俺とモノズの物語   作:三丁目の木村さんの親戚の息子

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更新遅れて申し訳ない…ちょっと立て込んでて執筆できませんでした…南無。


第七話

 朝だ。すがすがしい朝だ。空はカラッと晴れ温かい風が麗かな陽気を運んでくる。外からは元気のいいココガラの鳴き声が聞こえてくるし、きっと今日はいい一日になるだろう。

 

「朝っぱらからよだれでびしょびしょになってなけりゃあな……」

 

 俺は疲れたようにそう独り言ちた。

 二度寝。そう二度寝したのである。それはもうすやすやと。モノズの体温が高く抱きしめて寝ると大変気持ちよく眠れたのである。が。が、だ。

 すっと視線を下に移す。そこにいるのは幸せそうな寝息を立てるモノズだ。……俺の服をガジガジとかじっているが。

 

「こいつあれからずっと俺をかじり倒してたのか……まだ歯が生えてないからあれだったが……生えてからどうすんだこれ」

 

 すっと遠い目をしてしまう。この子の歯が生えそろったころ俺はまだ人の形をしているだろうか。

 そんなことを考えながら着替えようとベッドから降り……られない。モノズはがっちりと俺のシャツを噛んでいた。

 

「……」

 

 ひとまずシャツを脱いでベッドを降りた俺はクローゼットから着替えを出そうとして―――ユウリと目が合った。

 

「昨夜はお楽しみでしたね?」

「お前正気か?」

 

 口元に手を当てて「キャー」とかほざくユウリに白い目を向けながらタオルを引っ張り出して顔と体を拭った。

 

「えっ、いやだって上半身裸で謎の液体に塗れてるし……」

「だってじゃねえよ!? っていうかどういう発想してんだよお前はよ……」

 

 服取るからそこどけよ、とユウリを追い払いつつ俺はクローゼットからシャツを取り出して身に纏う。柔軟剤のヒメリの花の香りが鼻腔をくすぐった。

 

「で。一体何の用だよ、こんな朝っぱらから」

 

 怪訝そうにユウリを見やる。この前ユウリは合い鍵を俺の母から受け取っているといっていたが、だからってこんな朝早くから人の家に来るのだ。何か大切な用事でもあったのかと思ったのだ。が。

 

「いやまあ特にどうってことのほどは無いんだけど」

「もしかしてチャンピオンって暇なのか?」

「おうおういきなり失礼だなガレキさんや」

 

 思わず本音が口をついて出てしまった。この正直者め! と適当に自分を諫めて現実逃避しつつ、ちゃっかりと人のベッドに腰掛けるユウリの頭に軽くチョップを入れて立ち上がらせた。

 

「まあいいや。で、お前朝飯は食ってきたのか?」

「食べてなーい。たかるつもりで来たー」

「お前な……ハァ。ホットケーキでも焼いてやるからリビングで待ってな」

 

 家が近所だったこともあり、昔からユウリはよくうちに朝飯を食べに来ていた。まさか自立してからもおしかけてくるとは思わなかったが、追い返す理由もないので俺は階段を下りてキッチンへと向かう。

 

「やたっ。ガレキさん大好きー」

「勝手に言ってろ……」

 

 後ろからひょこひょことついてきていたユウリが適当な世辞を言っているがこれも昔からだ。未だに「好きだよー」とか言ってれば喜ぶとでも思っているのだろうか。そういうところはまだ子供というかなんというか……。

 俺はため息をつきながらホットケーキミックスの袋を開けた。うちのホットケーキはそんな本格的な奴じゃない。市販されてるホットケーキミックスを袋に書いてある通りに調理した簡素なものだ。二人分焼き上げるのに、二十分もかからない。

 俺は皿を二つ持ってリビングの机に並べる。そういえばこの部屋は結局リビングなのかダイニングなのかという疑問が一瞬脳裏をよぎるがすぐに霧散する。二階の方でガタンと物音がしたからだ。

 

「うわっ、何の音?」

「二階には俺の寝室しかないが……ってああ! 起きたのか!」

 

 俺は持っていた物をひとまず机の上に置いて階段を二段飛ばしで駆け上がった。

 ドアを開けると、思った通りモノズが泣きそうな顔で辺りの物にかみつきまくっていた。目を覚ますと俺の匂いも声もしないから混乱して手あたり次第にかみつきまくって俺を探していたのだろう。

 

「モノズ! 俺はこっちだぞ」

 

 目の見えないモノズに分かるように手をパンパンと鳴らしながら呼びかける。

 

「!!!」

 

 するとモノズは咥えていたベッドの脚から口を離し、一目散にこちらに駆け寄ってきた。

 

「あはは…そんなにさみしかったか…悪いことしたな」

「ぎぎゃ♬」

 

 俺が抱き上げるとモノズは先ほどと打って変わって笑顔で一声鳴いて俺の腕にかみついた。二、三回ガジガジと噛むと、安心したのかふにふにと甘噛みし始めた。

 

「ぴぃ」

 

 嬉しそうに鼻を鳴らすモノズを見て一息ついた俺が立ち上がり下に戻ろうとすると、部屋の入り口から信じられないものを見るような目でこちらを見つめるユウリと目が合った。

 

「…ぇない」

「ど、どうしたんだよユウリ……」

 

 不審がって声をかけると、ユウリは「いやありえないって!」と声を荒げた。

 

「生まれたのって昨日だよね!? モノズはそぼうポケモンで気性が荒いから普通こんなに早くなつかないよ!? っていうかなんで噛まれても平気そうなの!? トラウマだったんじゃないの!?」

「なんでなついてるのかは知らんが噛まれるのはトラウマではあるぞ。ほら今もちょっと冷や汗かいてるし」

「冷や汗程度ですんでるじゃん! 前は牙が生えてるポケモンが近寄ってくるだけで逃げ出してたじゃん!」

 

 まあそうだけど…と俺は言葉を濁した。そう言われてみれば昨日からこっち、モノズに対する恐怖心はガッツで耐えられているのだと思っていたが、それにしてはあんまりにも早く噛まれることに慣れている気もする。前までのオレなら一回噛まれたあたりですべてを諦めていた筈だ。……。

 

「まあ俺も成長したってことだろ。なーモノズ」

「ぴ?」

 

 俺の腕の中で俺の腕を甘噛みしていたモノズはくにっと首を傾けた。

 

「なんでそんな仲良くなってるのぉ……!」

「どうしたんだよ急に……ほら、ホットケーキ冷めるし下降りて食おうぜ」

「うぅ…なんで…どうして…」

 

 がっくりとうなだれるユウリ。なにか気に障る事でもあったんだろうか。よく分からない奴だ。俺はモノズを連れて一階に下りた。


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