俺とモノズの物語   作:三丁目の木村さんの親戚の息子

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第十五話

「ッ……」

 

 スタジアムに浴びせられた無数のライトに思わず目がくらむ。足を止めそうになるのを堪え、前のジムチャレンジャーに続いて歩みを進める。

 

「……すげぇ」

 

 次第に目が慣れていくにつれて視界に飛び込んできたのは満場のスタジアムだ。飛び交う声援。視界を鮮やかに彩るレプリカのユニフォームの群れ。観客席からはひしめき合う人々の熱狂がここまで届いてくるようだ。頭が割れてしまいそうなほどの歓声の渦に、今自分がどこにいるのかを改めて実感させられる。

 指定された位置に立ち、しっかと二本の足でグラウンドを踏みしめた俺はごくりと生唾を飲み込んだ。すさまじいプレッシャーだ。

 …と、ジムチャレンジャー全員が出そろったところで、司会の男はひときわ大きな声を張り上げる。

 

『さあ、勇猛果敢なる若きチャレンジャーたちを迎え撃つはガラルリーグの誇る八人のジムリーダー達だッッ』

 

 吹きあがるスモーク。ゆったりと、けれどしっかりとした自信に満ちた足取りで、俺達の出てきたのとは逆のゲートから八人の人影が現れた。ガラルリーグのジムリーダー達、これから先俺達が戦うことになる歴戦の英傑たちだ。

 

『前回リーグから二つのジムがそのリーダーの座を譲り、アラベスクタウンジムのビート! スパイクタウンジムのマリィの両名を加え新たなる時代の到来を思わせる今回のジムチャレンジであります! 前年度のジムチャレンジで目覚ましい活躍を見せた両名のジムリーダーとしての戦いに熱い期待が寄せられます!!!』

 

 司会の言葉に、観客の熱狂はさらにヒートアップする。彼らも皆、新しいジムリーダーの活躍を心待ちにしていたのだろう。もはや収集などつかないのではないかと不安になるほどの大騒ぎだ。

 

『―――――――聞け』

 

 だが、その熱狂は一瞬にして静寂へと変わった。ガラルでこの一年を過ごしたものならば、誰もが知っているあの人物が姿を現したからだ。それは、俺のよく知る普段の彼女とは比べ物にならない存在感でそこに立っていた。

 

『伝説は終わった』

 

 マイクを手に、マントをはためかせながら彼女は歩みを進める。

 

『先代チャンピオンによる十年間の不敗神話、チャンピオンタイムは終わりを告げた』

 

 踏み出すその一歩一歩から確かな自信が伝わってくる。

 

『私が終わらせた』

 

 スタジアムの中心に立ち、彼女は続けた。

 

『元よりこの世に「永遠」はない。走り出した列車がいつか止まるように、沈まない陽が無いように、あれはいつか訪れた終わりだ。避けられぬ宿痾だった―――』

 

 静かに、噛み締めるように告げる。スタジアムは静まり返り、吹き抜ける風の音だけが響く。その静寂を破ったのは、他でもない彼女自身だ。

 

『だがそれは嘆き悲しみにくれる「終わり」ではない! 列車はまた走り出す! 陽はまた昇る! あの日の敗北、あの日の勝利は新たなる時代の「始まり」の狼煙だ! あの日! あの時! チャンピオンの座は! ガラルに燻る無数の猛きトレーナー達の頂点は受け継がれた!』

 

 大きく手を振り、体全体で辺りを見渡しながら、彼女は叫ぶ。グラウンドに立つ選手だけでなく、それを見つめる観客すら鼓舞するように。

 

『我こそはと思う猛者よ! その爪を! その牙を! 研鑽せし挑戦者たちよ! 私に食らいついて見せろ! かつて私がそうしたように、私の元からチャンピオンの座を奪い取って見せろ! 新しい歴史を! 他の誰でもない自分自身のその手で切り拓きたいというのなら! 私のチャンピオンタイムを!! 止めて見せろ!!!!』

 

 高く拳を突き上げ、彼女は叫んだ。キィィンとマイクのハウリングが響く。

 静まり返ったスタジアムの中、ユウリはスタジアムに張り詰めた緊張の糸を解きほぐすように不敵に笑い、言い放つ。

 

『出来るものならな』

 

 真っすぐ突き出された彼女の手からマイクが落とされるのと同時に、スタジアムは今日一番の大歓声に包まれた。

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