俺とモノズの物語   作:三丁目の木村さんの親戚の息子

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第十一話

 ユウリに連れられて訪れたのはエンジンシティを一望する巨大な建物、エンジンジムだった。のだが、何故かユウリは中に入らず入り口の右手側の方に立っている不審な男の前に俺達を連れてきたのである。

 

「ボルボル~これはこれは新チャンピオンじゃないボルか~ガラルリーグの人気者ボールガイになんの用ボル~?」

「あっもしもし警察ですか? ええ、エンジンシティのジム前に不審な男が…男? まあ多分体系的に男だと思われる人物がですね…」

「待つボル!? 何を流れるように警察に通報しようとしているんでボルか!? ボールガイはいたって善良なマスコットキャラクターボルよ!?」

 

 正面からがっと肩を掴まれ凄まれる。怖い。微妙に俺より身長が高いのと変声機を通したかのような機械質のくぐもった声が怖い。

 

「ガレキ、この怪しさがキグルミを着て徘徊してるようなのが今日会いに来たボールガイ、モンスターボールの専門家よ」

「うそだろ…こいつが…?」

「いや…流石にいい歳した大の男にそんな全力で引かれると流石のボールガイも傷つくボルよ…」

 

 がっくりと肩を落とし項垂れるボールガイ。そんなにショックだったのだろうか。

 と、俺は一度落ち着いて目の前の不審し―――ボールガイに目を向ける。ガタイはいい。かなりいい。割と身長はある方だと自負していた俺よりも身長があるし、体格もがっちりとしていて安定感がある。で、問題は全身を覆う白いタイツとその上に着られた半袖短パン、そして何より精神に訴えかけてくる感じの恐怖をあおるこの頭部だろうか。デザイン自体はリーグ公式マスコットキャラクターの物なのだが、デフォルメされたデザインの彼と違い、目の前にいるボールガイはガタイのいい体に頭部だけ元に準じたデザインのが乗っているせいで異物感が凄い。あと圧も凄い。

 

「おいチャンピオン。お前んとこのリーグのマスコット着ぐるみ作るんならもっと胴体部分もだな…」

「いやその人公式じゃないから」

「え?」

 

 思わず変な声が漏れる。

 

「その人はリーグの公式マスコットキャラクターのコスプレをしてリーグ公式ジムの前に立ってるだけの、リーグとは全くの無関係の一般人だよ」

「あもしもし警察ですか? ええ、はい。いや本当にヤバイ不審者がですね…」

「ちょっとぉおお!? 何かさっきからやけに通報することにためらいがなくないかボルゥ!?」

「いやだって…何か起きてからでは遅いし…外見で判断したくはないけど聞いたところ外見以外もやばいし…」

「否定しにくい正論を返すのやめてほしいボルよ!?」

 

 ボールガイが悲痛な叫びをあげる。

 

「話進まないからそこらへんでやめてあげてガレキ。やってることはやばいけど悪い奴じゃないから」

「悪い奴じゃないのか? ならまあいいけど…」

「……なんか釈然としないけどまあ通報しないでくれるならそれでいいボルよ…」

 

 疲れたような声で肩を落とすボールガイ。さっきから見ているともしかしたらこいつは意外と常識があるのかもしれない。まあ常識があるのにこんなことしてるのなら余計にやばい奴なんだが…。

 と、ボールガイはその丸い頭の頬をパンと両手で叩き、「ウシッ」と気合を入れ直してこちらに向き直った。

 

「ところで今日はボールガイに何の用ボルか~? モンスターボール、特にガンテツボールについてならボールガイにお任せボルよ~」

「うおっ切り替え早いな…」

 

 さっきまでの落ち込みようとは打って変わって陽気に手を振り話すボールガイに、ユウリが本題を切り出した。

 

「私の友人のポケモンのボールを見繕ってほしいの。モノズなんだけど」

「ああ、友人だったボルか。てっきりチャンピオンが彼氏でも連れてきたのかと思ったのでボルが…モノズボルね? ちょっと待つボルよ…」

 

 そう言ってボールガイは顔の被り物をすぽっと外した。

 

「えっ!?」

 

 そして彼…いや、彼女はボールガイの被り物の中から二、三個小型化したボールを取り出すともう一度被り物を被った。

 

「モノズは目の見えないポケモンボルからね…ダークボールとかが落ち着いていいと思うボルが進化してサザンドラになったら開眼して視力を得るから長期的なことを考えてスーパーやハイパーもいいと思うボル。でも純粋な中の居心地だけで言えばやっぱり値は張るけどゴージャスボールが鉄板ボルね~…ってどうしたボル? そんな顔して黙り込んで…」

「え、あ、いや…それ往来で外していいもんなのか? っていうかお前女だったのか…?」

 

 それを聞くとボールガイは「あー…」と被り物に手を添えた。

 

「ここだけの話ボールガイは一人じゃないんボルよね~。一応背格好とか体格をそろえるためにこのタイツの下に肉襦袢着たりして皆統一してるボルが中身は割と色々なんだボルよ~あ、これオフレコで頼むボル」

「え、えぇぇ……それ今首とって大丈夫だったのかあんた…」

「ああ、良いんボルよ別に。公認のスタッフとかじゃないんで特に規定とかもないボルし…まあ今は全然人通り無かったんでひょいと外して中からボール取り出したボルがもちろん子供たちの前じゃ外さないボルよ? 子供たちの夢は守らないといけないボル」

「お、おう…」

 

 何故当然のように被り物の中にボールが入っているのかについては全く触れることは無かったが、彼女はいたって普通にボールの特性を俺に説明し始めた。

 

「モンスターボールは主に三つの生産元があるボル~大企業のシルフカンパニーとデボンコーポレーション、あとはジョウトの職人ガンテツボルね。モンスタースーパーハイパーがシルフ製で、他の流通してる特殊なボールが大体デボン製、市場にめったに出回らないボールがガンテツ製ボールだと思っておけばいいボル。まあウルトラボールとかはアローらの財団が開発したらしいけどここらじゃほとんど手に入らないので特に気にしなくていいボルね。ほんとはお兄さんにもガンテツボールのすばらしさを普及したいところなんだボルけど…ガンテツ爺さんの完全なハンドメイド品だから貴重で今手持ちが無いんボルよね~。ちなみに昔はぼんぐりっていう木の実に特殊な装置を手作業で取り付けてボールを作っていたんだボルが、この流れを継承したのがガンテツボールになるわけボル。いやー今手元にないのが惜しいボルね…。で、トレーナーとかだとボールのデザインをパーティの構成のコンセプトと絡めてボールを決めたりもするのでボルがお兄さんはトレーナーじゃないみたいボルしやっぱり懐きやすくなるゴージャスボールでボルかねぇ…チャンピオンはどう思うボルか? ってチャンピオン? どうしたボルか急に静かになったボルが…」

「……」

 

 なんか申し訳なくなるくらい本当に丁寧に解説してくれるボールガイが、手を止めて隣のチャンピオンに顔を向ける。

 

「…った」

「ボル?」

「知らなかった…ボールガイって女の子だったんだ…」

「いや他の町の担当とかは大体男ボルよ…? まあボールガイは謎が多いボルから、ボールガイ自身自分以外のボールガイの素性は詳しく知らないんだボルけどね…」

「やべえなボールガイ…どういう集団なんだ…」

「ボールの楽しさとガンテツボールの奥深さを伝える集団ボルよ」

「なぜガンテツ…」

「ガンテツはいいものだボル…」

 

 しみじみとつぶやくボールガイ。そこまでか。そこまでなのか。少しガンテツボールとやらに興味がわかないでもないが今はモノズのボール選びに集中である。

 

「俺はトレーナーじゃないし、仕事中この子を入れて身に着けておきたいんだ」

「ああそういう感じボル? ならガンテツがあったとしてもおすすめできなかったボルね」

「どういうことだ?」

「ガンテツボールは物は良いんだボルが何しろぼんぐりを加工して作ってるから他のボールみたく持ち運びやすいサイズに小型化できないんだボル……仕事中も身に着けたいならやっぱり小型化は必須ボルよ」

「なるほど…でもボールの形だと収まりが悪いな…持ち運ぶのになんか便利なアイテムとか無いか?」

「ああ、それならこれがあるボル」

 

 ボールガイはズボンのポケットから長方形のケースを取り出して目の前で開いて見せた。ふたを開けるとそこには二つ小型化したボールが収まっている。

 

「これは携帯用の懐中ボールケースボル。六つまで入ってかさ張らないし良い感じボルよ」

「へぇ…いいなこれ。じゃあケースはこれにするとしてボールか…おすすめはダークとゴージャスだっけ?」

「モノズボルからね…ダークボールの中は全体的に薄暗くて光が苦手な子とかにおすすめのボールボル。モノズは目が見えないっていうけど、実は目の上に鱗と毛が重なってて見えないだけで光は感じてるボルから、あんまり明るいよりはちょっと薄暗くて光の刺激が少ないダークボールの方が居心地はいい筈ボル。ゴージャスはもうゴージャスボルね。とにかく何でもかんでもゴージャスで中の居心地は高級ホテルに例えられるボル。ただちょっと値が張るボルね…」

「成程……なあモノズ、お前はどっちがいい?」

「ぴ?」

 

 一応モノズに聞いてみるが、モノズはよくわかってなさそうに首を傾げた。まあわかるはずもないか。俺は改めてボールガイの持つボールに目を移しボールを得選ぼうとしたとき、「ぴ!」とモノズがボールを咥えあげた。真っ白なボールである。

 

「これがいいのか?」

「うるる♬」

「あーこれはプレミアボールボルね。性能はモンスターボールと変わらないんボルが、白地に赤のラインというそのシンプルかつスタイリッシュなデザインで多くのトレーナーから絶大な支持を得るボールだボル。これを選ぶとは中々ツウなモノズだボルね。これでいいボルか?」

「ああ、モノズが選んだんだ、俺はこれでいい」

「わかったボル。プレミアボール一個お買い上げボルね」

 

 俺は財布から金を払い、白いボールを受け取った。シンプルという言葉がこれほど似合うボールもそう無いだろうというデザインだ。かっこいい。

 

「あ、そうだ。これはおまけにあげるボルよ」

「これは…いいのか?」

「いいボルよ。初回サービスってやつボルね」

「ああ、なら有難く頂くよ」

 

 俺はそう言ってボールガイからモンスターボール用のケースを受け取った。試しにポケットに入れてみるが、携帯していて違和感のないサイズで、収まりもいい。いいものだ。

 

「で、後はモノズをボールに入れればいいんだよな?」

「そうボル。ボールのボタンを一回押すと小型化が解除されて元の大きさに戻るボル。戻ったらもう一度ボタンを押して、普通なら投げて充てるんだボルが、これは手で掴んだままこつんとぶつければ行けるボル」

「ああ、やってみる」

 

 俺はモノズを地面の上に下ろし、プレミアボールのボタンを押す。ブゥンと軽い振動がボールから伝わり、ボールは手のひら大のサイズに変った。そのままもう一度ボタンを押し、俺はモノズの頭にそれを当てる。するとボールは光を放って開き、モノズがその中に吸い込まれた。俺の手の中のボールは、一度だけ揺れて、ティンと音を立てる。無事ゲットできたようだ。

 

「これでボールへの登録が完了したボル。おめでとうボルね」

「おお…これがゲットか…なんか変な感じだ」

 

 手のひらに収まるほどのボールの中に先ほどまで抱きかかえていたモノズが入っているのかと思うと妙な感慨がある。一言で言うなら「かがくのちからってスゲー」と言ったところか。

 

「じゃあ今日はこんなところボルね。また何かボール関係で分からないことがあったら頼ってほしいボル。一応向こう数年はここの担当だから大丈夫だと思うボルよ」

「ありがt…向こう数年はってことは異動とかあるのかボールガイ…」

「ボールガイは色々謎なんだボル…自分も細かいところまでは把握してないしまあガンテツボール大好き集団とだけ覚えておけば十分ボルね」

 

 ボールボルボルと不気味な笑い声(笑い声…?)をあげるボールガイに別れを告げ、俺は荷物をまとめて駅に向かう。そろそろ次の列車が出る頃合いだ。今日は色々あったが無事にボールとケースが手に入ってよかった。これで安心して明日の仕事に臨める。忘れ物もないようだし早く家に……

 

「アウト! オブ! 蚊帳! 私!!!」

「あっ」

 

 ユウリのことを忘れていた……。




リーグカードには性別不詳ってあったし確実に複数人いるし女の子のボールガイがいてもいいでしょうという気持ち。ガイ(野郎)とは一体…うごご…

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