俺とモノズの物語   作:三丁目の木村さんの親戚の息子

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第八話

「ハァ……計画が台無しだよぉ……まあいい事なんだけどさぁ」

 

 朝食を食い終えたユウリは机に突っ伏して何やらブツブツぼやいていた。

 

「計画ってなんだよ。それがダメになったから機嫌悪いのか?」

 

 モノズに飲ませるモーモーミルクをポケモン用の皿に注ぎながら俺は尋ねた。ユウリは、のっそりと上体を起こし、こちらに顔を向ける。

 

「いやさ? 私とホップとで色々計画してたのよ。ガレキをどうにかしてポケモンに慣れさせようってね? あえて噛みつき癖の強いモノズを渡してショックを与えて後々の処置に対する体制をつけさせようと思ってたんだけど……」

「俺が思いのほかモノズと一緒にやれてるから計画がとん挫したと?」

 

 俺がそう聞き返すとユウリはピッとこちらを指さした。

 

「そ。まあいい事なんだけどね……いい事なんだけどぉ……ついでに色々からかってやろうと思ってたからさぁ」

「おい待て何だその歯医者の待合室とかに置いてありそうなやつは」

 

 ごとっと机の上に置かれたものを見て思わず前のめりになる。何という名前なのか分からないが。あの歯医者さんが歯の状態を説明するときとかに使いそうな大きな入れ歯みたいな模型だった。

 

「ああこれ? これでガレキをガブガブやって噛まれる事への恐怖心をだね……」

「んなもんで噛まれたらむしろトラウマ増えるわ……っていうかそんなのどこで買ったんだよ……」

「そりゃもうあれよ。チャンピオンのツテで……」

「どういうツテなの……」

 

 ガチガチと模型の歯をカチ鳴らすユウリを見て、俺はげんなりとした声を上げた。

 

「まあでもあれかな。私のあげたタマゴから生まれたモノズが人懐っこかったんだろうね。結果オーライだし全然問題ない」

 

 そう言いながらモーモーミルクを飲み終えたモノズに手を差し出すユウリ。顎のしたでも撫でてやろうとしたのだろうが、指先が触れた瞬間にモノズは飛び上がるようにして逃げ出し傍にいた俺の脚の後ろに身をひそめた。

 

「「あれ……?」」

 

 二人して間抜けな声が出た。モノズは俺の脚にすがるようにしてすんすんと鼻を鳴らしている。嗅ぎなれない匂いを警戒しているのだろうか。だがしかしこれは……

 

「おかしい……てっきり人懐っこい性格だからガレキのこと強く噛まないしこうやって大人しいのかと思ったのに……」

「思いっきり警戒してるよなこれ……」

 

 ユウリはしばらく腕を組んでうんうんと唸った後、モンスターボールを取り出した。

 

「ガレキ、試したいことがあるからちょっとそこに立って」

「? あ、ああ」

 

 言われた通り立ち上がる。モノズは不安そうだったが、ソファの上に座らせた。

 

「で、何を――」

「キテルグマ! 君に決めた!」

「え?」

 

 ぐもー、とピンクと黒で視界が埋め尽くされる。何故ここでキテルグマ? という疑問を呈する暇もなく、俺はその剛腕でぎりりと抱きしめられた。

 

「がああああ!?!?!?」

「ぴぃ!?」

「戻れ! キテルグマ!」

 

 ピシュンと音を立ててキテルグマはユウリの持つボールへと戻る。俺はぎしぎしと痛む肋骨をさすった。折れてはいないようだ……。

 

「成程……見立て通りね」

「何がだよ! お前キテルグマによる年間死亡事故件数知ってやってん……がふっ」

 

 大声を出したせいで軋んだ骨に振動が行き俺はその場にへたり込んだ。こいつは一体何を考えているんだ……。

 訳も分からずユウリをにらんでいると、彼女は笑顔でこちらに話しかけてきた。

 

「知ってる? キテルグマの抱擁って親愛表現なんだけど、今のキテルグマ…はなこって言うんだけど、はなこは気難しくて全然初見の人に心を開かないんだよ」

「……それがどうかしたのか?」

 

 よろよろと体を起こしてソファに座り直した俺に、ユウリは告げる。

 

「ガレキはポケモンの事苦手に思ってるけど…ガレキはポケモンに好かれる才能があるみたいだね!」

「はぁ……?」


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