俺とモノズの物語   作:三丁目の木村さんの親戚の息子

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第五話

「うん、風呂入ろう、風呂」

 

 俺はモノズを抱きかかえたままそう独り言ちた。

 

「ぴぃ?」

 

 モノズが俺の声に反応して、ぬっと顔をこちらに向けた。目は見えていないが耳と鼻はいいのだろう。モノズはすんすんと鼻を鳴らしていた。

 

「風呂だ風呂。卵から孵ったばっかでなんかちょっとぬっちょりしてるからなお前。風呂入ってさっぱりするぞ」

「ぅが♬」

 

 何のことかはわかっていないだろうが、俺の声の明るい調子から楽しいことだと思ったのかモノズがうれしそうな声をあげる。モノズは成長すると80㎝くらいになるらしいが生まれたばかりのこの子はタマゴとあまり変わらない大きさで、俺は片手で抱き上げることができた。まだ歯も生えそろっていないようだし、先ほどからずっと噛まれている指もふやけたくらいでいたくはない。これならなんとか大丈夫そうだった。これは怖くない。

 

「ちょっと待てよー、確かポケモン用のせっけんとブラシも買ってきたはずだったからな…」

 

 モノズを左手で抱え、俺は右手でガサゴソと買い物袋を漁る。入れる時にきちんと仕わけていたからか、すぐに見つかった。

 

「よし、行くぞモノズ。初めての入浴タイムだ」

「がぁ?」

 

 まだよくわかってなさそうなモノズを連れ、俺は風呂に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 俺はまずタライに浅くお湯を張る。人間よりやや体温の高いモノズが風邪をひいてしまわないように、少し熱めのお湯だ。

 

「ふん……こんなもんかな」

 

 指をつけて具合を確かめた後、俺はモノズをゆっくりとタライに近づけた。いきなりお湯につけないのは、生まれたばかりで、しかも目の見えないモノズをびっくりさせないようにするためだ。

 俺は足先からゆっくりとお湯につけるが、ちょんとお湯に脚の先が触れた瞬間にモノズがびくっと体を震わせた。不安そうにじたばたするモノズを落ち着かせるために、脇の辺りを支えていた左手をすっと滑らせてモノズの口に俺の指をくわえさせた。すると、モノズはふにふにと俺の指を甘噛みしはじめ、おとなしくなった。

 ずtとくわえて離さなかったからもしやと思ったが、やはりモノズは俺の指をくわえていると安心するらしい。おしゃぶりみたいなものだろうか。噛まれるのがトラウマな俺としては背中に嫌な汗が伝っていたが、これくらいは耐えられる。歯が生えていないからか、噛まれているという感じがあまりしないのも大きいだろう。

 俺はモノズが俺の指をしゃぶっている間にモノズをタライに張ったお湯につけた。四センチくらいしかないので、全然体は使っていなかったが、これでいい。俺は自由な方の手でお湯をすくってばちゃばちゃとモノズの体にお湯をかけた。びっくりさせないように足先からゆっくりと、お湯の感覚に慣らしていく。

 

「ほうら、気持ちいいか?」

「ぅぅぅ……」

 

 何を言っているのかはわからなかったが、モノズは俺の指をくわえた口から気の抜けた鳴き声を発した。これは多分気持ちいいという事でいいのだろう。

 俺は買ってきた毛の柔らかいブラシを取り出してせっけんを泡立たせた。片手でやるのはしんどかったが、モノズが大人しくしてくれていたのもあって、俺は特にトラブルもなく洗い始めることができた。

 モノズの体はドラゴンタイプにしては珍しく、鱗だけはなく毛にもおおわれている。肩回りから顔にかけての黒いところが毛だ。俺はぬっちょりとするモノズの体に、丹念にブラシをかけていく。青い鱗の部分はしっかりとブラシでこすり、こびりついた粘液を落とす。黒い毛の部分は、指ですく様にして石鹸の泡でしっかりと洗う。

 モノズの青と黒の体が白い泡で覆われても、モノズは俺の指を離そうとしなかった。そんなに気に入ったのだろうか。今はいいが、歯が生えて来てからが少し怖い。

 そんなことを考えながら、俺はモノズの体にシャワーをかけて泡を洗い流した。お湯にはもうすっかり慣れたのか、シャワーを気持ちよさそうに浴びていた。

 

「っくし!」

 

 参った。モノズを洗っていたら自分の体を冷やしてしまった。俺は鼻をこすりながら隣のバスタブを見やる。お湯はもう張れたみたいだ。

 

「綺麗になったし、お前も風呂に入るか?」

「がぅ?」

 

 よくわかってなさそうな声をあげるモノズ。いやまあ分かれというほうが無理があるが。どちらにせよモノズが俺の指を離そうとしないので、俺はモノズを抱えて湯船につかる。

 

「っああ~……やっぱこれだな……」

 

 思わずオッサンのような声をあげてしまった。だがこればかりは仕方がない。俺は風呂が好きなのだ。特に仕事アガリに入る風呂は格別で、一日の疲れがどっと吹き飛んでしまう。毎日風呂に入るために、わざわざ風呂のついた家を探してハロンタウンからブラッシータウンに引っ越してきた位だ。風呂はいい。人生が豊かになる。最高だ。

 とはいえモノズはどうだろうかと視線をモノズにうつすと、モノズは俺に抱えられたまま湯船につかり、前足でお湯をばちゃばちゃやって遊んでいた。ポケモンは飼い主に似るというが、この子も風呂好きなようで何よりである。

 

「あ、そうだ。ちょっと失礼して……」

 

 そこでふと、ユウリの言葉を思い出した俺はモノズをこちらに向かせ仰向けに抱き上げる。左手で支えて、右手で腹の真ん中あたりをさすり、「それ」を探る。

 

「おっこれだな」

 ぶすっ

「ぎゃ!?!?」

 

 モノズが驚いたような声をあげる。まあ股間に指を突っ込まれたのだから驚く気持ちもわかるが。これは仕方ない事なのだ。

 ユウリは、ポケモンが生まれたらまず性別を確認しておくようにと言っていた。ピカチュウのように雌雄の区別がぱっと見で分かったり、性器の様子が分かりやすいワンパチなどと違って、ドラゴンタイプのモノズはオスもメスも性器が鱗で隠された穴の中に収納されていてぱっと判別がつかないのだ。どうするのかユウリに尋ねたところ、「腹に手を当てて上から下へゆっくり鱗をさすって違和感のある鱗が性器を隠してる奴だからそこに指突っ込んでなんか手ごたえがあったらオス、何もない穴だけだったらメスね」らしい。確認方法が乱暴すぎる。いやこれしかないというのも理解できるのだが。

 

「お前は女の子かー、そうか……なんか悪いことしちゃったな……」

「うるる……」

 

 オスだったらまあ男同士だしいいかと思ったが女の子となると少し悪いことをした気分になる。俺は抗議するようにどすどすと俺の腹に頭突きするモノズに「ごめんごめん」と謝りながら頭を撫でた。撫でながら、親指を口に突っ込むとモノズはすぐに甘噛みし大人しくなる。

 ……もしかして俺の体からは何か甘いものでも出てるのだろうか。昔からよく噛まれたり舐められたりしゃぶられたりするがここまでくると不気味だ。俺の体はポケモン的にはごちそうなのかもしれない。怖い。変な想像は止めよう。

 

「ん?」

 

 どす、と急にモノズが俺の方に頭をぶつけてきた。まだご立腹なのかと思ったが、よく聞くとすーすーと寝息が聞こえた。寝てしまったらしい。

 

「おいおいおい……風呂場の寝落ちは命に関わるぞ?」

 

 俺はふっと微笑んでモノズを抱き上げた。寝るには少し早いが、今日は色々あって俺も疲れた。今日はもう寝ることにしよう。

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