けいおん!卒業旅行REMIX   作:ふとん王

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Cassette10 二日目午前

 目覚ましのアラーム音が聞こえる。ぼんやりとしたまま枕元の机においたはずの携帯電話を探す。ない。どうやら寝ている間に落としてしまったようで携帯は机の下にあった。アラームを止め、隣で寝ている唯先輩を起こす。

 

 

「唯先輩、朝です。おきてください」  

 

「ハンバーガーにステーキ入れたら噛みきれないよ~」

 

「どんな夢見てるんですか……。ほら、起きてください。そもそも朝、髪のセットとかいろいろあるから早く起こしてって言ったの唯先輩じゃないですか……」

 

「あと五分、あと五分だけ寝かせて憂~」

 

「私は梓だからだめです。そういって五分だけ寝られる人なんていないんですから。ほら、起きてください」

 

「わかったよ~ってあずにゃん? なんで?」

 

「なんでって同室じゃないですか……」

 

「はっ、そうだった! 旅行中だった!」

 

「目も覚めたみたいですし、さっさと準備しますよ。朝食まであと三十分くらいしかないんですから」

 

「りょーかい!」

 

 

 一人ずつシャワーを浴びて、出掛ける準備をする。まずは朝食だからそっちのための用意の方が先だけど。他の部屋のみんなにおはよーメールを出す。向こうも準備中だから返信には時間がかかるだろう。髪のセットをして、服が合うか最終チェックをする。その他もろもろの準備をして(これに時間がかかるのだ)、メールをチェックする。

 おかしい。朝食のために集合する時間の五分前なのに憂と純、先生からは返信があったけど隣の部屋からはなにも返信がない。まさか……。電話をかけながら廊下に出て、隣の部屋のドアを叩く。しまった……。澪先輩とムギ先輩がいるから安心してたけど、あの人たちもあの人たちで天然なところあるんだった。

 ドアをノックしていると電話に澪先輩が出た。

 

 

「はい。ふぁ~。秋山です。どちらさまですか」

 

「『どちらさまですか』じゃないですよ!! 朝です!! 寝坊です!!」

 

「梓の声……? 朝……? うわっやばっ。律! ムギ! 起きろ! 寝坊した!」

 

「とりあえず手伝うんで鍵開けてください……」

 

「いまムギが行った!」

 

 

 そう言い電話が切れる。数瞬後、ドアが開きムギ先輩が私を部屋にいれる。

 

 

「ごめんなさい! 三人とも目覚ましかけるの忘れてて……」

 

「わかったのではやくしましょう! 他の人たちはもう準備できてるんで」

 

「梓ほんとすまん! いま準備するから他のみんなにあと十五分待ってもらえるようにメールしてくれ」

 

「十分てす。十分で用意してください」

 

「梓がこわい……」

 

 

 先輩たちが準備し終わったのはその十三分後のことだった。そのあいだ準備がすでに終わった私たちは部屋が中央にある私と唯先輩の部屋に集まり、その日のすることを確認していた。 

 

 

「今日は自由の女神行くんだ。どこまで行くの? 中まで入れるって聞いたことあるけど」

 

「今回はなんとスペシャルなチケットが手に入ったからそれを使うんだよ」

 

「そりゃいいね~。その後は?」

 

「行程送ったでしょうが……。そのあとは海を渡ってハンバーガー食べに行こうと思って。人気の店らしくて日本にいる間に予約しちゃった」

 

「梓ちゃん、そういうとこまめだよね~」

 

「憂に言われるとなんかアレな気分だなあ」 

 

「みんなごめーん。準備できたわ~」

 

「じゃ、行こうか。昼がすっごい多いらしいから食べ過ぎないようにね」

 

「そうだよ? お姉ちゃん」

 

「やだなあ~いくら私でも朝からそんなにたくさんは食べないよ~」

 

 

 

 ──────

 

 

 

「うう……食べ過ぎた……」

 

「だから言ったじゃないですか……食べ過ぎないようにって」

 

「だって……あんなに美味しそうなものがたくさんあったら食べないわけにはいかないよ……」

 

「そういう人でしたね唯先輩って……」

 

「おーい梓~私たち出るのにあと十分くれ~。朝バタバタしてたせいで荷物が散らかってて」

 

「しょうがないですね……。わかりました。終わったら連絡してください」

 

「わたしも一度部屋に戻るわ。今日の準備がまだ終わってないの」

 

「さわちゃんも寝坊したの?」

 

「大人の女にはいろいろあるのよ」

 

「はいはいかっこいいよさわちゃん」

 

「棒読みなのがちょっと癪にさわるけど許してあげるわ」

 

「やっさし~い」

 

「じゃ、また十分後に私たちの部屋で」

 

 

 そう言って各々の部屋に入っていく。ついでに今回の部屋割りは

 先輩ルーム→私と唯先輩ルーム→後輩ルームの順につらなっていて、ちょっと離れて先生の部屋だ。

 

 

 

 ──────

 

 

 

 十分後、ドアのノックの音がするのでドアの穴から外を除くとさわちゃんがいた。ドアを開け迎え入れる。どうせすぐに出ることになるけど。開けっぱなしの部屋を繋げるためのドアからみんなに声をかける。

 

「用意できましたかー?」

 

「できたよー! 行こ!」

 

 

 部屋の鍵を閉め、全員で地下鉄チケットのチェックをする。これがないとどこにも行けないからね。みんな持ってるのを確認して、ホテルから出る。

 

 

「さむっ」

 

「最低気温2℃ですからね……」

 

「旅行するあったかさじゃないよこれは……」

 

「じゃあいつ卒業旅行するんですか……」

 

「でも正直去年のロンドンよりも寒いんじゃないのか?」

 

「ロンドンは同緯度の土地だと比較的あったかいですからね。それに対してここはやっぱり冷えますよ」

 

 

 ロンドンの時よりも圧倒的に寒い。私も去年のときより一枚多く服を着ている。唯先輩はオレンジのダウンを着ているからか比較的あったかそうだ。ほかの先輩はみんなコートを着ているからか寒そうだ。ダウンには勝てない。

 

 まずは昨日と同じようにホテルから徒歩五分くらいの地下鉄の駅に続く階段を降りる。今日はチケットを買う必要もなく、なれた手つきで皆、純と澪先輩も含め改札を通る。ここから十数駅はなれたマンハッタン島の南端の駅が今日の最初の目的地だ。そこからフェリーに乗って自由の女神の足元に行くのだ。フェリーのチケットとなんと一日限定数百人の自由の女神の王冠の中に入るチケットが人数分購入できた。また古い電車がホームに滑り込んでくる。運良く空いているスペースがあったのでそこにみんなで固まる。

 

 

「唯~自由の女神ってフランスからきたんだぞ~知ってた?」

 

「フランスから? あんな大きいのが? りっちゃん、私を騙そうったってそうはいかないよ。私だって大学生になってそれなりに知識を身に付けたからね」

 

「いやほんとだって……」

 

「憂、もしかしてほんとの話なの?」

 

「そうだよ。フランスとアメリカの友好のしるしとして贈られたとかそんな話だったと思う」

 

「なー言っただろー。ほんとだって」

 

「でもあんな大きいのどうやって運んだんだろうね~?」

 

「でっかいタンカーみたいなの繋いで運んだんじゃないのか?」

 

「そんなわけないだろ……。あれ、分解されて持ってきたんだよ」

 

「バラバラ殺人事件!!」

 

「人聞きの悪いことを言うんじゃない」

 

「じゃあここでクイズ!」

 

「じゃーじゃん!」

 

「唯ちゃん効果音ありがと~。では問題です。自由の女神はその足であるものを踏んでいます。何を踏んでいるでしょうか? さわちゃんは回答禁止ね~知ってるから~」

 

「ほんとに知ってるの~?」

 

「もう! 失礼ね! さすがに知ってるわよ。だからいーわない。でもたぶんわからないと思うからあと五分してもなにも出てこなかったらヒントあげる。いい? ムギちゃん」

 

「いいですよ~」

 

「はいっ」

 

「はい唯ちゃん」

 

「うどん!」

 

「ざんねーん、違いまーす」

 

「唯……おまえ踏むってだけでうどんだと思っただろう」

 

「はい!」

 

「はいりっちゃん」

 

「ホームベース」

 

「アメリカは野球で有名だものね~でも違うわ~」

 

「澪ちゃんは答えなくていいの?」

 

「私は知ってるから……」

 

「そうなの? さすが澪ちゃん、物知りだね~」

 

「はい!」

 

「はい純ちゃん!」

 

「アクセルとブレーキ!」

 

「ふせいか~い。ついでにアクセルとブレーキはどちらも右足で踏むのよ?」

 

「えっそうなの?」

 

「マニュアル車の名残みたい」

 

「へ~」

 

「じゃあそろそろヒントの時間かしらね。ヒント! 名前をよーく考えてみて。あとは……アメリカは自由の国よ」

 

「名前……自由の女神……わかった!」

 

「はい唯ちゃん!」

 

「手錠!」

 

「おしい! もっと古典的!」

 

「私わかった!」  

 

「はい憂ちゃん」

 

「鎖じゃないですか?」

 

「せいか~い。鎖を踏んでるのはアメリカの自由と平等を表してるそうよ。じゃあ憂ちゃんに十ポイント~」

 

「そのポイントが集まるとどうなるの? ムギちゃんがケーキくれるの?」

 

「いや? あげただけよ。楽しいでしょ? ポイント~」

 

「なにもないんですか……。ほかにクイズは……」

 

「その必要はなさそうよ?」

 

「へ?」

 

「だってむもう次の駅で降りるんでしょ? サウスフェリーって駅」

 

「そ、そうです。あっぶない忘れるとこだった」

 

「もう! あずにゃんがしっかりしないとだめなんだよ!」

 

「そうだぞ梓! 残念大学生なめるなよ!」

 

「威張ることじゃないでしょうが……」

 

 

 そうこうしているうちに目的の駅につき、電車から降りる。この地下鉄の駅から出て徒歩数分だ。ニューヨークも地下鉄網が発達してるおかげで歩く距離が少なくてもいいのは本当に助かる。何日も観光するから足の負担はできるだけ減らしておきたい。海辺に少し近くなったこともあり、さらに寒く感じる。海からの風が吹くとみんなで体を縮めてしまう。厳しい寒さに耐えながら歩いていると、フェリー乗り場の入り口までついた。私たちがなかなか早く来たことも相まってまだ人は少ない。

 

 

「あずさ~こっからどうすんの~? すぐに船乗ってあそこの島まで行くの?」

 

「まずは手荷物検査ですね。律先輩、なんか変なものもってきてたりしませんよね……」

 

「なんか持ってきてたら空港で入国できないっつーの……」

 

 私たちも他の人に倣って荷物検査の列に並ぶ。人が少ないとは言え、いやむしろそのせいかもしれないけど係員の人が少なくて人がはける速度が遅い。ただ、まだ予約したフェリーの出発まではまだ時間があるので余裕だ。

 

「あずにゃん~自由の女神さまってなんの本持ってるの? スコア?」

 

「私も知らないです……。スコアだけはないと思いますけど……」

 

「もしかしたら国歌の楽譜かもしれないじゃ~ん。ねえねえ、りっちゃん知ってる?」

 

「私が知ってるわけないと思って聞いてるだろ……。もちろん知らないけど。澪は?」

 

「私は来る前に調べたから知ってるけど……私が言っても面白くないでしょ?」

 

「そうだよね~やっぱりクイズだよな~」

 

「聖書……とか?」

 

「残念、純ちゃんちがーう。まあ惜しいといえば惜しいのかもしれないけど……」

 

「こればっかりは全然わからないな~。さわちゃんヒントちょうだい!」

 

「え~、じゃあ、1776年、かな」

 

「はい!」

 

「お? 唯わかるのか」

 

「1776年はね、アメリカが独立した年だよ! だからあれはアメリカの独立の紙? みたいなやつだと思う」

 

「みたいなの……というより独立宣言そのものね。でも唯ちゃんよく知ってたわね~」

 

「私はもう前の唯じゃないんだよ!」

 

「でもどうして知ってたんですか? 受験で勉強したわけでもないでしょうし……」

 

「やだなあ、こんなの常識だよ~」

 

「うちの大学の一般必修教養でちょうど世界史やってたとこなんだよ。唯もしらばっくれてないで正直に言え」

 

「やーん澪ちゃんなんで言っちゃうの~」

 

「ところで必修ってことは律先輩も唯先輩たちと世界史の授業受けてたんじゃ……」

 

「私はその授業休んでたかも~」

 

「わかりましたもう言わなくていいです大体わかりました……」

 

「梓、あと二三人したら私たちみたいだよ」

 

「ほんとだ」

 

 

 前の人達が終わったようなので前の先輩たちから順に荷物検査を受けていく。空港と同じように鞄の中から電子機器、要するにカメラとか携帯とかを出してトレイに乗せて、また別のトレイに鞄を入れてX線検査機を通す。それと℃叔父に私たちもどこでもドアみたいな金属検出器をくぐる。途中、前で唯先輩が金属検出器に引っかかってちょっとびっくりしたけど、どうやら腕時計を取り忘れただけらしい。

 

 

「あずにゃん~びっくりしたよ~」

 

「あそこに『腕時計なども反応することもございますのでお外しください』って書いてあるじゃないですか……」

 

「読めないよ~」

 

 

 全員荷物検査が終わったようなのでフェリー乗り場を散策する。乗船開始時間までまだあと三十分ほどあり結構暇なのだ。みんなで写真を撮ったりして時間をつぶしていたけどやっぱり時間があまる。みんなでベンチに座って一息ついていたらなんだか甘くておいしそうなにおいが漂ってきた。

 

 

「これってクレープのにおいじゃない? 食べようよ!」

 

「おっ、いいな~。私も食べる~」

 

「私も~」

 

 

 こんなノリで結局全員買うことになってしまった。え? 私? もちろん買いましたよ。ストロベリークリームってオーソドックスなやつを。

 

 クレープを食べ終わったころ(唯先輩は二つ目を買っていた。所持金大丈夫なのだろうか……結構値段するんだけど)時計を見るとフェリーの乗船開始時刻になっており、待機列にはそれなりの人がいた。私たちもその列に続く。フェリーを見ると私たちの想像の何倍も大きくて、こんなに必要なの? と思う。すると

 

 

「あずにゃん! うしろ! うしろ!」

 

「へ? 先輩どう……」

 

 

 その光景に私は目を見開いた。嘘です。でもそれくらいには驚いた。というのも私たちが来た時にはまだ人もどちらかといえば少なかったのが今は長蛇の列なのだ。たぶん私たちが来た時が荷物検査が混み始める直前だったのだろう。早く来ておいたことに心から安堵する。

 

 フェリーが桟橋に錨を下ろし、そのすぐ後にフェリーへの連絡路が接続された。列も前のロープがとられたようでゆっくりと前から進み始める。私たちも前の人たちが動き始めたのを見て歩き始める。比較的前の方に並んでいた私たちはフェリーで眺めがよい最上階の、海際の席をとれた。椅子に座って十分くらいたっただろうか、フェリーの汽笛が私たちの出航を知らせる。のっそりとどんちゃんみたいに海上を歩む。前方にもともと自由の女神自体は見えていたものの、やはり大きくなってくるとそれとは別種の感慨がわいてくる。私たちはフェリーに乗ってもやっぱり自由の女神をつまむ一種の遠近感を使った写真を撮ったりして遊んでいた。ついでにだけどこのトリックアートは陸上でやったほうが絶対にいい。なぜかって、地面が揺れているとうまくつまめた写真を撮るのに10テイクくらい必要だったからだ。

 

 船が減速し(もともとがゆっくりだから減速してるとかわからないけど)、自由の女神側の桟橋につく。やっぱり足元から見る自由の女神は遠くから見るのよりもぜんぜんおっきい。当たり前のことなんだけれども、百聞は一見に如かずってやつだ。船が完全に停泊し、連絡橋がのびる。いち早く船に乗った私たちはエレベーターと同じで結局降りるのは最後の方になってしまった。

 

 

「お~これが自由の女神か」

 

「さっきまでも見てたじゃないですか」

 

「近くで見るとなんか写真じゃないんだなって思うよな」

 

「りっちゃんそれすっごいよくわかる~」

 

「梓、たしか私たちは自由の女神の中、入れるんだよな。チケットある?」

 

「はい、ありますよ。でもこのチケットじゃ入れなくてあそこのインフォメーションセンターでリストバンドに変えてもらわないと」

 

「そっか。じゃあみんなあそこのインフォメーションセンター行くぞー」

 

「はーい」

 

 

 インフォメーションセンターに来た。受付の人にプリントアウトしたクラウンチケット(上に上るためのチケットをそう呼ぶらしい)をみせ、リストバンドをもらい、その紙にスタンプを押してもらう。またどうやら、『あの王冠の中に上るときはカメラと携帯、薬とメガネしか持っていけないのでそのセンターにあるロッカーにみんな預けてください』とのことだ。ゆっくり話してくれたのでムギ先輩なしでも結構聞き取れた……と思う。あってるかわからないからなんともいえないけど。

 

 みんなリュックだったりショルダーバッグだったりをまとめて二つのロッカーに預けておく。カギは澪先輩と私が一人ずつ持つ。

 

 

「よーしじゃあ自由の女神上るぞー!」

 

「いえーい!」

 

 

 

 ──────

 

 

 

 自由の女神の足元の台座のところまできた。前調べのとおり、この台座は博物館になってるらしい。先にクラウンまでの整理券みたいなもの(1時間ごとに何人まで、という制限があって私たち大所帯はあと20分くらい待つ必要があるらしい)を受け取った。20分はその博物館で時間をつぶそうと思うがいかんせん英文が読めないので写真を見るのにとどまってしまう。

 

「へー昔は自由の女神って銅色だったんだ」

 

「いまは青だよね」

 

「なんで色変わったんだろうね」

 

「酸化でもしたんじゃない?」

 

「ある意味あってるわね」

 

「というと?」

 

「あれも酸性雨で表面の銅が溶けちゃったのよ。そしたらもともともの金属の色が出てきちゃったの。授業でやったでしょ? 酸性雨」

 

「やったやった! 銅像溶けちゃうって話もそういえば聞きましたね……」

 

「さわこ先生さすが……」

 

「だてに高校教師やってないわよ!」

 

 

 

 ──────

 

 

 

「りっちゃん! 運ばれてる時の写真あるよ!」

 

「うわ! 細か! でもよく見たら一つ一つはなかなか大きいな」

 

「全部で214個に分けて運ばれたらしいぞ」

 

「細かっ。それにしても澪ちゃん、よく英語読めるね~」

 

「その部分だけなんとかって感じだ」

 

 

 

 ──────

 

 

 

「そろそろ時間じゃないか? もういけるだろ?」

 

「そうだな。梓呼んでくる」

 

 

 澪先輩が呼びに来たので私も純と憂、先生を連れて先輩たちと合流する。看板を見てその指示の通りに進む。ほんの少し歩くとさっき来た、広めの広場につく。さっきと同じ係員さんに整理券を人数分見せて手渡しすると、それぞれのリストバンドもそこで回収されるそうだ。一人ずつ階段への道を通してリストバンドを回収されていく。あまりスペースもないので、受付が終わった人から一方通行のらせん階段を一段一段、少し息を切らせながら上がっていく。普段は会談後こときで息を切らせるなんてことはないんだけどいかんせん階段が長い。本当に長い。まるで無間地獄だ。行ったことないけど。それにこのらせん階段、横幅が狭くてちょっとこわい。

 

 なんとかすべての階段を登り切ってクラウンに到着する。そこからは私たちの乗ってきたフェリーが見え、マンハッタン島が見えた。私に続いて先輩方、先生、純と憂の順であがってくる。唯先輩なんか息も絶え絶えだ。

 

 

「わあーこれは絶景だね~!」

 

「見ろよ! 私たちの乗ってきた船、めっちゃちっちゃいぞ!」

 

「なんか揺れてません……?」

 

「そんなことないと思うけど……でも高くてやっぱり怖いわね」

 

「写真撮ろーっと!」

 

「ストラップきちんと腕にかけとけよー! 落とすからなー!」

 

「はいはーい!」

 

 

 

 ──────

 

 

 

 一通り興奮した後、そこにいる係員の人が全員で記念写真でもいかがですか? と聞いてきたのでお言葉に甘える。一瞬観光地にありがちな写真サービスかと思ったけど周りに機械がないことを考えるとどうやら係員の人の善意らしい。とてもありがたい。

 

 

「Say "CHEESE"!」(はい、チーズ!)

 

 

 カメラのシャッター音が鳴り、そのまま何枚か撮る。やけにいい出来でみんな上機嫌だ。係員の人に感謝を伝え、今度は降りる専用の階段を下りる。

 

 

「英語でもチーズ! って写真撮る時言うんだね」

 

「確かに、それ私も思った。なんかチーズって日本語だけだと思ってたけどそもそもチーズって外国語だもんな~」

 

「昔の人なんて言ってたんだろう。最後がイ段で終わればいいんでしょ? サムライー! とかって言ってたのかな」

 

「そんなわけないだろ……。昔は写真一枚とるのになん十分もかかったからみんな口は結んだままならしいぞ」

 

「りっちゃんよく知ってるね~」

 

「この前『ドヤれる雑学集』って本に書いてあった」

 

「なんでそんな小学生みたいな本読んでるんだよ……」

 

「しかもあの写真ってとってる間、まったく動けないらしいですよ」

 

「なん十分も立ちっぱなし!? そんなの無理だよ……」

 

「そのためにみんな肘の高さくらいの台と一緒に写真撮ったらしいですよ。よっかかれるように」

 

「そういえば歴史の教科書もみんな立ってる写真は何かに寄りかかってる気がする!」

 

「純こそよくそんな雑学知ってるね~」

 

「この前小説読んでたらそんな話が合ったんだよ」

 

「それにしても階段長いね~降りるだけでも疲れちゃうよ~」

 

「このくらいだとたぶんいまひざの部分くらいじゃないかしら。もうすぐ足よ~」

 

「ぷっ、ひざって。ふふっ、膝のあたりってもうちょっといい表現あるでしょうに……」

 

「澪先輩がツボってる……珍しい……」

 

「そう珍しくもないぞ……澪、なんかたまに沸点おかしいから……」

 

 

 長い長いといえども階段には終わりがあるわけで、足元についた。やっぱりさっきと同じ係員さんが入り口に立っていて、みんな軽く会釈して通る。向こうも小さく手を振ってくれた。最後に自由の女神を背景に一枚集合写真をとったらこんどこそフェリー乗り場に向かう。道中、何か忘れているな~と思ったらみんなの鞄だった。危ない危ない。帰りのフェリーもそれなりに乗り場から混んでいる。ただ次の便で乗れそうだ。また「さっきと同じフェリーが停泊する。行きと同じように向きは逆だけども船に搭乗する。今回は入ったのが後ろの方なこともあり一階席だ。

 

 

「自由の女神みたね~」

 

「ああ、ニューヨークに来たら外せないからな!」

 

「そういえばあずにゃん、今日のお昼ご飯は?」

 

「あれだけ食べたのにもうおなか減ったのかよ……」

 

「橋を渡ってハンバーガーです。量も質もニューヨーク1らしいですよ」

 

「さっすが~」

 

 

 こう話しているとマンハッタン島から12時の時報の鐘が聞こえた。レストランの予約をした一時には間に合いそうだ。

 

 




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