俺とモノズの物語   作:三丁目の木村さんの親戚の息子

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第十四話

 ユニフォームに袖を通す。白を基調としたシンプルなデザイン、ジムチャレンジャー規定のユニフォームだ。この服を着ると、今まで曖昧だったそれが、強い実感となって体にのしかかってくる。俺は、ガラルリーグに挑むのだ。

 

 スタジアムの方から割れんばかりの歓声が聞こえる。選手控室にひしめき合うジムチャレンジャーたちは個人差こそあれ皆一様に緊張した面持ちで佇んでいる。無理もない。他の地方のリーグと違いガラルリーグはガラル地方をあげての一大イベント、開会式の様子はガラル全国に放送されるわけだし、二十歳に満たない若者が殆どを占めるジムチャレンジャーが緊張するのも分からないではなかった。

 

 ……ただ、俺はというと緊張よりなにより気になりすぎるものがちらちらと視界にちらついていて落ち着かない。これはアレだろうか、話しかけたほうがいい奴だろうか。というか周りにいるジムチャレンジャーもあまりの異様さに引いてしまっているのか、人混みの中そこだけ空間ができていてやはり近づきたくない。無視しようか。無視するのがいいかな。いいよな。ヨシ無視しよう開会式に集中するべきだ。

 

「あっガレキじゃないボルか~奇遇ボルね~」

「あーすいません人違いですね」

 

 すっと顔を逸らし人混みに紛れて壁の方に逃げる。俺はあまり目立たない方なので完全に逃げ切れたと思ったが俺は肩をがっとつかまれた。

 

「あはははは、そうそう見間違えたりしないボルよ~記憶力には自信がある方ボル」

「やっぱりあの時のボールガイかお前……」

 

 複数人いると聞いていたから別人だと思いたかったがこの口ぶりからするとどうやら間違いなく俺にプレミアボールをくれたボールガイのようだ……。確かやたらとリアルな体型の着ぐるみで誤魔化されているが中は普通に長身の女性だったと思う。だが何故ボールガイがここに。

 

「おまえどうしてここに居るんだよ……ここはロビーじゃないぞ?」

「あはは、今日はそういう用事じゃないボルよ~。ボクたちをリーグ公認のマスコットにしてもらおうと色々画策してたんだボルがチャンピオンに取り入ろうとしてた時に「取り入るくらいならリーグに出て貴女がチャンピオンになったらいいんじゃない?」って言われたんだボル~」

「いやそれではいそうですねってリーグに出ようとする辺りお前の行動力どうなってんだ……」

「褒めないでほしいボル照れるボルよ~」

「褒めてはないかな……」

 

 相変わらずで安心したが俺もこのやばい奴の仲間だと判断されたのか周りからひそひそとささやく声がする。俺はこんな変な球体をかぶった変人の仲間ではないと説明しようとしたところで、ボールガイは俺に話しかけてきた。

 

「ガレキこそジムチャレンジするんだボルね。意外ボル~」

「……まあ、なんだ。俺も色々あったんだよ」

「そうなんでボル? まあ何かにチャレンジすることはいいことボル~チャレンジ精神はいつだって大事ボルからね!」

「お、おう。ところでその変な喋り方ずっとやんのか……?」

「ボールガイである以上この格好とこの口調は不変ボルよ~」

「そ、そうか……」

 

 ボールガイは色々決まりがあるらしい。よくわからないが大変みたいだ。夏場とか苦しそうだし。

 

「まあボクはガンテツじいさんのために頑張るボルよ~。ガレキも頑張るボル~」

「おう、お互いな」

 

 元気よく向こう側へ走っていくボールガイをひらひらと手を振って見送る。控室でもガンテツボールを布教するつもりのようだ。懲りないというかなんというか……。

 

「ジムチャレンジャーのみなさーん。時間になりましたので背番号の昇順に並んで順番に入場してくださーい」

 

 と元気に布教して回るボールガイの背中を見つめているとスタッフに声を掛けられる。どうやら出番の様だ。まあ出番と言っても俺達チャレンジャーはぞろぞろと入場して選手宣誓を行い、その後のジムリーダー入場を見届けてチャンピオンの開会挨拶を聞いたら退場して終わりという簡単なものだ。一種のにぎやかしみたいなものである。気負うこともない……と自分に言い聞かせてみるが少しドキドキする。いつも画面越しに眺めていたグラウンドに今から自分が立つのだと思うと浮足立つような気持になる。

 俺はすぅと大きく息を吸い込んで吐き出した。腰のホルダーにセットしたプレミアボールにそっと手で触れて、前のチャレンジャーの後について歩きだす。

 

『―――それでは選手、入場です……!』


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