一応、調べてから書きましたが、口調が違う場合は教えてくだされば可能な限り修正します。
年に一度。
いや、数十年に一度あるかないかの機会。
それが今だった。
全国各地の博士達の研究が熟し、その発表の機会と実地調査を兼ねた船の旅。
一月を掛けて世界を回るその発表会は堅苦しい場であると同時に、羽を伸ばす懇親会の場でもあった。
事実、他地方の博士との交流は良い刺激になり、新たな視点を得られた。
そんな船旅は後半を過ぎ、あと僅かとなっていた。
この旅での新たな発見をレポートに纏めていたが、煮詰まってしまったので息抜きにデッキから海を眺める。
真昼の海は遠くのキャモメが見える程に広く青い。
たが、景色の感想よりも海に生きるポケモン達に考えが向いてしまうあたり、すっかり研究者気質に染まったと思う。
「あ、オーキド博士! こんにちは」
ふと、声を掛けられた。
声に振り向けば白いロコンを抱える一人の少女が居た。
その娘はとある博士夫婦の助手である。
そして血の繋がりは無いが、孫同然の少年であるサトシと共に旅をした経験を持つ。
「おお、リーリエ君、こんにちは」
ポケモンに対するトラウマを抱えるも、強い意思を持って乗り越えトレーナーの道を歩み出した少女。
そしてアローラ地方に根付く“Zワザ”を習得する稀有な者でもある。
博士としても先達のトレーナーとしても、今後を応援したくなる少女だ。
今の姿は初対面の時ワンピースに白のつば広帽子ではない。
長い髪を後ろに纏め、可愛らしくも動きやすい服装に身を包んでいた。
「これからトレーニングかい?」
「そうなんです! 今日はシロナさんが見てくれるそうで楽しみなんです」
「ほぅほぅ、現役チャンピオン直々の指導を受ける機会はそうは無いからのぉ。存分に励んで来るといい」
「はい! あ、そろそろ約束の時間なので失礼します!」
駆け足で走り去る姿はすぐに見えなくなる。
行き先は船内のアリーナだろう。
あそこはポケモンバトルを前提とした造りになっているため、多少の技ではビクともしない。
練習するにも打ってつけである。
「あら、オーキド博士。こんにちは」
リーリエを見送っていると新たに人が現れる。
長い金髪、水色を基調としたノースリーブに黒のパンツ姿の女性だ。
「ああ、シロナ君。こんにちは。先程リーリエ君から聞いたが、これから一緒にトレーニングをするんじゃと」
「はい。羽を伸ばしてばかりでは鈍ってしまいますから。それに将来が楽しみな後輩に手を貸してあげたくなっちゃいましたし」
シンオウ地方のポケモンリーグチャンピオンである女性。
若くしてチャンピオンに成り、それから今まで公式の防衛戦を勝ち続ける女傑だ。
その美しく整った美貌から“美しき戦いの女神”という2つ名を持つ。
驚くべきはそれだけなく、考古学者の権威でもある。
二足のワラジを履きながら、これ程の成果を残せる彼女は天才と言えよう。
それに、彼女の強さは才覚だけではなく、努力と知識の積み重ねによるものが大きい。
手持ちのポケモンはどれもが大器晩成型であり、相応の愛情が無ければ育成は難しいものばかり。
努力をする天才であり、チャンピオンとなってからの彼女を打倒できた者は非公式戦で僅か3人。
その3人も防衛戦では返り討ちにしているのだから驚きだ。
「うむ、船旅を楽しんでいるようで何より。建前はあるが、この船旅はお主達の息抜きでもあるからのう」
現在の手持ちは居ない。
彼らは今頃ポケリゾートで楽しんでいる。
しかし、集まるのはその道の権威である博士達であり、その身を守る手段は必要だ。
故に船旅の護衛として全地方のチャンピオン、そして週代わりで四天王が乗船している。
「存分に堪能させて頂いてます。バカンスは時折、カトレア――知り合いの別荘を借りる事がありますが、それ以外の地方への機会は中々ありませんでしたので凄く新鮮でした」
彼らはその立場故にしがらみも多く、行動をある程度制限される。
長期休暇はあるには有るが、有事の際には取り消しになってしまうのがよくあるのだ。
この船旅は、博士達の意見も有り、護衛という建前で彼らの気晴らしを兼ねたツアーでもある。
「では、待ち合わせをしていますのでこれにて失礼します」
「うむ、それではの」
リーリエと同じ方向へ消える姿に一句浮かぶ。
「『ポケモンが、繋ぐ絆は、未来へと』……うぅーむ、イマイチじゃのう。――おや?」
海原を眺めながら趣味の川柳に興じていると、水平線の雲海に何かが見えた。
「気のせいかの? 今、雲の合間に何かが居たような?」
それは気のせいではなかった。
雲の中を飛び回り、合間から姿を見せる物体。
ギャロップのような四足歩行体型であり、胴体を一周する輪の様な装飾をもつ姿。
それは以前、サトシが言っていた――。
その名を思い出した時には既に姿は見えなかった。
「ほっほ、これは良いものが見れたのう」
今夜の夜会にいい土産話ができた。
いい気分転換にもなり、今ならレポートをすらすらと纏められそうだ。
○
「これも御利益なのかもしれんの」
結果としてレポートは満足のいく仕上がりを見せた。
気付けば夕食時であり、腹の音に従うまま食堂に向かえば他の博士達も集っていた。
「どうやらワシが最後のようじゃな」
「オーキド君が時間に遅れるとはな。時間を忘れるほどレポートに集中しておったか?」
「ええ、ナナカマド先輩。中々良い刺激がありまして」
夕食を摂りながら、話の種に昼間見たポケモンについて話をする。
その話は他の博士達の好奇心を中々に擽ったようだ。
「なるほど、伝説のポケモン。それもあの時空の神々を生み出した
真っ先に話に喰い付いたのは年若い女性。
博士の中で一回りも二回りも若い彼女は自身の研究に深く関わるからか興奮している。
「いやいや、アララギ博士。そのアルセウスはサトシ君やコウキ君達の尽力によって眠りに就いた筈では? それなのに、この海域に現れたというのは気になりますね」
疑問を投げ掛けたのはメガネを掛けた細身の男性だ。
「確かにウツギ博士の言う通りだ。わざわざ眠りから覚める程の何かがあるのかもしれんな」
先程ナナカマドと呼ばれた博士はその強面の顔を引き締め思案する。
「アルセウス自身が態々動き出す事態ね。……悪い知らせで無ければ良いのだけど」
「うーむ、案外ただの散歩だったりするかもしれないぜ? 実際に見たオーキド博士としてはどう感じましたか?」
日に焼けた肌を持つ2人の男女。
彼らは夫婦であり、それぞれ違う研究分野の権威を持つ博士だ。
「一見してそこまで鬼気迫ったものは感じなかったのう。むしろ何かを確かめにきたような、そんな気さえする様子じゃった」
「なるほど、ではそこまでの危機は無いと見てよいかもしれません。となると彼が興味抱いた対象が気になりますね」
面白そうだ、と笑みを浮かべるのは紺色のYシャツを着た男性。
「ふむ、この付近に遺跡か何かは在りましたっけ?」
「いえ、以前のフィールドワークではこの付近は小さな無人島が幾つかある程度で、遺跡の様な物も無かった筈ですよプラターヌ博士。海中に関しては装備の関係であまり調べられていませんが、この付近で活動するダイバー達からはそういった証言は得られていません」
顎鬚を生やす小太りの男性だ。
彼は手帳に記録した研究内容を確認しながら答えた。
「地上はオダマキ博士が確認済み、すると――ッ」
「どうしたんじゃ、ヒナギク博士?」
言葉の途中で息を呑むその姿はただ事ではない。
すわ病気か何かかと思えば、彼女はこちらを指差す。
いや、違う、彼女の瞳はこちらを向いているが自分を見ていない。
他の博士達も彼女がどこを指し示しているのか気付いたようで、そちらに視線を向ける。
自分の背後に何があるのかと振り向き、
「な――っ!?」
余りにも非現実的なもの。
遠く離れた海の上、そこに光が雨となって降り注ぐ光景であった。
おそらくポケモンの技であろうが、規模が違う。
直後、船が揺れる。
揺れ自体は軽いものでは有るが、この船は豪華客船と銘打たれる程に巨大なクルーズ船だ。
多少の波では揺れない巨体が揺らされる程の余波。
その光景はサトシから伝え聞いた技と一致する。
「アルセウスの【さばきのつぶて】か!? なんという規模じゃ……」
僅か数分にも満たない光景ではあったが、船内が騒然となるには十分であった。
「ウィロー博士、あの技が放たれた精確な位置はわかりますかの?」
「はい。目測になりますがマーカーを記録しました。しかし、あの位置ですと付近には無人島一つありませんし、海中に向けて放ったと考えられますね」
ロマンスグレーの髪にメガネを乗せた男性は携帯端末を操作し記録を残す。
「これはたまげタマンタ、マンタイン。中々貴重な光
奇跡のような光景に皆がテンションが上がるが、直後に冷やされた。
「ア、ハハハ……今日も絶好調ですねナリヤ校長。ですが映像記録を撮れなかったのは痛いですね」
微妙な空気をなんとかフォローしようと頑張るのはメガネを掛けるおっとりとした女性だ。
「もしかしたら大丈夫かもしれませんよマコモ博士。セント・アンヌ号には防犯や周囲監視用のカメラが設置されていますから、そこに映っているかもしれません」
「そうですね。サクラギ博士の言う通り、確認する価値はあると思います。早速船員の方に確認してみましょう」
サクラギ博士の意見に追従するのは垂れ目がちの瞳を眠そうに半目に開く女性。
彼女はそう言うと近くの船員へ話しかけに離れる。
始めは渋い顔をされていたが、何とか了承を貰えたようだ。
「でしたら私はウチキド博士のお手伝いをしましょう。フィールドワークは若い博士や助手の方が大勢居りますし、孫娘のソニアをお願いしますね」
立ち上がったのは杖を突く初老の女性。
この中でナナカマド博士と同じ年長者である。
「おっと、マグノリア博士にはバレバレでしたかの」
あれだけの光景を見て血が騒がないのは研究者ではない。
とはいえ、乗船するサント・アンヌ号の航路は事前に決まっており、変更は不可能。
乗客も、博士だけではなく一般客も大勢乗船しているのだ。
しかし、そんな理由で諦めるのは惜しい。
幸か不幸か、実地調査目的で探査船がこの船に持ち込まれている。
夜の海という事で危険はあるが、チャンピオンと四天王が居る。
建前ではあったが護衛としてこれ以上ない人材が揃っている。
「えぇ、私が言えた事じゃありませんが、皆さんの瞳がキラキラと輝いてますもの。それに先程の【さばきのつぶて】に対して反撃も追撃も無かった事から戦闘が発生したとは考え辛いですしね。技の範囲もかなり広範囲に広がっていましたから、当てるというよりは反応を確かめるような意図を感じられましたし」
彼女が述べた事は博士達の総意であった。
「はっはっは、参りました。では、まず船長に許可を貰わねばなりませんが、なぁにこのオーキド、必ず許可を貰いますので皆さんは準備をお願いします。少なくとも2時間は掛りますまい」
伝説のポケモンの貴重な痕跡が得られるかもしれない。
そう考えると胸が高まる。
だが、この時は自分達を狙う存在が居るとは露程も考えていなかったのだ。