俺とモノズの物語   作:三丁目の木村さんの親戚の息子

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第十話

「ボール……?」

「えっいや流石にモンスターボールを知らないとか…」

「ボールは知ってるよ失礼だな……。なんでトレーナーでもないのに買いに行くんだって話だよ」

 

 そう訊ねると、ユウリはやれやれといった様子で答えた。

 

「今日は休みだけど明日は普通に仕事だよね? 仕事の間その子どうするつもり? 家にひとりぼっちにさせるつもりじゃないよね?」

「あー……そういうことな。わかった、準備するから待っててくれ」

 

 俺は一人暮らしで、平日の日中…シフトによっては夜間も家を留守にしている。その間ずっとモノズを家にひとりでいさせるわけにもいかないだろうという事だった。ボールの中に入れて身に着けておけば、仕事中も一緒にいられるし安心だろう。

 別に急がなくてもいいよーとこちらに手を振るユウリにとりあえずモノズを預け、俺は二階の自室へ向かった。もう外は肌寒い季節だ。俺はクローゼットから取り出したジャケットを羽織り、机の上の鞄を掴むと一階に下りる。

 

「わりぃわりぃ、待たせ、た、な……」

「ああっガレキっ! ちょ、ちょっとこの子とって! とって!」

「ぐるるるる…」

 

 一階に下りるとなぜかユウリが腕をモノズに噛まれて半泣きでこちらに助けを求めていた。

 

「……」パシャパシャパシャッ

「ガレキ!? なんで今写真撮ったの!? しかも三回も!?」

「いや…珍しい光景だったからつい……」

 

 撮影した写真をダンデさんとホップとソニアさんとユウリの両親に迅速に転送しつつ俺はモノズを掴んで引きはがす。じたばたしていたモノズはすんすんと鼻を鳴らすと途端に大人しくなり「ぴぃ♬」とこちらに顔を向けた。匂いで俺だとわかったのだろうか。

 と、ユウリがものすごい顔でこちらを見ているのに気づいた。

 

「ど、どうした…? 大丈夫か?」

「歯…生えてないけど腕持っていかれるかと思った」

「えっそんなに強く噛まないだろこの子」

「うるる」

 

 試しにすっと手を口の中に差し込んでみるが、優しくぐにぐにと甘噛みされるだけだ。

 

「な?」

「なって言われても……ハァ。やっぱり私の予想通りみたいね……はなこだって私やホップには全然懐かなかったのにガレキにはファーストコンタクトと同時に鯖折りに掛かってたし……」

 

 ユウリの言葉にうへぇっと顔をゆがませる。

 

「鯖折りは嬉しくないけどな…っていうかお前の場合あれじゃないか? 俺にキテルグマけしかけるの聞いてたから…」

「……あー。もしかして私ガレキの敵認定されてる?」

「ぐるるるる…!」

「うわあ凄い敵意」

 

 モノズの鼻先に手を近づけたユウリはすっと手をひっこめた。いつも飄々としているユウリにしては珍しく冷や汗をかいている。そこまで痛かったのだろうか。

 

「いや噛まれるって怖いね…これちっちゃいころにカジリガメに頭やられたらそりゃトラウマにもなるわ……」

「分かってくれたようで俺も嬉しいよ……」

 

 唸り声をあげるモノズの頭を撫でてなだめながら笑って返す。噛まれるのは誰だって怖いものである。

 

「んじゃあまあ俺がモノズを抱いて行くとして…どこに買いに行くんだ?」

「あ、ああうん。こっから一番近いのだとエンジンシティかな」

「エンジンシティ?」

 

 電車に乗らないといけない距離の街の名前を出され、俺はユウリに聞き返した。

 

「ボールならフレンドリィショップで事足りるんじゃねえか?」

「……はぁぁぁぁぁああ」

 

 なんだかすごく馬鹿にされた気がする。ものすごくおおきなため息をついたユウリは大げさにばっばっと手を振って主張する。

 

「いい? ボールってのは一生ものなの! 一度ボールに入ったら基本ずっとそのボールなの! ある意味家と言い換えても差し支えないの! そんな大切な物を近所のフレンドリィショップで済ませようなんてダメでしょ!」

「……ユウリが普段使ってるボールは?」

「一山いくらの特売で買ったやつだけど…」

「お前面の皮厚すぎだろ」

 

 しかしユウリのいう事も分からないではない。聞いた話だとボールによって中の居心地も変わってくるらしいし、仕事中はずっと入ってもらうわけだからなるべくいいものを吟味しようという事だろう。

 

「言いたいことは分かったけど、なんでエンジンシティなんだ?」

「あそこはジムのある一番近い町だからね。あいつもいるだろうし…」

「あいつ?」

 

 俺が訊ねると、ユウリは少し困った顔をして答えた。

 

「モンスターボールの専門家……ボールガイよ」


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