アルバスの自由とか、ニゲルの主張とか。
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お題箱作ってみました、何かあれば
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己の記憶が戻った。
きっと、それは何よりも笑って祝うべきハッピーエンドなのだろう。
ニゲル・リンデムは病室のベッドの上で息を吐く。検査をすれば、今のところ異常は、あるにはあるが進行形でニゲルに何かがあるわけではないようだった。
(まあ、めでたくはない。)
脳裏に浮んだのは、今回の件で儚くなった彼女の伯母のことだ。
自分のせいで死んだのだ。頭が痛い。
元々、恩義と親愛程度は積み上げた間柄だ。すでに死んだ人間への罪悪など、死んだ後に閻魔の沙汰に任せるほかにないのだという感覚もある。
「・・・・お前、こんなに毎日来て大丈夫なのか?」
ニゲルはそこまで考えて己の隣にいる存在に目を向けた。そこにはどこか疲れた顔をした己の従兄がいた。
それにアルバスは淡く微笑んだ。
「安心してくれ。仕事はちゃんと終わらせている。」
それにニゲルははあとため息を吐いた。
例の一件についての処理はスムーズに終わったそうだ。そうだと付くのは偏にニゲルが治療やらなんやらで病院にいたせいもある。
ちなみに、颯爽と登場したゲラート・グリンデルバルドはどうやってか学校をこっそりと抜け出したらしく、さっさと帰っていった。
聞いた限りは、そこまで悲惨な目にあってはいないようだが。
犯人達は捕まり、すでに刑に処され、刑務所にぶち込まれたらしい。
(判決から実刑までの流れが速すぎねえか?)
そんな疑問が浮ぶが、今回はどうも事が事らしい。
なにせ、魔法省の人間が、厳重管理の闇の魔法道具を持ち出し、私情で使用し、魔法使い一人が死亡、もう一人は記憶障害だ。
上としてはさっさと事を収めたいのだろうなあと思う。
(というかなあ、どうしようか。)
ニゲルは自分の首に巻かれたネックレスを見た。そうだ、あの、自分の記憶を失うきっかけになった闇の魔法道具である。
何故、そんなものが自分の首に巻かれているのか?
その魔法道具はなんでも、とある魔法使いが不死について研究していたときに作ったものらしい。
それは、人格の根幹をなすのは記憶であると考え、己の記憶を道具の中に刻み、それを他者に転写することで不死を可能にしようとするらしい。
もちろん、そんなことは赦されるはずもなく、がっつり裁かれたわけだが。ニゲルに使われ、記憶がネックレスに吸われたことで記憶がごっそりとなくなったのだ。
そうして、現在は、というと。
ニゲルはその魔法道具に記憶の軸が行ってしまっているらしく、持っていないと記憶障害になってしまうというデバフを食らってしまうことになった。
(メモリースティックが別物のゲームみたいになってしまった。)
その代わり、一度体験したことは忘れないというメリットがあるらしい。正直そんなものはいらない。
(魔法道具を壊すと、私の記憶がどうなるかわからんからもう死ぬまで持っておけって。いや、呪いやん。呪いだけど。)
そこまで考えて、ニゲルは己の見舞いに来たはずの、死にそうな顔をした弟分を見た。
「お前さ、魔法省辞めて私の側で、私に償いをして生きていこうかとか思ってないか?」
その言葉に、アルバスはまるで秘密を言い破られた子どものような顔をした。それにニゲルは冗談であったはずの軽口が事実になりはて、憤怒の表情を浮かべた。
「ふざけるな!!」
叩きつけるような声と共に、ニゲルはベッドから起き上がり、アルバスの首元を掴んだ。
「お前、何考えてるんだよ!魔法省で出世して、えらくなって!お前の夢だったろうが!」
「・・・・今回の、ことは、すべて僕のせいだ。なら、ニゲルの側に居ることが、それこそが最善だ。今後、後遺症が出てこないとは限らないだろう?」
「いらん!!くだらねえこと考えてないでさっさと働いて手柄上げろ!!」
「くだらないことを言ってるのはニゲルだろう!?」
久方ぶりに激高するように叫んだアルバスに、さすがのニゲルも怯んだ。そうして、アルバスは顔を手で覆った。
「今回のことだって、肝が冷えたんだ。今度こそ、今度こそ、死ぬかもしれなかった!僕は間に合わなかった!何の意味もなかった!何の、意味も!僕は間違っていた!」
今回のニゲルの件をアルバスが知ったとき、心底、肝が冷えた。
そうして、まざまざと自覚する。
彼女がそうなったのは、自分がその近くに居たからだ。
今回のことでさえもそうだ。犯人の事なんて血眼になって探さずに、ニゲルの側に居ればよかった!
いつもそうだ。いつも、アルバスは己の自我に振り回されて、大事にしたい誰かを傷つける!
自責の念がアルバスをむしばむ。
ずっと、ずっと、そうだ。
アルバスが願うことに、ありたいことをしようとすると、どうして、彼が愛する人を傷つける。
間違いだ!
間違いだった!
全部、全部、間違いだった!
後始末をしながら、アルバスはいつも通り冷静に振る舞った。振る舞いながら、自分のことを攻め続ける。
「・・・・・君は。」
上司のムーディだけは全てを覚ったことで、アルバスは決めていた。
魔法省は辞めるか、それとももっと穏やかな業務の部署に移り、ニゲルの側に居るのだと。
守るために、距離を取るのか?
いいや、それで、他者はニゲルから興味を失ってくれるのか?
それならば、いっそ。
「ずっと、側に居て、君を守らせてくれ・・・・・!」
切実な、男の声に、ニゲルは顔をしかめて、そうして息を吐いた。激高のためにしていた膝立ちを止めて、座り込む。
あぐらをかき、はあと息を吐いた。
「・・・・お前、私が言ったこと、覚えてるか?」
「いつの、時の?」
「卒業間近のとき、私、言ったよな。家族だからって何よりも優先する必要はないんだって。」
「今と、あの時と状況が違いすぎる!?」
「違わねえだろうが!誰が、お前に守って欲しいと言った!?確かに、今回は私のヘマのせいだ!でもな、お前に守って貰い続けるほど可憐なんて自覚はないからな!?アルバス!私は言ったはずだ!お前の幸せを願ってると!」
「ニゲルの側に居ることが幸福じゃないって言うのか!?僕がそう決めたのに!?」
「私がこうならなきゃ、そんな選択肢、考えてもなかっただろうが!」
それにアルバスは黙り込む。それにニゲルは苦々しい顔でアルバスのことをにらみ付けた。そうして、吐き捨てるように言った。
「・・・・今はラピスも居る。今後、道の歩き方については気をつけるつもりだ。あと、危険な場所に関しては一人では出歩かない。だから、お前は今まで通り、お前の願う道を歩くんだ。お前はお前の人生をないがしろにしなくていい。」
「・・・・ニゲルは。」
「あ゛?」
心底不機嫌そうなニゲルのそれに、アルバスは問いかけた。
「どうして、そんなに僕のために自分のことをないがしろにするんだよ。」
その言葉にニゲルは思いっきり顔をしかめ、そうして、うなだれるアルバスの頭に手刀を叩き込んだ。
「いて!?」
驚いた顔をしたそれが顔を上げると同時に、ニゲルはにやりといたずらっぽく笑い、そうして、疲れたような、思い悩むように頬杖を突き、床に視線を滑らせた。
「私の父親ってさ。ケンドラおばさんのこと、嫌ってたんだよ。知ってた?」
「・・・・知らなかった。」
「だろうね、あの人、おばさんと同じで秘密主義のめんどくさい人だったから。」
ニゲルの父親は、自分の義理の姉である存在について嫌っていた。何せ、自分と同じ秘密主義の秘めたがりだ。ニゲルからすれば、そんなものは同族嫌悪でしかなかったのだが。
「なあ、アル。お前さん、私の名前を可笑しいとおもったことはないか?」
元々、ニゲル達の住む地域では、あまり独創的な名前というものは存在しない。大抵、昔の聖人からだとか、なんというか、ある程度テンプレートがあるものだ。
といっても、生粋の魔法族ではそういった傾向が少ないこともある。
アルバス、白を意味する彼の名前も変わっているが、理解は出来る。元々、その名前は善性としての意味合いも存在したから。
「でもな、おかしな話だ。ニゲルは黒って意味だろ?わざわざ、んな名前をつけるなんてさ。」
善の象徴としてのアルバスという名前から、反転するようなニゲルという名前はある意味でとても変わっていた。故に、ニゲルは父親に聞いたことがあった。
何故、こんな名前にしたのか。
それに、彼女の父親はにかりと笑った。皮肉気な、嘘つきの、秘密主義の男にはよく似合う笑い方だった。
「兄さんは、英雄じみたものが好きだが、私はそんなものが嫌いだからだ。」
「あら、変わったご趣味。」
「当たり前だ。英雄なんぞ、所詮は茨の冠を被せられた体の良い贄だ。他人のために最後不幸になるぐらいなら、独善の中で幸福に死んでいけ。だから、お前はニゲルだ。ニゲル。善の象徴ではなく、エゴイストとしてお前は生きろ。」
いい父親だったかはわからない。ただ、それはニゲルのために祈っていることだけはわかった。
ニゲルの父親の言葉に、アルバスは少しだけ納得したような顔をした。
「お前はさ、昔っから秘密主義の嘘つきだったろう?言いたいことも言わない、好きなものだって濁す、究極のひねくれ者め。それなら、それでよかった。別段、それで私に何か支障があるわけじゃなかったし。お前はわかりやすかった。」
「・・・・・そんなこと、言われるのは初めてだよ。」
ニゲルのそれに、アルバスは驚き、そうして納得した。元々、ニゲルがダンブルドア家に馴染んだのは、そういった察することに長けていたせいもあるだろう。
だからこそ、ある意味で、ニゲルというそれの前では、偽っても仕方がないと素直な思いを口に出来たのかもしれない。
極端に賢いわけではないと知りながら、それでもニゲルは見透かすようにアルバスの本心を言い当てる。けれど、それが不快にならないのは、きっと。
その、キラキラとした、緑の瞳はいつだって呆れと同時に、仕方が無い物をみるような、柔らかな色が宿っていたせいだろう。
「秘密主義の嘘つきで、なのに、お前はそれでも確かに善だった。だから、ずっと、心配だった。」
「だから?」
「そうだ、善とは基本として他利に傾くもので、悪とは基本として自利に傾くものだ。独裁者になって、好きかってするようなエゴがあったなら、私はお前のことなんて気にもとめなかっただろうさ。でも、結局お前は誰かのために何かをなすんだろう?それで?何かをなすことに、欠片だって苦痛がないなんてことはないだろうさ。お前は、いつか、その苦悩を一人で抱えて、そのまま死ぬ気がした。後に残った奴らは、お前の苦悩を知ることなく、彼は英雄だった、いいや、彼は実は悪党だったって好き勝手に言い始めるんだ。私はそんな傍観者気取りの無関係な奴らが出ることが嫌だった。」
ニゲルは歯を食いしばり、目の前で驚いた顔をした、その間抜けな男に笑った。
「お前が優秀であることを、秘密主義の嘘つきであること、そのくせ本当の意味で自分のために悪辣に生きられない、お前のことを理解する度にいつか、お前が英雄になる可能性を見いだした。それでも、ホグワーツに通ってる間はよかった。そこでなら、お前さんの本音だとか、けして良い子なだけではないとわかってくれる誰かが現れる日が来ることを期待してられた。でも、だめだった。」
拳を握りしめてベッドを叩き込んで、ニゲルはその緑の瞳には水を張り、アルバスを睨む。
「お前は、ずっと一人だ!一人で、お前を孤独にするのに、お前の善性と、強さを信奉して、お前の悪性を信じない周りが嫌いだ!お前がそうあることを願うならまだしも、それを当然すると決めつける周りが心底嫌いだった!だから、ずっと決めていた、ずっと、ずっと、思っていた。誰が、英雄になんてさせるか!アルバス・ダンブルドア!私はお前の幸せだけを願う聖女じゃない!そうして、お前も、傷を負い、泥を抱えた、傲慢で、愚かな、人を愛している、ただの人間だ!」
ぼたぼたと、女の目から流れだす涙をアルバスは茫然と見つめた。
それが泣く所なんて、いつ見ただろうか。
ずっと、強くて、姿勢を正して誰かの手を引きずって行くような人だった。その女は、じっとアルバスのことを睨み、そうして、その手を掴んだ。
「アルバス・ダンブルドア、自由に生きろ!」
ニゲルは、まるで、憎むように、怒るように、願うように、そうして決意をするようにアルバスに言った。
「お前の自己犠牲なんてくそくらえだ!誰がそんなことを願うものか!世界中の誰かが、お前のそれをありがたがっても、私だけはそれに唾を吐いてやる!どうせ、どんなに清廉に生きても、死人に口なしを誰もが好き勝手に言うんだ。なら、せめて、口がある間だけはお前の好きに生きろ!だから!だから!だから私だけはお前の自由を認めるんだって子どもの頃から思ってた!エゴと、生まれ持った善性で、お前はお前の人生を生きろ!」
「・・・・恐いんだ。」
ニゲルのそれに、アルバスは、まるで血を吐くかのような声を出した。
「僕は、自分の弱さが、恐いんだ・・・・!」
それにニゲルは、睨むような目つきを変えることなく、それでも黙ってアルバスを見た。
「僕は、自分の才能を試したかった!?野心だ!どこまで出来るのか、どこまでやれるのか!ずっと、一番だった!皆が僕を褒めた!?僕こそが上に立つべきだと言った!ニゲルだって、それを後押ししてくれた!嬉しかった!だから、頑張った!楽しかったさ!まるで、全て、自分の思うとおりになっているみたいに!?なのに、結果がこれだ!」
初めてだった。アルバスは、己の人生で、そんなにも怒鳴る事なんてあっただろうかと思考の端で考える。
「母さんは死んで!ニゲルは死にかけて!家族がバラバラになりそうになった!全部、全部、僕が野心を隠さずに、好き勝手に振る舞ったから!自由に生きて、今のまま、名誉と権力を求めたとき!今度こそ、僕は全部、失うかも知れないんだ!盲目的に、弱さにのまれてしまうかもしれないことが!」
上手く嘘をつけた、本心を隠して、振る舞えた。秘密を秘密として、黙り込むことが出来た。
なのに、今、ニゲルに対してだけは抜き身の本音を叫んでいる。
ずっと、そうだ。
ニゲル・リンデムは、ずっと、それだけがアルバスの思うとおりに動いてくれない。
皆がアルバスに気に入られようとして、その目を気にするのに、それだけは徹底的にアルバスのなすことを気にしていなかった。
そのくせ、アルバスの一つを簡単にほじくって、理解して、振る舞う。
苦もなく作り上げた好青年の、、正しい男の素顔を、ニゲルはまるで朝に開けるカーテンのように気軽にひっべ剥がして、気楽に立ち去ってしまう。
そんなニゲルの事が気に入らなかった。それと同時に、ニゲルの側では気楽だった。
それの側では、好青年でも、責任のある家長や兄でも、優秀で完璧な魔法使いでもなくて。
見栄っ張りの、ほしがりの、ただの。
「アルバス、飯食ったのか?」
そういう平凡な女の前では少しだらしがない、どこにだっているただのアルバスでいられた。
気に入らなかったのに、それなのに。
自分の優秀さを理解して、けれど、自分を特別として扱わず、ただ、ただ、アルバスの背を押してくれる存在を。
たった一人、アルバスの醜さを知っているニゲルのことが、ずっと、アルバスは好きだった。
それは、はっきりとした方向性を持たねども、それでも、いつのまにか、アルバスはニゲルの事が好きだった。
優しいようで、厳しくて、それでもずっとニゲルはアルバスのことを見てくれた。
「自由って、なんだよ。だから、ニゲルの側にいるんだ。だから、今度は、間違いたくないって思う僕がそんなにダメなのか?」
子どものように愚図るアルバスに、目元を押さえて、顔を下に向けるそれを、ニゲルは思いっきり掴んで、そうして、顔を上げさせた。
「だからこそ、だ。アルバス、自由に生きろ。」
「どうして・・・?」
「そんなの、私はお前の弱さなんて背負ってやれないからに決まってるだろう。」
ぴしゃりと、そういったニゲルの厳しさにアルバスは目を瞬かせた。
「お前の在り方はお前にしか背負えないんだ。私だって、弱かったから今回、おばさんのことを殺してしまった。」
「ニゲルのせいじゃ!」
「責任の有無や、未来がどうなるかの方向性がどういうことかって、そういうことだ。だから、こそだ。アルバス、考えるんだ。」
握り込まれたアルバスの手は、ニゲルの体温が伝わって、ひどく熱い。
「お前の幸せと、自由をどうすればいいのか。私は、しけた顔をしたお前の隣なんてごめんだ。なあ、夢を叶えろ!野心家でいいじゃないか!上に行きたいって思うのはダメか?お前に独裁者は似合わないよ。認めて欲しいって思いだけで、欲なんてほとんどないくせに。それに、昔言っただろう?」
ニゲルはその、キラキラとした緑の瞳でアルバスのことをのぞき込んだ。
「お前が悪い子になったら、ちゃんとその尻、蹴飛ばしてやるからさ。ちゃんと見てる。死なずに、お前のことを見ててやる。お前の弱さを、知ってる。だから、さ。」
私の幼なじみを、そんなにも責めないでくれ。
「一緒に生きるなら、重しじゃなくて、身軽に笑って生きてくれ。そうじゃないと、私が悲しいんだ。」
握り込んだその手。それは、どこか、昔にあやされるようにお菓子を手渡されたときのものに似ていた。
「・・・・本当に?」
「ああ。」
「・・・・ニゲル、なら、頼む。」
もしも、僕が悪い子になったら、どうか、叱ってくれ。
囁くようなその言葉に、ニゲルはいっそう強くその手を握り込んだ。