あれから一週間がたった。未だにタマゴの孵る気配は無い。
「やあ! 元気にしているかガレキくん!」
「おはよう! ポケモン飼い始めたって聞いたぞ!」
騒々しい音に目を覚ます。玄関の方がにぎやかだ。俺は眠い眼をこすり、適当な上着をひっつかんで羽織った。ベッドの中で一緒に転がっていたタマゴを割れないようにベッドの真ん中に置き直して玄関へとむかった。
「ダンデさん、ホップ。朝からどうしたんです?」
「ポケモンが苦手だって泣いてたお前がポケモンを飼ってるって聞いて飛んできたんだぞ! とうとう克服できたのか!?」
「うおっ凄いでけぇ声……いや別に克服できたわけじゃねえけどさ……」
朝っぱらから元気のいいホップの声にぐあんぐあんと頭を揺らしながら、俺は二人を家の中に招き入れた。
「成程! ユウリにしてやられたというわけだね!」
「そうだったのか……でも、断らなかったってことは前に進もうとしてるってことだな! 偉いぞ!」
「いや別に偉か無いけど……」
ずず、とオボンティーをすする。二人はどうやらユウリから話を聞いてやってきたらしい。昔からよく世話を焼いてくれる兄弟だったが、今でもそれは健在らしい。元チャンピオンとガラルを救った英雄がわざわざ駆けつけてくれることに一抹の喜びを感じながらも、俺はこの際に気になっていたことを聞くことにした。
「それでですね、ユウリからはタマゴを受け取ったんですけど、これが中々孵らないんですよ。何か知りませんか?」
「……ユウリの言うところによるともう一週間は経つはずだが……ガレキくん、君はちゃんとタマゴを外に連れ出してあげているか?」
「連れだ……え?」
俺が怪訝そうな顔をすると二人はやっぱりなといった風な顔で説明してくれた。
ポケモンのタマゴというのは不思議なもので、人がそれを連れ歩くことで孵化が促進されるらしい。むしろそうやって連れ出さないと成長に悪影響が出ることもあるそうだ。
「そ、そういう大事なことは早く言ってくださいよ! だ、大丈夫なんですかあいつは!?」
「大丈夫、大丈夫。そうそうダメになったりしないよ」
「そ、そうなんですか……?」
安心したように息を吐きだす俺を見て、ダンデさんは嬉しそうに笑った。
「いやあ、そこまで心配するなんて、なんだかんだで君もあの子のことを大切に思っているんだな! 安心した!」
「……そりゃ、苦手ってだけですからね。恨みだなんだがあるわけじゃないですし、元気に生まれてきてほしいと思いますよ」
そういうと、二人は顔を見合わせてふふっと笑った。
「よっしゃ!そういうことならタマゴも連れて色々買いに行くぞガレキ!」
「え? いやこの前ユウリが色々置いていってくれたんだけど、あれじゃ足りないのかホップ」
「あれはトレーナー用のばっかりだぞ。トレーナーのポケモンはすぐにレベルが上がって成長するから必要ないけど、レベルの上がりにくいバトル無しのだと成長がゆっくりだから色々必要なんだぞ」
「そ、そうなのか?」
知らないことばかりだ。まあポケモンとかかわりの少ない人生を送ってきたんだし仕方ないといえばそうだが、自分の無知に驚かされる。というか、
「あいつ……思考が完全にトレーナーのそれに……」
「まあ孵化厳選とかしてたらしいし感覚が完全にマヒしてたんだと思うぞ」
「大丈夫なのかあいつは……」
幼馴染がバトルジャンキーになっていくのを肌で感じながらそう呟くと二人はまあユウリだから…と肩をすぼめて見せた。本気であいつがどこに向かっているのかと心配になったが、そんな俺をよそにダンデさんはすっくと立ちあがって言った。
「まあ彼女についてはいいとして、モーモーミルクとか、柔らかいタオルとか、いろいろ揃えないといけないからな、タマゴを連れて買い物に行こう! ショッピングタイムだ!」