短編で、「スリザリン出身のマーリン」の話をお届けします。
いや、真面目にハリポタクラスタの皆さんは、一度は
・アーサー王伝説は架空だがそれでも舞台は5世紀ころ設定
・アーサー王伝説最流行期は12世紀宮廷(マグルのね!)
・ハリポタに出てくるスリザリン出身の15世紀のマーリンとは一体?
の罠に掛かったことがあるんじゃないでしょうか。

その謎を埋めるべく、「スリザリン出身のマーリンが、その辺のアーサーを唆して、マグルの『アーサー王伝説』を魔法界で再現したんじゃね?」の物語を書いてみた。
とは言っても、あんまり再現し過ぎるとアーサー王悲劇が多い上に、マーリンが私がギャグに落とし込めない悪い黒幕になってしまうので短編ほどほどに。
超ざっくりと。

軽い思いつきとして楽しんでもらえたらいいなと思います。




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短編で、「スリザリン出身のマーリン」の話をお届けします。
いや、真面目にハリポタクラスタの皆さんは、一度は
・アーサー王伝説は架空だがそれでも舞台は5世紀ころ設定
・アーサー王伝説最流行期は12世紀宮廷(マグルのね!)
・ハリポタに出てくるスリザリン出身の15世紀のマーリンとは一体?
の罠に掛かったことがあるんじゃないでしょうか。

その謎を埋めるべく、「スリザリン出身のマーリンが、その辺のアーサーを唆して、マグルの『アーサー王伝説』を魔法界で再現したんじゃね?」の物語を書いてみた。
とは言っても、あんまり再現し過ぎるとアーサー王悲劇が多い上に、マーリンが私がギャグに落とし込めない悪い黒幕になってしまうので短編ほどほどに。
超ざっくりと。

軽い思いつきとして楽しんでもらえたらいいなと思います。


マーリンの楽しい遊び

伝説を自分で演じる──、率直に言って、頭おかしいと思うだろう、まあ、魔法使いの頭はだいたいおかしい。

 

マーリンは、そこまで貧しくもない目立たない中流の魔法使いの家に生まれた。(魔法使いの中流は多分マグルの上の下くらいである。)

両親の仲は普通で、時々親戚のおじさんが顔を出すくらいの。

ある日、そのおじさんがマグルの本だと言って持って来たのが「アーサー王伝説」だった。

マーリンは、マグルの書いた魔法使いは変わっているなあと思いながらも、投げ出さずにその本を読んだ。

理由は簡単、その本にはマーリンと同じ「マーリン」という名の魔法使いが登場したからだ。

アーサー王伝説には幾パターンもあるが、とりあえず、マーリンが読んだその版はマーリンの出番は少なく、最初の方と最後の方にしか登場しなかった。

おかげでマーリンは「マーリンはいつ出てくるのかな?」と思いながら、その本の円卓の騎士の活躍をおおよそ把握してしまった。

「マーリン」の出番があまりにも少なかったために、マーリンは次におじさんが来たとき、あの本は面白かったが、エピソードはあれだけなのかつい訊いてしまった。

あげたプレゼントを喜んでもらえたと思ったおじさんは破顔して

「気に入ったのかい?

あれは色んなバージョンがあるから、また他のも持ってきてあげるよ!」

とはしゃいでいた。

そのせいで、マーリンは一時期「アーサー王伝説」コレクターのようになっていた。

意外と律儀な彼は、似たような内容と思っても読み飛ばさず、ほぼ全パターンを把握した。

分かったのは、マーリンは最初と最後に出てくる、ものにより、途中にもたまに出てくる。

そしてこれはほぼ例外なく、おいしいところを持って行く。

こんなに美味しいところを持っていたり、途中で都合よく出てくるのは、彼が舞台監督だからに違いない、とマーリンは斜め上の解釈をしながら、ホグワーツに入学するまでに、脳内で都合のいい話やエピソードを繋ぎ合わせる天才になっていた。

残念なことに、マーリンは好奇心の向く方向性が個性的なだけで、読み書きや呪文や計算や魔法に関しては才能を遺憾なく発揮しており、おそらくホグワーツの履修内容の半分以上は入学前に習得してしまっていた。

 

中世、マーリンの時代にはまだホグワーツ特急はない。

 

ダームストラングのように完全に伏されているわけでなくとも、スコットランドの山中に正式に魔法を習ってもいないはずの11歳に単独で辿り着けというのは死刑宣告にも等しい。

が、マーリンは能力が高かった。

本を読んで、なんとなく習得した姿現しで、なんとなくホグワーツを念じたら、──行けた。

目の前には、同じく、ホグワーツ入学とおぼしき赤毛の男の子が口をパカッと開けて凝視していた。

それにしても、やたら大荷物だし、後ろにいる親っぽい大人までパカッと口を開けている。

しまった、荷物忘れたと思って取りに帰ろうと思ったところで赤毛の男の子が話し掛けて来た。

 

「君、すごいね…!

僕はアーサー!

今の姿現し!?もうできるの?」

現代では免許制である姿現しであるが、中世にはそんな物はない。

そもそも魔法省が成立していない。

しかし、自己紹介とはファーストネームだけ名乗るものだったっけと思いつつ、マーリンは自分も

「マーリンだ。

今のは姿現しで間違いないよ。」

マーリンの脳内では、アーサーという名を聞いて、ろくでもない計画がポップアップしていたが、彼にはさしあたってやることがあった。

 

「マーリンか!

ねえ、僕たち友達になろう?

ホグワーツにきて最初に会ったんだから運命だよ!」

アーサーは親を置き去りに興奮していたが、マーリンは構わず片手を上げた。

「友達はいいけど、僕は一度家に帰る。」

「え?」

「忘れ物をした。

取ってくる。」

「え?」

間の抜けた遣り取りは、マーリンが気ままに

「とりあえず行ってくるから。

また後で。」

と言い、姿くらましをしたことで中断された。

 

さて当然、マーリンの家でも親が決死の覚悟でホグワーツに同伴する準備をしていた。

が、ちょっとの間、姿を消していた息子が、こともあろうか姿現しでパッと現れ、

「ホグワーツに行ってきたけど、忘れ物したから帰って来た。」

と言ったときには大騒ぎになった。

だが、結局はどうしようもない上、帰って来た息子がどこもバラけていないのを確認すると、父親を危険にさらさなくてすむ上、仕事に一週間以上穴をあけなくてすむので認めざるを得なかった。

なお、この天才かつ天然っ振りは情報伝達の悪い中世のこと、特によそに広まることはなかった。

 

そして、これまた脳天気気味の「その辺のアーサー」とマーリンが再会するのはホグワーツの大広間でである。

 

 

 

 

中世にはホグワーツ特急がなかったことは既に述べた。

と、すると入学時期と経路も当然ばらばらに違ってくる。

この時期にはまだホグズミード村も整備されておらず、何日も掛けて到着する生徒は、組み分けまで正規の寮に入ることもできずに、期日になるまでの誤差の期間は仮の寮にまとめて寝泊まりするのが普通だった。

マーリンはぎりぎりに着くよう出るはずだったが、行程をすっ飛ばして身軽に姿くらましで着いたので、割と日程に余裕があり、先に到着していたアーサーと仮寮で数日を一緒に過ごした。

 

その数日で、マーリンはすっかりアーサーと仲良くなった。

アーサーは純血の家の子供で、よく言えば素直で厳しいことを言えば単純で乗せられやすかった。

そして、純血の子供らしく、マグル界のことやマグル界の物語についてはまったく知らず、ただ、ホグワーツ創設者のゴドリック・グリフィンドールが類いまれなる決闘者だと聞いたときに、憧れている様子があった。

 

そのときに、マーリンはうっかりちょっと思いついてしまったのだ。

ある壮大な計画を。

それはマーリンにとって人生を賭けるに足る壮大な遊びになるはずだった。

──よし、こいつをアーサー王にしよう。

その辺のアーサーが適当にマーリンに狙われた瞬間である。

 

とは言っても、マーリンは突然

「僕と契約してアーサー王になってよ!」

などとは言わなかった。

こういうのは仕込みが肝心である。

手始めに、

「アーサー、せっかく友達になれたんだから、もし寮が別れてもずっと友達でいてくれる?」

と目に涙を浮かべる。

涙は出し入れ自由である。特技だ。

アーサーは思惑通り、

「ああ、それはもちろん!

俺たちの友情は永遠だ!」

と言い、マーリンにコイツ何読んだんだと思われていることにも気がつかず固い握手を交わした。

 

なお、当然ながら、組み分けは二人とも一瞬で、アーサーがグリフィンドール、マーリンはスリザリンだった。

だが、当時はダンブルドアが煽った当世ほどには蛇と獅子の対立も深刻ではなく、アーサーは組み分けが違ったことを残念がってはいたが、マーリンが

「寮が違っても仲良くしてくれる?」

としょんぼりしてみせるところりと騙されて

「マーリンは寂しがり屋だな!

仕方ないから仲良くしてやるよ!」

と宣言していた。

気付けアーサー、そいつ、蛇ですよ。

なお、当時もグリフィンドールとスリザリンは合同授業がいっぱいあったので絡むのは余裕である。

 

とりあえず、マーリンはいい役者を見つけたと思ったので、マグル界のとっちらかったアーサー王伝説の編集を始めた。

マグル界の物語はさすがにそのままでは純血魔法族には違和感ばりばりの内容だったので、冒頭に

『これは予言の書である。』

とつけて、魔法族が読んでも違和感のない言い回しで、できるだけ簡単にして、と、作文の次は

羊皮紙本に清書してなんとなく経年劣化の魔法で図画工作のお時間である。

古い予言書を作成するにあたってお役立ちだったのは、聖剣エクスカリバーをどうしようかなと思ったときに、いい感じにホグワーツにグリフィンドールの剣とかいうそれっぽい剣があったことだった。

お誂え向きに湖もあるし、それでなくともスコットランドで湖には事欠かないし、何とかなるだろうと思った。

 

脇役はどうしようかなと思ったときに、スリザリンの同級生にフランス訛りのランスロットという少年がいるのに気付いた。

ううん?と思って眺めていたら、あちらから

「何か用?」

と話し掛けられた。

この少年がマーリンにとってはまた当たりだった。

なんと、少年はマグル界の宮廷にも出入りする階級の子弟らしく、一般教養としてアーサー王伝説を知っていたのだ。

正直に話すか一瞬迷った。

 

だが相手は「湖の騎士」ランスロット候補で、何よりスリザリンだ。

マーリンは自分の直感を信じて、「その辺のアーサー王伝説」計画を話した。

ランスロットは呆れた顔をして真顔になり

「お前アタマおかしいな。」

と言った後、にやりと笑って

「でも面白そうだ。付き合ってやるよ。」

と言った。

それはどう考えても11歳の無垢な笑みではなかった。

ランスロットはその後、グリフィンドールのアーサーを紹介され、

「なるほど、扱いやすそうな…。」

と呟いていたが、アーサーに対しては紳士を装い、どう見ても気が合わないだろうと思うのだが、あっという間に親友と呼ばせるまでに籠絡していた。

 

 

 

ランスロットがアーサーと親しくなった翌年に、ジネブラという女の子が入学してきて、アーサーが

「可愛い…。」

と赤くなりながらちらちら見ているのに気付いたとき、マーリンはこの「アーサー王伝説」計画はやはり天啓なのではないかと思った。

ジネブラとは、すなわちグィネビアであり、マグル界のアーサー王伝説では王妃である女性である。

なお、アーサーが気にしているジネブラは当然のように顔の良いランスロットを気にしている。

 

何人か、アーサー王伝説に協力してくれそうな人材と利用できそうな人材を見分けながら、マーリンはアーサーに「予言・アーサー王伝説」を読ませる機会を窺っていた。

突然自分が

「はい、アーサー、予言の書。」

と渡しても、流石にアーサーは信じないに違いない。

というか、信じたらいくらなんでも頭が弱い。

その件については、マーリンは図書館で勉強しているときに、解決策を思いついた。

 

人は自分で見つけた「秘密」には弱い。

アーサーが図書館に来るように誘導するのはたやすい。

試験勉強を一緒にしようと言えばいいだけだ。

その上でアーサーが勉強にあきる頃合いも分かっているから、後は飽きたアーサーが手に取りそうな本棚に、それらしく経年劣化の魔法をかけた「予言の書」を置いておけばいい。

たちのわるいのは、魔法界はマグル界と違って、本物の「魔法書」や「予言書」に事欠かないという事実だ。

それらしく装って、アーサーが近付いたときに、ルーモスの魔法か何かで輝かせてやれば、アーサーは予言を疑わないだろう。

マーリンは彼にとっては児戯に等しい予言の書に対する魔法付与をやっつけて、次に何をすべきか思いを巡らせた。

 

アーサー王伝説を再現するとは言ってもそもそも元になるアーサー王伝説が、断片の物語を継ぎ合わせたもので、はっきりとこれが正統ですよと言い切れる原典がない。

それでもいくつか絶対外したくないエピソードというのはあって、聖剣伝説と聖杯伝説は必須だと思っていた。

スリザリンの談話室で、ランスロットと小声で雑談しながら、その件を話すと、

「あー、なんか、ホグワーツ、うってつけのなかった?

ほらなんかグリフィンドールの剣で代用できるんじゃない?

アーサー、グリフィンドール生だし、これがエクスカリバーだって言ったら簡単に信じそうだぞ?」

そう答えられてマーリンも笑う。

「あー、やっぱそう思う?

じゃあさ、聖杯はハッフルパフのカップでいいかな。

学校にいま、パフの血筋の子が入ってきてるじゃん?

あそこのうちが、ハッフルパフのカップ、受け継いでるらしいだよね。

在処が分かってればなんとでもなるし。」

 

悪い相談をするスリザリンに悪気はない。

真剣すぎる愉快犯がいるだけである。

 

「まあ全部を完全に再現するのは難しいからなー。

とりあえず、聖剣伝説と、聖杯?

あと、王妃は候補がいるからラブロマンスは行けるとして、大魔法使いとの邂逅はまあこれから大魔法使いになる相手との遭遇ぐらいで。

冒険物語はドラゴンでも入れとく?」

「そうだなあ、湖の騎士ランスロットは俺がやれるから、マーリンお前な。

聖杯やるならパーシヴァル役が誰かいるんじゃないか?」

「うーん、そうだな。

魔法使いだったらパーシヴァルは珍しい名前じゃないからなあ。

ちょっとだれか見繕うか、最悪、その時だけ名乗らせるのでもいいんじゃないのか?」

マーリンとランスロットは楽しく、アーサー王伝説組立計画を立てていた。

 

 

 

 

そして、グリフィンドールのアーサーは素直な男だった。

そろそろ五年生、O.W.Lそのままではないが、それに相当する試験はこの時代にもある。

「アーサー図書館に勉強に行かないか?」

マーリンの誘いに、アーサーは気軽に乗った。

「あ、うん、ちょうど良かった!

俺の頭じゃよく分かんないとこあったんだよなー、マーリンに聞ければ心強いぜ!」

はははと笑うアーサーは単純で、マーリンが、アーサーが魔法史の魔女と予言の章で分からないところがあると言った辺りで、

「アーサー、それ、確か資料があっちの書架の辺りにあったよ。

こっちの問題を先に解いておいてやるから、見て来てくれる?」

と言ったのに、なんの疑いもなく乗った。

 

アーサーは言われた通り、予言の書の棚に行き、事前にマーリンがちょっとだけ目立つように背表紙1インチほど引き出された状態で収納しておいた、「輝かしき魔法使いの王についての予言書」に目を留めた。

「んあ、誰だよ、ちゃんと戻さないの。」

アーサーは善意で本を戻そうと、その本の背表紙に触れる。

途端に本が発光したのは、マーリンの掛けた魔法だ。

「…あ?」

アーサーは戸惑ったが、そこは生粋の魔法族、光ったのは何かの魔法が動作したからだろうと、そこだけは正解で、本を書棚から抜き出した。

重ねて言うが、魔法界には意外と本物の予言がありふれている。

 

光ったからには、己に関係ある何かかと無用心に開いたアーサーが非常識だとは言い切れない魔法界。

開いた本に、アーサー、と、己の名前を見つけた彼は当然戸惑った。

珍しい名前ではないが、この本が光ったことを考えると自分のことだろう。

──そう思ってしまった。

「俺…?」

素直なのも大概にしろよ、アーサー?

ともかく、アーサーは、真剣に(マーリン製作の)予言書「アーサー王物語」を読み耽った。

もちろん、できる限り文字数は少なく、魔法界バージョンに変えてある。

フランスの某大予言者だって、簡潔に曖昧に示唆に富んで暗喩を使って予言しちゃうのだから、アーサーの名前以外のところは、「聖なる剣が」とか「輝ける杯が」とか可能な限り曖昧にである。

 

アーサーは蔵書票のないその本を、そそくさとローブの下にしまい込み、席に戻った。

「お帰り、アーサー、あれ?本は?」

そらとぼけてマーリンが聞くと、アーサーは「あっ」という顔をして、

「あー、誰か今借りてるのか、ちょっと見当たらなかった。」

と言った。

マーリンは、実直なアーサーにしては珍しいその言い訳を追求せず、

「そうなんだ?

とりあえず、さっきの問題だけどさ?」

そう言って流したので、おかげでアーサーは柄にもない罪悪感に苛まれる羽目になった。

そして、当然、「選ばれた」とか「運命」とかいう単語が大好きなお年頃のアーサーは、寮に戻って、その予言書を朗読した。

 

マーリンは達成感につつまれ、ランスロットと果実水で祝杯を上げた。

 

ところで、マーリンとランスロットには、もう一つ悩みがあった。

聖杯伝説を再現するためには、パーシヴァルか、パーシヴァルと名乗ってくれる仲間か、或いはアーサーの予言書を信じてくれる人材が欲しいのである。

パーシヴァルがいないわけではない。

パーシヴァルは当世人気の名前で、ホグワーツにも上から下までで三人ほどいる。

スリザリン以外の各寮に年齢ばらばらで三人。

まあ本命はグリフィンドールでアーサーの同室の彼なんであるが。

そんな彼らでもまあ思いもしなかったのである。

まさか、寮に帰ったアーサーが部屋で「これは内緒だけど」公然の秘密行動を実施して、パーシヴァルを仲間に引き入れているなんて思いもしなかったのである。

 

これについては怪我の功名ではあるが、グリフィンドールのアーサーの友だちはやっぱりグリフィンドール的勇気の持ち主だった。

「アーサー、これは本当か…?

いやでも、アーサーが触って光ったんならやっぱりアーサーのための予言の書なんだろうな。

そしたら、この『聖なる杯が、パーシヴァルによって得られるであろう。』ってのは…。」

「…!!

きっと君のことだよ。

あれ、でも、聖なる杯ってなんだろ…。」

そういう会話が寮室で繰り広げられたことは、当然、マーリンやランスロットたちには知り得なかったのだが、アーサーやパーシヴァルは素直で、ちょっと自分たちで分からないことがあると、すぐに

「マーリン、ちょっと分からないところあるんだけど、聖なる杯とか授業で出てきたっけ?」

とか、

「ランスロット、出身地の近くに湖とかある?」

とか聞いてくるので、状況はすぐに察することができるのだった。

 

 

 

 

ところで、アーサーに「アーサー王の予言の書」を持たせることができたら、やっぱり次は「聖なる剣」だろう。

なんとお誂え向きなことに、彼らが最高学年になったとき、「三大魔法学校対抗試合」が催されることになった。

ホグワーツからの参加枠は、特に人数制限なし。

まあ、他校もなのだが、命の危険があって毎回必ず死人が出ていると聞けば、参加者はそれなりに腕に覚えのある者に限られる。

マーリンとランスロット、それにパーシヴァルまでもがアーサーをほめそやし、アーサーは選手に名乗りを上げた。

これは無理強いではなくて、アーサーはもともと乗り気だったし、マーリンたちもこっそりフォローする気だったので、まあ許して欲しい。

第一課題はくしくもハリーたちと同じドラゴンで、さすが中世、乱暴にもドラゴンと直接対決が課題だった。

 

「ドラゴン、…厳しいかなあ?」

「いや、アーサーあれでまじめにグリフィンドールいち優秀な魔法使いだからさ、意外と大丈夫なんじゃないか?」

「そうか、まあでもいざとなったら校長室からグリフィンドールの剣持ち出して、アーサーに持たせるように考えようか、そしたら聖剣伝説も演出できるだろうし?

噂の流し具合によっては、勝手に話が広がっていくだろうし?」

そんな風に話していたマーリンとランスロットは、まさか実際になんの力が働いたのかよく分からないが、ドラゴンと対決している時の、アーサーのところへ、びゅーんとグリフィンドールの剣が飛行してきて手に収まるとは流石に思っていなかった。

その時には、二人とも思わずあんぐりと口を開けてしまった。

この現象については、後年20世紀末、自信に満ちたグリフィンドール生ネビル・ロングボトムのところへ勝手に剣が飛んできたのと同じことが起きたのだと思われる。

いずれにせよ、この件によって、目論見通りアーサーが三大魔法学校対抗試合で国を越えて有名人になった。

 

「アーサー、凄いな!

君は本当に最高だ!」

マーリンは、いつになくはしゃいで優勝したアーサーに抱きついた。

ランスロットも楽しそうに、アーサーが帯びているグリフィンドールの剣を眺めている。

「アーサー、君はやはり…!」

何か感極まって、感動して目を潤ましているのはアーサーの同室のパーシヴァルだ。

おおかた、アーサーに関する予言書が本物だったと感極まっているのだろう。

 

実は予想外だったのは、この件でアーサーに興味がなさそうだったジネブラがアーサーに靡いたことだ。

これは特に何の誘導もなく、アーサーは偶然にグリフィンドールでひとつ下の美人のジネブラを気に入ったようだったのだが、ジネブラの方は太陽のように明るい体育会系アーサー(今更だがそこそこ顔はいい)より、フランスなまりの色男ランスロットがタイプだったようなので、「三大魔法学校対抗試合優勝者、グリフィンドールの剣に選ばれし者」という箔がついてから、ジネブラがアーサーに靡いたのは意外な出来事だったのだ。

 

とりあえず、アーサーはグリフィンドールの剣を手に入れて卒業した。

というか学校はアーサーに試合後、剣を返納させようとしたのだが、なんだか剣には自由意志があるらしく(どうなっているのか)、校長室に収めておいてもいつの間にかアーサーのところに戻ってきてしまうので、特例的にアーサーの生存中は貸与という扱いになった。

アーサーが死んだら勝手に学校に戻っていそうなのでそれで多分問題はない。

…しかし、この剣、勝手に飛んできたりするあたり、ちょっと怪談じみている、内緒だが。

卒業しても、当然彼らの密接な交友は続く。

時代は中世、持つものと持たざる者がはっきりしていた時代、彼らはマグルの下層階級のの出身でもなければ、大抵富裕な階層に属したので、現代的な意味での就職はしなくとも大丈夫だったのだ。

 

 

 

 

 

卒業後、マーリン的にまた面白いことが起こった。

アーサーの同室者で親友になったパーシヴァルが、

「僕は「聖なる杯」を探し出そうと思うんだ。」

と言い出したのだ。

魔法使いがこっそり隠れてやっているパブで集まって飲んでいた彼らのうち、マーリンとランスロットはこっそりと目を見かわした。

なにか面白いことになっている。

「どういうこと?

何か手がかりがあったの?」

マーリンのそれとない入れ知恵で、パーシヴァルとアーサーの中では「聖なる杯」はハッフルパフのカップに違いないということで確定しているのだが、何かあったろうか。

ちなみに、この数十年前にハッフルパフの子孫の家から、ハッフルパフのカップは盗み出されて行方不明になっており、「聖杯探索」というシュチュエーションにはぴったりなことになっている、と、マーリンは無責任に思っていた。

 

「そこなんだ。

聖なる杯らしい品物を隠匿している家があると密告があって──、ああ、ほら、俺が『円卓の騎士』の仲間を探すために、予言書の内容をいくらか広めたり、聖剣は得られたから、聖杯を探さなきゃいけないと言って回ってたら、教えてくれる奴がいたんだ。」

ええと、アーサーとパーシヴァルの中では、何かとても面白いことが起こっているようだ、と、マーリンとランスロットは思った。

「予言書?

アーサーが、学生時代図書館で見つけたっていうやつか?

そりゃあ、ホグワーツは英国一神秘に満ちてるから、確かに何が起こっても不思議じゃないが──、俺らは詳しいことは知らないぞ?

一体何が書いてあったんだ?」

ランスロットが何食わぬ顔で尋ねるのを、マーリンは腹の中で爆笑しながら相槌を打つ。

「そうだよ、ほら、三大魔法学校対抗試合で、アーサーがグリフィンドールの剣を手に入れてから、何かそういう予言があったっていうのは教えてくれたけど──、よくは聞いてない。」

 

そう聞くと、アーサーは、妙に重々しく頷いた。

自信をつけて、最近は妙な貫禄が出てきている。

「そこなんだが──、実は、予言書には、マーリン、ランスロット、君たちのことも出てきていた。

マーリン、君は、偉大な王に有益な助言をし続ける偉大な魔法使いとして。

ランスロット、君は偉大な王のまたとない右腕、偉大な騎士として。

パーシヴァルは、聖なる杯を探して当てる偉大な騎士として。」

アーサーのまるで神託のような言葉を神妙に聴きながら、マーリンはかつて子供の自分が書いた文章を思い出そうとする。

うーん、解釈の余地があるように、出来るだけ思わせぶりな回りくどい言葉で書いたはずなんだけどそんなに「偉大な(great)連呼してたっけ?という疑問で頭はいっぱいだ!

 

ランスロットの方が順応が早く

「…予言書に登場しているとは光栄だな。

では私にも何か使命があるんだろうか?」

ごく真面目な顔をして応答するから、マーリンの疑問はとりあえず保留である。

そしてここはパブである。

周囲は魔法使いで、新進気鋭のグリフィンドール の剣を持っている英雄たちの会話に耳を傾けている。

意気軒昂とした若い魔法使いたちの会話は、いい感じに尾ひれをつけて噂になるに違いなかった。

 

この物語では詳細を語る時間はないが、パーシヴァルの聖杯探索は、マーリンの方が驚いたことに、いくつもの苦労を経ながらも最終的にうまくいった。

失われていたハッフルパフのカップは探し出され、一旦、ホグワーツでお披露目され、真贋を確かめられてからハッフルパフの子孫の手に戻った。

こうなると、噂は早かった。

グリフィンドールの剣についで、ハッフルパフのカップ。

この調子ではレイブンクローの髪飾りも発見できるんじゃないかと笑う者もいたが、アーサーが

「それは予言にはない。

おそらく無理だろう。」

と、言ったことで余計に予言書の存在が広まり、「円卓の騎士」になりたいという暇人──、失礼、魔法族の有識者が何人も集まるようになっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

面白い遊びだった。

アーサー王伝説の魔法界的再現。

 

だが、終わってみればマーリン的に誤算だったこともある。

アーサーは卒業後ジネブラと結婚していたのだが、魔法界にはマグル出の魔法使いもいる。

当然、彼らはアーサー王伝説を知っていて──、ただ、これは偽物だ!にはなぜかならず、アーサー王伝説は形を変えてマグル界にも存在した!と解釈されたのだ。

お陰で、彼らはジネブラに、王妃は湖の騎士ランスロットと恋仲になるさだめだなどと吹き込んだ奴がいて、元々学生時代からランスロットの方が好みだったジネブラがその気になってしまったのだ。

マーリンとランスロットは、面白い遊びがしたいだけで、不倫沙汰で友人関係をぐちゃぐちゃにしたいわけではなかったので、魔法界版アーサー王の予言書を作るときに意図的にランスロットとグィネヴィアの不倫騒動は省いていたのだが、それだけに油断があった。

おまけに魔法界には愛の妙薬なんてものがあるのである。

その気になったジネブラがランスロットに愛の妙薬を盛り、アーサーがそれを目撃してしまったときは、最大の修羅場だった。

 

だがともかく、あれからだいぶ経った。

結局、マーリンは「アーサー王の予言書」を作ったのが自分だったとはランスロット以外誰にも教えなかった。

アーサーもランスロットも、マーリンより先に逝った。

病気や事故で魔法使いとしては早世した彼らを惜しみながら、マーリンはアーサーの周囲に集まった「円卓の騎士」会議を、ウィゼンガモットとして編成し直した。

友人達と、ついでに自分の偉業も残したかったので、伝説は惜しみなく言い伝えてもらうように振る舞ったし、文字に起こしていいかと言われたら全てを許した。

 

マーリンは最後に、自分と友人達のことをずっと覚えていてもらうためには何が効果的かを考えて──、勲章を作った。

人を顕彰するときに、自分の名前の勲章を渡せば、それとともにずっと覚えていてもらえるはずだ、と彼は考えた。

そこで「アーサー勲章」でないあたりが、マーリンであるといえばマーリンである。

 

 

実際、マーリンの考えは正しく、何世紀を過ぎても、彼は慣用句と勲章と、蛙チョコカードの中に生き続けている。

 

 



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