彼の博麗の宮司録   作:弥生月 霊華

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第二話 僕のスペルカード作成記

育児をしている母親にとって睡眠不足は慢性的なモノらしい。二、三時間おきの授乳、おしめの交換に夜泣き。ぶっちゃけ睡眠の必要ない魔女である私には解らない悩みだ。レミリアは語るだけ語って満足して帰って行ったのは夜明けの数刻前。寝てる霊奈を抱っこしたいとか、ミルクを与えてみたいとか散々我儘を言い散らして、相変わらず自分勝手な奴だぜ。その上泣き出してオロオロしながら私に任せる辺り慣れてない事はとことん苦手なんだなと。

「ん、ふ、ふえぇぇ」

魔力で宝石を媒体に明かりを確保して魔道書を読んでたら、霊奈がぐずりだした。時間的にお腹が空いたのか?立ち上がってぐずぐずと泣き出す霊奈を抱き上げて、台所に向かう。思えばレミリアにとっての誇り高いとか言う事は、それだけ自分より弱い存在への庇護欲が高いのかもしれないな。まぁ、フランには伝わって無かったが。

「あぁぁん、ふぇ」

「はいはい、ちょっと待っててな」

霊夢もこんな感じだったのだろうか。そう思いながら永遠亭の兎印の粉ミルクを作っていく。外の世界の製品は手に入りづらいし、添加物とかの事を考えるとこの方が良いと早苗と優曇華に力説されたし。私にとっては嗜好品でも、霊奈にとっては毒になるモノは多いから気を使ってる。

「ほら出来たぞ」

子供は例えどんな種族だろうとも可愛いモノだ。無邪気故の残酷さとかそう言うのは差し引いたうえでの話だけどな。一生懸命に哺乳瓶からミルクを飲んでいる姿は、生きようとしてるんだなぁとひしひしと伝わってくる。ガラじゃないが死なない(ってか老けない)ってだけでこんなにも達観するんだなって、気が付いたのは何代目の時だったか。

辺りはもう明るみだしてて、日が昇っている時間だ。昨日は様子見で起こさなかったけど(起こせなかった、の間違いだが気にしない)今日は問答無用でたたき起こす予定だ。宮司たるもの、最低限霊夢がやってた位には仕事をして欲しいし。

「おはよぉございます」

その必要は無かったけどな。五分の四くらい脳みそは寝てるだろう出久は、ふらふらと水桶の置いてある場所に向かう。眠気覚ましだか修行だかは知らないが、霊夢も朝の水行だけは欠かしたことが(風邪ひいた時を除いて)無かったな。

「あ~ぁん!あー!」

「ああ悪い!」

気を取られてたらいつの間にか飲み終わっていた様だ。今の所すくすくと育っていて嬉しい限りだ。

「魔理沙さーん!」

ばしゃばしゃと水を被る音が止んで、幾分かスッキリしたであろう出久の声がする。

「タオル持って来て下さーい!」

………忘れたのか。ちょっとはあったかくなってきたとはいえ、流石に濡れたまんまは不味いか。

 

「はは、すみません。ちょっと寝ぼけてました」

引きつった笑いでごまかそうとする出久にジト目で圧力をかける。ちょっとじゃないだろ。だいぶ寝ぼけてたぞ。

「……お手数おかけしました」

「よろしい」

素直に謝った後、出久は自分の朝食を作り始める。意図しているのかいないのか、私の分は含まれてない様だ。ついでに食器とかはあの日紫から支給された、いつの間にかそこに置いてあったものだ。

「霊奈の検診に行ってくるから、しばらく神社を開けるけど、」

一汁一菜+白米の質素な食事を食べ進める出久に、言葉を詰まらせながら言う。正直私は今の段階の出久を一人にするのには賛成じゃない。第一、今は日常生活に支障が出ないようにするべきだと思うしな。ま、これも上司命令だしな。

「大丈夫ですよ、一人でも修行は出来ますし」

そこなんだよと心の中で叫ぶ。修行の段階で方法とかの違和感を感じられたらやばいんじゃないか?私は慧音と紫の能力を甘く見てるのか、それともあいつらが大雑把なのか。

「解った。そろそろ始まるから、行ってくるな」

「はい!いってらっしゃい」

 

箒に乗って境内から飛び立った魔理沙さんを見送って、朝食を片づける事にした。冬の時の荒い物は手が痛くなるんだよなぁとか思いながら食器を洗って、ついでに霊奈ちゃんの哺乳瓶も洗っておく。

それから布団を干して、境内を掃除して神社内の廊下を雑巾がけして、ひとまず終了。この時にはもう日が高く上がってて、大抵の人が活動を開始する時間だ。

博麗の巫女、、、、宮司は大抵暇をしてる事が多い。御札を書いたり修行したりするのを除けば、異変か人から依頼されるまでやる事が無いからだ。まぁ、僕の場合まず第一に、

「飛べるように、ならないと」

『性質を変化させる程度の能力』

例えば石を液状化する温度が低い物質に変える事で、常温でも熔ける様になる。他にも水が電気を通さないようにしたり、砂が木みたいに燃えるようにしたり。出来る事は多いけど、その分使い方を間違えちゃいけないとも言われてる。

で、飛べるようにって言うのは、霊力でこう、宙に浮かぶ様な感覚で。飛ぶ、、、

「どうやるんだ?!」

御札に霊力を込めて投げれば、それは僕の思い通りの軌道を描いて飛ぶ。霊力は僕の意思で動かす事が出来るから、僕の体全体を霊力で持ち上げるイメージを、、、うーん?

「霊力を纏わせて体を上に引き上げる、〈ガツン〉ッ痛い!」

イメージを膨らませたら、勢いよく体が持ち上がって頭から打ち付けた。地味に結構痛い。起き上がってしりもち付いたまま考えてみる。霊力は人一倍強いと言う僕は、その使い方が下手だったから。

「霊力の量が多いとは言え、大妖怪や神様達と比べるとやっぱり質も量も人間の範疇を出ない僕じゃ今みたいな無駄遣い出来ないし何より弾幕を避けながら発するってこと自体に集中力を使う現状じゃどんなに早くても小回りが利かなくて制御も出来ない飛び方じゃダメだ。だったら優先すべきはどんなに遅くても空間に浮かんで制御出来る速度で飛ぶ事で在ってその為にはいっそ御札の上を走ってみるとか電磁浮遊の容量で浮かんでみるとか発想の転換を……」

「お困りの様ね」

「うわぁ!」

またやっちゃった。考え事をしてるとどんどんと深みにはまっちゃうのはもう癖だな。治さないとって思うけど、その方が出久らしいとも言われた事があったっけ。?それ

「飛ぶ修業は順調?」

「えっ、ああ。見ての通りです。全然うまく行かない」

泣き言を言ってちゃだめだ。解ってるけど、聞かれたらそう答えるしかないんだ。驚いて固まったままだった僕に紫さんが聞いてくれたけど、申し訳なさしかない。

「そう。貴方は飛ぶことにこだわり過ぎなのかも知れませんわね」

「えぇ?」

「そんな事よりお茶にしません?近代の巫女も宮司も真面目で、少し位力を抜かなければ息がつまってしまいそうですもの」

何を言ってるんだろう。十数年くらいだけ限定って言われても、それだけの責任を背負うんだから今のままじゃ駄目なのに。僕は人の三倍以上は頑張らなきゃ、、?

「美味しい羊羹を藍が仕入れてくれましたの。美味しいお茶と頂きましょう」

ぐいぐいと僕の事を休ませようとして来る紫さんに、断り切れなくて僕は立ち上がってお茶の準備をすることにする。甘い物は脳みその栄養!そう言う風に無理やり自分を納得させて羊羹を食べる事にした。箱の外装を見た感じ、あれ外の世界のお高そうな店の物だと思う。藍さん、一体どんなルートで買ったんだろう。

 

ニコニコと笑う紫さんの事は、苦手じゃないけど何故か信用できない。魔理沙さんに昔相談したら、妖怪相手だし紫さん相手ならそのくらいで丁度いいって言ってたっけ。良くも悪くも妖怪って人間と感性が違うからなって笑ってたっけ。

ちらっと紫さんの方を向いたら、朗らかに笑ってくれた。そうじゃないんですよ、何かすごく気まずいんですよ。

「歴代、博麗を名乗って来た子達はね、別に人より突出した何かが全員に合った訳じゃ無いわ」

それでも、僕よりか凄い力を持ってたんだろうな。

「中には飛ばずに玄爺に乗って戦っていた子も居たの」

「え?」

玄爺、聞いた事がある程度だけど、知識が豊富でそれなりに力もある空を飛ぶことの出来る亀だったはず。爺、ってだけあって結構ご高齢って話だったけど。

「スペルカードと言うモノは、美しく己の信念を現す信念を掛けた決闘ゲーム。ならば貴方の信念も正義も現すカードを創るべき。そのカードを美しく魅せるために飛ぶのなら、飛ぶと言う行為自体もカードに依存させてみては?」

飛ぶ、飛ぶ、空中に浮かぶ。カード、そして能力。そう言う単語が頭の中をぐるぐる回って、駆け巡った。そして常識と言うか根底に在った何かが覆される様な感覚が浮かんでくる。なんか、こう、言葉に出来ない何かが湧いて出て!

「ヒントを得た様ですわね」

「はい!ありがとうございます!」

取りあえず試してみない事には始まらない!

 

霊奈の検診に言ったら、思いの外待たされたし永遠亭の方に難癖付けて来る身の程知らず、、、違うな。悪質で下心丸見えのクレーマー、身の程知らずで合ってたな。が面倒事を起こしたせいなんだけどな。まぁ、その間のミルクやおしめは持ち出してたから何とかなったが。

結局私が神社に帰れたのはお昼を少し過ぎたあたりだった。幸いにも気候が良くてぐずる事も無く寝ててくれたのが本当にありがたい。心配事は出久だが、私に命令した以上何かあった時の対応は紫がしてくれるだろ。

「ただいま、、よっと」

降下する時に発生する重力の重圧を無効化する結界をいつも以上に強化して張り巡らせてから着地する。そうじゃ無ければ霊奈にも負担がかかるし、空が怖い場所であると言う事を本能的に刷り込まれてしまったら困るからだ。

「お帰りなさい!」

「あら、随分遅かったじゃないの。おかえりー」

境内の掃除をする出久はともかく、

「何でいるんだお前、、」

なんかもう、叫ぶ気力すらない。何でごちゃごちゃ悩む羽目になってる事の元凶が呑気に茶をしばいてんだよ。私の悩んでた時間返せ!

「魔理沙さん!」

お前はどこぞの狛犬かと聞きたくなるくらい人懐っこくパタパタと駆け寄って来た出久に、片手で頭をガシガシと掻きながら要件をせかす。

「弾幕ごっこの練習をさせて下さい!」

「はぁ?」

まず第一に、コイツ飛べたっけ?それよりも紫の差し金で在る事に納得してしまった自分が一番やるせないな。ったく。

「解った、紫!」

「ええ、承知しておりますわ」

片手で抱えていた霊奈を紫に託す。ぶっちゃけ一番不安だ。藍もそうだけど、紫が託したくない相手ナンバーワンに輝いている。何故かって?

「いいか紫、はちみつも生物も絶対に与えるんじゃないぞ!」

「わかってるわよぉ」

しょぼくれたように言われても、前科があってそれが命にかかわる以上念押ししなくてはやってられない。目を離したすきにまさか刺身を食べさせるとか何考えてんだアイツ。

「じゃ、始めるか」

紫が言うに、出久が持っているカードは二枚、霊符「無双封印―集―」と霊撃「無想転生」と言う博麗に伝わる&改良されてきた私にとっちゃ目をつぶってても避けられる弾幕だ。それに加えて、何か試したい事があるからこういってきたんだろうけど。

出久には出久なりの覚悟があって、霊夢にも霊夢なりに覚悟を持って選択した結果なんだ。受け入れようとしない私は、きっと永遠に子供のまま割り切らない感情を抱えていくんだと思う。

覚悟を持って戦う奴らを、意地汚く生かすのが私の役目なのだから。

 

 

 

 

おまけ

 

開幕と同時に魔理沙は弾かれるように空中に飛び立つ。箒に足をそろえて座り、魔方陣を展開し出方を伺う。

「行きます!霊符「磐座の電磁浮遊」!」

宣言した出久は、まるで天子が要石に乗っているかのように足元に敷き詰められている敷石の一つを乗り物にして浮いた。見ればその石も地面に置いてある敷石にもあまつさえ土にも電流らしきものが流れている。

「スパーク系は私の得意分野なんだけど、な!」

ホーミングして来る御札を避けながら、魔理沙は叫ぶ。必要なら相殺するが初めて己で作ったであろう弾幕を、ちゃんと最後まで見たかった。

電磁浮遊と銘打っているだけあって、出久の乗る石と地面との間に出来る空間は電気で満たされた空間になっている。使い魔代わりの陰陽玉はこの電気の間を通って散らばり、石が砕けてはじけるような軌道を描いている。三百六十度の破裂式の小弾中弾の混じったばらまきと、無想転生並みのホーミング力を持つ御札。難易度で言えばノーマルレベルだが、ばらまき弾幕の密度と出久自身の移動速度を上げればルナティックに早変わりするだろう。

因みに磐座とは、神道(八百万の神々、古事記に載っている神話)における信仰を向け祀ってある石の事。転じて神を宿らせることが出来る宮司と石のセットと考えたのか何なのか。

「苦手得意が別れそうだな」

ホーミング弾の誘導が得意なら大丈夫だろうが、制度も良くないホーミングなのでちょんよけしてる人には厳しいだろう。しばらくすると効力が切れたのか敷石を元の場所に落とし再び地に足付ける出久。ルール上別に何かに乗っちゃいけないなんてことはないが、余りにも乱暴すぎる発想じゃなかろうか?

「二枚目!神事「榊の忌火」!」

二枚目の宣言をした出久は、お祓い棒を持つ手の袖の下から榊の枝を出す。いやどっから出した。どういう風に入ってたんだ其れは。

「どう飛んでんだそれ!」

そして飛んでいると形容していいのか解らない、まるで空中に見えない足場があって、その上を走っているかのように出久は宙に浮いていた。

「空気に動かない性質を持たせたんだ!」

訂正、実際空気の足場を走っている様だ。その掛け声と共に出久が榊を振ると、焔弾が幕の様に発生させられる。それは彼の周りを漂う陰陽玉から発せられる針弾幕に引き寄せられるかのように呼応して放たれていく。

(なんか口悪くなってないか?私が言えたことじゃないが)

縦横無尽に走り回る出久とそれの応じて焔弾の幕が二枚づつ展開され、針弾幕がそれを引っ張る様に向かって来る。種類で言えば自揮依存のばら撒きだろう。しかし大きく避けたらスピードの遅い弾に当たりそうになるのが何ともいやらしい。その分針弾幕のスピードは異常なほど早く、それにつれる針弾幕もかなり早い。

「そろそろ反撃するぜ!」

そう言って、魔理沙も八卦炉を構えて煌びやかで判定の解りづらい焔弾に向かっていくのだった。

 

「完全勝利!」

「やっぱ強いですねー」

ブイサインを掲げて勝利の余韻に浸る大人げない魔理沙と、あれから一瞬でマスパによってぶっ飛ばされ少し焦げた出久。流石に勝てるとは思ってなかったが、いくら何でもこんな風に全てぶっ飛ばされるとは思わないだろう。

「魔理沙、貴女、、、」

紫も言葉を詰まらせる。

「弾幕はパワーだぜ!」

そう言って彼女はバチコンと効果音の付きそうなウィンクをかます。何というか、圧勝であった。

 




ぶっちゃけタイトル詐欺が酷いと思ってる。次回も酷いと思う。

書いてて何書きたいんだって言われるかもだけど、私もそう思ってる。何が書きたいんだろう。

次回、割と大勢のキャラが出ます。

因みにこの時点では出久が来て一週間くらいをイメージしてる。

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