鳴山牛若と鳴山滝姫は兄妹である。
兄妹であり同い年であり誕生日も同じであるが双子ではない。
それは二人が異母兄妹である故である。
異母兄妹であるが故に二人の怪異としての性質は異なる。
鳴山牛若は半人半神である。
つまりは半分は人であり、半分は神である。
近いものでいうなら、ヴァンパイアハーフだろう。
神としての力はそこまで強くない代わりに神であることにより発生するペナルティを半減されている。
しかし、八百万の神がいると考えられる日本であっても神様というのは怪異としての格は相応に高い。
何よりも親があの
鳴山白兎は秀知院学園の幸運の神である。
しかし、その由来はあまり知られていない。
かくいう俺も知らない。
由来が分からないということは対処のしようがないということだ。
仮に分かったとしてもペナルティが半減されている以上対処法への影響は小さい。
即ち、純粋な実力がなければ対処が出来ないような存在なのである。
基本が幸運の神であり、人としても良いやつであるが、神としての力が十全に振るったときの凄さは推して知るべしだろう。
その妹、鳴山滝姫。
彼女は人であり、神である。
兄とは違い、明確に人のときと神のときととで別れているのが特徴である。
人であるときは純粋に文武両道で頭が回るような優等生であるが、神であるときの彼女の特徴は豊富な知識と分析である。
その力は一瞬見ただけでなく、話を又聞きしただけで正体と対処を判明させることが出来るほどである。
これは鳴山先生ではなく母方の特徴を引き継いでいるらしい。
俺はその母方を見たことがないので分からないのだが。
怪異としての格は一応牛若よりも高いらしいが、人であり神であるというアンバランスさからかそこまでの格差はなく、容易に覆せる程度の関係であるらしい。
そんな二人は言うまでもなく凄い。
割となんでもありだし、性格にも人にも恵まれている。
そんな彼らを俺は羨ましく思う。
怪異と関わりがありながらも幸せに暮らせる彼ら。
それがどれほど凄いことか。
俺はそれが羨ましい。
******
「と、このように20数年前は196ヶ国だった国は現在
そう言い終えたタイミングでチャイムが鳴る。
「これで今日の授業は終わり。すぐに荷物を置いてホームルームが始めるからあまり席を動かないように」
それだけ言って、鳴山先生は教室を出る。
毎回区切りの良いところで授業を終われるのは凄いと常々思う。
「はぁーー。明日、体育祭か」
「どうした白銀?呪われたマネキンみたいな踊りを気にしてるのか?」
「言うな。何も言うな」
そう明日は体育祭。
日頃の運動の成果を披露する場だ。
俺としては特に好きでも嫌いでもイベントだが、白銀にとっては辛いイベントらしい。
「ほんと、四郎は身体を動かすことは出来るのに致命的にセンスはないよね」
「美優~。お前までそんなこと言うなよ~。父さんも兄さん達も結構運動出来るから気にしてるんだぞ」
「そういう所が可愛いんだよ」
「むぅ……」
拗ねたようにそっぽを向く白銀に対して石上は愛おしそうな顔で頭を撫でている。
因みにクラスの人たちは特に気にした様子はない。
つまりは日常的にこういうやり取りをしていてるということである。
なのに、僻みらしい僻みを聞かないのはこの二人の人徳故だろうか。
「そうそう破魔。体育祭は楽しみにしておくと良いよ」
「白銀のあの哀れなダンスを?」
「おい」
「ううん。鳴山兄妹のイベントを」
******
体育祭当日。
秋頃であっても気怠い位の暑さを感じる中、俺はグラウンドに居る。
特に陽の暑さは多少なりとも影響が出るので辛い。
それでも生活する上では問題ないけれども。
「おはよう、破魔」
「おはよう、星永」
ちょうど、星永がやってくる。
頭には白のはちまきを巻いている。
ということは白組か。
俺は赤組なので今日は敵らしい。
「なんかきつそう、というかきついだろうけど、大丈夫?」
「大丈夫だよ。この位は」
俺は銀色の水筒を飲みながら答える。
それにしても、体操服姿は初めて見たけど。
ジィーーー。
「……なんかいやらしい視線を感じるんだけど」
「気のせいだ。ただ、似合ってるなと思っただけだ」
「体操服なんて共通規格なんだから差はないでしょ」
それは確かにそうなのだが。
それでも、可愛いと感じるのは何故だろうか。
というか意外と胸あるよな。
「やっぱり、セクハラね」
「何も言ってないだろ」
「目が言ってる」
そんなに顔に出てただろうか?
いや、これだと本当にセクハラしてるみたいだな。
そんなつもりはないのに。
「まぁ、思春期の男の子は色々と大変だろうから分かってあげた方が良い」
「鳴山先生」
そんな分かったようなことを言いながら鳴山先生はにこやかに近づく。
ラフなシャツを着て、とても涼しそうだ。
「どうしたんですか?」
「いや、今日は体育祭終了後に家でパーティーする予定なんだけど、来るかい?」
「どうして私達に?」
「子ども達が是非って言ってね。ウチとしても人が一人や二人増えた所で問題ないからその辺は心配しなくていいよ」
「「………」」
星永と互いに顔を見合わせる。
とはいえ、困っているとか悩んでいるという訳でもなく。
「それなら、行きます」
「よろしくお願いします」
「うん。じゃあ、後で牛若と滝姫と一緒に来てね」
そうして去ろうとする鳴山先生の背中を見てふと思い出す。
「そういえば鳴山先生」
「なんだい?」
「石上が言ってた、鳴山兄妹のイベントってなんですか?」
「あー……。それね」
鳴山先生はかなり微妙そうな顔をしていた。
******
「宣誓!」
「俺たち!」
「私たちは!」
「スポーツマンシップに則り!」
「正々堂々と戦うことを!」
「「ここに誓います!!」」
「「「「ウォォオオオオオオオオ!!!!!!」」」」
鳴山兄妹の宣誓と同時に地響きでも起こるかのような歓声が上がる。
近所迷惑にならないだろうかと思うが毎年のことだから特に問題はないらしい。
さて、そんな宣誓を任された鳴山兄妹であるが彼らは
もう一度言うが体育祭実行委員ではない。
なのに、選手宣誓を任されているのは毎年恒例であるからである。
鳴山兄妹は双子ではないが、同い年の兄妹である。
つまり学校的に同じクラスになることはない。
その為、毎年体育祭では赤組と白組に別れているらしい。
最初の頃、即ち小等部の頃から二人はどちらが優勝するか対決していたらしい。
その頃はよくある勝負の範囲だったのだが、学年が上がるごとにクラスのメンバーがその対決に乗り、中等部の頃には学年、そして学校全体へと広がっていったらしい。
なんか凄い馬鹿げた展開のように見えるが事実である。
というか、本当に怖いんだが。
なんの宗教だよ。
「それはそれとして凄い熱気だな……」
「毎年のことだからな。むしろ、他の体育祭の風景が分からん位だ」
「一見すると、というか普通に見てたら確かに狂気の沙汰だけどね」
白銀と石上は呆れたように言う。
この辺りは幼馴染故だろうか。
******
そうして始まった体育祭。
定番の100m走に玉入れ、綱引き、二人三脚、騎馬戦と大盛り上がりだ。
なかでも断然人気になっているのは、
「早い!早い!鳴山滝姫選手、障害物が障害になっていないかのような速度で今1位になりました!」
「おお!鳴山牛若選手も早い!妹と同じく圧倒的な早さで今1位だ!」
「「おおおおおおおおおお!!」」
やはり鳴山兄妹らしい。
普段でも陸上部の選手とも張り合える走力で振る舞っているらしいが、あの二人の最たる部分は状況の即断だ。
障害のギミックからすぐに最適な方法を見抜く力を持っている。
それ故に、1位と2位で30秒以上の差が生まれるほどの速度を出せる。
これで特に運動系でもないのが割と残酷だ。
元より神様の二柱がこんな体育祭に参加していること自体がおかしいというのはそうだけども。
「と、次はソーラン節か」
2年生の演技種目であるソーラン節。
これに関しては赤組白組関係なく2年の全男子生徒が参加する。
そして、白銀が呪われたマネキンような踊りを披露していたものでもある。
傍から見たら笑っていられたがいざ本番となると心配になってくる。
入場の為、列に並ぶとき白銀を見つける。
「おー…、ムグッ!」
「破魔。別に白銀に声をかけなくていいぞ」
声をかけようとしたタイミングで後ろから牛若に口を塞がれる。
口を塞いでいる手を外し、牛若に聞く。
「いや、あいつは……」
「心配はいらない。あいつは強いやつだからな」
牛若はそれだけ言って、自分の配置に戻る。
心配いらないって……。
あの呪われたマネキンを分かった上で言ってるのかほんと。
『続きまして、2年男子によるソーラン節です』
アナウンスが流れたので仕方なく位置に戻る。
本当に大丈夫か?
******
で、実際の所。
「やっぱ凄いな、四郎は」
「相変わらずだよね、四郎くん」
「カッコいいよね、四郎!」
「……マジでか」
白銀は迫力のあるソーラン節を披露した。
その迫力は参加したどの2年生よりもあった。
いや、いやいやいや!
「仮に本番に強いとしても、あの呪いのマネキンからあそこまで迫力のあるものになるか?」
「分かってないな~」
滝姫はやれやれと言った口調で首を振る。
牛若と石上も同様に呆れた顔をしている。
ただ、それを言われている白銀は照れたような態度を取っているが。
そんな白銀の手を握りながら石上は言う。
「四郎は誰よりも努力家だからだよ」
「「うんうん」」
「……そうか」
鳴山兄妹が深く頷くのでこれ以上の追求は出来なかった。
いや、本当になんでだろうな。
******
そうして昼食。
一応、吸血鬼である俺はこの程度の運動は大した疲れにはならないのだが、やはり周りの熱気というのは凄いもので精神の方が疲れたので校舎裏の方で昼食を取ろうと考えたのだが。
「まさか先客が居るとは」
「あなたこそ。いやそもそも陽に強い訳じゃないからおかしくはないか」
納得した様子を見せたのは星永だ。
いや、理由は違うのだが陽に強い訳ではないのは確かなので特に訂正する必要もない。
「隣いいか?」
「どうぞ」
少しスペースを開けてくれたので遠慮なく座る。
今日のお弁当は幸在さん特性の弁当だ。
ボリューム満点ながら栄養バランスを考慮し好みに合わせた調理がなされている。
これをわざわざ一人ひとりに合わせて作っているのだから頭が上がらない。
施設の子は大体10人前後だが、それでも一人ひとりに合わせていたらとても大変だろうに。
「随分美味しそうね。あなたが作っているの?」
「いや、保母さんが」
「保母さん……。そう」
「そういうお前の弁当は?」
星永の弁当は綺麗で細やかな女子の弁当という感じだ。
特にだし巻き卵が美しい。
「あー……、その、部長がね…」
「部長?蓬莱?」
「そう、その部長が
『おはようございます、音呼ちゃん!』
『おはようございます……?あの、ここ私の家なんですけど』
『そうですね!それよりも今日は体育祭です!折角の体育祭に買いパンなんてもったいない!なので、お弁当をここで作りました!』
『いや、そうじゃなくてなんでこの家にいるんですか?っていうか人の家でなんで弁当なんて作ってるんですか?』
『大丈夫。洗い物は既に済んでいますし、材料も私が買ってきたものなので問題なし!というかですね、ご飯はちゃんと食べた方が良いですよ?コンビニばかりじゃ不摂生です!』
『いやですから』
『それでは今日も頑張りましょう!』
『いやちょっと!?』
って、弁当だけ置いていった」
「うわっ………」
なんだこのありがた迷惑ぶり。
いつの間にか家に不法侵入され、料理を作られ、寝起きを確認して去っていくとか怖いやら腹立たしいやら感情が迷子になるわ。
というか、今日蓬莱を一度も見てないんだけど参加してるのか?
参加してなかったらより恐怖なんだが。
「なんなのあの人、凄い怖いんだけど」
「俺も怖くなってきた」
銀色の水筒を飲みながら思う。
蓬莱玉枝とは一体何なんだろうか……。
******
そんなこんなでお弁当の中身の分け合ったりしながら昼食を過ごした。
因みになんか味付けが似ているような気がした。
そして、体育祭も終わりに差し掛かりいよいよ最後の一つ手前の競技、団体対抗リレーとなった。
『えー、今回は去年と引き続き先生方もエキシビションとして参加します。因みに点数には一切影響しないのでご心配なく』
「先生も参加するのか」
「まぁ、それも来年までだろうけど」
「なんで?」
「だって……」
『やはり注目はアンカーの鳴山親子です!今年も凄い接戦を繰り広げそうです!』
「こういうことだから」
「なるほど」
単純な鳴山親子の親子対決をする為に先生も参加にしたのか。
なんかあの親子にかける気持ちが皆おかしくないか?
学生特有のノリと考えればおかしくもないのかもしれないけど……。
「やっぱり違和感あるな……」
「そう?私は過程を知ってるからそんな感じしないけど」
石上はあっさりとそういうこと言うので深く追求できない。
いや、ほんとに気持ち悪いだけども。
そんなことを思いながらもリレーは開始した。
とはいえ、所詮はリレーなので特にドラマらしきドラマはあまりない。
教師と生徒では日頃の体育の運動分、生徒の方が早いが体育会系の先生の番になる時たま生徒を越す程度の実力差だ。
とはいえ、基本は生徒優勢でアンカーまでは白組、赤組、先生の順に1mと4m位の差が開いていた。
『いよいよ、アンカーです!』
そうしてバトンを受け取ると滝姫と牛若はほぼ横一直線になって走っている。
二人は周りに怪しまれない程度の早さでしのぎを削っている。
「「頑張れ!頑張れ!」」
周りからの応援で二人は更に早さを上げる。
二人の早さはほぼ互角。
しかし、最初の受け取りがインコースだった分だけ滝姫がインコース沿いでやや優勢のように見える。
牛若もそれに気づいているのだろう。
どうにかその差を埋めようと足を大きく踏み出している。
恐らく、後10mもあれば確実に抜ける。
しかし、実際の距離は8m。
抜けるかどうかは微妙な所。
しかし、諦めることなく二人は走り続ける。
残ったのは僅か1m。
二人は横一線。
後、数瞬で決着はつく。
しかし、このリレーにはもう一人参加者が居る訳で。
ドドドドドドドドドド!!!!
まるで地響きのような音を出して残り50cmになった二人を追い抜き
『な、なな、なんと!1位は鳴山先生だーーーーー!!!!去年に引き続き鮮やかな逆転勝利だ!!!』
「チクショウ!お父さんめ!」
「やっぱり、お父さん、ずるい!」
「まだまだ子どもには負けてられんのだよ」
と、大人気なく鳴山先生が1位になった。
因みに二人は同着扱いで1位と2位のポイントを足して2で割った点が双方に加算された。
******
そんなこんなで体育祭は赤組の優勝で終わった。
ラストのリレーが勝負の決めてだった。
「いやー、今年は兄の方が勝ったか」
「とはいえ、二人の戦績自体は五分五分だしな」
「最後のリレーも二人は関わってなかったし、やっぱりあの二人は凄いわ」
「アイツラ、本当に気持ち悪い」
と、教室に撤収する道すがらそんな声が聞こえた。
因みに、白銀や石上は生徒会として片付けをしているらしい。
本当に随分と体力があることで。
夕方頃だから、俺の方もちょっと元気になっていくのだけども。
「と、幸在さんに今日の夕飯はいらないことをメールで送らないと」
メールを書き送る。
着替えを終えて、校門の外にでるとどうやら鳴山兄妹と星永が既に待っていたようだった。
「おっ、来たな破魔」
「なら、行こうか」
「うん?白銀達は待たなくていいのか?」
「あいつらは家の場所知ってるしな。それに二人きりの方が過ごしやすいだろ」
「連絡は先にしてるから問題ないしね」
「お節介ね」
「「そういうもんだよ」」
仲良くそう答えると、二人は歩き出す。
話の話題は今日の体育祭。
しかし、どちらが勝った負けたというより反省点の洗い出しの方に近い。
変な所でストイックな兄妹だ。
「………」
「うん?」
視線を感じ、後ろを振り向いても誰もいなかった。
******
「それじゃあ、カンパーイ!!」
「「「カンパーイ!」」」
乾杯の音頭と共にパーティーが始まった。
音頭を取ったのは鳴山先生の妻、鳴山千花さんだ。
「美青さんは来られないんですか」
「ええ、美青ちゃんも見たがってたんですけど、今は海外ですし。やっぱり輸入業は大変ですね」
「あっ、そういえば俺の方もいくつか頼んでたな」
「そうっすね。確か機械部品諸々を頼んでました」
「美青ちゃんも大変よね」
「まっ、それでいうならここに居るメンツがちゃんと揃うことが奇跡に近いんだけどな」
白銀家、石上家、鳴山家の親達がそれぞれに述べる。
親たちと子ども達でテーブルを分けて、子ども達の方にはご馳走が揃っており、親達のテーブルには酒とつまみが置かれている。
因みに鳴山先生は厨房で料理をしている。
子どもも白銀家の17人に石上、そして俺と星永の20人だからこれだけの量でも足りないという計算らしい。
「やっぱり白兎先生は忙しそうだな。毎年のことだけど」
「それなら、手伝いに行けば良いんじゃないか?」
「いや、あの人の手際を見てたらそんなこと言えないよ」
「そうね……」
確かに何やら凄い音がしている。
というか厨房が吹き抜け形式になっているのだが、時々食材が飛んでいる。
なにあれ、普通に怖いんだけど。
「それにしても、体育祭も随分と様変わりしましたね」
「俺たちの頃は、若者のノリが合ったとは言えあんな対決ムードにはなっていなかったしな」
「俺はそのノリで随分と苦労した覚えがありますけど」
「そうね。でも、あのときの優は本当にカッコよかったよ」
「ああ、ありがとう」
「惚気けるなぁ、お前ら」
「変わりませんねそういう所。変わらず幸せそうで」
「それを言うなら先輩方も、というか先輩方は年がら年中イチャイチャしてるじゃないですか」
「「そうですか(そうか)?」」
「「「18人目拵えるような夫婦がイチャイチャしてないとかないでしょ」」」
「あなた達3人は本当に仲良しね……」
「でも、そうですよかぐやさん。そろそろ落ち着かないと。私達ももう良いおばさんなんです。流石に自分の体力とかを気にしないと」
「千花さん……
あなたのその肌でそんなこと言われたくないんですが」
「確かにな。鳴山も藤原も肌が全然老けている感じがない、というか20代の肌に見えるんだが」
「全然老けないですよね。千花先輩、何か特別な洗い方とかあるんですか?」
「違いますよ。病は気からと言うじゃないですか。私達は自分の年齢をちゃんと理解しています。それでも、若々しく楽しく過ごそうとする。それが大事なんです!」
「それで若ければ苦労しないっすよ」
「そうですかね?ほら、これ昨日美青ちゃんから送られてきた現地の写真なんですけど」
「うわっ、若っ!」
「これは凄いな」
「ええ……」
大人たちは大人たちで盛り上がっている。
その様子を疑問に思ったのか星永が聞いてくる。
「親たちは凄く仲が良さそうだけど、どういう関係なの?」
「ああ、元生徒会メンバーなんだよ」
「生徒会?それって秀知院の?」
「うん。第68期生徒会。御行さんやかぐやさんが中心で色々と改革していた生徒会の地盤固めをしていた世代。そのときの生徒会メンバー6人なの」
「へぇー……、うん?もしかして、生徒会全員がそれぞれで恋愛関係築いてるの?」
星永の疑問について鳴山兄妹が答える。
「そうだよ。だから別名カップルの巣窟と呼ばれてて、生徒会に入れば恋人が出来るなんて俗信が生まれた位」
「まぁ、実際はそんな訳はなく次期生徒会のメンバーはミコさんを生徒会長とした優さん、父さん、母さんだったからまだその考えは続いてたけど、更に次の代だともうそういうのはなくなってたよ」
「へぇー……」
「はーい、お待たせ」
そんな話をしていると鳴山先生が料理を持ってくる。
それなりに大盛りだ。
しかし、既に結構多くの食べ物が消費されていることを考えるとこれでも結構適量かもしれない。
俺は銀色の水筒を飲みながら、周りの話を聞く。
「さて、そろそろ飲むとするかな僕も。で、生徒会選挙の話?」
「そうそう。69期の生徒会選挙はヤバかったなって話」
「白兎がまさか槇原さんの方に付くなんてね」
「まぁ、槇原から頼まれたしね。それに別に僕が居なくたって、十二分に戦えると思ったからな」
「鳴山はある時期から二人と勝負することが増えた感じがあるな」
「そうですね。勝負するのは楽しいですし」
「でも、白兎は随分と大立ち回りしましたね。若干恐怖政治よりに周りを煽るという」
「だって、槇原ですし。単純な信頼勝負で挑んでも勝ち目ないですし、だったら槇原の個性を活かした攻め方をしないと」
「それが恐怖政治になるのって……。納得だけど」
「で~も、私と優の勝ったんだけどね~」
「酔ってきたな、伊井野」
「まだま~だ。今日こそ鳴山を超える」
「超えられるといいね」
******
3時間後。
「すーー。すー……」
「今回も伊井野の負けだな」
「全く。これで次の日には頭痛くなってクラクラするからこいつは」
「でも、バーボンをロックを飲んでもケロリとしてる鳴山くんは流石ですね」
「まぁ、体質に合ってたんでしょう」
一通りの食事を終えて、小さい子たちは寝静まり、それを女性陣があやしている。
そんな時間帯の中。
「さて、それじゃあ鳴山先生!勝負だ!」
「うん、いいよ」
「勝負?」
白銀家の次男、4男、5男がそれぞれ勝負を挑み、鳴山先生がそれに答えている。
どういう状況なんだ?
「ああ、それはね。私が原因なの」
「滝姫が?」
「あいつら全員、滝姫に告ってるんだよ」
「へぇー……、えっ?」
「だから、滝姫に告ってるライバル関係なんだよ」
「ええー……」
いや、滝姫が一般男性目線で考えて可愛いのは確かだけれども。
だからって兄弟で争うようになるか?
というか、
「それでなんで鳴山先生に挑むんだ?付き合ってるならまだしもその状態だと保留みたいな状況なんだろ」
「保留なんて、お父さんじゃないんだからしてない。単純に、昔からお母さんたちに言われていることを守ってるだけ」
「言われてること?」
「そうだな。昔から『お父さんよりも強い男を見つけなさい。じゃないと苦労する』って言われてるもんな」
「鳴山先生よりも強い人」
現神様であり、あらゆる分野でマルチな能力を発揮できるあの人より強い人?
そんな人が居るんだろうか。
「基本、父さんは忙しいからそんなにバトル頻度は高くないけど、それでも全員30戦はやってるかな」
「それでも、今挑んでるってことは」
「そう。あらゆる分野のあらゆることで挑んでも一つの白星も挙げれてないの」
「ええ……」
そんなに挑む時点でも認めてあげていい気もするんだが、鳴山先生は意外と親バカなんだろうか。
「で、今日の勝負は何?」
「今日はこのゲームで勝負です!」
「いいよ」
鳴山先生はにこやかに挑戦を受け入れている。
その様子には娘を取られまいとする親というより単純に子どもたちと楽しく遊ぶお兄さんみたいな雰囲気に近い。
いや、実年齢40代なのだが。
『バトルスタート!』
どうやらマルチ対戦らしく3人のキャラが同時に鳴山先生に襲いかかる。
そういえば、この手のゲームの様子は初めて見る。
てぶくろの家にもあるけれど、俺は自分の部屋に居ることが多いからな……。
ゲームは正しくワンサイドゲーム。
ゲーム初心者の俺でさえ、一目で分かってしまうほどの鳴山先生の圧倒的の蹂躙である。
全ての攻撃を躱し、その攻撃は仕掛けている3人の方に被弾している。
その隙に高火力技を3人に叩き込んでいる。
結果、鳴山先生はノーダメのまま完全勝利を収めた。
「クッソォォ!」
「もう一回です!」
「いいぞ。かかってこい」
そうしてまた対戦が始まる。
しかし、やはり勝負にならないらしくボコボコにしている。
その様になんだかリアルの方の鳴山先生を思い出す。
そういえば、あそこでも随分な暴れぷりだったな……。
「少しは容赦してやれよ鳴山」
「何言ってるんですか白銀先輩。自分の娘を任せるかどうかを測るのに手加減する理由がありますか?そもそも、僕が酔っ払って判断力が落ちていると見て戦いを挑んでるんだからそれで十分でしょう」
確かに鳴山先生は酔っている。
が、それで何かが鈍るということはない。
気の緩みはあっても、思考や動作に影響を及ぼさない。
だからこそ、鳴山先生は鳴山先生とも言えるが。
「と、言うわけで今回の勝負はこの位でいいかね?」
「「「………はい」」」
そうして勝負を挑んだ3人は気落ちしていた。
ある意味むごい。
「あっ、それじゃあ俺とやりましょうよ!」
「私も!」
「ん。いいぞ」
と、白銀(3男)と石上が勝負を挑んでいた。
さっきのあの惨状を見て、よくやる気になるな……。
「破魔や星永は父さんとしなくていいの?」
「いや、ゲームの操作法も分からないのに、あの先生に勝てないだろ」
「う~ん。それはどうだろうね?」
「え?」
と、画面を見ると鳴山先生のキャラと他の2キャラの体力ゲージがほぼ同等になっていた。
えっ、マジ?
鳴山先生の動きは相変わらず躱して攻撃を叩き込むスタイルだが、あの二人はその動きに遅まきながらも対応している。
結果、2対1の分だけ鳴山先生の方にもダメージが蓄積している。
そうしたゲーム展開が続いた結果、
「おっ」
「「やったー!」」
「マジでか」
鳴山先生がコントローラーを床に置き、二人は喜びからハイタッチを交わす。
さっきまで圧倒的な無双を見せていた鳴山先生が今度はあっさりと敗北した。
あの先生でも負けることがあるのか……。
鳴山兄妹はそれをニコニコとした笑顔で眺めている。
「「やっぱり、あの二人は凄いな……」」
******
夜も更け、おそらくは2時ごろ。
ふと喉が渇き、目が覚める。
周りが見慣れない景色で疑問に思ったが答えはすぐに思い出す。
そう、夜のドンチャン騒ぎで子ども、主に白銀の下の兄弟達が寝てしまいその流れで白銀家はここで寝ることになり、石上も白銀とまだ話していたいというのを親が汲み取って泊まり、俺と星永もこの流れで帰るのも寂しかろうと鳴山先生が引き止めて泊まったのだ。
結構な大所帯の筈なのだが、きちんと男女で別れて、眠れる部屋が用意されていた。
白銀兄妹曰く、
『昔からお泊りを普通にしてたから、半分位勝手を知ってる家なんだよお互い』
らしい。
ずいぶんと仲が良いと本当に思う。
温かで恵まれてるとも。
そのことに妬みの感情はないが、羨む気持ちはある。
そんな、感傷に浸りつつも、なるべく一緒に寝ている白銀達を起こさないように部屋を出ていき、窓の見える場所で銀色の水筒を飲む。
必要分を飲み終わった後も少しの間付きを眺めていると、ふと会話する声がした。
声のする方に向かうと、どうやら鳴山先生が電話しているようだった。
「で、色々と人脈の網は貼ってるけどやっぱりこっちの方に集中してるって考えるべきだよな」
『―――』
「なら、お願いするわ。でも、本業優先でいいからな。こっちの業界だって半分ぐらいは臥煙さんと共同で回してるんだし」
『―――』
「確かにこっちは2時だけど、そんなに心配しなくても……、いや、なんで知ってんの?」
『―――』
「分かり申したよ。後2時間やったら寝るから」
『――!!!!!』
「ふぅーー。ありがたいんだけどな」
鳴山先生はどうやら途中で通話を切ったようで、息を吹いたような音を出すとカタカタとパソコンを操作するような音がしだす。
この時間も仕事をしているらしい。
おそらくは怪異関係の。
いくら神様とはいえ、
「重労働ですよね~」
「えっ!?ムグッ」
「シー―」
いつの間にか後ろに居た千花さんに口を抑えられる。
これで17歳の娘が居るのかと驚くような若々しさを感じる笑みで。
「今は仕事中ですから静かにしてあげてください」
「はい。でも、こんな時間まで仕事なんて」
「むしろこんな時間じゃなきゃ連絡が取れない人も結構居るんですよ、海外とも結構連絡取りますし」
「でもそれ、鳴山先生寝てないんじゃ…」
「そうですよ。寝てないんです」
千花さんは事もなげにそんなことを言う。
それが当たり前のように。
「それって鳴山先生は大丈夫なんですか?」
「大丈夫ではないですけど、でも白兎くんが自分で選んだ道ですから。それに、その分私達が彼を支えるんだって、あの時に誓いましたし」
「あの時?」
「内緒です」
それだけ言うと、千花さんは部屋に戻っていった。
「なんか、千花さんは初めて会った気がしないな……」
******
次の日。
目が覚めて、リビングの方に向かうと既に鳴山先生が全員の朝食を作っていたらしく、テーブルの上に既に食パンとジャム、バター、チーズなどが並んでいた。
白銀家は一通り起きてきているみたいで全員既に思い思いに食べている。
「おはようございます」
「おはよう。多分、皆が起きてくるのを待ってたら昼になっちゃうから先に食べてて大丈夫だよ」
「分かりました」
「やっぱり、ミコちゃんは起きてこれませんでしたか」
「今頃、唸ってるんでしょうね」
「石上は水を取りに来たしな」
どうやら、起きれないのは石上家の奥さんらしい。
まぁ、昨日アレだけ飲んでいればそれも普通か。
「おはようございます」
「おっ、おはよう星永」
「おはよ」
そんなことを考えていると星永も起きてきたらしい。
星永はまだ少し眠たそうにしている。
その姿をそれとなく見る。
「?何?」
「隣、いいか」
「平気よ」
「じゃあ」
咄嗟についた嘘の通りに隣に座り、星永と一緒に朝食を食べる。
いつの間にかテーブルの上にスクランブルエッグやソーセージ、パスタなどが並んでいく。
とはいえ、十数人が居るので割とすぐに消費された。
そうして食べている途中に、石上家の奥さん(すこぶる体調が悪そう)を石上家のお父さんが支えてリビングに来た。
その奥さんは鳴山先生特製のスープを飲むと割とすぐに元気になった。
この様子から考えると、鳴山先生はなにか仕込んでいるのかもしれない。
悪いものではないのは確かだろうが。
「あれ?牛若と滝姫が来ないね」
「きっと疲れてるんだろうから気にしなくていいよ」
それだけ言うと、他の人は納得したように食事を再開する。
この辺りは独特な信頼関係故だろうか。
星永もその辺が疑問らしい。
なんというか独特な仲の良さだ。
そんな風に思っている内に朝食を終え、食後のコーヒーや紅茶、ジュースを楽しむ人達もでてきた。
「しかし、こうして朝食まで頂いてすまないな」
「いいですよ、料理を作るのは楽しいですし。それでも気になるようなら今後とも妻の会社をご贔屓に」
「相変わらずの愛妻家だな」
「皆さんも大概ですよ」
そう鳴山先生の奥さんが言うと皆、緩やかな笑みを浮かべた。
そうして鳴山兄妹以外の全員が食べ終わった頃。
「それではそろそろお暇するか」
「そうですね」
「あっ、破魔くんと星永さんは部活のことで確認があるから残って貰っていいかな?」
「?はい、分かりました」
確認とはなんだろうか。
何か特別な事態……いや、それならもっと何か焦りそうなものか。
星永は特にそれを疑問にも思わないらしい。
コーヒーをブラックで飲んでいる。
そうしている内に、白銀家及び石上家は準備ができたらしく玄関まで向かう。
「それじゃあ、世話になったな」
「気にしなくていいですよ。また、パーティーも開きますから」
「子ども達もどんどん遊びに来ていいですからね」
親たちはそんな会話して家を出ていく。
最後に白銀と石上が残り、挨拶をする。
「それじゃあ、牛若と滝姫によろしく」
「また、火曜日にね」
「ああ、さようなら」
そんな、なんてことない挨拶をした後、二人は手を繋いで帰っていく。
仲の良さを感じながら、どこか羨ましさを感じた。
そんな感傷を断ち切るように鳴山先生は言う。
「星永さんは気づいているね?」
「ええ。あの二人、夢に囚われているわね」
「何の話だ?」
「うちの息子と娘が夢の中に留まっているんだよ」
「は?」
******
「獏。夢喰いの幻獣として知られている怪異の一つ。元々の伝承としては悪夢を喰い、人を幸せにする吉兆の存在なんだけど、この様子だと近代的な悪夢をみせるものとしての役割みたいね」
「幻獣っていうほどなら、あの神様の二人に対抗できるのも分かるけど」
「そうかしらね」
見渡す一面は普段見るようなビルの群れが見える。
だが、その光景は昼のような明るさに対して、人が全くというほどいない。
この明らかに異常な光景だが種が割れてみれば簡単で、つまり夢の中だということだ。
俺と星永は今、鳴山兄妹の夢の中に入っていた。
とはいえ、鳴山先生の命綱の元、夢の中の様子だけを眺めているだけの形だ。
会話は出来ても、力を行使するのは難しい。
これは安全上の理由、のようでいてその実俺と星永はあの兄妹の手腕を見学していけという意味だろう。
そもそもで鳴山先生が二人から直接獏を引きずり出せばそれで解決するレベルの事態だ。
朝からゆっくりと過ごしていた様子は、何も知らない人達が一緒に居るにしても危機感がまるでない。
つまり、あの二人なら特に心配するようなことがないということだ。
「かかった時間的にも、あの二人ならとっくに解決させてそうな気がするんだけど」
「そんなにスペックやばいか、あの二人?」
「そりゃあ、鳴山先生の子どもだもの。あの二人が敵わないものなんてまずいないレベルよ」
確かに鳴山先生の子どもというだけでそのレベルは全くの別物か。
こう考えると、鳴山先生の化け物ぶりばかりを語っている気がする。
「この辺りみたいね」
「ああ」
夢の中だからだろうか、特に動作する必要なく思った方向に空を飛べるらしい中で飛んでいると、あの二人を見つけた。
その二人の前には誰かが対峙していた。
『お前ら、本当になんなんだよ』
『そう大したものじゃないよ、君に比べたらね』
『ただのしかない人と神の子だよ、生まれつき人の感情を五感で感じられる体質の
*******
俺は生まれつき人の感情を感じられた。
時に暑さ、時に寒さ、時に辛味、時に酸味。
それらが何もしていないのに感じられた。
具体的な言葉が分かる訳じゃない。
人がテストで悪い点を取ったのを平気な顔をしていても、沈むようにうなだれているのが見える。
人が闘志を燃やしているときに、メラメラと火が燃えるような音が鳴る。
人が嘲笑うときに腐った卵みたいな匂いがする。
人が冷徹な嘘を言う時に、固まったシチューを飲まされたような味がする。
人が鋭い視線を向けるときに実際に刺されたように体が痛む。
視界が、耳が、鼻が、舌が、手触りが、人が語るものとはまるで別物のように感じた。
いや、実際に別物なのだろう。
その俺の世界はひたすらに不快だ。
一歩歩いた次の瞬間に、真夏の気温がまるで極寒の吹雪の中に放り込まれる感覚になった。
振り向いた瞬間に、まるでコンクリートでも食べされられたような味がした。
料理を食べようとした瞬間に、体が発情するように熱くなったこともあった。
ただ生きるというだけで、世界はあまりにも多くものを押し付けてくる。
この感覚を抑えることは出来ない。
ただ、耐えるしかない。
例え、世界の全ての拷問を受けたとしてもこれ以上に辛いものはないだろう。
自分が死んでいないことを不思議に思う位だ。
ひたすらにこの世界が嫌いだ。
だから、出会ったのだろう。
その
その獏に。
だから、俺は選んだ。
この不快な世界をぶち壊す為に。
全てを夢に沈めることを。
******
それはまるで夢物語のように脳裏によぎった。
いや、これは夢なのだろう。
彼が見た夢。
彼が夢見た夢。
そして、現実を拒絶する夢。
『神様、か。そりゃあ、半端にしか感じられない訳だ。あらゆる人間の感情を見えても、人外の感情を読めたことなんてないしな。それはそれで心底気持ち悪く思ったが。そりゃあ、神様ならなんだって出来るだろうし、全部思い通りに出来る訳だ』
『今のがお前がしたかったことか。確かに夢の中なら感情も何もないな』
『でも、それなら貴方1人で夢にいればいいんじゃないの?』
『これはあくまで感情を感じられる
「夢の世界……」
彼は世界を支配しようだなんて考えていない。
どこまでも自分勝手なエゴを叶える為だけに皆を夢に沈ませようとしている。
でもきっと、それは彼にとっての最大限の譲歩。
本当は彼は世界なんて、どうなってもいいのだ。
今、世界が滅んだ所できっと彼の願いは叶う。
でも、人を残してもいいと彼は言っている。
不遜にして傲慢にして、でもただ哀れなのだ。
世界の全てを恨み抜くしか、彼に選択肢はないんだ。
夢の中にしか彼の望む世界は……。
『じゃあ、さっさと起きないとな』
『……人の話、聞いてた?』
『聞いてる聞いてる。その上で起きるべきだよ。だって、1人は退屈なんでしょ?だったら、起きなきゃずっと1人だもの』
『皆引きずり込むって言ったよな?だったら、皆居るだろうが』
『いや、全てを引きずり込むとは言ったけど、皆引きずり込むとは言ってないぞ?』
『五十歩百歩だろうが!』
『そうかもね。でも、1人なのは確かだよ』
『どうして!?』
『だって、君は君のままだから』
『……?』
銀星はまるで分からないという顔をしている。
俺も分かっていない。
つまり、どういうことだ?
1人1人で見ている夢が違うとかそういうことか?
『僕たちはね、恵まれてるよ。優しい両親が居て、面白い友人が居て、愉快な部活仲間が居て、勉強で躓くことなんて殆どないし、運動でも出来ないことなんて全然ない。だから銀星、君の苦悩が分かるとかは全く言えない。でもね、そんな僕たちでもなんでも出来る訳じゃない』
『私達にだって出来ないことは沢山あるし、むしろ神様であったことで出来ないことだってある。でも、そこを卑下することはない』
『なんだよ。恵まれた人物の幸福話に興味ないんだけど』
『そこだよ、そこ』
『何が?』
『人と関わりたいんでしょ。なら、人の話を聞いて、触れ合っていかなきゃ関われないって』
『だから!』
『変わらないさ。現実だって、夢の中だって。人と関われない言い訳がしたいなら、近くに居たら人が死んじゃう位の性質を持ってから言えよ。それだって、携帯やらパソコンやら人と関わる方法なんていくらでもあるんだけどさ』
『力の有無は理由にならないし、存在の違いだって理由にならない。どんなに難解な病気を抱えている人だって眩しく生きている人は居るし、どんなに体が弱くたって必死に走り続ける人だっている。どんなときだって重要なのは自分がどうしたいかなんだから』
『そんな……、そんなのは強いやつの言葉だ。それにアレを知らないやつの言葉だ』
『『そうだな(ね)』』
二人は彼の言葉を肯定した。
その上で、こう述べる。
『だから、強くなろうと皆頑張ってる。相手のことを知らなくても引っ張っていけるように。相手のことを知らなくたって支えられるように。少なくとも、
『強くなりたいなら、いくらでも付き合う。だから、起きよう。私達もまだ歩いてる途中だから』
『……お前らよりも強いやつなんているのかよ』
二人は顔を見合わせると笑い合う。
そして、ごく普通の当たり前を語るように言う。
『いくらでも居るさ。世界は広いんだから』
『この広い世界で君が見たいものを見に行こう』
その言葉は彼にどう聞こえたのだろうか。
ここは夢の世界。
感情を五感で感じることのない彼の理想郷。
きっと彼が願ったものはここにある。
でも、
『はぁー……。じゃあ、飽きてやめるとかするなよ?』
『するかよ』
『しないよ』
そうして二人の手を取った。
これが、彼にとっての始まり。
彼が
******
後日談、というか今回のオチ。
「まぁ、現実での感情を五感で感じるのを消す方法も普通に僕は持っている訳だが」
「えっ!?そうなんですか!?」
事件が終わった後の部活で鳴山先生はあっさりとそう告げた。
「昔、感情視っていう感情を読み取れる人と会っててな。割りと悩んでたみたいだから次のときの解決策の一種として調べたことがあるんだよ」
「あんな力を持つ人がそんなに居るんですか?というか、怪異関係ですか?」
「いや、怪異は関係ない。世の中にはそういう特別な才能を持つ人物が割りといる。昔に行われた魔女狩りは、そういう特別な才能を持つ人やそれこそ怪異に手を付けた人が対象で行われていたという説がある位だ。その辺は僕よりも星永さんの方が知ってるだろうけど」
魔女……。
言い得て妙かもしれない。
何も魔法を扱うだけが魔女ではなく、人と明確に違う人物をこそ魔女と呼ぶのだろう。
ただし、
「魔女狩りを免れた人もいる。その人達は人の為に尽くし、だからこそ周りの人が魔女狩りに反対し戦ってくれたから」
「そういうことだな。つまりは、因果応報。力の有無ではなく、その力で何をなし得たかで人が人を見る目は変わるということさ。だから本当に力を借りられる誰かはそれだけ人に力を貸した人間ということだ」
「そういう意味だと、先生もそうなんじゃないですか?」
「生憎と僕は純然たる怪異になったモノだ。人間じゃない。だから、力を貸すだけだよ。間違える前に止め、間違えたとしても戻ってこれるように、ね」
それだけ言うと鳴山先生は部室をでた。
そして、入れ替わるように牛若が入ってくる。
ちなみに鳴山兄妹は俺と星永が見ていたことを知っていたらしい。
というか、夢の中にいつまでも居た理由は実際の退治の場面を見せることの他に夢の中を調べていたらしい。
「そういえば、なんで夢の中なんて調べてたんだ?」
「だって、夢の内容を共有し、延々と夢を見せ続けるなんて獏らしくないし」
「言われてみれば……」
「古典的な獏というより、むしろSF寄りだよ。皆を夢の中で幸せに暮らそうなんてね」
確かに近代的な話だ。
大体そういうのは未来は自分で決めるのだと、反論するものだけれど。
「じゃあ、もしそういう夢が見られるのならどうする?」
「意味がないだろ。今がその幸せな時なんだから」
牛若は当たり前の如くそう述べた。
なるほど、滝姫も同様に答えるのだろう。
この二人は本当に強いものだ。
そんな風に思っていたけれど。
「ほらいくぞ、美優」
「待ってよ、四郎」
「「………」」
ある日の帰り頃、白銀と石上が仲良く帰っているのをじっっと眺める二人が居た。
その目線がなんというか、眩しいものを見る目というか寂しそうな目というか羨ましそうな目というか。
まぁ、つまり、アレだ。
「あのー……、お二人さん?」
「「黙ってて」」
恥ずかしそうに顔を赤らめながら二人はそう言った。
一体何を『黙ってて』なのか。
それが分からないほど鈍いつもりはないけれど。
なるほど、確かにまだまだ道半ばだ。
******
「ただいまーー」
「おかえり」
「疲れたよー」
「おっと、お疲れ美青」
「うん。というか、白兎は休んでよ。仕事し過ぎ」
「一体、どこから漏れてるんだか」
「嫁ネットワークでも感覚的にも分かる」
「さいですか」
「だから、今日はもう寝よ。明日報告するから」
「うん。ありがとう」
「温めてね」
「あっ!美青!抜け駆けは駄目ですよ」
「うちの嫁さん達はまだまだ若いな……」
牛若と滝姫は両刀だったりする。
主に、お母さん同士がちゃんと仲良くなったとか神様的な思考とか父親が理由で。