狼が斬る   作:hetimasp

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戦の終結。


44エピローグ 終止

エスデスは死んだ。

悲し気な、でも美しい音色が響き渡ったときに誰が察するでもなく戦いの終わりが分かった。

「見事であった・・・狼たちよ」

一心は立ち上がり、この戦の勝者を労う。

「エスデス様との約定故、鬼となった者を斬りました・・・」

「最後の標的を葬ったまでです」

「本当にお主らは・・・」

笑いをこらえる一心の背後よりナジェンダ達がやってくる。

「お前たちが生き残ったのだな」

狼は跪き、アカメは肯定した。

「よく、よくやってくれた・・・」

「・・・・・・」

狼とアカメは親子でもって強大なエスデスを圧倒した。

最期に残したエスデスの賞賛は間違いなく二人を認めるものであった。

 

 

心中に息づく、類稀な強者との戦いの記憶

エスデス。

今はその残滓のみが残り、記憶は確かにアカメの糧となった。

帝国最強と呼ばれた将軍。

その最期はアカメの刀ではなく隻腕の狼の刀を選んだ。

何故かは本人たちのみぞ知る。

 

 

心中に息づく、類稀な強者との戦いの記憶

エスデス。

今はその残滓のみが残り、記憶は確かに狼の糧となった。

帝国最強と呼ばれた将軍。

その最期はアカメの刀ではなく隻腕の狼の刀を選んだ。

全ては己の掟、エスデスと隻狼の間で交わされた尊い約束だった。

 

 

その後の話である。

悪逆の限りを尽くしたオネストは徐々に切り刻まれるという壮絶な処刑によって幕を閉じた。

皇帝の死体は発見できなかったが、狼が陛下は既にこの世にないと言ったことから死んだとされた。

帝国に残っていたランは革命軍に降伏したが、グリーンと同じく内部から帝国を良くしようと活動していたことを評価され、無罪放免。

革命軍と共に内政に当たることになった。

グリーンも同じくして内政を担当することになり、未だに国に尽くすことに躍起になっている。

かつてはナイトレイドに対象となっていたボルスはひっそりとした森の中で家を建てて住むことになった。

マスクを取った彼を知る人物が少なかったのも功を奏して、今は平和に暮らしている。

ラバックはついにナジェンダに告白し、最後の最後までナジェンダに尽くした。

タツミは帝具に身を侵蝕されながらも生き延び、恋人のマインと過ごしている。

レオーネはスラム街でまた大騒ぎしているらしく、変わらぬ生き方をしていた。

ナジェンダは残された余命を新国家に費やし、最後まで闇を払って生き抜いた。

チェルシーは一心が病死するまでこき使われ、内政官としての道を歩いて行った。

国盗り戦の葦名衆筆頭、剣聖葦名一心はその生涯を国のために使うことはなく、国の中に小さな道場を開いて葦名流の剣術を教える日々を続けた。

たまに良い酒が入っては彼の下に英傑が集まり、酒宴が開かれたというが、一心はその英傑たちを馬鹿者どもと呼んで笑っていたという。

 

 

「忍びの業・・・引き継ぐつもりか・・・アカメ」

狼は仏を彫りながらアカメに問う。

荒れた寺のような場所で狼は何もない時は仏を彫っていた。

傍らには小さな、しかし大人びた子供が共にいる。

「はい。義父上。私は斬ることでしか生きていけません」

「・・・そうか・・・そう教えたのも・・・己たちであったな・・・」

狼は仏を彫る手を止め、アカメに向き合う。

彼の眉間のしわが濃くなっていることは今更言うまでもない。

そんな狼を見てアカメは微笑んだ。

「・・・何かあったら言え。助けにはなるだろう・・・」

そういって狼は再び仏を彫り始めた。

 

 

アカメは新国家のために不穏分子を斬り続けた。

その身に憑いた形代は多く、その業は深い。

しかし、彼女は決して己の掟を違えることはないだろう。

それが狼の子であるならば尚更だ。

 

 

「あ!お義父さん!」

「・・・今日は騒がしいな」

「お姉ちゃんも」

荒れた寺に来る客人は意外に多い。

狼はよくこのような辺鄙な場所に来るものだと思った。

ウェイブは狼をお義父さんとよぶようになり、クロメと一緒に顔を出すことが多い。

「えっとその」

「ただの子供だ。敬意など払わずとも子ども扱いすればよい」

名のない子供はそういった。

ただの子供というにはあまりに精神がしっかりしているが。

ウェイブはその子供相手に強張ってしまう。

「壮健でなによりだ」

「はい。義父上の薬でだいぶ良くなりました・・・」

「怨嗟か・・・」

狼はかつて怨嗟の降り積もる先となった仏師の事を思い出す。

クロメの表情からその炎を見出したのだ。

『泣き虫』の指笛。

狼はそれをウェイブに手渡した。

「これは?」

「『泣き虫』だ・・・怨嗟の炎を静めてくれるだろう・・・」

「でもこれは」

「かつては仏師殿の、もう一人の忍びが吹いていたらしい。それが巡り巡ってお前の手に渡っただけの事・・・。決してクロメを鬼にさせるな・・・子を斬るのは・・・辛い・・・」

「・・・はい!」

 

 

ウェイブとクロメは共に生き、時にアカメが尋ねるような日常は幸せであった。

クロメに降り積もる怨嗟の炎もウェイブが払ってくれたという。

かつて正気を失い、狂気に堕ちたクロメであったが、再び正気を取り戻し、幸せな日々を送った。

 

 

「私はこれからどうしたらよいか・・・。あの時は死ぬことのみを考えていたからな・・・」

「は。旅をするのもよいでしょう。この混迷が終われば、己も御供いたします」

「フフッ。元はと言えばお主が私を生かしたことが発端だぞ?」

「己の掟故・・・」

「九朗殿も最後の最後でしてやられたと思ったに違いない。しかし、旅か・・・この地で私が生きているのはよろしくない。遥か遠く、東方の地に足を運ぼうか」

「御意のままに」

「そなたと私との主従は既に切れているはず。・・・それもまた己の掟なのだろうな」

少年は諦めたようにため息をついて跪く狼を見る。

「僥倖であったよ。そなたの手で我が民を救ってくれた・・・」

「己は斬っただけ・・・」

「それでもだ。感謝する。狼よ」

 

 

かつて陛下の忍びとして名をはせた狼という人物がいる。

しかし、革命後はその名がぱたりと消え失せた。

代わりに新国家に仇名す考えを持った者や野心を持った人間が斬られるという事件が多発した。

やることは相変わらず不器用な奴だと彼を知るものは呆れていた。

西の異民族を相手にしていたエスデス軍は彼を探しに回ったというが、誰一人見つけられなかったという。

史書にはこう記された。

天下泰平よりも己の掟に生きた孤高の忍びがいたと。

その忍びを知る者はさらにこう書き加えた。

不愛想だが、憎めない不思議な人物だった・・・と。

 




多くは語りません。


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