年

 狭霧山は周囲の山と比べて標高が高い。だから冬は必ず雪が積もる。家は山の中腹にある為まだいいが修業の場となるのは山頂付近、そこまで行くと背丈より高い雪がざらである。

 そうなると必然獣の数も少なくなる。ただでさえ冬眠の時期なのに厳しい環境により野生動物の姿はほぼ消える。日々の食事は山での狩りが常であるが、この時期は遠く離れた町まで買いに行くしかない。

 冬は凍えるような寒さになる狭霧山では食事の他に暖を取る為に薪も用意しなければならない。食事と薪が冬の必需品なのだ。

 よって狭霧山に住む3人は買い出しに行く組と薪を用意する組で別れ行動している。自分は鍛錬もかねて薪を用意する組にいる。もっとも組と言っても自分1人しかいないのだが。

 黙々と薪を作る。鍛錬の一環なのでただの薪割とは少し違う。斧でなく刀を使って薪を作るのだ。

 上に放り投げた丸木を両断する。

 回転しながら落ちてくる木を見切る目、木を刀で斬る為の筋力、そして刃こぼれさせない技術。これらを同時に鍛えられる画期的な鍛錬だ。だからこの鍛錬法を聞き鼻で笑ったあいつは許さん。

 上に放り投げた丸木を両断する。

 孤独に延々と同じ作業を繰り返す。同じ音が繰り返される。だからだろう。後ろで鳴った雪を踏みしめる音に気づいたのは。

 数は1つ。買い出しに行ったのは2人なので知らない人間なのは間違いない。こんな辺鄙な山に用なんて、はてさて一体誰なんだろうか。

 僅かに警戒しながら振り返る。

 

 そこには天狗がいた。

 

 黒い服に蓑を着た大男で、両腕に包帯が巻かれ腰には刀を差している。かなりの背丈だが何より目を引くのは天狗の仮面だろう。髭の生えた赤い天狗の面だ。

 

「―――――」

 

 どちら様でしょうか。そう聞くのが正しいことは分かる。だが呆然とする事しかできなかった。

 怪しいとか、薄汚れているとか、鱗滝さんの知り合いかなとか思うことは色々ある。その中で最も強く思ったのは斬られるだった。

 目の前にするだけで視界がゆがむ。

 何もしていないのに息が荒くなる。

 今すぐ逃げろと警鐘が聞こえる。

 端的に言えば怖気づいていた。死ぬ、殺されると直感する。

 

「……この辺りで鼠を見なかったか」

「―――ぇ」

「鼠だ。人に仇名す畜生で、斬っても斬っても死なん害獣だ。あいつらはこういった山にいることが多くてな」

 

 驚いた。問答無用で斬られると思ったのに話しかけられるとは。

 しかし何を言っているのかが分からない。彼の言う鼠が普通の鼠でないことは分かるが、それが何を示す隠語なのかが分からない。

 

「どうだ、見たことはないか」

「えっと……」

 

 だめだ。頭のおかしい奴に絡まれた。

 山に住んでいるから人と交流することがまれで、どう対処すればいいか見当も付かない。

 

「お前の言う鼠かどうかは分からんが、斬っても死なぬ奴らのことなら知っている」

 

 進退窮まった俺に救いの手を差し伸べてくれたのはもう1人の天狗であった。

 

「鱗滝さん!」

「遅くなったな、今帰った」

 

 鱗滝佐近次。育ての親であり師匠でもある人だ。普段はないはずの光明が差して見える。

 

「錆兎、真菰と一緒に昼食を作ってきてほしい。4人分頼む」

「は、はい!」

「はーい」

 

 鱗滝さんの隣にいた少女、真菰と一緒に家に向かう。

 振り返ると2人が何やら話している。遠くて何を言っているのか聞こえないが今すぐ殺し合いが始まりそうな空気ではなさそうだ。

 ほっと胸をなでおろす。

 鱗滝さんなら何の問題も無いだろう。差し当たっての問題は横で怖がってるのとかほざくガキだ。別にこわがってない、男なんだから怖がるわけがない。

 というか4人分って聞こえたのはたぶん聞き間違えだろう、うん。

 

 

 

 

 

 顔に冷たい感覚がして目が覚める。濡れているため水でもかけられたのだろう。

 それにしても懐かしい夢だった。

 ぬっとこちらをのぞき込む人、いや天狗か。夢で見たものと同じ天狗の面をしている。ただ雰囲気は比べるのもおこがましい程柔らかいものだ。

 

「おはよう、目が覚めて何より」

「……どの位気を失ってた」

「川の水汲んで戻ってきただけだからほんの5分くらいだな」

「そうか」

 

 痛む体を起こす。試合でいいのを喰らって気絶したんだろう。気つけのために水をかけられたのは分かる、分かるのだが普通は気絶したらそこで終了するのではないだろうか。

 

「さてさて、これからどうするよ。もう根を上げるんなら、それでもかまわないけど?」

「っ! 冗談!」

 

 いいだろう、その安い挑発に乗ってやる。言っておくが休憩できたお陰で体調はすこぶるいい。次負けるのはお前の方だ。

 

「おーおーやる気だねぇ。こりゃあ木刀も今日で終わりかな」

「当たり前だ」

 

 そうなのだ。こちらは真剣なのに対し相手は木刀なのである。完全に舐められている。

 1対1の試合、こちらの勝利条件は憎きコンチキショウの木刀を叩っ斬ること、もしくは首に刃を当てること。真剣対木刀なんて普通相手にならない。なのに天狗の持つ木刀は1年経っても斬れたことがない。

 呼吸を整える。

 相手の格好は夢での姿とほぼ変わらない。黒い和服が黒い洋服に変わっただけで天狗の面も蓑も健在である。洋服の背には蓑で隠れて見えないが滅と書かれている。

 相手は構えすらしていない。切っ先は地面に向いており、体は完全に脱力している。ふざけていると言われても仕方がない姿勢。しかしこれこそが男の構えである。

 呼吸を整える。

 心臓が激しく拍動する。

 全身に血液が巡る。

 血液循環量を増やすことで爆発的に身体能力を向上させる技術、全集中の呼吸。

 

「シィ!」

 

 短く息を吐き斬りかかる。人を越えた脚力は一足で相手の懐に飛び込める。

 間合いに入ったにも関わらず動かない天狗。気にせず全力で刀を振り下ろす。強化された筋力は木刀どころか人体を輪切りにして有り余る力を持っている。

 人には過ぎた暴力が振り下ろされる、が弾かれる。

 力の向きを逸らされた。簡単にやっているが少しでも調節を間違えると木刀が折れる危険がある。それどころか刀を逸らせずそのままばっさりいってしまう可能性だってある。

 強すぎても弱すぎてもダメ、しかも高速で動く細い棒に合わせてやっている。正に神業だ。

 だが弾かれる事は分かっていた。勢いを殺さずそのまま2度3度と斬りつける。

 しかしそのどれもが弾かれる。

 何度斬りつけても弾かれる。

 何とか鍔迫り合いまで持ち込む。しかし上から押さえつけられる状態のため動かすことができない。

 

「だったら!」

 

 地面を蹴り大きく距離を取る。正面が無理ならそれ以外から攻めればいい。

 近くの木に跳躍する。その勢いのまま別の木に跳び移る。それを何度も何度も繰り返す。

 この修業場はさほど広くない。絶え間なく木々へ跳び移ればいいかく乱になる。

 

「速い速い。真菰に迫る速さじゃないか?」

 

 実際真菰に相談して思いついた作戦だ。おかげで借りを作ってしまったではないか、おのれ許すまじ髭天狗。

 地面に着地する。急制動により足が悲鳴を上げるが無視。

 今は天狗の左斜め後方。右手に持つ刀から遠くなおかつ視界の外にある位置。かく乱が効いたのか相手はこちらを見ていない。

 

―――貰った!

 

 必中の一撃はしかし。

 ゆらり、と相手の体を刀がすり抜ける。

 躱された。そう思う間もなく流れる様な動作で一撃が放たれる。

 一閃。

 下から掬い上げた木刀が顎に直撃した。

 

「ぐがっ」

 

 頭が大きく跳ね上がり視界が流れる。

 思考が止まる。呼吸が乱れる。

 意識が、遠のく。

 

―――男なら、黙って耐える!!

 

 努めて地面を踏みしめる。勢いで轍のようなものができるが気にも留めない。

 呼吸を整える。

 自身の深い呼吸音を耳にしながら跳躍。

 

「お」

 

 以外だったのだろう、少し遅れて相手が弾く体制に入る。

 が、構うものか。

 両の腕を交差し突き進む。

 視界の端に水が映る。

 

―――水の呼吸 壱ノ型 水面斬り

 

 幻の水を纏いながら放たれた技は容易く木刀を両断した。

 地面を滑りながら着地する。

 息が荒い。長く呼吸を使いすぎた。痛い程心臓が動いているし耳がどくんどくんと五月蠅い。

 振り返り相手を見る。そこには半ばから斬られた木刀を見ている天狗の姿があった。

 半ばから斬られた木刀。

 斬られた、木刀。

 

「―――よっしゃああ!!」

 

 思わず雄叫びを挙げてしまった。たかが木刀斬っただけでとお思いかもしれない。

 しかし、しかしである。その木刀斬るだけに1年費やしたことを理解してほしい。

 やったぜ錆兎、よくやった錆兎、流石は男だ男錆兎。

 狂喜乱舞する俺はここで近寄ってきていた天狗に気づく。やはり木刀なぞ相手にならなかったと言ってやろうと見上げる。

 すると頭を撫でられた。

 

「強くなったな錆兎」

 

 優しい手つきだった。

 優しい声色だった。

 だからだろうか、かつて失った誰かの顔と重なった。

 

「―――っ! 当たり前だ俺は男だぞ! あと撫でるな!」

「うはは! すまんすまん」

 

 手を払いのける俺とそれを笑って見る天狗。

 あぁ、本当に気分がいい。

 

「これで次からは真剣だ!」

「うん? あー、そうだなぁ……」

 

 段階的にはおかしくない事を言っているのに芳しくない返事。

 明朗快活な天狗には珍しい姿だ。

 

「どうした、何か問題でもあるのか?」

「いや、だって呼吸使ってない状態から真剣に変えるのはちょっとすっ飛ばし過ぎてやいないかなと」

「……は?」

「うん?」

「……呼吸を使っていない?」

「おう」

「全集中の呼吸?」

「おう」

「お前が?」

「おう」

「…………」

 

 つまりアレか。

 呼吸を全力で使って真剣を振り回していた俺は、呼吸を使わずに木刀装備の男に1年も苦戦していたと?

 

「……冗談だろう」

「何言ってんだ。鱗滝さんに会う前は呼吸を知らない状態で鬼とチャンバラしてたんだぞ。それ相応の身体能力してるんだよ」

「……」

「どうかしたか」

 

「上等だ! 呼吸使ったお前の木刀も斬ってやる!!」

 

「あー、今から?」

「当たり前だ!」

「でも最後いいの貰ってたし明日からでも」

「男ならつべこべ言わず戦え!」

「分かった、分かったから。じゃあ新しい木刀持ってくるから少し待ってろ」

「なるべく早くしろよ」

 

 天狗が消える。動きがまったく見えなかった。

 ということは全集中の呼吸を使っていなかったのは事実なのだろう。

 

「あぁ」

 

 本当に気分が悪い。

 

「絶対に勝つ!!」

 

 男錆兎、気絶するまであと2分。




主人公は錆兎さんではなく天狗さんです
あと原作とのクソデカ矛盾は書き終わった後に知ったのでこのまま行きます(半ギレ)

大正コソコソ話
作者はWikipedia大先生を拝見するまで錆兎と真菰が同じ空間にいたと思っていたぞ!
つまりアニメしか見ていないぞ!


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