常闇の妖怪ルーミア。

妖怪は概念から来る精神生物。

では、真の闇、とは?

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愛しき闇

 

 

それは人間が持つ恐怖の中での原始的恐怖に位置すると言われている、らしい。

らしい、というのは人類がその闇という恐怖を油――ガス――果てには電気という知識といくつかの資源によって克服してきてしまったからだ。

 

その事実は、妖怪の生きる幻想郷においても変わらない事実だった。

闇など所詮、視認出来ない恐怖の別名でしかなく……むしろ恐怖の対象はそこに潜む妖怪や獣、人道を外れた者にこそある。

 

つまりの所――"外"でも"内"でも闇は恐怖の対象では無くなったのである。

 

「~♪」

 

それはこうして鼻歌交じりにのんびりと、明るい夜の空を泳ぐ"暗闇に潜む妖怪"――ルーミアの人畜無害さを見ても分かる事だろう。

その外見たるや、ショートの金髪を引き立てる黒く可愛らしいワンピースと白いシャツ。その胸元には赤いネクタイリボン。……そうそう、金髪を飾り立てる鮮やかな赤いリボンも忘れてはならない。何よりもその幼く見える容姿は、水桶一つ抱えるのさえ苦労するのでは無いかと思わせる程華奢なのだ。

それでも妖怪らしい要素があるとすれば……その赤く光る眼と、人肉をたやすく切り裂く鋭い牙を持つといった所か。

 

――ああ、もう一つ。妖怪としての彼女の特徴があった。

 

それは"闇を操る程度の能力"――と、この幻想郷では呼ばれるらしい。

 

おっと、調度彼女がその能力を使い出したようだ。あまり明るい環境が得意でない彼女にとっては、今夜の満月の灯りさえも妙にうっとおしい物だったのだろう。

こうして見ている間にも彼女の華奢な肢体から滲みだしてくるように、じわりじわりと黒い影が染み出してきている。

一見すると液体のようにも、気体のようにも見える黒い闇。それがふわりふわりと、気の向くままに舞い飛ぶルーミアの身体に追従するように、絡み……包みこんでいくのだ。

 

あっという間に、すっかり黒一色の球体になってしまったが、その様子はさながら蚕の繭のようにも見えないだろうか? それほどまでに闇の球体は怪しく、奇しく、そして妖しいのだと感じてならないのだ。

 

……しかしそれでも彼女の真の闇の魅力を伝えるには情報が足りない。なんとも歯痒い……。

 

――おや?あちらからやってくる黒い飛行体は……魔女さん……かな?

箒に跨って勇ましく飛ぶこの金髪の魔女さんも随分と若く見えるのだが、きっと見た目相応の可憐な少女、という訳では無いのだろう。

それが幻想郷という場所なのだ。見た目のか弱さを信じてはいけない。

 

……でもこれは断言出来よう。今、目前で闇と共に浮かぶ常闇妖怪は、うっかり油断してしまうほど愛くるしい。

 

想像してみるといい。

 

自由気ままな性格をしていて、気分は基本的に楽観的。やりたいようにやるという妖怪らしさ。明るいのが苦手で、日中は割りと闇の中か暗がりを好む。……なら夜まで大人しくしていれば良いと言うのに、闇を纏ってフラフラとそこらを飛び回り、しかも自分の闇で周囲が見えないから障害物に良くぶつかってしまうという小動物的仕草……!

 

どうだろう。諸君らの目にもルーミアが愛しく思えてきたのではないだろうか?

 

……まだ良くわからない? 仕方無い、ならばあの魔女とルーミアが交わすやりとりを見ればきっと――ってあれ?

 

なんてことだ! 何のやりとりもないまま終わっただと……!?

 

……ああなるほど。夜に真っ暗闇の球体だから魔女さんは気付けず、そもそも外が見えないルーミアからは気付きようが無かったのか。まったく、これでは彼女の闇を語れないではないか。

 

ふむ。こうなっては仕方が無い。私の言葉だけでも説明をする事にしよう。概念だけでも伝わると良いのだが……。

 

――さて、ルーミアの真の闇の魅力――

 

……っと、それを語る前に一つ。ルーミアが飽きたのかなんだか分からないが、闇を纏う事を止めたのでそのまま彼女に注目してもらいたい。……脳天気そうな表情をしている? そこも大事な魅力だが、何時もの事なので今はそっと置いておいて欲しい。

 

――注目すべきは、あのリボン。

 

そう、月灯りのように金色に輝く髪房に括りつけられている、あの妙に薄汚れて見えるリボンだ。

 

実の所、あれはリボンなどという御洒落な物ではない……。

 

――封印の為の御札なのだ。

 

あれを解いた時、一呼吸する間も無く"真の闇"という物を体感する事になるだろう。そうして現れた闇はは光を遮断した結果の影、だなんて生優しい概念ではない事を知らせねばならない。

 

……そうだな。言うなればあれは――

 

 

――虚無――

 

 

光が無くても音が。気配が。……ともかく何かが感じられる知的生命体お馴染みの"闇"ではないのだ。

 

そこに何かが"在る"なら"無くなる"。

 

妙な理屈かも知れないが、理解してもらう他無い。あらゆる物を飲み込み、取り込む貪欲な概念……いや"虚無"へと変えさせていく。

そんな原初的な概念があの御札一つで蓋をされているのだ。……ルーミアという妖怪の……無邪気さの中に。

 

 

思えば人の闇への恐怖というのは、"虚無"なんて物の残りカスのような物だったのかもしれない。本当に抱いている恐怖とはもっとずっと計り知る事の出来ない様な――!!

 

 

――っと、つい話に夢中になってしまった。いつの間にかルーミアも居なくなってしまっているじゃないか。

これでは語る気も起きない。まぁ元よりもう――残り時間自体が無いようだが。

 

 

純粋な"虚無"……なんて概念に直接触れてしまったのだ。

 

 

幸運にも私はほんの一瞬……蝶の一羽ばたきの如き一瞬だけで済んだのだが、それでもなんとか残った"私"は僅かでしか無かった。

 

 

おそらく助けてくれたのだろう、空間に突如現れた切れ目から除く無数の目の奥の……あの妖艶な女性には感謝してもしきれない。例え私を助けるつもりが毛頭無かったのだとしてもだ。

 

 

だが私の残り少ない心が、こんな状態に陥れた筈のルーミアにすっかり向けられてしまっている所を見ると、どの道手遅れだったのかもしれない……。

 

 

心を奪われる。なるほど言葉通りのようだ。

 

 

 

おお……いよいよもって残り時間が少ないようだ。

だが、少しの間でも充実した時間を送れたのだから、私は非常に運が良い方なのだろう。

 

 

 

――兎にも角にもさてさて――、諸君らに一つ警告をしておかねばならない。

 

 

 

万が一、億が一。美しくも残酷なこの世界へと迷いこんでしまう事があった時は細心の注意を払わねばならない。

 

 

 

闇は何時でも何処でも諸君らを狙っているのだ。

 

 

 

 

『目の前の貴方は、取って食べれる人類?』

 

 

 

 

――そう、尋ねるために――




ルーミアをとある面から見た方の話でございました。
もし、ルーミアに囓られたい願望の方がいらっしゃいましたら、きちんと身綺麗にして行って下さいませ。その方がきっと美味しく召し上がっていただけると思います。

ではまた、機会がございましたら。


こちらのサイトでも同じ作品を公開しております。
http://coolier.sytes.net/sosowa/ssw_l/
http://www.pixiv.net/member.php?id=1546506

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