全集中の呼吸の型を指南する育手と見習い剣士のお話。

……と、称したオリジナル呼吸のストーリー付き設定資料もどき。

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ザ・需要無視シリーズ。


(こごえ)の呼吸

 ──コンッ!! 

 

 雪に覆われた竹林、そこに小気味良い乾いた音が響き渡る。

 音の正体は一本の青竹を鉈で切りつけた音、竹は綺麗に切断されていた。

 

 鉈で青竹を切りつけたのは妙齢の女性、背丈は164cm程、服装は淡水色の地に群青と白の雪の結晶模様の着物に紺の袴、髪は白い髪紐で結った艶やかな黒の総髪。

 容姿はやや吊り目気味だが街中で見かければ振り向く程の美人、だがその整った容姿を眼帯で覆われた左目が異質な物へと変えている。

 何より、腰に挿した刀──雪の結晶の形をした鍔が特徴的な──が、彼女が普通の女性でない事を物語っていた。

 

「よし、とりあえずさっき聞いた音を出さずにその鈍ら刀でこの青竹を一太刀のもと斬ってみせろ」

 

 そう彼女が話しかけた相手は彼女より頭一つほど背丈の低い少女、顔立ちを見るに年の頃は十四歳程だろうか。しかし、その少女もまた普通の少女ではなかった。

 格好こそ藍色の着物に濃紺の袴と普通だが、問題はその髪だ、後ろ髪だけ無造作に結った下げ髪、その髪色は雪のようにどこまでも真っ白だった、まるで御伽噺に出てくる雪女のようだった。

 

 そんな少女は今、女性に言われた言葉を聞いてポカンと口をあけていた。

 

「……いや何がとりあえずなんですか師範、今すぐになんて出来る訳無いですよ」

「当たり前だこの馬鹿弟子!」

「えぇっ!?」

 

 目の前の妙齢の女性──師範に「やれ」と言われたり途端に「無理だ」と言われたり、馬鹿弟子と呼ばれた少女──弟子は混乱した。

 

「誰が今すぐ音を出さずに斬れと言った、そんな事は習い始めだった頃の私でも出来ん……一日はかかった」

「……一日で出来たんだ、こわ……」

「何か言ったか?」

「いえっ、何でもありませんっ!!」

 

 ギロリと片目で睨まれた弟子は背筋をピンと伸ばしてハキハキと返事を返す、そんな様子の弟子に途端に師範は呆れ顔になった。

 

「兎に角やれ、いいな? 脚運びに踏み込み、腰の捻り、刀を振り抜く腕の動き、刀を振るう際の遠心力、使える力は全て利用しろ、でなければ鬼の頸など一本たりとも斬れんと思え」

「…………はい」

 

「鬼の頸」という単語を聞いた瞬間、少女の目に黒い炎が宿る。今まで瞳にあった輝きは完全に消え失せていた、そこに宿るのはまさに昏い闇、どこまでも深い憎悪の色だった。

 

「……返事は大きくっ! 一応及第点は与えたがお前の呼吸はまだまだ未熟だ! 返事一つも呼吸の訓練の一つと思えっ!!」

「……はいっ!!」

 

 そんな弟子の様子を見かねた師範は大声で弟子を一喝する、別に大声を出したからといって劇的な効果は無い、実際良くて十割の習熟度の内一厘増えるかどうかといった所だ。

 しかし師範は知っている、負の感情……特に怒りは時に起爆剤のような役割を果たすが、同時にそれは心を激しく乱れさせる、彼女の教える技は心が乱れていては十全に扱えない。

 

 己の心を常に冷静に、それさえ越えて凍てつかせる『絶対零度の精神』……それが彼女の教える『(こごえ)の呼吸』の真髄。

 

 怒りの炎は心の氷を溶かしてしまう、それでは駄目なのだ。どこまでも冷ややかに、どこまでも鋭く、斬った相手(おに)の背筋すら凍りつかせる、それが彼女の剣なのだから。

 

 彼女達は人の世に跳梁跋扈する悪鬼を滅する者達の一員、その鬼狩りを育てる者と鬼狩りの見習い。

 鬼を一匹でも多く滅する為に、一人でも多くの人々を救うために、何より、己の弟子を生き残らせる為に、一切妥協はしない。

 負傷が原因で前線から退かざるを得なかった彼女は、己に、今を生きる友に、先に逝った友に、己が悲願を果たせなくなったその日に誓ったのだ、出来る事は何でもする、と。

 

 

 

 これは、若くして左目と利き腕である左腕を負傷した元鬼殺の女剣士と、一夜にして雪深い故郷を失った少女の物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふっ!!」

 

 ──コンッ!!

 

「なんだその太刀筋は!? 刀で竹を斬るだけなら猿でも出来る!! お前は何だ!? 猿か!?」

「に、人間ですっ!!」

「では人間なら私の言った事をやってみせろ!! 次っ!!」

「はいぃっ!?」

 

 ……まだまだ先は長そうである。




コンセプト的に原作キャラの出る余地が無さそうな二次創作があるらしい。
でも設定は間借りしてるから原作名をオリジナルにする訳にもいかない。
うーんこのジレンマ。


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