一夏「ばっ!馬鹿!勝手に入って来るなよ!」
――その日織斑一夏は非常に疲れていた
「はぁ……今日も疲れたな。女子ばっかで肩身が狭いし、千冬姉は相変わらず厳しいし、偶にはゆっくりと休める時間が欲しいな……」
一夏にとって普段の生活は過酷極まるものであった。平常時はISの訓練やら、勉強やらで厳しく、かと言ってイベントがあればほぼ毎回のようにアクシデントが起こる。いつの間にか一夏は心休める時間を探していた。
そんな一夏は自室に帰ると飛び込む様にベッドへと寝転ぶとスマホを取り出し、ニコニコのアプリを起動する。勿論目的は『ある動画』を見るためである。
「ふふwやっぱり疲れた時は淫夢に限るぜw」
真夏の夜の淫夢。いまネットで最も人気のあるホモビの一種である。一夏は淫夢が大好きで自作のMADを投稿するくらいの淫夢厨であった。
「ああ^~やっぱ野獣先輩を見てると元気が出るなぁw」
特に野獣先輩が大好きであった。その声と言い、見た目と言い、とにかく大好きなのである。更に語録に関してはつい日常会話で使ってしまいそうになるほど読みこんでいた。
『ゼェハァ…ゼェハァ(ホォン!)…アアッ!ハァッ…ハッ イキスギィ!(ホォン!)イクゥイクイクゥィク…アッハッ、ンアッー!!アァッアッ…アッ…ハン、ウッ!!…ッア…ッアァン…ッアァ…アァ…ッア…』
「ふふっ」
今日も余韻先輩で笑った一夏はそれだけで元気が出てきた。
一夏はこれまで辛いときは淫夢に励まされてきた。
一夏にとって淫夢は人生そのもの、LIFEだった。
「せっかくだ!今日は空手部もフルで見てやろう」
『ケツ舐められたことあんのかよ誰かによ(嫉妬)』
「ケツの穴ってwww」
淫夢に夢中になる一夏はつい浮かれてしまっていた。それ故、ヒロイン達が自分の部屋に入ろうとしてることすら気付かずに。
箒、セシリア、シャルロット、ラウラが一夏の部屋にいつものように突入していったのだ。
「一夏(さん)遊びに来て……何をしている(の・んだ・ですの)?」
「あっ……ばっ!馬鹿!勝手に入って来るなよ!」
場の空気が一瞬で凍り付く。
その瞬間スマホから大音量で野獣先輩のイキ声が部屋の中に木霊した。
『イキますよー、イキますよ、イクイク…ハァ…ハァ…ハァ…ヌッ!…ウッ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、 ヌ゛ッ! ハァ、ハァ、ハァー…』
「一夏……お前一体何を見てたんだ!?」
箒が代表して問い掛ける。
「うるせえ!いいから出てけよ!」
激しく激昂する一夏。
普段の温厚な一夏から考えられない程の剣幕にヒロイン達は疑問を残したままでていく他なかった。
残された一夏は一人空手部の続きを見始めた。
――――――――
「ということが先程あったんだ……私達は一夏がホモなんじゃないかと心配で心配で仕方ない……鈴、何か知っていることはないか?」
「あんたらねえ……少しは一夏にも休みをあげなさいよ」
ラウラは不安げな表情で鈴に問い掛ける。
今現在一夏の部屋を追い出された彼女たちは仕方なく鈴に助力を求め彼女の部屋に押し入っていた。
「はぁ……一夏はホモじゃないから安心しなさい。一夏が見ていたのは真夏の夜の淫夢って言って笑えるホモビのことなのよ。ノンケでも見る時はあるの!」
「ノンケやホモビってどういことなの?日本語?」
「うむ。私も聞いたことがない言葉だ」
「わたくしも聞いたことありません……」
シャルロット、ラウラ、セシリアは頭に?マークを浮かべる。箒も口には出していないが意味はよく分かっていないらしい。
「……代表候補生なんだからそれくらい覚えときなさいよ。良い?ノンケって言うのは同性愛者ではない異性愛者の人のことよ!同性愛者たちが使っている用語なの!そしてホモビって言うのは名前の通りホモ用のアダルトビデオのことを言うのよ」
意味を知って納得する一同だったが、箒がすかさず疑問をぶつける。
「一夏がホモ用のアダルトビデオを見てるということは一夏はホモということなのではないのか?」
ごく当たり前の疑問であった。
「ホモビを見てるからってホモとは限らないってことよ。淫夢はいわば一緒のエンターテインメントになっていてアダルト目的では視聴されないことが一般的になって来たの」
「うーん、ますますわからん。笑えるアダルトビデオって言うのがイマイチしっくりこないんだ」
「そうね……最初は誰でも戸惑うものよ。でも見てるうちに段々と面白くなっていって、最終的にはハマってしまうんだから!中国では人口の約一割が淫夢を知っていると言われているわ」
「すごいんだな淫夢とは!」
「あ、あの、わたくし実際に淫夢を見てみたいです!一夏さんが好きなことをもっと知りたいんですの!」
「僕も!」
「私もだ!」
「……鈴、私達に淫夢を教えてくれないだろうか?」
セシリア、シャルロット、ラウラ、箒の熱意に鈴は折れる。
「はぁ……しょうがないわね……じゃあ、一緒に見に行きましょう」
そう言って一同は視聴覚室へと向かう。
大画面で見ることでより淫夢を楽しめるのだ。
「まずは名前の通り『BABYLON STAGE 34 真夏の夜の淫夢 ~the IMP~』から見ていきましょう。全四章で構成されている最も有名なホモビデオよ。まあ、少し過激なシーンもあるけどこの程度でへこたれていたら他の作品は見れないわね」
「あの鈴さん……」
「何、セシリア?」
「タイトルにある真夏の夜の淫夢というのはもしかしてシェイクスピアの夏の夜の夢と何か関係があるのでしょうか?」
「鋭いわね!タイトルはたぶんそれからオマージュされたものだと思うけど内容的にはあまり被っているとは言えないわ」
「なるほど……」
「それじゃあ、まずは一章を見ましょう」
――少女一章鑑賞中――
『ンギモッヂイイ!』
『カチャ…パーン!』
~終了~
「何度見ても名作ね!……どうだったかしら一章は?」
「ちょっと面白さがわかりませんわ……」
「私もあんまり……」
「僕も面白いとは思わなかったかな……」
「私は面白かったぞ!犬の真似をして敵の油断を誘うところなどは熱い駆け引きであったな!最終的にきっちりと悪を始末するところもスカッとした!」
「一発目で一転攻勢を理解するなんてラウラは中々見どころがあるじゃない!まあ、最初だし楽しめなくても仕方ないわね。まだ本番はこれからだし。それじゃあ次に見るのは二章よ!」
簪ちゃんと山田先生はたぶん淫夢厨なので出ません