漆黒の妖狐   作:千本虚刀 斬月

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仕置き

 

 

 アザゼルに殺到するキメラ共。

 

しかし、それを焼滅させる黒炎。

 

黒歌がついにキレて魔猫化したのだ。

 

あれなら加勢の必要は無い。むしろやり過ぎないかが心配なくらいだ。

 

 

『白龍皇』ヴァーリ・ルシファーと相対するは羽衣狐

 

「まったく、素直にそこで呆けてる宿敵の餓鬼とでも戯れて居れば良いものを……無駄に手間取らせるな」

 

「残念ながら彼は弱すぎる。全くそそられない」

 

「……さて、仕置きの時間だ。覚悟は出来て居ろうな、小童?」

 

「ああ、貴女とは何時か戦いたいと思っていたが、こうも早く好機に巡り会えるとはな!」

 

意気揚々と正面突撃を敢行するヴァーリに対し、羽衣狐は10尾を展開し鉄扇を構える。

 

10尾の迎撃を回避しながら速度を落とす事も無く肉薄してくる。

 

哄笑と共に鳩尾めがけて渾身の拳打が飛んでくる。が

 

「あまいわ、小僧!」

 

霊力を纏わせ硬化させた鉄扇で受けつつ、合せて半身をずらし鉄扇を逸らす事で衝撃を去なす。

 

「なにっ!?」

 

バランスを崩し、驚愕するという隙を晒したヴァーリの背後に響転(ソニード)で回り込み背に直接触れる事でとある呪詛をかけつつ

 

「破道の六十三・雷吼炮!」

 

「グハッ!」

 

墜落し、地に膝をつくヴァーリ。

 

「……驚いたな。今のは、合気というやつか?」

 

「何時ぞや、暇つぶしでかじった程度の柔術でも、存外に役立つものだな。…少しは反省する気になったか?」

 

「ふっ、まだまだこれからさ!!」

 

ヴァーリは光翼を一層輝かせ、魔力弾を斉射する。

 

流石に全ては回避しきれない。

 

「ちっ、縛道の八十一・断空」

 

いっそ全てを防ぎきる選択をする。だが、足を止めたのは失敗だった。

 

「これが、白龍皇の力だ!【Half Dimension!!】」

 

羽衣狐の周囲の空間が歪曲し圧縮されていく。

 

「!?」

 

とっさに響転(ソニード)で回避しようとしたが、左腕が巻き込まれ、拉げてしまう。

 

「ふははは!これで片腕は使えないな!」

 

「――()()()()

 

「何…?」

 

その瞬間、ヴァーリの左腕も同じく拉げる。

 

「!!?――グッガアアァ!!……これは、呪詛返しか!?」

 

「ご明察。一度限りじゃが、自身が受けた傷を相手に共有させられる呪術よ」

 

ちなみに、この一度限りという条件、同じ相手には一度しか使えないと言う意味では無く、逐一直接触れて呪詛を流し込んで条件を成立させる必要がある、と言う意味である。そして、発動も自動では無く任意のため使いどころが難しい術だ。しかし、一度相手にダメージをフィードバックさせてしまえば、自分のダメージを癒したとしても相手のダメージまで癒えると言う事は無い。

 

羽衣狐は回道で左腕をあっさり完治させる。

 

「では、跪け」

 

鉄扇に黒虚閃(セロ・オスキュラス)並の霊圧を載せて振り抜く。

 

ヴァーリは盛大に地を滑り転がる。ご自慢の白龍皇の鎧が大破し、各所の宝玉も周囲一帯に飛散する。

 

追い詰められたヴァーリは懐から小瓶を取り出して呷る。

 

羽衣狐は『蛇』かと身構えるが、ヴァーリの傷が瞬く間に癒えていく。

 

「…フェニックスの涙か」

 

「その通り。さあ、第二ラウンドといこうか!」

 

高位悪魔としての力をも引き出し、背に幾つもの黒翼が生じる。魔力の質量と密度も大きく上昇した。

 

羽衣狐も気を引き締めて、鉄扇を斜に構える。鉄扇を含めた全身に霊力を淀みなく高速で巡回させ練り上げていく。相手の後の先をとる為に意識を張り巡らせる。

 

「――いくぞ!!」

 

「来るが良い、白龍の小僧」

 

光翼から爆発的にオーラを噴出することで圧倒的な推進力を得て突撃敢行。鋼鉄を容易く凌駕する硬度の全身鎧に、音を遙か彼方に置き去りにする速度。悪魔の黒翼が軌道の安定と修正の役を担い、紙一重で回避したものを切裂く刃でもある。まるでミサイルの様だ。

 

羽衣狐は10尾を地中に打ち込んで身体を固定し、鉄扇でチャージアタックを受け流し、背負い投げの要領で地に叩き付けた。同時に光翼の魔力放出機能に呪層界・怨天祝奉を仕掛け、制御不全を誘発する。

 

大地が揺れ動くほどのとてつもない衝撃と轟音、そして魔力の暴発。出来上がった巨大なクレーター。

 

ヴァーリの鎧はまたも大破し、しばらくは真面に立ち上がる事も出来ない重傷を負っていながら、戦意はいまだ萎えず、微笑を浮かべている。

 

「……ふふふ、完全に見切られた。見事に返し技を食らってしまったな。嗚呼、素晴らしい」

 

しかし、羽衣狐としても紙一重で余裕など無かった。鉄扇は大破し、尾の数本は引き千切れる寸前、身体も大分痛めてしまった。これ以上戦闘を続行するというのなら最低限切り札の一つを晒す(虚化する)必要がある。

 

「アルビオン、彼女相手なら『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』を使っても惜しくは無いと思うんだ」

 

『ヴァーリ、それはあまり良い選択では無い。確実に今のドライグに影響を及ぼす。ともすれば封印が解けるかも知れん』

 

「はは、むしろ願ったり叶ったりだ。…どのみち、『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』以外で状況を打開できそうに無い」

 

キメラ共は粗方始末され、手隙になり出した者達がこちらに来る可能性が高い。

 

カテレア・レヴィアタンに助勢を求めようにも、セラフォルー・レヴィアタン相手に瀬戸際まで追い詰められ余裕は一切無い様子。逆に、さっさと下等種を片付けて現魔王共の始末を手伝えとヒステリックに喚いている。そんな隙を突かれレヴィアタン対決の勝敗は決した。

 

「ほら、な――『否。ヴァーリ、時間だ』

 

駒王学園全体を覆う大結界が破砕し、若い男が舞い降りてきた。

 

古代中華の戦装束に、額の緊箍児に如意棒。

 

「もしや、斉天大聖の縁者か…」

 

「応とも!俺っちは美猴!よろしくな、狐の女将!さてヴァーリ、北のアース神族と一戦交えるから早く帰って来いってよ」

 

美猴周囲を見渡し、屍山血河な有様に作戦の失敗を悟る。

 

「暗殺任務はどう見ても失敗、ヴァーリ意外は全滅だろ?だったらもう帰ろうや」

 

そう言いながらヴァーリを抱え起こす。

 

「ああ……助かる、美猴。…信田 羽衣、また何時か戦おう。今度は、掛け値無しの全力で」

 

「ふん、断る!次また妾に向かって来ようものなら、保護者のアザゼルか赤龍帝の餓鬼の方に投げ飛ばしてくれるわ!」

 

「これは手厳しい」

 

「カッカッカッ!振られちまったな、ヴァーリ」

 

美猴は地面に転移術式の方陣を展開し、完全に撤退する。

 

深く重い嘆息をする羽衣狐の肩に黒歌の手が置かれ、回道での治癒が施される。

 

「お疲れ」

 

「…ああ、まったく疲れたわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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