クリスマス休暇に家に帰って、ネビルが真っ先にしたことは、友人のルーナが連中に連れていかれたことを婆ちゃんこと、オーガスタ・ロングボトムに話すことだった。
「婆ちゃん、奴らにルーナが連れていかれた。
ちくしょう、なんとかできればいいのになあ。」
ネビルの話を聞き終わって、詳しい事情を問い質したオーガスタは、孫を一喝した。
「心配おしでないよ。
ルーナっていうのは、あんたの手紙によく出てきたレイブンクローの子だろ。
大した子じゃないか、肝が据わってる。
並みの根性じゃ、そうはいかないよ。
その子はあんたたちを巻き込むまいと、自分からそいつらについて行ったんだろ?
わざわざ探して連れて行ったってことは、その子をすぐに殺すつもりじゃない。
その子はその子で、自力で逃げる算段を捜すか、冷静にチャンスを待つと思うね。
あんたがすべきは、ここでおたつくことじゃない、自分のできることをしっかりやることさ。
だいたい、列車の話ばかりして、学校の方はどうだったんだい。
顔にやけに大きな勲章をこさえて帰って来たみたいだけど。」
問われて、ネビルははっとなった。
両頬の傷は目に見える。
手紙には書いていたが、直接説明が聞きたいのは当たり前だった。
学期初めの、グリフィンドールの剣を入手しようとして失敗した事件から、順を追って、全てではないが、話して行く。
話さなかったことは、スネイプ校長が味方だと思う、ネビルのその推測と確信だ。
だが、オーガスタ・ロングボトムは、公平でそして聡い。
ネビルが言わなかったことがあることを恐らく承知の上で、カロー兄妹の授業での顛末を聞き、
「お前もやっと父親から受け継いだ良いところを発揮して、一人前の男になったみたいじゃないか、え?」
とにやりと笑った。
ネビルは休暇中も、ダイアゴン横丁に買い物に行ったりして無駄にはしなかった。
学校での防衛術の授業の教師はアミカス・カローなので、DAで学び教えられるよう高度な呪文の載っている書籍を探したり、隠密行動に役立つように、ウィーズリーの双子のやっている店を覗いたり、デスイーターらに察知されない範囲で行方不明のマグル生まれの生徒たちの行方が知れないか調査したりした。
中で、双子経由でポッターウォッチをやっているリー・ジョーダンと連絡が取れたことは、学外の動向を知る上で大きかったが、ハリーたちの行方はこの時点では知れなかった。
なお、ハリーたちは、このころクリスマスにゴドリック・ホロウに行った時、ナギニに遭遇してハリーの杖が折れ、ロン・ウィーズリー が復帰して本物のグリフィンドールの剣を手に入れ、スリザリンのロケットを破壊して、再び三人で彷徨を始めた頃合である。
ネビルはリーに、ホグワーツでの地道に抵抗活動を続けている勢力がいることを放送して欲しいとは依頼したものの、実名を出すのは危険すぎるので、休み中実家に帰っているホグワーツ生がそれを聞いて勇気を振り絞ってくれるのを期待するしかなかった。
ネビルはノクターン横丁にも足を運び、役に立つ品がないか探し回った。
ほんの先ごろまでのネビルだったら、「おいおい坊やが紛れ込んでるぜ」と言った風情で、あっと言う間に追い出されるか相手にされないか、あるいは完全にカモにされるかだったろうが、この数ヶ月の経験と傷は確実にネビルに風格と迫力を与えていた。
そのノクターン横丁でもネビルはいくつか興味深い品物を見つける。
暗闇をそれと知られずに照らす「輝きの手」も補充されていたし、敵を困らせるためのアイテムには事欠かなかったのだが、オーガスタから預かった軍資金ネビルには見合わなかったので、それらのものは買わなかった。
ネビルは格段に上達した呪文の腕前で、自分のトランクに検知不可能拡大呪文を掛け、更に抜き打ち検査の受けたときのために、二重底にして絶対に見つからないように細工して、買い込んだ品物を下の段に隠した。
オーガスタは、そんな孫を満足げに眺めていたが、荷物を確認して詰め終わったネビルがふと顔を上げて質問したのに目を細めた。
「ねえ、婆ちゃん。
もしね、もし助けたい、力になりたいっていう相手がいたとして、その相手が頑固っていうか、絶対に自分からは助けてくれって言ってこないだろう場合って、どうしたらいいと思う?」
具体的に相手を名指ししたわけではないが、ネビルの脳裏にあったのはスネイプ校長だ。
絶対に頑固なスネイプ校長は、今後生徒の活動とデスイーターとの狭間でどれだけ板挟みになっても誰にも助けを求めたりはしないだろう。
事態が万一デスイーター側に発覚したとしても、光の側に駆け込んで命乞いするスネイプなどネビルには想像もできなかった。
「なんだい?
学校にはそんな困った輩がいるのかい?
決まってるだろ、ネビル、あんたの行動を決めるのはあんただよ。
助けるべきなら助ける。
無理なら努力する。
助けてくださいなんてお願いされるのを待ってるんじゃないよ。
助けてよろしいですかなんてお伺いを立ててんじゃないよ。
好きなようにおし。
骨は拾ってやるよ。」
誰のことを言っているのか、オーガスタには分からなかったはずだが、年齢を感じさせない所作で、オーガスタは拳で孫の胸を軽く突いた。
常に揺るがない己の祖母を見て、ネビルは例え本人に嫌がられても、スネイプ校長のホグワーツ保全計画とでもいうべき行動をフォローしていこうと思ったのだった。
年が明けてホグワーツに戻る。
年明けの騒動は、早速、ホグワーツ特急から始まった。
見回りと称して、ディメンターが徘徊したのだ。
低学年の子らが恐慌に陥る中、DA軍団のメンバー、アーニー・マクミランやシェーマス・フィネガン、チョウ・チャンや、何人もが守護霊を出し、ディメンターを撃退して行く。
低学年の子らの賞賛の視線と、ディメンターがもたらした恐怖の中、ネビルはグリフィンドールのこの学年の両監督生(ロンとハーマイオニーだ!)不在につき、代わりに巡回を手伝って回ったのだった。
戻れば戻ったで、あっという間に、ジニーが問題を起こした。
もう一度、単独で校長室に忍び込んで、グリフィンドールの剣を盗もうとしたのだ。
今度は、壁に剣はなかったらしく、ジニーが躍起になって部屋中を探そうとしたところ、またしてもスネイプ校長に見つかったという話で、盗みに入ったということはジニー本人から聞いたが、大食堂ではスネイプ校長が、事務連絡として
「校長室に勝手に侵入しようとする生徒がいるが、重要な品物は然るべき場所へ保管したので、校長室への侵入を試みるのは無駄だ。
今後、そう言った生徒を発見した場合は、禁じられた森での採取作業を命じるので、そのつもりで。
禁じられた森には様々な生物がいる。
命が惜しくないものは試みてみるのもいいだろう。」
と言ったことで、グリフィンドールの剣が他所へと移されたことが分かった。
ジニーの罰則は再びハグリッドの預かり、ただし今度は1ヶ月で、授業への出席すら禁じていたが、ジニーの発言は純血という立場をもってすら過激だったので、ネビルとしては、むしろ、ジニーとカロー兄妹の接触が減って、ホッとしていた。
また、ジニーが罰則という名目で公然と禁じられた森に立ち入れるので、ネビルが欲しい役立ちそうな薬草や、薬学の材料を探してもらうのにうってつけで、ハグリッドではそういうことに、絶対的に不向きだった。
ネビルはまた、水面下で、今度こそ秘密裏に、DAの組織的訓練を再開した。
下級生だとて、ディメンターがそこいらに出没する可能性があるとホグワーツ特急で実感してから、防衛術の必要性を非常に感じているようだった。
ネビルは、相変わらずカロー兄妹の授業は無視しながらも、大食堂で鉢合わせないよう気をつけ、時には、シェーマスに部屋へ食事を運んでもらったりしながら、活動を続けていた。
夜中に抜け出して、壁に抵抗運動がまだ続いていることを書いたりする活動も続けていた。
それがおそらく半分以上はスネイプ校長によって消されたり、カロー兄妹に発覚しにくいものだけが残されていたりするのも相変わらずで、そのころにはさすがにシェーマスも異変に気付き、
「だれか怖じ気づいた生徒が奴らに見つからないように消して回ってるんじゃないのか。」
などと言っていたが、ネビルは相槌を打ちながらも、半ば確信している真実を教える気はなかった。
事態は徐々に悪化していた。
ホグズミードの外出は三年生以上保護者の許可が必要──、なだけではなく、カロー兄妹がその許可証を認可しなければ駄目、とされた。
ネビルは予想の範疇で、ダイアゴン横丁で色々買いあさっていたが、三年生以上でホグズミードで休日に学用品や日用品を買い足すつもりだった生徒は軒並み困った。
スリザリンで、デスイーターの子弟に当たる生徒は意気揚々と出掛けて行ったが、帰って来たときにはだいたい静かになっていた。
アイスクリーム屋も閉まって、村中をディメンターが徘徊しているなら気分も沈む。
出掛けることのできなかったグリフィンドールなどは沈む前に浮くこともなかった。
授業の方でも、ネビルが放り出したあたりから更にひどいことになっていると、他のグリフィンドール生が教えてくれた。
闇の魔法に対する防衛術では、闇の魔法そのものを使わせようとする方針は変わらず、大抵の者は弱い呪いか全く発動しないのに、スリザリンのクラッブとゴイルはやけに楽しそうにハマってしまって今や優等生だと伝えられた。
その話を聞いて一度ネビルがこっそり覗きに行ったら、本当にクラッブとゴイルが楽しそうにしていたのに驚き、去年まではあんなにクラッブとゴイルを従えてグリフィンドールに喧嘩を売ってきていたマルフォイがあまり楽しそうでもないのが意外だった。
さて、ここで、ホグワーツに戻れば必ず会えるだろうと、ネビルが思っていたのに、いっこうに会えないひとりの人物がいる。
セブルス・スネイプ校長である。
ネビルは、夜半に活動して回っていればスネイプ校長には必ず会えるだろうと、気楽に思っていたのだが、いっそ避けているのかという見事さで全く遭遇しなかった。
その上、もしかしたらカロー兄妹に見つかっていたかもという瀬戸際で、後から兄妹がスネイプ校長とはち合わせて違う道を行ったからネビルたちに会わなかったなどということが起きたことを、後日、他寮の生徒の話などから察する機会があれば、これはもう絶対にわざとだと確信も持つ。
カロー兄妹の罰則はそれと気付かれないレベルでスネイプ校長が抑えていても、それと気付かれないようにという点で限界があり、兄妹は反省部屋と称して、窓のない空き部屋のひとつを備品ひとつない状態にして生徒を閉じ込めるなどということもやり始めた。
ネビルやシェーマスは、それらの生徒を解放するまでいかなくとも、食べ物や気晴らしになるものや、一晩だけ膨らんで布団になるハンカチを差し入れたりして、生徒のダメージを軽減しようとしていた。
そんな風に精力的に活動しているのに、見回りをしているはずなのに姿が見えないスネイプ校長の姿を、いつしかネビルは逆に探して回るようになっていた。
話がしたい、と思っていた。
ネビルは、スネイプ校長が味方であることに既に疑いは持っていなかったが、スネイプ校長にしゃべらないと言ってしまった手前、触れ回るわけにはいかないと思ったし、今までのグリフィンドール生への冷たい態度や嫌みな物言い、ダンブルドアの殺害という厳然たる事実の前に、おそらく誰に話しても信じてもらえないと思った。
そしてネビルは、今度は逆に視界の端にスネイプ校長を探すようになったが、優秀すぎるスネイプ校長は、全くネビルの視界にも入らなかった。
だが、ネビルは諦めなかった。
夜中の校舎内で会わないならば、会いに行けばいいのではないか。
釘は刺されたが、校長室にジニーが侵入できたということは、スネイプ校長は合言葉をダンブルドアから変更していなかったはずだし、おそらく変更する気はないのだろうと思われた。
ネビルにとって不思議なことに、ジニーはスネイプ校長が合言葉をダンブルドアにしていることについて、特に疑問にも思っていない様子で、ネビルがジニーに
「校長室の合言葉変わってなかったの?
ダンブルドアのままだった?」
と聞いてみても、
「変わってなかったわよ!
あの最低なスネイプも、ダンブルドア校長には敬意を払うのね!」
というので、ネビルはジニーが何故単純にそう思えるのか首を傾げていた。
敵だと思い込むことと、ダンブルドアに敬意を払って当然という発想が同居できるのは、いっそ凄いと思いながらも、暴かれるのはスネイプ校長は好まないだろうから、ネビル はそれ以上の言及は避けた。
校長室。
ネビルは、生徒の動きが少ない授業の時間割のときを狙った。
全学年が何らかの時間割が入っている午前中、誰に咎められることもなく、ネビルは悠々と校長室に向かう。
今の時間帯は、カロー兄妹もそれぞれ授業を抱えて、ご高説を教室で展開しているはずだった。
今校長室に向かうネビルを咎め立てする者がいるとすれば、フィルチ、或いはスネイプ校長だろうが、前者ではネビルの行動を妨げるのは無理で、後者であればわざわざ校長室まで行かなくとも、ネビルの目的は達せられたことになるのだから、願っても無いことだった。
校長の前まで、遮られることもなく辿り着き、今度は一言「ダンブルドア。」と囁く。
音もなく動いてネビルを通したガーゴイルに、何故か逆に苦い思いを抱きながら校長室に入ると、そこには生きている人間はいなかった。
歴代の校長の肖像画が一斉にこちらを向く。
「侵入者か?
またか、スネイプ校長は何故合言葉を変更せんのだろうな?」
「待て、この青年は二度目だぞ、グリフィンドールの剣を盗みに来ていた──。」
肖像画が口々に好き勝手なことを言う中、ネビルの視線はやはり、真正面、校長室の執務机の後ろにひときわ大きく描かれているアルバス ・ダンブルドアの肖像画へと向いた。
きらきらと輝く空の色の青い瞳は、茶目っ気があるように見えて、どこまでも内心を覗かせなかった。
ネビルはふと、肖像画のダンブルドアは片腕が黒く干からびたりしていないことに気付いた。
病を肖像画に写すはずもなく、健康に見えるのは当たり前なのだが、ネビルはこの肖像画のダンブルドアは一体いつ描かれたダンブルドアなのだろうかとふと思った。
「ネビル。
君は勇敢な若者じゃと思っておったが、勇気の使い所を間違えておるようじゃな。
セブルスはまだ戻って来ておらぬ。
もしまたグリフィンドールの剣を探しに来たのであれば、その剣はもうここにはない。
セブルスに見つかる前に、早めに立ち去るのじゃな。」
ダンブルドアの肖像画はそう言ってネビルに語りかけた。
ネビルは、ダンブルドアならスネイプ校長の真実を知っているような気がして、質問しようかと思ったが、何故か直接的に聞くのはためらわれた。
代わりに別のことを聞いた。
「先生、先生はグリフィンドールの剣がどこに行ったのかご存じなのですか?
先生はハリーに剣を残したかったんですよね?
デスイーターの手に渡ったらまずいんじゃないですか?」
どういった答えが返って来るかと思ったら、ダンブルドアの返事は曖昧で濁すようなものだった。
「グリフィンドールの剣は、ここにはないが心配はいらぬ。
それは君には関わりのないことじゃ。
君は、学校内で色々活動しておるようじゃから、そのことは心配しなくとも良いじゃろう。」
その答え方で、ダンブルドアが何故自分の動きを把握しているのかと思ったが、肖像画は誰かの肖像画あるポイントであれば構内を自由に歩き回れるのだと思い当たった。
そして、その答え方で、ダンブルドアの肖像画にはスネイプ校長の真実を尋ねても、おそらくまともに答えてはもらえないだろうと思った。
ダンブルドアはネビルの祖母が絶対的に信じているように味方なのだろうが、ネビルはホグワーツにいる間のダンブルドアの行動で、ダンブルドアが正義という目的においては絶対でも、その手段において相手の望むような力になることは少ないと言うことを肌で感じていた。
スネイプ校長がおそらくダンブルドアの肖像画と相談しながら動いているに違いないことを、ネビルが察したことを、何故か知られないようにしたいと思った。
とすると、校長室で待っていれば確実にスネイプ校長を捕まえられるだろうが、ここで話はしたくない。
ネビルは、ダンブルドアの助言を受け入れた体裁で、そのまま校長室を立ち去った。
事態は膠着し、一進一退のままではあるが、着実にDAのメンバーも増やし、新入生にも密かに防衛術を教えながら3月までが過ぎた。
変化が起きたのは、まさに春、1998年4月12日の日曜日、ジニーが実家の急な用事と言って呼び戻されてから、帰って来なくなってからだった。
ウィーズリー 家は一家揃って行方を眩ましたとまことしやかに囁かれ、カロー兄妹の締め付けがそれまで以上に苛烈になった。
ネビルとルーナ、ジニーが実質リーダーで始めたDAは、もうリーダーとして動く者がネビルしか残っていなかった。