ハイスクールD×D/Apocrypha 魔術師達の狂騒曲 作:グレン×グレン
アイネスがすべてにおいてイルマより格上だと思われがちですが、そういうわけでもありません。
確かに魔術師としての才能では、総合的にアイネスがイルマをはるかに上回っています。天運にも恵まれれば正真正銘王冠の位階を得ることもできるアイネス相手に、開位の上が頑張ってようやく到達できるレベルのイルマでは、魔術師としては話にならないです。各種事務処理能力においても、間違いなくアイネスが上だと断言しましょう。
ですが、サーヴァント風ステータスを見ればわかるように、魔力などの「悪魔としてのポテンシャル」ではイルマの方が上です。この辺、彼女は血統尊重主義派の代表を伯父に持つものとして頑張ってますし才能もありました。その上対悪魔戦闘技術を運用してくるので、純粋に勝負した場合はイルマとアイネスはいい勝負になります。
また人の上に立つものとしても、人柄とノリで気に入られやすいイルマと実務能力などで厳格に動かすアイネスでは方向性が違います。
ついでに言うと、実は純粋な魔術戦闘に限定しても、イルマはアイネスに勝算があります。これは、悪魔としてのポテンシャルは抜きにして考えての話です。
アイネスが圧倒しているのは、あくまで根源を目指す研究者にして貴族である「魔術師」としてで、また、イルマの完全上位互換かというとそうではないです。魔術を運用して目的を達成する「魔術使い」としてなら、イルマは十分に勝ち目があります。
まあ、事務作業などのデスクワークに関してアイネスがイルマに劣ることなど半永久的にあり得ませんが。この辺は完全に尻に敷かれた人生を送ることになるイルマです。
そして、体育祭の練習が行われる時期になった。
「「うぉおおおおおおお!!!」」
イリナとゼノヴィアが、自分達が悪魔や天使であることを忘れたフルスペックで走っていた。
すでにオリンピックでも見れないような速さになっているのだが、大丈夫だろうか?
鶴木はそう思いながら、しかし同時に全力で揺れる胸を観察していた。
「唸れ俺の動体視力! そして揺れる胸を心に刻み込め!!」
「だが、早すぎると風情がないな」
「ああ、適度な速度がおっぱいの鑑賞には一番だな」
「だけど、二人のおっぱいはやっぱりすごいぜ。ぐへへへへ……」
松田、元浜、イッセーの順で、鶴木の馬鹿極まりない発言と似たり寄ったりの言葉が出る。
この四人、波長が合うのか結構つるんでいた。
イルマ・グラシャラボラス眷属は、基本的にリアスやイッセーの世話になっていた。
ブルノウが彼女たちを派遣した目的が目的だからだろう。彼はサーゼクスたちに根回しをして、イルマ達をイッセーの家に下宿させた。
元よりサーゼクスはリアスがイッセーに恋心を抱いていることを察し、更に複数の女性たちがイッセーに懸想していることまで把握していた。その結果として、イッセーの家を改築させてまで彼女たちをイッセーの家に下宿させるという手段をとっていた。
さらに増えることまで予測したのか、地方都市ということを考えると駅前でもない高さのビルと化している。イリナもついでに下宿していたが、この調子だとさらに増えるかもしれない。
それをちょっと改装してスペースを増やし、イルマ達も下宿しているのだ。
そう、オカルト研究部という、駒王学園においては「学園最高峰の美形の集まり」といっても過言ではない集団の女子たちが、全員イッセーの家に住んでいるのだ。
元からオカルト研究部は「美男美女+野獣」という評価がされている。因みに美男は祐斗であり、野獣はイッセーである。ギャスパーは美女扱いにカウントされている節があるが、とりあえずスルーする。
これにイルマ達が加わり、更に美男美女の数はごっそり増えた。
その過程において、祐斗とギャスパー以外の男子であるイッセーと鶴木は嫉妬されることも多い。
祐斗に嫉妬すると女子たちの敵意を買う可能性が高いから、嫉妬できないのが実情だ。
ギャスパーも女子人気は高いが、それ以上に男子からの人気も高い。男たちの道を踏み外させる魔性の女装少年である。
しかし、覗きの常習犯である問題児のイッセーは女子人気が底辺なので、嫉妬する分には問題がない。鶴木も堂々とスケベ発言をするため、祐斗に比べると女子人気は低い。
だからなんだかんだで男友達は少ないのが現状だ。だが、この二人は違う。
元からイッセーの同類なのもそうだが、それを抜きにしても気のいい連中だ。悪友としてつるむ分には最高峰だといってもいいだろう。
クラスも同じなので、たいてい鶴木は一緒になってつるんでいた。
そして、そんな数少ない男友達の一人がさらにやってくる。
「お、兵藤に鶴木じゃねえか」
シトリー眷属唯一の男子、匙元士郎だ。
「よ、匙」
「匙か、何やってんだ?」
松田と元浜から分かれて、二人は匙との会話に移行する。
ちなみに松田と元浜は女子のおっぱいに夢中だった。
「見りゃわかるだろ、生徒会としての仕事だよ。で、お前らは?」
「「揺れるおっぱいの観察」」
隠すまでもなく即答だった。
そのために悪魔になって強化された動体視力をフルに使っている。鶴木に至っては魔術で動体視力を強化して、フルパワーで観察していた。
光り輝かんばかりの煩悩の塊である。
因みに匙は少し引いていた。彼も主とのできちゃった結婚を望む変態だが、それでも二人ほどストレートにスケベをひけらかしたりはしなかった。
そして、そんな匙の腕には包帯がまかれていた。
「……そういや、俺が転校してた時からつけてた気がするけどよ、どうした?」
グレモリーとシトリーのレーティングゲームで痣でもできたかと思ったが、それにしては包帯を巻く期間が長い。
そもそもクロックワークスの内情説明で、これまで恩恵を与える人員を厳選していた魔術的治療はかなり受けやすくなっている。そも、事情を教えられている匙はかなり受けやすいだろう。
なのに、なぜいまだに包帯を巻いたままなのだろうかと疑問に思う。
そして、匙はそれに対して苦笑いを浮かべる。
「いや、ゲームで兵藤の血を吸った影響かなんかわからないんだけどよー」
そう言いながら、匙は包帯を視線を気にしながらずらす。
その腕には、何やら黒い蛇がのたうっているかのような文様が浮かんでいる。
……
確かにこれは包帯で隠すほかない。日本の高水準レベルの高校で入れ墨とか、間違いなく浮くレベルだろう。生徒会のメンバーという立場であることも考えると、真剣に人生に凄まじいトラブルが発生しかねない。
「……呪い?」
「イッセー。ちょっと匙の来歴的にシャレにならねえ」
心底シャレにならないと思い、鶴木は何の気なしにつぶやいたイッセーにツッコミを叩き込む。
匙は龍王ヴリトラの魂の一部を封印した神器の保有者である。
そしてそのヴリトラは邪龍とも称されている、神話伝承的に悪役のドラゴンである。……ドラゴンの大半は敵役として登場するわけではあるが。
そしてこの世界的にもあの世界的にもドラゴンというのはとんでもない存在である。
如何に魂の残滓とはいえ、邪龍の残滓が何かしらの影響を与えて呪いが発現とかシャレにならない。
「……っていうか、この前のゲームで兵藤の血を吸ったことが原因じゃねえかってアザゼル先生が言ってたんだよ。イルマさんにも相談して、今度クロックワークスにも見てもらう予定だ」
匙は禁手に到達してない龍王の残滓の神器で、禁手に到達した天龍を丸ごと封印した神滅具をもつイッセーを時間差で道連れにするという快挙を遂げた。
よほど目が曇っているものでもない限り、専門知識があればこれがどれだけの快挙かなどすぐわかる。実際MVPをとるという快挙を獲得し、特別ゲストだった北欧神話体系アースガルズの主神オーディンにも褒められた。のちのレーティングゲームの歴史において、ジャイアントキリングの代名詞となるかもしれない。
だが、
そんなものを取り込んだことで、邪龍の神器が影響を受けたというのはすぐイメージできる。
「だよなー。邪龍とか普通に厄ネタだしな。それがらみでわけわかんねえ事態起きてんなら、マジでアイネスさんあたりに精査してもらえ」
鶴木として本気で心配である。
だが、むしろ匙はあまり気にしてなさそうだった。
神器においては専門家中の専門家であるアザゼルが検査したこともあるのだろう。おそらく彼はそこまで問題視していない節があるようだ。
そして、匙は話を変えてきた。
「ま、クロックワークスに行くときはアイネスさんが担当厳選するとか言ってから大丈夫だろ。で、話変わるけどお前らはどの競技に出るんだ?」
その質問に、鶴木ははっきりと告げた。
「借り物競争。ぶっちゃけ俺のスペックだと普通に走ったらギネス記録を出しかねねえから、そこは加減する方向でな」
「俺はアーシアと二人三脚だ! 桐生にはめられて押し付けられたけど、アーシアとできるから結果オーライだぜ!」
イッセーはドヤガオだった。
可愛がっている美少女と密着しての二人三脚。普通に考えれば自慢以外の何物でもない。
「鶴木はなんだかんだで考えてるな。あと兵藤は一度ヴリトラに呪われやがれ。俺なんてパン喰競争だぞ、畜生!」
「まったくだこの野郎。おい匙、黒魔術の触媒に使うからちょっと献血してくれや」
嫉妬の炎を燃え上がらせる二人に、気持ち温度低めの声がとんでくる。
「味方に呪いをかけないでください、麻宮君。匙も、きちんと仕事をしてください」
「我が生徒会唯一の男でなのですから、ちゃんと働いてくださいな」
生徒会長と副会長による鶴の一声に、鶴木は速攻で敬礼した。
「お、男同士の馬鹿話であります! 適度にスルーしていただきたい所存です!!」
「そして俺はすぐに動きます! あ、じゃ、俺はこの辺で!!」
そして、匙もすぐに走り出し、イッセーはぽつっとつぶやいた。
「……鶴木。匙って会長とできちゃった婚目指してるらしいんだけど、あの様子じゃ当分無理だよな」
「そりゃ無理だろ。アイネスさんの本家筋だぞ? 結婚するまで避妊ぐらいはきちんとするだろ」
そんな感想を言い合っていると、ドライグがふと口を開いた。
『どうやら、ヴリトラの魂が俺の血を吸ったことで濃くなったようだな』
「ん? どういうこと?」
イッセーはよくわからず首をかしげるが、鶴木は魔術師的知識から反応する。
「……化学反応で妙な進化遂げるとか?」
『まあ、魂の一部だけで復活することはないだろうからそのあたりだろう。だが、ファーブニルとヴリトラの残滓が近くにいて、タンニーンの指導を受けた歴代なんて今までに無いからな。相棒は龍王に縁があるということだろう』
ドライグがそう推測するが、イッセーとしては正直興味がわかない。
タンニーンは素直にドラゴンとして尊敬するが、しかし雄度ではなく雌度が高くなってほしい。
なので、しいて言うとするならば―
「出来れば、女の龍王とお近づきになりたいんだけど」
『スマン相棒。マジ勘弁してくれ』
なぜかいきなりドライグが否定要素を入れてきた。
「……何かしたのか? 痴漢とか浮気とかなら、マジで謝った方がいいと思うぜ?」
『いや、そういうわけじゃないんだが……。ちょっと封印前にいろいろやってしまって、しかも封印されてるせいでどうしようもなくてなぁ』
鶴木の野暮な推測を否定しながらも、何かやらかしたことをドライグは否定しない。
それについてイッセーは何をしたんだろうとか思いながらも、しかし空を見上げる。
……短期間にヴァーリチームと二度も揉めたが、どうやら少しぐらいは平和に生きれるらしい。
最も、すぐに不穏な空気がやってくることになるのだが。
そしてそれは、少ししてからのオカルト研究部の会議という形で具現化する。
「ほな部長。今日のオカ研は悪魔活動ってな感じなんかいな?」
リスンがそう尋ねると、リアスは溜息を吐きたくなる表情で告げる。
「ええ、若手悪魔のレーティングゲームの第二ラウンドについてよ。……第一弾はまた私たちグレモリー眷属で、相手はディオドラ・アスタロトなのよ」
心底うんざりした表情で告げたリアスに、他のグレモリー眷属も、程度はともかく大半が微妙な表情を浮かべる。
帰ってきた直後にアーシアに求婚し、金にものを言わせたプレゼント作戦をぶちかましてきた男のことである。思うところはあるだろう。
なにせアーシアはイッセーにぞっこんだ。イッセー本人こそ気づいていないが、そこに関しては短い付き合いでイルマ達グラシャラボラス眷属すらわかっている。つまり完全な横恋慕だ。
なので、下宿している関係上プレゼント攻撃を知っているイルマ達もその気持ちを遅ればせながら理解した。
「数もそうだけど全部厳選してるってのがあれだよねぇ。アクセサリーもただ高いんじゃなくて、年頃の女子人気を考慮してるところは、できるやつだとイルマさん思ったりしてます」
と、告げるイルマに小猫も同意の頷きを示した。
「……ただ有名ブランドというわけでなく、信徒のアーシア先輩の性格を読んで、派手さのないものにしています。相当センスがあるかと」
「そうですわね。このネックレス、知る人ぞ知る一品の筈ですわ」
カタナまでそんなことを言っているため、イッセーがやきもきしているがこれに関しては問題外だ。
むしろなぜ、お前はそこまでアーシアが揺らぐと思っているんだ。皆の心がだいたい一つになった。
あと女性陣は女性陣で、アーシアが迷惑していることを一瞬置いておきたくなるほどアクセサリー談義に花を添えたくなった。ディオドラのその手の審美眼は、一応評価するべきかもしれない。
そしてそれを面白そうに見ていたアザゼルが、しかし話が進まないと判断したのか指を鳴らして注目を集めさせる。
そして、一枚の記憶メディアを取り出した。
「で、これはその若手レーティングゲームのそれぞれの第一試合を映した映像だ。ま、イルマ達はブルノウの伝手でリアスとソーナのレーティングゲームは見てるから飛ばすぞ」
今回の目的はこの確認である。
敵を知り、己を知ればなんとやら。相手の情報を調べ上げて、攻略法や対抗策を考えるのは近代戦の根幹といってもいい。
そしてレーティングゲームは基本的にエンターテイメントとして発達しているので、映像を入手するのも容易だ。それを逃す手はない。
レーティングゲームのトップランカーも、たいていは対戦相手の試合の一つや二つは確認してプランを練るものだ。何もしない方が馬鹿といってもいい。
ブルノウがレーティングゲームを情報戦の面で危険視するのも、一理あるといってもいいだろう。
「で、試合に関してだが予定調和が二つとイレギュラーが二つ。イレギュラーの片方は、もちろんシトリー眷属の大奮戦だ」
そう告げるアザゼルの言葉に反論するものは、誰一人としていなかった。
あれは判定上はリアスの辛勝だが、事実上ソーナの大勝利といっても過言ではない。
あの戦いでの成果は、ソーナの夢の第一歩となる。そんなことは誰もが承知していた。
そして、そんな結果の一つは、グレモリー眷属のトレーニングプランと試合の特殊ルールがかみ合わなかったことでもある。そういう意味では、ソーナたちは幸運にも恵まれていた。
「ま、そこに関しちゃ悪かったな。ただ、将来性を考えればあれが一番才能を伸ばせると判断してのことだから、そこはわかってくれ」
「わかってるわよ。次の試合で勝てるようにコーチしてくれれば文句はないわ」
気まずそうにするアザゼルに、リアスはそう告げてほほ笑んだ。
しかし、すぐに警戒の表情を浮かべると記録メディアに目を向ける。
「……そしてもう一つがアスタロトとアガレスの試合。ディオドラの逆転勝利だったわね」
そのことばに、警戒心を浮かべるのは全員だった。
次のレーティングゲームでぶつかるリアス達だけではない。どうせいずれぶつかるイルマ達からしても、この圧勝は警戒必須だ。
若手次期当主六名と、分家有望格二名。その眷属の上位バランスは、事前情報や戦闘経験からある程度は分かっている。
上から順に告げればこうだ。トルメー、サイラオーグ、スメイガ、シーグヴァイラ、リアス、イルマ、ディオドラ、ソーナの順番になる。
これに関しては上層部だけが把握している情報などもあるうえ、それぞれひと月でのトレーニングの成果や、後援者や自分たち自身での情報操作などもあるだろうから、あくまで目安だ。
実際、ヴァーリチームと大立ち回りを演じたイルマ達は相当ごまかしているのは確実だ。この調子ではスメイガの隠し玉も一つや二つでは済まないはずだろう。
だが、リアスとソーナの順位はお互いが一番よく知っている。トルメーが最上位なのはむしろ当然といったレベルだ。というよりレーティングゲーム最強のディハウザー・ベリアルを下したチームが下馬評一位でなければ逆におかしい。
そしてそれぞれイルマ眷属を挟んで二チーム分は慣れているディオドラとソーナが大番狂わせを行った。
ソーナはあくまで試合に負けて勝負に勝った形だが、ディオドラは逆転勝利を遂げることに成功したらしい。ソーナが金星ならディオドラは大金星だ。
それも、話によると最初は追い詰められていたがディオドラの孤軍奮闘による逆転勝利らしい。ある意味見ごたえがありそうなのが微妙にむかついている面子が数名いるのはご愛敬だろう。
逆に、予定調和で終わった試合。その一つはトルメーVSサイラオーグの二強決戦。そしてスメイガVSイルマの血統尊重主義派にして親族同士の対決だ。
これに関しては、下馬評などから予定調和といってもいいのだが………。
「じゃ、とりあえずイルマの試合をまず見るか」
「すいません先生。アンタ鬼?」
イルマがそんなことを言うが、しかし映像が映し出される。
そして、映像に映ったスメイガが、真っ先に発言した。
『イルマ。わかっているとは思うがあえて卑劣なことを告げる』
『うん。わかってるじゃん』
兄妹同然に育った二人の
『ここで私たち血統尊重主義派同士が全力を出して、手の内をすぐにぶつかるだろう魔王派の若手に見せつけるのは迂闊だ』
『だけど、生ぬるい試合をするなんて貴族として失格。それこそ血統尊重主義派としてあり得ない』
そう、この二人は誇り高く、しかし慎重に動かなければならない。
リベラル筆頭の魔王派の血族が四名。中間管理職のアガレス。そして、大王派本家の跡取りだが、「実力さえ示せば血統に関係なく誰もがふさわしい職業につける」という、尊重主義派以上に魔王派よりの世界を夢とするサイラオーグも、内情は魔王派だろう。
つまり、これから政敵との試合もしなければならないのに、同じ派閥同士で試合をするのだ。
これで迂闊に全力決戦をするのは愚策。味方同士で足を引っ張りあい、敵に攻略法を教えるようなものだ。
だが、貴族としての責務を果たさんとすることをモットーとする尊重主義派として、接待試合はできる限り避けたい事態だ。心情的に不満があっても、諸事情あって必要な時もあるかもしれない。しかし今回はそんなことをする相手でもないのだから、将来においてデメリットしかない。
故に、二人は眷属を置いて前に出る。
『……そういうと思ったから、このレ―ティンゲームをこういうルールにしておいた』
そう告げるのは、この試合の判定役を務めるアジュカ・ベルゼブブ。
四大魔王の1人にして、ディオドラの親族であるアスタロトの悪魔。サーゼクスに並ぶ超越者と呼ばれる最強の悪魔。そして悪魔が誇る最高の技術者でもある。
その彼が、すぐ近くに置いた箱に手を突っ込んだ。
『この箱にはいくつもの試合形式が書かれており、君たちは俺が引いた紙に書かれた試合をしてもらう』
『『はい! 全力で挑ませていただきます!!』』
そう、これは決闘。
数多くの上役たちが指定したルールで、選抜された代表が勝負する特殊ルール。
その特殊ルールでいきなり
この王同士の全力勝負により、可能な限り次の試合まで情報を隠しながら、しかしいい加減な試合を一切しないという選択肢を二人は取った。
それを眷属たちがかたずをのんで見守る中、アジュカは一枚の紙を取り出して―
『………ブルノウの提案だね。「叩いて被ってじゃんけんポン」だ』
―空気が、凍った。
『因みに追伸だ。「反則一歩手前の情報隠匿を行うんだから、貴族的に恥ぐらいかいてバランスを取りなさい。二人とも日本には縁があるから、ルールは知ってるし問題ないだろう?」だそうだ』
『『反論できない!?』』
そして三本先取の大激戦。一本取るまでに十分かかる熾烈な激戦の結果、イルマは一勝三敗で負けたことを伝えておく。
ちなみに、周囲のメンバーは兵士たちが応援合戦でチア部もかくやの動きを見せたらしいが、完全に余談である。
A:「大将同士の全力短期決戦を速攻で開始して、眷属の手の内を隠す」
いや、まじめな話、トルメー眷属の実力をもう少し広める必要もあり、彼の相手はサイラオーグにすることにしました。そしてシーグヴァイラは眷属がほとんど判明してないので、どれぐらいの戦闘をさせればいいのかがまず苦労します。
必然的にイルマとスメイガをぶつけるしかないのですが、今後のレーティングゲームを考慮すれば、政治的に敵対しているほかの眷属に手の内をさらす行為を、同じ政治派閥でするのに躊躇しました。
しかし血統尊重主義派の在り方としては、摂待試合は苦渋の決断として差から得ない相手にする以外にはしたくない。なので頭捻った結果、「大将同士の一騎打ち」で自分達の手の内だけさらすという苦肉の策を敢行。
……そしてそれを読んでいた連中によって嫌がらせじみた勝負無いようになりましたwww ブルノウも「ま、やり口が汚いからこれぐらい恥ずかしい思いはしておきなさい」と茶目っ気入れた試合内容を書きました。