「うーん、いっぱい買っちゃったな……」
日も傾き始めたころ、俺はダンデさんとホップと共に家路を歩いていた。両脇に買い物袋を抱え、背中に荷物を背負い、赤ちゃんの抱っこひものようなものでタマゴを抱えて歩いている。このひもはホップがくれたものだ。カバンに入れて歩くより、より身近に感じるだろうとのことだったが、確かにシャツ越しにとくんとくんと微かな脈動を感じる。それは出かける前よりも、元気になっているように感じた。
「ただいまーっと」
「いやーははは。けっこういっぱい買ったぞ、ガレキ」
「お前は何を買ったんだよ……」
家につき、荷物を下ろしているとホップが嬉しそうに彼の買い物袋から色々取り出していた。
「何って、俺の相棒に使う新品のブラシと……キャンプの新しいランプと……レトルトカレーにカップ麺に……いろいろだぞ!」
「そっかー色々か……」
トレーナーはキャンプ用品を買うのか……そう言えばワイルドエリアに向かう電車にのるトレーナーたちはみんなキャンプ用品持ってたなーと遠く思いをはせているとダンデさんがふいに俺の肩を叩いた。
「ガレキくんガレキくん、タマゴ、タマゴが」
「うぇっ……あ!」
何のことかわからず一瞬困惑したが、顔の下の方から聞こえたぱきぱきという音に気づいて胸元を見やる。
「あ、た、タマゴにひびが!」
「やっぱり出かけたのがきいたんだぞ! ガレキ!」
「ちょ、ちょまっ、待って! 今タオルしくから! ってああっ! ひもがほどけな……」
玄関でわたわたとごたつく俺。非常に情けない話ではあるが、こういう場に立ち会ったことが無いのだ。ましてやこのタマゴから生まれてくるのは俺のポケモンで、当事者であるという事実がさらに俺をパニックに追いやる。
「ああっせめてタオルを床に敷いて―――」
ぺき、とひときわ大きな音が響き、青色の小さな鼻先がひょこりとからの隙間から覗いた。
ぴぃ、ぴぃ、と鳴き声がして、俺は震える手で胸元のタマゴに手を伸ばし、割れた殻を取り上げた。
「ぴぃ……?」
「あ……」
じっと、小さな顔がこちらを見上げていた。
「おめでとう」
後ろから、ダンデさんの声が聞こえる。
「君の初めてのポケモンが今、生まれたんだ」
「あ、あ……」
怖い筈だった。苦手な筈だった。
でも今目の前にあるそれは、小さな小さな顔で、こちらを見上げていて。俺は怖がることも忘れ、殻ごとその子を抱きしめていて、
「おはよう、モノズ。……はじめまして、だな」
開きっぱなしの玄関から、温かい夕日が俺達を包み込んでいた。