籠城の人数は、段々と増えていった。
必要の部屋に入ってからは安全でも、入るまでに三往復のところで捕まる生徒が出てもおかしくは無いのに、ほとんどの生徒が無事に駆け込めたのは、陰ながら助力してくれている教師がいるからだと、ネビルは思っていた。
ただ、それが誰かということについてネビルは名前を言わなかったので、シェーマスや他の皆は、おそらくマクゴナガル教授やフリットウィック教授が水面下で協力してくれているのだろうと考えていた。
最初に駆け込んで来たのは、意外なことにハッフルパフのアーニー・マクミランだった。
アーニーは、あの日、ネビルを匿ったことを疑われ、危うく見せしめにズタズタにされそうになったので、「闇の魔術に対する防衛術」と称した、最近では闇の魔術そのものの授業から飛び出して逃げ込んで来たのだ。
ネビルと同室のシェーマスは、出来る限り下級生の頼れる先輩でいたいと、ボコボコにされながらもぎりぎりまで逃げて来なかった。
その代わり、シェーマスは逃げ込んで来る時、持ち出す余裕のなかったネビルの私物も残らず縮小呪文と検知不可能拡大呪文の合わせ技で持って来てくれた。
人が増えるにつれ、部屋は快適に大きく広がっていった。
男子だけの時にはハンモックが増え、クローゼットが増えたが、女子が入って来ると、きちんとした間仕切りの有るシャワールームがいつのまにか設置されていた。
アーニーが逃げ込んで来た時、壁にはハッフルパフの穴熊のタペストリーが増え、アンソニー・ゴールドスタインやテリー・ブートが逃げ込んで来ると、レイブンクローの鷲のタペストリーが増えた。
唯一、スリザリンの蛇のタペストリーだけがなくて、本当はネビルはそれに心を痛めていたが、デスイーターの子弟が多く、スパイを潜り込ませられる可能性を考えたら、安易に受け入れてやれとは口には出せなかった。
ネビルは、避難して来た中で縮小呪文が得意で歩くのが苦でなさそうな面子を選んでホッグズ・ヘッドまで行き、約束の食糧と飲料を確保した。
ホグズミードでのホッグズ・ヘッドがいかがわしい場所だと認識を持っていた生徒も主に女生徒に何人かいたが、バーテンのアバーフォースがアルバス ・ダンブルドアの弟で不死鳥の騎士団員でもあるといえば大体は黙った。
それでもネビルはホッグズ・ヘッドに出向く人選には気を使い、リータ・スキーターの本を読むだけならまだしも好奇心を剥き出しにするようなタイプは連れて行かないように心掛けた。
閉じこもるだけでなく、数人で遊撃隊を作って、隙を見て外に出てホグワーツ内で我が物顔に徘徊しているディメンターを斥けたりもした──、もっともそちらの方は、決定的に滅ぼす手段が見つからないので一時しのぎではあったが、時には襲われかけている政党助けることもできた。
また、DAーー、ダンブルドア軍団は健在だ!などと、魔法で各所に大書する事で、カロー兄妹に地団駄を踏ませ、残された生徒を助けることもできた。
スネイプ校長はこれについて妙に静かだったし、カロー兄妹はおそらく自分たちがホグワーツを掌握しきれていないことをヴォルデモート卿に知られたくないがために、それ以上の手勢の投入を控えていた。
二週間、籠城が続く中、シェーマス・フィネガンがラジオを持って駆け込んで来て、ポッター・ウォッチでニュースをキャッチするのと、ネビルがアバーフォースから日刊予言者新聞や雑誌のニュースを渡されるのが情報源となっていた。
雑誌類は好き勝手書き立てて信用ならず、日刊予言者新聞はマグル弾圧政策を取る現魔法省の太鼓持ちのようになっており、ポッター・ウォッチのニュースが頼りではあったが、それも、黄金の少年(ハリー・ポッターのことだと思われる)は無事でイタチの巣穴に隠れ、ヴォルデモートには捕まっていないというようなあやふやな情報がせいぜいで、テリー・ブートが大食堂で発表したグリンゴッツ破りの情報が最新だった。
「ハリーは・・・、本当に戻って来るのか?」
ラジオをひねくり回して、ポッター・ウォッチのチャンネルを探していたシェーマスがボソリと呟いたのに、ネビルは揺るぎないいつもの答えを返した。
「ハリー・ポッターを信じろよ。
6年間、僕らはハリーと同室だったじゃないか、僕らの知ってるハリーを信じたらいい。
ハリーは自分たちだけ逃げ出すような人間じゃない、今動き回ってるのは、きっと『例のあの人』を倒すすべを探してるんだよ。
じゃなくちゃ、グリンゴッツ破りなんて話が流れてくるわけがない。
レストレンジの金庫だろ?
きっとなにか『例のあの人』を倒す重要な手掛かりや武器がそこにあったのさ!』
言いながら、ネビルはとっさにグリフィンドールの剣を思い出した。
スネイプ校長が、『どこか別の場所に移した』と言っていた、ダンブルドアがハリーに託そうとした伝説の剣。
結果としてその類推は間違っていたわけだが、ネビルはきっとハリーがなんらかの手段でその情報を知って(そしてきっとスネイプ校長がその情報をハリーに流したのだと思って)、グリンゴッツに盗みに入ったのだと認識した。
間違っているのに、スネイプ校長がハリーにグリフィンドールの剣を渡したというところだけ合っているのだから、直感は侮れない。
「シェーマス、時間の問題さ。
絶対、ハリーは戻って来る。
今までハリーがやり遂げなかったことなんかない。
僕らがやることは、ここで出来る限り多くの生徒を助けて持ちこたえることさ。」
傷だらけのネビルの顔と同じくらい、シェーマスの顔も腫れ上がっていたが(闇の呪文によって傷つけられると癒しの呪文が効きにくいのだ)、シェーマスはそうかねえというように、黙って肩を竦めた。
シェーマスは、ルーナが無事だと知らせて来た時に、ディーン・トーマスが無事だったと分かってあからさまにホッとしていたが、ハリーのことは信じていても、グリンゴッツ破りは半信半疑で聞いていたようだった。
日付けで言うと、5月2日。
後のホグワーツ決戦の日だ。
ネビルたちは、人数の増えた必要の部屋で、次にどう行動すべきか論議していた。
何人かは、このままホグワーツを捨てて、逃げ出した方がいいのではないかという議論を持ちかけてきた。
ネビルはそれにきっぱりと答える。
「ホグワーツに彼らに心から賛同しているのではない生徒が一人でもいるうちは、僕はここから逃げ出す気はない。
それに、ここからホッグズ・ヘッドまで逃げても、ホグズミードには夜鳴き呪文が張り巡らされ、姿くらましができなければ、無事に村からでることもできない。
君が、無事に姿くらましができて逃げおおせたとしても、それから先で『人攫い』にでも捕まって拷問されら、最後に残ったホッグズ・ヘッドからの通路を自白せずにいられるのかい?」
ネビルの意見は筋が通っていて、全員が納得せざるを得なかった。
そのとき、誰かがホッグズ・ヘッドへの通路のある、いつもは人のいない肖像画を見て声を上げた。
「見て、女の子が──。」
その声で、全員がいつもは人のいない、閉まった扉だけが描かれた絵を見た。
そこにいた少女は全員の視線にびくりとしたが、それでもネビルに向かって何かを訴えかけるように口を開けた。
「アリアナ?
どうしたの?」
何度も絵の中の通路を通って、おそらくこの中では一番アリアナと親しいだろうネビルもアリアナの声を聞いたことはなかった。
アリアナが、届けようとする声は画面の外へ届かない。
アリアナが一生懸命ひとつの単語を繰り返す口元を見て、突然、ネビルは理解した。
「ハリー?
アリアナ、ハリーが来ているのかい?
分かった、今、ホッグズ・ヘッドにいて、ホグワーツへ戻る道を探してる!」
ネビルがアリアナに確認すると、アリアナがぱあっと花が咲いたように笑って、大きく頷いた。
アリアナが手招きするのに、ネビルは弾かれたように立ち上がった。
他の生徒は顔を見合わせて、ざわついていた。
ネビルは絵の通路をくぐる前に、思い出したことがあって、かろうじて間に合ってシェーマスを振り返る。
「シェーマス!」
シェーマスも弾かれたように飛び上がった。
「なんだ?」
「ルーナとディーンに、君の守護霊飛ばしてくれる?
ハリーがホグワーツに戻ってくるって!
ええと、それでもしホグワーツに戻ってくる気があるなら、ホグズミードのホッグズ・ヘッドに直接姿くらましで来るように言ってくれる?
そうじゃないと危ないからさ。」
ネビルは他の皆の顔を見回した。
ぽかんとしている顔もあり、察しの良い顔もあったが、ネビルは構わず続けた。
「僕はホッグズ・ヘッドに迎えに行く。
大事な友達が来てるんだ。
今日、絶対、何かが動く。事態が動くよ。
最後にフクロウでも守護霊でも飛ばすなら今だよ。
でも誰か呼ぶなら、絶対ホッグズ・ヘッド経由にして。
逃げ出すのも最後の便だよ、それもホッグズ・ヘッド経由でね。
僕はハリーを迎えに行ったらここに戻ってくるけど、そうじゃなくて、逃げるために一緒に行きたい人いる?」
本当はもしかしたら、逃げ出したい者がいなかったわけではないのかもしれない。
だがそう聞かれて、名乗り出られるだけの者はいなかったしシェーマスは早速守護霊を飛ばしていた。
「行ってくる、そして希望を連れて戻ってくるよ!」
ネビルはにかっと笑って、アリアナと一緒に肖像画の中の扉を潜った。
暗い長い通路を歩きながら、ネビルは懐から以前禁じられた森で掘り出して乾かしておいた草の根を齧った。
幸福薬には劣るが、この草の根を噛んでおけば、本当にほんの少しの幸運が最悪の危機を回避してくれる筈だ。
乾かした草の根は既に生臭さはないが、強烈な苦味の中にほんのわずかだけ甘味が混じって、これが幸運の味かと我慢して噛み締めた。
ちなみにこの時、ヴォルデモート卿はグリンゴッツ銀行から自分の分霊箱であるハッフルパフのカップが盗み出されたことを知り、激怒して思索を巡らせ、それ故にハリーに、自分は海面下にある湖のロケットを確認しに行こうと思っていることと、ホグワーツに最後の分霊箱があるので侵入に用心するようスネイプ校長に警告しなければと考えたことと、それによってホグワーツに分霊箱があることを知らせてしまった頃合いであり、つまり、ハリーがホグワーツに戻るため、ホグズミードに来たという時だった。
すごいタイミングではあった。
これらがほんの少しずれても、ホッグズ・ヘッドのハリーは、ホグワーツから外への通路を探し出したネビルと連絡を取ることができず、ホグズミードで立ち往生して、捕らえられていたかもしれないのだから。
ホグワーツから、ホッグズ・ヘッドまでの薄暗い長い通路を歩いて、遠い灯りが見えてくる。
不思議なことに、肖像画の中から見ると、外界の光景がまるで絵のように見えるのだった。
ハリー・ポッター、そしてロンとハーマイオニー。
グリフィンドールのゴールデン・トリオ。
扉に近づいて、ネビルは思い切りその扉を押し開けた。
本当に、本当に本物だった。
ネビルは肖像画の下にあるマントルピースを、いつもよりだいぶ乱暴に飛び降りながら歓声を上げた。
「君が来ると信じていた!
僕は信じていた!
ハリー!」
彼の信頼は最高の形で証明されたのだ。
国外に逃げ去るわけでなく、立ち向かうために、五体満足でハリーは帰って来た!
そして彼は、ハリーが戻ってくるまで、ホグワーツを、ダンブルドア軍団を、損なうことなく保ち切った!
「ネビル──、一体、──どうしてここに?」
ハリーが呆然とした様子で、ネビルに聞いた時、ネビルはロンとハーマイオニーに遮二無二抱きついたところだった。
無事だった、全員が無事だった!
そのことの前には自分がトリオではないことなど嫉妬している場合じゃない。
ネビルは、ロンとハーマイオニーから離れると、達成感に満ちて言った。
「僕は君たちが来ることを信じてた!
時間の問題だって、シューマスにそう言い続けてきたんだ!」
「ネビル、一体どうしたんだ?」
ハリーが尋ねてきた。
「え、これ?」
ネビルは首を横に振った。
「こんなの何でもないよ。シェーマスのほうが酷い。会ったら分かるけど。」
実際にそうだった。やりあって、多少の負傷は日常茶飯事になっていて、ネビルは痛みも感じなくなっている気がしたからだ。
だが、今はそれよりも大事なことがある。
三人をホグワーツに連れもどらなければ!
「それじゃ、行こうか?あ、そうだ。」
ネビルはそう言ったが、思い出したことがあって、アバーフォースを見た。
「アブ、あと二人来るかもしれないよ。」
ここへ来る前に、シェーマスにルーナとディーンに守護霊を飛ばしてもらったことを思い出したのだ。
伝達がうまくいっていれば、ディーンはシェーマスを絶対に見捨てはしないだろうし、ルーナもDAの仲間を見捨てはしない自信があった。
「あと二人だと?」
アバーフォースは険悪な声を出した。
「何を言ってるんだ、ロングボトム、後二人だって?
夜間外出禁止令が出ていて、村中に『夜鳴き呪文』がかけられてるんだぞ!」
「分かってるよ。
だからその二人には、このパブに直接『姿現わし』してもらうよう伝えてる。」
そう言ったものの、アバーフォースに面倒を掛けているという気持ちが消えたわけではなかったので、
「ここに来たら、この通路から向こう側に寄越してくれる?
本当にありがとう。」
そう言って、礼だけは欠かさなかった。
ネビルはハーマイオニーがマントルピースを登るのに手を貸し、その後にロンが、そしてハリーが入るのを見届けた。
ハリーがきちんとアバーフォースに礼を言うのを見て、ネビルは、なぜか我がことのように誇らしかった。
全員が、絵の裏側の、磨り減った石の階段がある古いトンネルを辿っていった。
真鍮のランプが壁に掛かり(これは2回目ぐらいにネビルが掛けた、あまりに暗かったので)、地面は踏み固められて固かったが、こちらはネビルが立ち入る前からだった。
歩く四人の影が、壁に扇のように折れて映っていて、沈黙に耐えかねたのじゃ、歩き出してすぐにロンが尋ねた。
「この通路、どのくらい前からあるんだ?」
その質問は、いかにもロンらしかった。
ロンは、無意識にネビルを見下していて、自分の方がよく知っていると誇示したがるのだ。
「『忍びの地図』にはないぞ。ハリー、そうだろ?学校に出入りする通路は、七本しかないはずだよな?」
忍びの地図の詳細は分からなかったが、ネビルは答えた。
よく知られている──、概ね、ロンが言いふらしてよく知られている抜け道がどうなったか教えておく必要があった。
「あいつら、今学年の最初に、その通路を全部封鎖したよ。」
7つ、だっただろうか。ネビルは頭の中で数をチェックする。
「もう、どの道も絶対通れない。入口には呪いがかけられて、出口にはデスイーターとディメンターが待ち伏せしてるんだ。」
だが、重要なのはそこではない。
ネビルは、連中が把握していない抜け道で、安全に三人を案内することができている!
ネビルは、笑顔で後ろ向きに歩きながら、三人の姿をじっくり見ようとした。
そんなことができるくらいには、この通路に習熟していた。
「そんなことはどうでもいいよ──ね、本当?
グリンゴッツ破りをしたって?ドラゴンに乗って脱出したって?知れ渡ってる。
皆、その話で持ちきりだよ。テリー・ブートなんか、夕食の時にそのことを大広間で大声で言ったもんだから、カローにぶちのめされたんだ!」
話を聞きたくてうずうずした。
「うん、本当だよ。」
ハリーの返事はわくわくするようなものだった。
ネビルは笑って、どうしても気になっていたことを聞いた。
「ドラゴンは、どうなったの?」
「自然に帰した。」
ロンの言い方はいつになく気が利いていたが、
「ハーマイオニーなんか、ペットとして飼いたがったけどさ──。」
「大げさに言わないでよ、ロン──。」
余計なことを言って信憑性をぶち壊すのは相変わらずだった。
ひとしきり笑った後、ネビルは、改めて真面目にハリーに聞いた。
「でも、これまで何していたの?
皆は、君が逃げ回ってるって言ってるけど、ハリー、僕はそうは思わない 何か目的があってのことだと思う。」
それだけは確信があった。
ネビルが11歳以来知っているハリーは無為に逃げ回るだけの人間ではなかった。
「その通りだよ。」
ハリーの答えは期待通りではあったが質問で返された。
「だけど、ホグワーツのことを話してくれないかな、ネビル、僕たち何にも聞いてないんだ。」
聞いていないとはニュースの類だろうか。
ネビルの顔から笑顔が消える。
さして話したいほどの出来事はなかった。
「学校は──そうだな、もう以前のホグワーツじゃない。」
避けては通れない話題もあった。
「カロー兄妹のことは知ってる?」
「ここで教えている、『死喰い人』の兄妹のこと?」
教える、と表現できるなら穏便だった、とネビルは思う。
「教えるだけじゃない。規律係なんだ。体罰が好きなんだよ、あのカロー兄妹は。l
思い起こせるものが、一つしかなかったのだろう、帰ってきた単語は遠い昔に感じた。
「アンブリッジみたいに?」
ネビルは首を横に降る。
アンブリッジは、あれでも魔法省という大義の皮を被っていた。
「ううん、二人と比べたらアンブリッジなんて可愛いもんさ。
他の先生も、生徒が何か悪さをすると、全部カロー兄妹に引き渡すことになってるんだけど、渡さない。
できるだけ避けようとしてるんだよ。先生たちも僕らと同じくらい、カロー兄妹を嫌ってるのが分かるよ。」
本来なら、嫌う以上のことを期待したい、だけどそれを望めば他の教職員の安全も危ういのも分かっていた。
ネビルはあったことを思い起こした。
「アミカス、あの男、闇の魔法に対する防衛術を教えてるんだけど、今じゃ『闇の魔術』そのものだよ
僕たち、罰則を喰らった生徒たちに『磔の呪文』をかけて練習することになってる。」
「なんだって?」
ハリー、ロン、ハーマイオニーの声が一緒になって、トンネルの端しから端しまで響きました。
「そういうことだ。」
磔の呪文を生徒にかけるなんて、最悪だと認識し直せる反応だった。
「それで、僕はこうなったのさ。」
ネビルは、頬の特に深い切り傷を指差した。
「僕が、そんなことはやらないって言ったから。
でも、ハマッてる奴もいる。クラッブとゴイルなんか、喜んでやってるよ。多分、あいつらが一番になったのは、これが初めてじゃないのかな。」
「妹のアレクトのほうは、マグル学を教えていて、これは必須科目。
僕たち全員が、あいつの講義を聞かないといけないんだ。 マグルは獣だ、愚かで汚い、魔法使いにひどい仕打ちをして追い立て、隠れさせたとか、自然の秩序がいま再構築されつつある、なんてさ。」
本当に全てが間違っているかいないかより、やり口が気に食わない、とネビルは顔の別の切り傷をさした。
「この傷は、アレクトに質問したらやられた。お前にもアミカスにも、どのくらいマグルの血が流れてるかって、質問してやったんだ。」
「驚いたなあ、ネビル。気の利いたセリフは、時と場所を選んで言うもんだ。」
ロンはおそらく、ネビルに忠告しているつもりだろうが、ネビルは、気の短いロンがそれを聞いていたら自分より先に爆発したのではないかと思っている。
「君は、あいつの言うことを聞いてないから。
君だって、きっと我慢できなかったよ。
それより、あいつらに抵抗して誰かが立ち上がるのは、いいことなんだ。
それが皆に希望を与える。僕はね、ハリー、君がそうするのを見ていて、そのことに気づいたんだ。」
断固としてネビルが言い切ったとき、丁度ランプの傍を通り、ネビルの傷痕が浮き彫りになった。
ロンはそれに気圧されながらもやっとこさ
「だけど、あいつらに包丁研ぎがわりに使われてしまったな。」
と言うことができた。
その後も道すがら、話すうちにルーナや、ネビルの祖母の消息を話すこともできた。
ネビルは、ハーマイオニーが最初に思いついた偽のガリオン金貨がどれだけ役立ったか感謝し、どんな風に抵抗運動をして、地下活動に変え、潜伏してきたかを話した。
「ただね、僕を押さえる手段がないと気づいたあとは、あいつら、ホグワーツには結局、僕なんか要らないと決めたみたいだ。
僕を殺そうとしているのか、アズカバン送りにするつもりなのかは知らないけど、どっちにしろ、僕は姿を消すときが来たって気づいたんだ。」
外で、ネビルよりもずっと荒事を潜って来たにしては、察しの悪い様子でロンが聞いてくる。
「あのさ──。
僕たちー、僕たち、真っ直ぐホグワーツに向かっているんじゃないのか?」
「もちろん。」
なぜ今更、と、つい思う。
「すぐに分かるよ。ほら、着いた。」
目的地はもうそこだった。
角を曲がり、短い階段があって、扉がある。
ネビルは迷いなくそこへ降りていく。
ハリーたちの足音が後ろに聞こえた。
「この人が誰だと思う!?
僕の言った通りだっただろ!」
おそらく、迎えに行くと言ってもまだ信じることのできないメンバーもいたのだ。
ネビルの後ろにハリーたちの姿が見えると歓声が上がり、悲鳴にしか聞こえない叫び声も上がった。
「ハリー!」
「ポッターだ、ポッターだよ!」
「ロン!」
「ハーマイオニー!」
その様は、まるで彼らがたった今クィディッチの決勝戦で優勝したかのようだった。
「オーケー、オーケー、落ち着いてくれ!」と、ネビルが呼び掛け、皆がやっと少し下がった。
ハリーたちがようやく一息ついて、辺りの様子を見回すのを眺めて、ネビルは柄にもなく感慨に浸っていた。
やっと、旗印が帰ってきたのだ、彼らを見捨てず、一緒に戦うために。
「ここはどこ?」
ハリーが尋ねた質問に少しだけ気が抜けた。
「必要の部屋に決まってるよ!
今までで最高だろ?」
だが確かにハリーに分かるはずもなかった。
ここはDAの訓練で使っていた時とさえ様相がだいぶん違う。
様々なハンモック、バルコニー、箒入れ、タペストリー。
ここを根城にして籠城を始めた時のことを話し始めながら、ネビルは、やっとここから反撃が始まるのだと思った。