香苗冬至は、一ノ瀬高校に入学した“文学の森の眠り姫“こと古橋文乃の幼馴染みである。
家は隣、親は親しく、壊滅的な古橋一家の家事を手伝ったりもしている。血の繋がりはなくとも、ほとんど姉弟のような関係だった。

そんな冬至は、あまり人には言えない類の仕事の見習いをしていた。

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思いついてしまった誰得クロスオーバー。
不遇の打ち切り作品、“みえるひと”と大人気ラブコメ“ぼくたちは勉強ができない”のクロスオーバーです。ただ、ラブコメとのクロスオーバーの癖に恋愛系の絡みはありません。

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第1話

「...冬至!」

 

暴走してくる車に対して、父さんが取った行動は俺をしっかりと抱えること。その身を盾にして、俺の身を守ること。

 

それは、事故だった。

 

後から調べた話によると、その事故を起こした車は、同僚にブレーキペダルを壊されていたらしい。だから、その場にいた誰もが悪かったわけじゃない。

 

多分それは世界を見渡せばごく当たり前で、けれどたまたま俺たち家族に襲いかかってきた不幸。

 

俺、香苗冬至(かなえとうじ)は、そんな事故で、父親を失った。

 

けれど、それは絶望の始まりなんかじゃなくて。

 

「生きててくれて、ありがとう」

 

抱きしめてくれたその暖かさに、俺は救われた。

 


 

「とーくん!お願いしますぅ!」

「フミ姉、一個下の俺に勉強教わることにプライドなくなってきてない?」

「仕方ないじゃん!数字を見ると眠くなっちゃうんだもん!」

「...まぁ、予習になるから良いけどさ」

 

とある休日、フミ姉は俺に泣きついてきた。

なんでも高校初の中間テストで赤点をぶっちぎったらしい。

 

そのせいで、夢である天文学への道を諦めろと教育係の先生に言われたのだとか。

ちなみに、点数は一桁。うん、俺も身内の贔屓目がなかったら同じこと言うわ。だって国語系統100点だぜ?

 

「...てか、テスト範囲だいたい中学の復習じゃん。俺結構頑張って受験勉強手伝ったんだけどなぁ?」

「言わないでぇ!ミジンコみたいな惨めな私でごめんねぇ!」

「そこまでは言ってねぇよ」

 

などとマイナス方向に暴走していく姉的人物をなだめつつ、早速テストの内容と回答、及びテスト用紙に書かれている途中式を見てどこでどう間違えたのかを調べようとするも、問題用紙には素っ頓狂な数式展開が書かれているだけ。しかも至る所に計算ミスがあり、それがさらに意味を分からなくさせている。

 

うん、これはちょっと俺の手に負えない。一緒に悩むくらいはできるだろうけれど、根本的な解決は無理だろう。

 

「フミ姉、九九は忘れてないよね?」

「そこまで確認されるレベル⁉︎」

「うん」

「酷いよとーくん!ちゃんと覚えてるからね!とーくんが去年叩き込んでくれたお陰で!」

「じゃあ、もう諦めるわ。全部の問題に途中式と躓きそうなポイント含めた回答書くから、とりあえずそれを見て頑張って」

「とーくん⁉︎お姉ちゃんを見捨てるの⁉︎」

「俺も受験生なんだよ!流石にこのレベルにモノを教えるのは知能指数が下がりすぎてヤバいから!」

「そんな殺生なぁ!」

 

とはいえ、見捨ててしまうのもなんだかんだと出来ずにしっかりと解説を3色ペンや蛍光ペンを使って作ってしまった。

 

けれど、こういうのはテスト終わった後の授業でやるのではないだろうか?と聞いてみれば、帰ってきたのは「...寝てた」との一言。

 

俺この人見捨てても誰にも文句言われない気がしてきたよ...すみません静流さん。

 

「...じゃ、時間だから」

「とーくん、受験生なんだからバイトやめたほうが良いと思うんだけど。というか中学生の時点でアウトだけどさ」

「知り合いの稼業を手伝ってそのお礼を貰ってるだけだからセーフセーフ。あ、晩飯は冷蔵庫にビーフシチュー入れといたからレンジでチンして食べてな」

「いつもありがとねー」

「いーのいーの、光熱費タダで使わせて貰ってるから」

 

零児さんからお金も貰ってるしねー、とは言わない。あの不器用ファーザーめ。フミ姉とどんだけ仲直りできてないんだよオイ。

 

などと考えながら、バイト先へ自転車をこぐ。仕事道具に不備はない。

今日も半分くらいシゴキだろうけれど、まぁ自衛の為だ。

 

頑張れるだけ頑張ろう。生きているとはそういうことなのだから。

 


 

「フミ姉、俺、フミ姉レベルのポンコツってそういないとか思ってたよ」

「あはは...国語も、お願いできない?とーくん」

「俺、受験生なんだけどなぁ!」

「す、すいません」

「あ、大丈夫。今のは引き受けるって感じの意味だから」

「なんと!そうなのですか文乃!」

「そうだよりっちゃん!」

「...いや、もう教えるので良いけどさぁ」

 

年明けの少し前。直前の模試でA判定を取ってしてやったりと思ったところでのコレである。

なんでも同じく教育係をつけられている仲間である所の緒形理珠さんに俺のことをポロっとこぼしてしまったらしい。

 

年下に教わる事に躊躇いを持ってないとか、緒形先輩も相当に追い詰められているぞオイ。

 

いや、テスト見た感じから言って、中学時代のフミ姉のようにそもそもの基本がなってないからテストについていけてないのだなぁとわかったけれども。

 

けれども!

 

「緒方先輩、どうして現文の問題用紙に数式があるんです?」

「それは、その...心情を解き明かそうと...」

「ハイスペックに素っ頓狂な事してんじゃねぇですよ。いや、今持ってる力で解く努力をしてることには好感を覚えますけどもね!」

「ほ、褒められました!」

「りっちゃん...」

「幸せな頭してんな!」

 

とはいえ、この数学物理に100点を叩き出すびっくり超人にどう教えたものだろうか。

フミ姉のように長年見てきたというわけではないのだから、少し“どこまでできていないのか”を調べる必要があるだろう。

 

というわけで、パソコンのデータをプリントアウトして緒方先輩に渡す。中学総復習フォルダだ。

 

「じゃあ緒方先輩、この問題解いて貰えます?わかる所までで良いですから」

「これは...自作の問題集ですか?」

「はい。まぁ、中学用ってか自分用ですけども、どの辺が抜けたまま高校入っちゃったのかってのを測るくらいにはなると思いますよ」

「ふふ、ですが所詮中学レベル。解けない事はありません!」

 

10分後、机に突っ伏す緒方先輩がいたとか。フミ姉に似てんなーこういう所。天才特有の何かだろうか?

 

「...うぅ!問題が悪いです!」

「教科書から抜き出した奴なんでそれはないですねー。つーわけで緒方先輩、中学頭からやり直しましょう」

「大丈夫だよりっちゃん!私もやったから!」

「やってるからの間違いでしょうが!未だに反比例とかで躓いているの知ってますからね!」

 

どうにも、自分の手では背負い切れないなーと思い始めてきたが、安心して託せる人がいないのだ。教育係の先生にはやはり志望を変えろと言われ続けているのだから。

 

一ノ瀬は進学校だ。できない、わからない味方がいない二人にはやはり辛いのだろう。だから、藁にもすがる思いで俺なんかに縋っている。

 

その想いに応えてやりたいけれど、自分にはその力が足りない。

俺がもし2年、いや1年早く生まれていたら何かできたかも知れないが、それは変わらない事実だ。

 

「教師の陽魂とか、探すか?」

 

そんな非日常な手段を選びたくなるくらいには、この二人はアレだった。

 


 

そうして、なんだかんだとズブズブ理珠先輩とも関係が続き、時々店にお邪魔する事になったりしたらいつの間にやら入試本番。

 

第一志望の、一ノ瀬高校の受験当日だ。

 

携帯には、フミ姉や理珠先輩、師匠なんかからの激励のメッセージが届いている。それはとても嬉しい。

 

だが、ぶっちゃけると師匠の修行のせいで推薦取れなかった事は根に持っているのだぞあの美魔女め。いつまで初恋引きずってんださっさと幸せに結婚しろや。

 

なんて思っていると、泣きながら助けを呼ぶ声が聞こえた。

 

念のため時計を確認。試験開始2時間前。どうせトラブルがあると思って早めに出ておいてよかった。

 

予想とは違う方向のトラブルだが、一先ず走る事にしよう。

 


 

その後、助けを求めていた少女の声に引かれ、刺されていた彼女の母親はなんとか助けることができた。

 

そして、警察の頑張りにより刺した男、彼女の夫は発見され、一命を取り止めた。事故のような痕跡はあっても、相手の車はいない。つまり、そういう事なのだろう。

 

そして、なんだかんだと入試はつつがなく終わり。いつもの警察の事情聴取を受け、後輩に制服譲れなくなったなーとか思いながら少女と歩いていると、家の前で心配そうに俺を見るフミ姉と目があった。

 

「とーくん...」

「フミ姉、風邪ひくよ?」

「...その血濡れの格好でどうして平常心なのかなぁ!」

「いやいや、制服脱ぐと寒いし」

 

基礎体温はそこそこあるので、インナー重ねれば冬でもなんとかなっているのだ。だからこその血濡れ制服受験になったのだけれども。

 

「とりあえず受験お疲れ様って感じに一杯やるつもりなんだけど、フミ姉も来る?」

「一杯って、お酒じゃないんだから...」

「あ、やべ」

「んんんんん⁉︎」

 

凄んで迫ってくるフミ姉。まずい、口が滑った。

 

「未成年飲酒とかお姉ちゃんは許さないからね!」

「いや、ほら...般若湯だから!」

「結局お酒じゃん!」

 

などとわーわーしていると、不意に風が吹く。

そして、俺のズボンを引く少女。

 

なんというか、ここまで早く来るとは思わなかった。

けれど、この子や母親の安寧を願うなら、ここが踏ん張りどころなのだろう。

 

「フミ姉、ちょっと先にウチ入っててくれない?ほら、俺は男の子のアレがアレしてアレだから」

「適当⁉︎もうちょっと誤魔化す努力しようよ!」

「いや、時間ないっぽくてさ」

 

「...大丈夫、なんだよね?」

「鍛えてますから」

 

そんな声をかけてくれたフミ姉は、俺の家へと入っていく。

 

「んで、君はどうする?多分、辛い事になるだろうけど」

『...見てく。私の、せいだから』

「んなわけあるかっての」

 

「悪いのは、手を出したクソ野郎だけだ。君は、絶対に悪くない。だってほら、君は助けを呼んだお母さんにとってのヒーローなんだぜ?...いや、女の子だからヒロインか」

 

「つーわけだからさ」

 

「ぶちのめす所、安心して見てると良いよ」

『...お兄さん、名前は?』

「あー、名前言ってなかったっけ?」

 

「案内屋、湟神冬至(こうがみとうじ)。悪霊退治の専門家だよ」

 

見習いだけどなーという言葉は飲み込む。格好つける所だし。

 

そうして、懐から短刀を取り出してそいつへと向き合う。

 

それは、大きな蛇のような下半身に人の上半身のついたような異形。

悪霊と呼ばれるモノ、隠魄(いんはく)だ。

 

『俺は、家族をこの世界から救わなくちゃならないンダァアアアア!』

「生きてりゃ、いくらでも救いはあっただろうにな」

 

突撃してくるそいつに対して、躱しながら剄伝導を通して魔を裂く刃と化した短刀を振るう。

 

通常、人やモノは霊魂に触れることはできない。しかし、そういうのをどうにかする為に色々してきたのが案内屋の技術である。この()の梵術もその一つだ。

 

水を筆頭にしてあらゆるものに魂を通して、それを戦うための剣や盾にする。それが、鉄壁の()の梵術だ。

 

そして、その刃はこの自称親父さんを切り裂くのに十分な切れ味を誇っていた。

 

『グギァア⁉︎どうして触れる⁉︎』

「さてね!」

 

そうして、こちらの攻めを途切れさせない。

次いでの一太刀で腕を、次の一太刀でもう一本の腕を、そして、3太刀目で首を撥ねる。

 

しかし、それでもこの蛇は死なない。再生能力が尋常じゃない。

尾での攻撃を後方に飛んで回避した瞬間に、もう体が再生していた。

 

ダメージがないわけじゃあないだろうが、達磨にして勁を叩き込むといういつものパターンが使えないようだ。

 

全く、なんでこんなのが現代に残っているのだ。いや、昔はもっとヤバいのがいたらしいけれども、

 

そんな思考とは別に、体が自然と次の武器を取り出す。訓練とはやはり馬鹿にならないものだ。

 

そんなことをしていると、後ろの少女が蛇に声をかける。

何か、感じる所があったのだろう。

 

『...どうして、私たちを襲ったの?』

『そんなことも知らないのか!あぁ忌々しいあの男!あの地獄のような世界からお前を救わなくてはならないんだ!お前の実の父である私が!』

『...そっか、やっぱり私はお父さんの子供じゃないんだ』

「んなどうでも良い事に拘ってんなよ、ヒロインちゃん」

 

「お前の家族は、死ぬギリギリでこのクソ野郎がみえて、それでも君を生かすために命をかけたんだ。それって、血よりも濃い絆がなきゃできないさ」

『お兄さん...』

『そんなモノあるモノカァアアア!』

 

そうして、突撃してくる蛇野郎。

だが、それはもう通らない。

 

俺の右手はペットボトルを掴んで、キャップを外している。

 

そしてその中の水は鎖のように蛇に絡みついてその動きを完全に封じ込めた。

 

縛勁(ばくけい)水鎖(すいさ)...じゃあ、終わりだ」

『何を言うか!貴様の刃では俺は殺せない!すぐに抜け出して殺してやる!』

 

力尽くで、体が傷つく事も構わずに蛇は拘束から抜け出そうとしている。恐らく奴の体質なら1分と待たずに抜け出してしまうだろう。

だから、深く短刀を突き刺す。

 

その魂に、俺の魂を叩き込むために。

 

「...陽魂は天帰隠魄は地帰、天に属せぬ者よ大地に還れ」

「グガァアアア⁉︎」

 

技の名前はまだない。ただ、刃を突き刺してそこから全力の魂を叩き込むという技。

 

流石に師匠の技名をパクれるほどに洗練されてはいないのだ。まだまだ精進が足りないなー。

 

そうして、蛇の内部から俺の魂が膨れ上がり、内部から破裂したのを確認してから、ちょっと格好つけて一言言う。やっぱりリスペクトしてるのだ。あの人を。

 

(BOMB)

 

そうして、ある一家を襲った蛇は、無事冥府へと案内されたのだった。

 


 

それから、この子の両親が目が覚めたというのを聞いたのは割とすぐの事。ちゃっかり梵術で治療していたお袋さんはともかく、親父さんも目が覚めたというのはかなり嬉しい事だ。

 

怪しい人としての仕事は、一気に済ませるに限るのだから。

 

「じゃあ、覚悟は良いか?」

『...うん』

 

そうして、病室へと入る。中ではベットに伏している親父さんと、機械的にその世話を焼いているお袋さんがいた。

 

「...あなたは?」

「案内屋、湟神。まぁ怪しい人ですよ」

 

「ちょっと、とあるヒロインと話せる魔法の糸電話を渡しに来たんですよ」

 

そうして、血で濡らした糸を使った糸電話を渡す。

 

湟神の秘術、血勁伝道の応用だ。

 

『お母さん、お父さん』

「この、声は⁉︎」

「じゃあ、俺は外に居ますんで。終わったら教えて下さいな」

 

そうして、1時間程経って少女は外に出てきた。

 

「話はどうだった?」

『うん、なんとか』

「そっか」

 

「成仏するまで、両親と居ても良いんだぜ?ヒロインちゃん」

『その、ヒロインちゃんってのやめて』

 

『私は朝顔。藤田朝顔』

 

『私が居たって事、お兄さんにも覚えていて欲しいの』

「...そうかい」

『ねぇ』

 

『私、これからどうなるの?』

「それは、君次第だよ。けど、この街結構幽霊に緩いから、どう選んでも案外楽しめるとは思うぜ」

『そうなんだ』

「じゃ、帰るべ。魂の使い方とかレクチャーしてやるからさ」

 

そんなことがあり、この街に幽霊がまた一人居つくことになるのであった。

 


 

「ただまー。飯作りに来たよー」

「おかえり、とーくん」

「なんか色々終わったわ。しかも今回は不審者として通報されなかった!成長したなー俺!」

「...とーくんのバイト、私は正直反対なんだけどね」

「まぁ、だろうね」

「やっぱりとーくんが怪我するかも知れないって思ったら、心配なんだよお姉ちゃんとしては」

「...怪我しない為に結構頑張ってるんだけどな」

「知ってる。けどさ、それでも心配なの」

 

「けど、やっぱやんなきゃならないって思うんだよ俺。死んだ後、ちゃんと案内してやれないとどっちにとっても辛いからさ」

「...またそんな男の子な目をして」

「そりゃ、夢見る健全な男の子ですから」

 

そんな会話をしながら、フミ姉の母である静流さんとの約束を思い出す。

 


 

『文乃、を、ヨろシク、ネ?』

 


 

あの決死の約束を、俺は守れているのだろうか? 

 

フミ姉の勉強を見る。

勉強を始めた頃と比べると、マシにはなったとは思う。

 

だが、ひとつだけ言わせて欲しい。

 

『このお姉ちゃん、もしかして頭悪いの?』

 

10歳にこうまで言われるフミ姉はマジで自分を顧みた方が良いと思う。というか高校の勉強わかるのかよ朝顔少女!

 

 




というわけで、みえるひととのクロスオーバーでした。

今JUMPBOOKのアプリでのだんだん無料で読めるので、ちょっと見てくれると作者的に嬉しいです。そして電子版を買うのです...(卑劣なダイレクトマーケティング)


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