◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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最終話。


エピローグ

 珱嗄が消えたあの日から―――この世界では数年が経った。

 

 私、小日向未来と響は無事にリディアン音楽院を卒業して、今では正式に『S.O.N.G.』の装者として所属している。クリスや切歌ちゃん達もあの一件以降、身元はS.O.N.G.の方で引き取られて、私達と同じくリディアン音楽院に編入、無事に卒業して今では私達の同僚だ。

 響がガングニールの装者になってから、半年にも満たない間の戦いは、未だに忘れられない。それくらい濃くて、それくらい大事な想い出だからだ。

 

 この世界に異世界人である安心院なじみさんたちが存在出来た理由は、珱嗄が全ての世界の中心として機能していたかららしく、あの戦いの後、彼女達はあの空間が消えると同時にその存在を消失させた。今では存在していた痕跡すら消えてしまっている。

 

「未来? どうしたの?」

「ううん、なんでもないよ」

「そっか……じゃあ、戻ろっか。今日はこれといって任務はないけど……色々報告書とか書類仕事が待ってるんだよ~……」

「あはは、響はそういうのめっきり苦手だもんね」

 

 数年も経てば響も私もすっかり成長した。

 私は背が伸びて顔立ちが少し大人びたくらいで、それほど見た目に変化はない。けれど響は何か気持ちの変化でもあったのか、髪を伸ばしている。今では肩甲骨辺りまで伸びた癖のある髪を靡かせ、元気いっぱいだった振舞いも女性らしさが加わって魅力的になった。

 S.O.N.G.の職員の中でも、響は結構人気があるみたい。そう遠くない内に恋人でも出来るのかもしれないと思うと、少し寂しい気もするけど。

 

 響に手を引かれて歩き出す。

 背後に目を向けると、そこには大きな木がある。ここはリディアン音楽院の近くにある丘の上―――そこには、街を見渡すように一本の大木が聳え立っていた。私と響は、珱嗄が消えた日に毎年此処へ来る。

 珱嗄は死んだわけではなく、存在を全うして消えたのだ。

 だから皆で話し合って、彼のお墓なんて無粋な物は作らなかった。お墓を作っても彼はそこに眠っているわけではない。それこそ、私達の見えない所で飄々と歩いていてもおかしくない人なのだ。こうして街を見渡せる場所で、笑みを浮かべている方がよく似合う。

 

「……ねぇ響、珱嗄は今頃何をしてるかな?」

「あははっ! そんなの決まってるじゃん。今もどこかの物語の中で、いつも通り笑ってるよ」

「ふふっ、そうだね」

 

 ねぇ、珱嗄。私達の世界に、幸福という奇跡を起こした貴方のことを、私達以外の人は誰も知らない。誰が自分の命を救ったのかも知らず、いつも通りの日々を生きてる。私は少しだけそれがやるせない気持ちもあるけれど―――でも、それでいいんだよね。

 珱嗄は誰かに賞賛されたいわけじゃなくて、自分がやりたいことを、やりたいようにやっただけ。それで誰かが得をしたのなら、良かったじゃん、なんて言いながら恩を着せたりしない。

 

 私、今でも珱嗄のこと好きだよ。

 

 あの日、私の全霊を込めた一撃で貴方は倒れた。伝わったのかな、あの時込めた気持ち。私は多分、ずっと貴方のことを好きで居続けるよ。珱嗄は私の人生を縛らないようにしたけれど、私は貴方に縛られる人生を選んだ。

 そう、これは私の我儘だよ。私達は貴方に勝った、だから私の我儘は通させてもらうからね。

 

「平和だね、響」

「うん! 珱嗄が守って、私達が繋いできた平和だよ」

 

 バラルの呪詛が消えてから、人類は少しだけ人に優しくなれたと思う。

 今、この世界では、国と国同士が歩み寄る姿勢を見せ始めている。少しずつ手を取り合って、争わなくてもいい道を探している。国が国を信じ、受け入れ、それに応えるという行動を取り始めたのだ。

 

 未だ戦争や悲劇はある―――けれど、いつの日かそれを失くせる日が来ると、私達は信じている。

 

 私の手を引く響の手を見る。

 そう、この小さな手から始まったのだ。人類は、手を取りあえるという夢が。そしてそれは少しずつ、少しずつ多くの人の夢になって――これから世界中を覆っていく。

 

「ねぇ響、私あの戦いの時……自分の言葉で言えなかったことがあるの」

「……うん、私も」

「え?」

 

 あの日、私と響の関係はずっと強い絆で結ばれた。

 お互いに嘘を吐いて、依存して、拒絶して、離れて、それでも一緒にいたくて、謝って、また手を取り合うことが出来た。バラルの呪詛が消えて、私達はお互いにお互いをどう思っているのか、どれほど信頼しているのかを知っている。

 

 けれど、私達には"言葉"がある―――言葉でこそ、繋がってきたのだから。

 

「私の伝えたいこと……未来と同じだったら、嬉しいな」

「……うん」

 

 私も響も、そして――珱嗄も、私たち三人はずっと一緒。

 大好きで、大好きな、私達の光。

 だから言葉で伝えたい、"大好きだよ"、と。

 

 私と響はくすくすと笑って、そしてどちらからともなくせーので、お互いの伝えたい言葉を言った。

 

 そして二人して笑いだす。

 堪えることなく、大きな声で、晴れ晴れと。

 

 どこかで笑っているであろう珱嗄にも、聴こえるように―――……

 

 

 

 ◇

 

 

 

「さて、これにて戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生完結―――とか、そうやって締められるんだろうな、きっと」

 

 白い背景に、音もなくそんな"台詞"が浮かび上がっていた。

 誰の台詞なのか、どういうシチュエーションなのか、そういう描写も何もない平面上の白い背景に、ただただ存在するその台詞。

 

 これは一体何だ?

 そう疑問に思う人物もいない。

 淡々と、その台詞はそこに浮かんでいた。

 

「泉ヶ仙珱嗄なんていうキャラクターがさ、ある時とある中学一年生の頭の中にぽっと空想されて、拙い文章で漫画の世界へと転生する物語の主人公になった」

 

 また台詞が浮かんでくる。

 

「空想は形になって、インターネットの海の中で色んな人の目に晒されながら漂っていった。一作書き切って、読者の声に調子を良くして二作目を書いて、いつのまにか珱嗄シリーズなんて自分で言いだして……気付いたら十一年も書く手を止めなかったんだぜ?」

 

 この台詞は一体誰が、誰に向けて語っている台詞なのかも分からない。それを疑問に思う者がいない以上、これは今誰にも認識されない事象として、ただこの空間に起こっているだけの出来事だ。

 いつかこれが誰かの目に止まり、何かしらの意味を持ったものとして認識されるのかもしれないが、今この時においては唯の文字の羅列でしかない。

 

「罵詈雑言言う奴もいたし、感動したって言う奴もいたし、歳を取れば本人も賛否両論ある作品を書いてるなって気付いていたし、なんなら中学生の考える最強のキャラクターっていう黒歴史ドストレートな作品だな、なんて思ったこともあったのにな。なのに書く手を止めず、今やシリーズ完結まで書き切ろうとしている」

 

 浮かんでくる台詞は、次々と出てきて、一つ前の台詞の下に並ぶ。

 

「なんでかって言われれば、本人は読者のおかげだって言う。そりゃそうだ! 面白いって言ってくれる奴らがいて、優しく応援の言葉をくれるんだから、頑張ろうってなるのも当然だよな。まぁそれが一番の理由だろうが、なにより、本人は物語を書くのが好きだったんだよ。作家になるわけでもなく、仕事を始めても合間を縫って書き続けてたくらいだからな」

 

 この台詞はどうやら、誰かについて語っているようだった。

 何もないまっさらな白い背景に浮かぶ黒い文字の羅列で、誰かのことを何かが語っている。これは一人の人物の話らしい。

 物語を書いている人物について、何らかの作品を通して語っている。

 

 一体誰に向けて語っているのかも分からないが、コレにはきっと何かの意味があるのだろう。

 

「そんで何より、泉ヶ仙珱嗄って存在に本人が一番憧れていたんだ」

 

 それが一体どういう意味なのか、それはきっと、誰かがこの台詞を読んだ時に伝わるのだろう。

 

「やりたいことをやり通す意思があって、誰よりも強い力があって、いつだって人生を楽しんでいて、色んな人に愛されて、誰かに嫌われても、傷付けられても笑い飛ばす心の強さがあって、何より人生を自由に生きている――そんな泉ヶ仙珱嗄に憧れていたんだ」

 

 語られるその人物。

 物語にのめり込み、十一年もの時間を物語に費やしたらしい人物の話。それは己の作り出したキャラクターが、そもそも本人が一番憧れた理想の姿だったという話だった。

 中学生の妄想が生み出したキャラクターが、物語の裏で、歳を取る本人の理想とする姿に成長していく話だった。

 

「命を懸けても良いと思えるような親友に恵まれたかったんだ。子供を立派に育てる親になりたいと思ったんだ。素敵な恋人と一途に添い遂げたいと願ったんだ。一緒に馬鹿をやれる仲間が欲しかったんだ。悲劇を覆して、誰かに手を差し伸べられる大人になりたかったんだ。そして、大勢の人に見送られて死ぬような人生に憧れたんだ」

 

 キャラクターに一番憧れたのは、そのキャラクターを生み出した本人だったという話。

 当然だろう――好きなものを生み出したのだから、それに一番焦がれるのは。

 

「そしたらさ、同じようにソイツに憧れた奴がいっぱいいたんだよ。本人と同じように、人生の中の十一年間、泉ヶ仙珱嗄ってキャラクターに憧れて、その物語を追いかけた奴らがさ。自由に生きて、好きなことをして、格好よく生きたいって思う奴らが、いっぱいな」

 

 台詞は続いていく。

 誰かに何かを語るように、台詞が続くにつれて、それが一つのお話へと変わっていく。白い背景に、台詞という模様が形作られていく。それはまさに、物語を生み出す光景に他ならなかった。

 

 作者が己の作った理想のキャラクターに憧れ、人生の半分をその物語と共に生きて、そして同じ憧れを抱いた者達にその終わりを描こうとしているのだと。

 

「そりゃあ嬉しかっただろう。このままずっと、皆と憧れを追いかけ続けたいって本人が一番思っただろうさ……それでも終わらせなきゃいけない。この物語を終わらせられるのは本人だけだからだ……始めた奴でなきゃ、終わらせられないからだ」

 

 台詞が流れていき、最初の台詞が見えなくなっていく。

 そしてなんとなく、この台詞の終わりも近くなっているのが内容から理解できる。これをいつか誰かが読んだ時、この台詞から何かを感じ取るのだろうか。

 この台詞の言いたいことを受け取るのだろうか。

 

「けれど、安心すると良い。泉ヶ仙珱嗄は多くの人が憧れた一つの理想だ……だから、物語が終わっても誰かが彼から感じた何かで成長するかもしれない。その成長が沢山あれば、いつしかそれらが集まって、"皆"で、泉ヶ仙珱嗄の様な何かを為すのかもしれない。まぁ、何かを為さずとも、人知れず、何処かの誰かの何かになってくれたなら、それが一番嬉しいことだと、こうして終わりを描いている本人も思っている」

 

 台詞がそうして語り終えた時、今までの台詞が全て消えていく。

 そして次に現れたのは、台詞ではない。鍵括弧で括られていない、まるで地の文のような一文だった。

 

 

 "◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生―――完結"

 

 

 それは、一つの物語が完結したという表示だった。

 だが今まで此処に浮かんでいたのは、泉ヶ仙珱嗄というキャラクターの物語ではなく、ただ誰かが何かを語っているだけの台詞の羅列。なのにこの物語が完結したというのはどういうことだろうかと、疑問に思う者もいない空間に発生した矛盾点。

 此処までの台詞達が泉ヶ仙珱嗄の物語だったとするのなら、その正体は一体なんだったのか。

 

 だがそれは、思い出したかのように浮かび出した文字が語っていた。

 

 

「そんなの決まってるだろ―――物語には、"あとがき"ってのが付き物なんだぜ?」

 

 

 そしてそれ以降、白い背景に文字は浮かんでこなかった。

 全ての物語が綴られた以上、ここにはもう、語り部は存在しない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………十一年間、本当に、ありがとうございました。

 

 

 




珱嗄シリーズ 全六作 完結
最後の感想、お待ちしております。
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