今作は、死の秘宝の時間軸におけるネビル、ルーナ、ホグワーツに残った生徒たちの交流を描いて、あわよくばスネイプ先生を助けようという物語です。
ハリーの活躍はありません。スネイプ教授以外の原作死亡者の生存ルートもありません。
ハリーたち原作ゴールデン・トリオが死の秘宝探索の旅にでている間に、ホグワーツでネビルとスネイプ教授の間に何かが起こったことにして、スネイプ先生を助ける、かなり卑小で個人的な物語です。
本来のメイン・ストーリーは今回この物語では脇役であるハリー・ポッターの側で進んでおり、この物語の主役であるネビルは、ホグワーツを舞台に、原作にそもそも描かれていない要素によって、スネイプ先生を気にかけるようになり、助けたいと願うようになります。
そのほぼ一年間の出来事を、よろしければお付き合いください。
それから、この作品は、改校前のものをpixivに性描写なし腐向け作品として掲載していますが、今回、ハーメルンに掲載するにあたっては、改稿して、健全作品としての投稿となります。
pixivに行くと、描写はなくともスタンスとして腐向けとなるので、そういうものが苦手な方は遠征はなさらない方が無難です。
どちらの作品についても、セブルス・スネイプ教授ヘの敬愛は保持されるので、それが腐向けっぽいと言われるとどうしようもないのですが、できれば楽しんでくださることを願って。
ダンブルドアが、スネイプ教授に殺害された、と。
ホグワーツ魔法学校のグリフィンドール寮に所属しているネビル・ロングボトムが、そのニュースを聞いたのは6年次の終わり頃だった。
ネビルはその訃報を信じられないような気持ちで聞き、眠るように目を閉じるているダンブルドアの亡骸がホグワーツに埋葬されるのを見届けた。
ダンブルドアの葬儀の時、ネビルは地に足がつかないような気持ちで、ルーナに支えられてやっと葬儀に参列することができた。
様々な参列者がダンブルドアに哀悼の意を表する中、ネビルはと言えば、まるでダンブルドアの死によってホグワーツが滅びるかのような気持ちだった。
冷静に考えれば、ホグワーツは千年続き、ダンブルドアが校長だった時代は半世紀もないのだから、そういうことであるはずもないのだから、ダンブルドアという人物が偉大でいかにホグワーツそのものであったかという印象は強く、この学期をもって、ホグワーツが一旦閉鎖されるという報せとともに、なおさらそのように感じられた。
まともにものを考えられない時間が過ぎて、ネビルはホグワーツ特急で、祖母の待つ実家に帰った。
暗い顔をしていたのだろう。
祖母ー、オーガスタ・ロングボトムに厳しい顔で問い質される。
「それで、ネビル、どうするつもりだい?
尻尾を巻いておめおめと逃げ隠れするつもりかい?
それがお前がグリフィンドールで学んだやり方かい?
やれやれ、神秘部で勇ましかったお前はどこに行ったんだろうね?」
言われて、ネビルは頭を殴られたような気持ちになった。
「いいかい、私はお前のばあちゃんだが、私にも爺ちゃんも婆ちゃんもいた。
けど皆今はベールの向こう側だ。
多分、私だって順当に行けばお前より先に逝く。
ダンブルドアだって、順番で逝っただけさ、誰だっていつまでも生きちゃいない。
いつまでも誰かに引率してもらわなきゃ歩けないような腑抜けかい、違うだろ!」
ネビルの祖母は、いつだってかっこいい。
その祖母が死ぬ日など考えたくはなかったが、がん!と、はっきり言われて、その事実を直視しないことは不可能だった。
ダンブルドアが──、先達が倒れたから自分は諦めるのか?
ダンブルドア軍団、と、思った。
名を冠したのは頼り切るためだったろうか、ーー違う。
ポケットの中のコインを握りしめて考え続けるうちに、ホグワーツからひとつの報せが届く。
──セブルス・スネイプ校長名で届いたホグワーツ新学期開校の報せだ。
つまり、セブルス・スネイプ教授が、ホグワーツ魔法魔術学校の新校長に確定したということ。
それは衝撃的なニュースだった。
ダンブルドアを殺害した本人がホグワーツの校長だなんて!
ネビルの元には、7月のうちに、ハリー・ポッターがマグルの伯母の家から「隠れ穴」のウィーズリー家に移動したことは伝わって来ていなかったが、オーガスタ・ロングボトムの伝手で、8月1日のビル・ウィーズリーとフラー・デラクールの結婚式がデスイーターの襲撃で台無しになったことはルーナから手紙をもらって知っていた。
その後も、どうやら同級生のロン・ウィーズリーはたちの悪い病気に掛かって顔もわからないほど酷い状態だと言うことや、マグル生まれの登録が義務付けられるという報道に、ハーマイオニー・グレンジャーの心配をしたり、考える種は尽きなかったが、この情報ほどネビルを驚かしたものはなかった。
オーガスタ・ロングボトムは、ネビルの興奮した話を聞き、書類をじっくり読んで、きっぱりと言った。
「心配をおしでないよ。
ホグワーツの校長であるということは、城の魔法に認められる必要がある。
このスネイプっていう男は、どんな男だい。
本当にダンブルドアを殺したような裏切り者なら城が認めまいよ。」
ネビルは祖母の言に納得し、のちのち、ひどく重要な場面でそれを思い出すことになる。
ただ、ネビルはハリーからスネイプ教授がダンブルドアを殺害したことを聞いて、疑ってはいなかったものの、何ともいえないしこりを抱えてもいた。
確かに低学年の頃は、ボガートがスネイプ教授に化けるくらい恐れていたが、成長したネビルの得意科目は
今のネビルは、態度は厳しくともスネイプ教授がいかに真剣に安全に配慮して魔法薬学を教えていたか理解でき、更に去年の闇の魔術に対する防衛術は、本気で防衛術として有用なものだった。
物言いに棘があるが、真面目な研究者かつ教育者というのが、ネビル本人が肌で感じていた印象だったので、その印象と突然のダンブルドア暗殺が不協和音に感じられてもいるのだが、今はハリーの目撃証言に違和感が塗り潰されていた。
その違和感も、人の言葉ではなく己の見たものを信じるべきだったのだと、手遅れにならぬといいと感じるのは、物語の枠外にある我々だからだが、ともかくもネビルは、この時点でセブルス・スネイプ教授に対し酷い失望感と冷えた憎悪を抱えていた。
その通知が届いてすぐネビルはルーナにフクロウ便を出した。
ルーナの父親はゼノフィリウス・ラブグッド、いかがわしく胡散臭い雑誌と言われるザ・クィブラーの編集長で、いかがわしいと言われていてもいやしくもマスコミの端くれである雑誌社の編集長がこれらののニュースを知らないわけはなかったのだが、一番はやはり、DA(ダンブルドア軍団)のことを相談したかったからだ。
それがロンでもハリーでもなかったのは、病気とされるロンはともかく、ハリーもハーマイオニーもおそらくビルの結婚式以来逃亡中で、この状況で彼らに連絡を取ろうとすることがむしろ彼らに危険を招くのではないかと思ったからだ。
ネビルとルーナは少なくとも純血で、現時点で学校に行っても直ちに危険はないはずだった。
ルーナからの返事はすぐに来た。
「DAを続けるべきだよ。」
ルーナの返事は、いつも通りの不思議魔法生物の話題も混じり、ある程度の長さがあったのだが、本題を要約するとそれに尽きた。
ルーナは不思議な子だ。
変わったことばかり言って、妙な動物の話をして、皆から馬鹿にされているが、ルーナの本質はそんなところにはないと思う。
ルーナのけぶるような大きな瞳を見ているとまま落ち着かない気分になるが、ルーナと話していると、彼女は全てが分かっているんじゃないかという気分にさせられるのだ。
まあ、させられるだけで、実のところ、ネビルもルーナから飛び出す謎の固有名詞はほとんど理解できていない。
ともかくも、ホグワーツは再開する。
そのときに、学校がどんな風になるのか、ネビルには想像もつかなかった。
ルーナの手紙では、銀色のオオヤマネコのパトローナスが『魔法省は陥落した。スクリムジョールは死んだ。』と伝えたのだと言う。
魔法省までが陥落して、魔法大臣が暗殺されるような事態になって、ホグワーツがどうなるのか全く分からなかったが、ネビルはハリーのことを思い出した。
ネビルの友達のハリーは、英雄のハリー・ポッターはどんな時でも諦めなかった。
いつも完全に正解だったとは言わないが、どんな絶望的な状況に置かれた時も、絶対に諦めたり、投げ出したりしなかった。
ここにハリー本人がいたら否定したかもしれないが、少なくともネビルにはそう見えていた。
「婆ちゃん、僕は学校に戻る。
他のみんなも心細い思いをしてるに違いない。
僕は僕のできることをする。
学校が僕の戦場だ。
もしマグル生まれや混血が迫害されたら助けるし、できれば、奴らの鼻を少しでも明かしてやりたい。
婆ちゃんには心配をかけるけどーー。」
ネビルの決意に、矍鑠たる様子の祖母はにやっと笑って
「それでこそうちの孫だよ、思い切りやっておいで。」
と、背中を押したのだった。
そして、9月1日、日刊予言者新聞に、ひとつの記事が載る。
──セブルス・スネイプ教授、ホグワーツ魔法魔術学校の新校長に確定。
それは前述した通り、衝撃的なニュースではあったが、ホグワーツの生徒と父兄はホグワーツ魔法魔術学校の新学期からのスネイプ校長名義の再開通知を受け取り、既に知っていたことでもあった。
ホグワーツ特急は、決して明るい雰囲気ではなかった。
混血だけでなく、純血の生徒も大半が暗い雰囲気だったが、ネビルは努めて明るい表情を保とうとした。
そして、ネビルの予想通り、この日のホグワーツ特急にハリー・ポッター、ゴールデン・グリフィンドール・ボーイとそのトリオ、ロナルド・ウィーズリー とハーマイオニー・グレンジャーの姿は無かった。
光の側の英雄であるハリーと、マグル生まれのハーマイオニーはともかく、ロナルド・ウィーズリー は聖28族に類されるほどの純血で、身を隠さなくても命は保障されるだろうに、彼らは信頼しあってこの困難を乗り越えるべく一緒に行ってしまったのだ、とネビルは思った。
自分だって、神秘部の危険を、DAの訓練を共にしたのに、そのトリオに入れなかったことに胸のどこかにつきりと痛みを覚えながらも、ネビルは自分の場所で動こうと決めていた。
実際、9月1日には、ハリーたちはグリモールド・プレイス12番地に潜んで、セブルス・スネイプ教授の校長就任を知り、ネビルたちがハリーたちを心配しているだろうとか、スネイプ校長の体制を弱体化させるために話し合っているだろうとか考えていたのだが、それをいま知る由もない。
ネビルはまず列車の中で、ルーナを探した。
ルーナは相変わらず、ザ・クィブラーを胸に抱いて、何かティアラっぽい頭飾りを身につけていたが、それは大ぶりで全く現代的ではなかったものの、以前掛けていたメラメラメガネよりはだいぶんマシだった。
ヒキガエルのトレバーは相変わらず脱走しようとしていたが、ネビルはヒキガエルをむんずと掴んで厳しい声で言い聞かせた。
「トレバー。
僕もお前ももう甘える子供時代は終わりだ。
お前も魔法使いの相棒の自覚があるんなら、勝手にうろついたらどんな危険があるか分かってるんだろう。
逃げ出して踏み潰されても仕方ないし、お前の主人じゃない大抵の魔法使いにとってはお前は高価な魔法薬の材料なんだ。
この意味分かるな?
それでも逃げ出すなら、自分の身は自分で守れ。
僕は今年は絶対にやらなくちゃいけないことがあるから、お前を探し回ってばかりはいられないんだ。」
掴み上げられてじたばたしていたトレバーは途中からすっかり大人しくなった。
トレバーも人の言葉くらいは分かっているのである。
トレバーはネビルがそっと座席に下ろすといつになく大人しく自分からケージに入って行った。
「ネビル、あなた、何だか感じが変わったね。
ううん、いい変化だよ。
すごく素敵になった。
ガルピング・プリンピーの成長よりよほど素敵だよ。」
相変わらずルーナの言っている生物のことは何一つさっぱり分からなかったが、とりあえず褒められていることだけは分かって、ネビルは苦笑しながら礼を言った。
「ありがとう、ルーナ。
ハリーたちはやっぱり来てないね。」
「そうだね、8月の結婚式の時に逃げてそのままだね。
捕まらないと良いね。
捕まったらハリーは酷い目に遭わされちゃうよ。」
ネビルはそれから、ルーナから、手紙だけでは書ききれなかった、ビル・ウィーズリー の結婚式の時の様子を聞いた。
ホグワーツ特急では、更にホグワーツに通っている最後のウィーズリー、ジネブラから更に詳しい話を聞くことができた。
聞くことができたと言ってもジニーは、トリオーー三人組の計画には無関係だったので、ビルの結婚式で三人が姿を眩ますまでの短い間の情報だったのだが。
それでも、マグルの伯母の家からの決死の移動や、結婚式からまんまと逃げおおせたハリーたちの機転と勇気は、何も知らないより、はるかにネビルの勇気になった。
ホグワーツ特急の中では、同室のシューマス・フィネガンは見掛けたが、彼といつも一緒にいるディーン・トーマスは見掛けなかった。
「危ないから、来るなって言っといた。
もう、マグル狩りが始まってる。
俺は親が片方魔法使いだからまだ良いけど、ディーンはそうじゃない。
学校に来たら危ないから、見つからないように隠れておいた方がいいって言ったんだ。」
シューマスは真面目な顔でそう言った。
ホグワーツの5人部屋は、ハリーとロン、シューマスとディーン、それにネビルだったから、2人しか残っていないことになる。
他にも、マグル生まれで生徒の姿が見えないようで、そう言った生徒はやはり逃亡中なのだろうと思われた。
ホグワーツの新学期がこんなに重苦しい雰囲気で始まったのは初めてのことだった。
大広間に何事もなかったように組分け帽子が置かれているのがいっそ奇妙だった。
組分け帽子は此の期に及んだ寮の団結を呼び掛ける歌を歌い、今それが可能なのかネビルには分からなかった。
新入生は恐る恐る組分け帽子を被り、いつもだったらグリフィンドールに組み分けられた生徒は歓声に迎えられるのに、今回は息を詰めたような緊張感の中に同情が混じっていた。
だからと言って、スリザリンに組分けされた生徒が喜んでいたかというと、こちらも単純にそうとは言いがたく、どこかホッとしたような雰囲気はあるものの、おずおずと寮の席に向かう生徒が多いのが印象的だった。
この事態にさぞ意気軒昂としているだろうと思われたドラコ・マルフォイは表情が硬く精彩を欠いていて、相変わらずクラッブとゴイルを脇に従えてはいたが、野次一つ飛ばすでもなく静かだった。
組分けが終わって、帽子が片付けられ、とうとう今まで影のように静かにしていたセブルス・スネイプが立ち上がった。
まるで、今までそこにいなかったかのようにその漆黒の姿は大広間の星空の背景に溶け込んでいたのに、立ち上がった途端に、全員がその存在感に注目せざるを得なかった。
「ホグワーツの新入生を歓迎する。」
スネイプ教授──、今ではスネイプ校長は重々しく発言したが、その様子には全く楽しげな様子も嬉しげな様子も見受けられなかったので、彼がそう思っていると信じることは難しかった。
マクゴナガル 教授は少し距離を取って座っていたが、その視線は厳しく、表情は硬く強張って、新しいセブルス・スネイプ校長を心から受け入れていないことは傍目にも明らかだった。
他の教授連も殆どが大差なく、フリットウィック教授などは明らかに不愉快そうな顔をしていたし、スプラウト教授も似たようなものだった。
スネイプ校長は常人であれば針のむしろだろうと思われるその状況に顔色一つ変えず、お世辞にもハンサムとも美人とも言えない男女を紹介した。
「食事の前に、ホグワーツの人事について、新たな教師を紹介しておく。
アミカス・カロー教授。闇の魔術に対する防衛術を担当する。」
不細工な男は、おそらくその後に美辞麗句が続くことを期待して気取った会釈をしたが、スネイプ校長はそれには全く頓着せず、何事も無かったかのように言葉を続けた。
「アレクト・カロー教授。マグル学を担当する。」
こちらにも美辞麗句はなかったので、2人は気を取り直して滔々と自己紹介を始めようとしたが、そんなものが必要とは思っていないらしいスネイプ校長が杖を一振りして(おそらくハウスエルフへの合図である)、食卓の器にご馳走が満ち、飲み物が行き渡ると(一言言い添えて置くなら酒ではない、ここは学校である)
「速やかに必要な食事をすませるように。」
という全く祝事らしくない断言に、カロー兄妹は挨拶のタイミングを失っていた。
ネビルは、最初スネイプ校長のことを憎すぎて、射殺すような視線で見ていたが、その遣り取りに関してだけは笑いを堪えられず小さく吹き出した。
小さな笑いは伝染し、グリフィンドールのテーブルは多少和んだ雰囲気が流れた。
ネビルは大広間での食事が終わって寮に戻ると、早速、シューマス・フィネガンやジニーと一緒に作戦を練り始めた。
と言ってもさすがに初日、立てられるほどの作戦はほぼなかった。
無茶はしないこと、まずは敵の出方を見ること、それから、アンブリッジ時代に結成したダンブルドア軍団を再結成して加入を呼び掛けること、まずはそれくらいだった。
翌9月2日には、ハリーたちは魔法省に潜入して大騒ぎを引き起こすのだが、ネビルたちには生憎その情報までは入って来ない。
ネビルたちは、自分たちの戦場を学校と決めて、間違っているとしか思えない純血主義に迎合しないために、できる限りのパフォーマンスもしていくことに決めたのだった。